作品タイトル不明
1217 レイドス人たちの今後
フランが、エスメラルダに簡単に事情を説明する。まあ、公爵がレイドスの市民を虐殺しており、それを止めるために騎士たちと共闘した。その後、事故によってバルボラの近くに転移してしまったということだけだが。
5分くらいかけて、なんとか理解してもらえたのだ。
『はぁぁぁ……』
砂鼠の向こうのエスメラルダが、頭痛を抑えるように眉間を揉んでいる姿がみえるようだ。それくらい、扱いが難しい話なんだろう。
『できれば、バルボラに向かっておくれ。そちらにいる部下に連絡しておく。レイドスの奴らも一緒にだよ? 逃がせば、色々と問題になるからね。なに、敵対しなければ、こちらも悪いようにはしないからさ』
「わかった」
エスメラルダは苛烈であるが、嘘を吐くタイプではない。シビュラたちが大人しくしていれば、本当に安全は保障されるだろう。
まずは、全員でバルボラへと向かわねば。
ただ、村人たちがバルボラまで歩けるか? 見えてはいるが、結構距離はあるぞ。
激戦からの転移。そしてビスコットの竜化と、様々な事件が重なってしまって忘れていたが、村人たちはもう限界寸前なのだ。
精神的にも肉体的にも、追いつめられている。それでもへたり込まないのは、子供や仲間を守るために気を張っているからだろう。
彼らを休ませてやりたいが、問題が1つ。
村人たちはレイドス王国人であり、赤騎士に至ってはクランゼル王国軍と激しい戦闘を繰り広げたばかりだった。
村人を守るためにたまたまフランと共闘したが、クランゼル王国と手打ちになったわけではない。むしろ、まだ敵同士といった方が正しいだろう。
しかも、レイドス最強戦力である赤騎士団が2つも、国内に不法侵入しているのだ。
これを好き勝手させては、フランも内通を疑われてもおかしくはない。シビュラたちを冷静に行動させねば。
「シビュラ」
「フランかい。ビスコットが、ドラゴンになっちまったよ……。あんたの剣、邪気を操ってただろ? 何でこうなっちまったか分からないかい?」
「わからない」
「そうか……」
フランは本当に分かってないからね。俺だって、正確にはわからないのだ。邪神の欠片の仕業なのは間違いないと思うが。
「はぁぁ。まあ、あのままだったら死んじまってたんだ。なら、よしとしておくかねぇ」
「キュォ!」
「……おつむの方はどうなんだい? そっちもドラゴン並みかい? いや、高位竜は頭がいいって話だが……」
「キュ?」
「まあ、元々ビスコットの奴はお馬鹿だったし、同じようなもんか」
「キュア! キュキュォ!」
黒いドラゴンが、抗議するように鳴き声を上げる。小さい翼をパタパタと動かしながら器用に浮かぶと、手足を動かして何かを訴えかけている。
「もしかして、言葉が分かるのかい?」
「キュオ!」
「そうかいそうかい。なら、上等だね。で、あんたビスコットなのかい?」
「キュ?」
「そこで首を傾げられると、こっちも困るんだが……」
ドラゴンは目をパチクリしながら、首を捻っている。
「あんた、言葉は分かるんだね?」
「キュ」
「ビスコットの記憶はあるのかい?」
「キュー? キュ!」
ドラゴンが、小さな爪を器用に使って、チョットというジェスチャーをしている。どうやら、ビスコットとしての記憶が少しあるが、かなりあやふやであるらしい。
「……あざとい仕草を。ビスコットがマスコットになっちまったじゃないかい」
「キュア?」
「仕方ない。いうこと聞くんだよ?」
「キュ」
暴走したり、人を襲ったりということはなさそうだ。一つ心配は減ったな。
「この後のこと」
「……このままさようならってわけにはいかんか。普通に私らだけで単独行動してりゃ、あっという間にクランゼルの兵士と殺し合いだ」
シビュラも、今後のことについて色々と悩んでいるんだろう。この国の内情が分からなければ、判断できないことが多すぎるからな。
「これ」
「うん? 砂の鼠?」
「この国の偉い人と、繋がってる。それで、このままみんなを連れてバルボラにいけって」
「やっぱり、あそこはバルボラかい」
シビュラは、この場所がクランゼル王国であると分かっていたようだ。そう言えば、彼女たちと初めて出会ったのはバルボラの料理コンテストだったな。
「はぁ。こっちのことが把握されちまってるんじゃ、従うしかないねぇ……。信じて、いいんだね?」
「ん。シビュラたちが敵対せずに従うなら、安全は保証する」
「……わかったよ。部下たちにも、勝手な行動は慎むように命令しておく」
シビュラが視線を送ったのは部下ではなく、その場で座り込んでいる村人たちだ。彼女にとって最も重要なのは、彼らの命だろう。
敵国の奥地から全員で安全に脱出する方法などない以上、騎士だけで勝手に動き回った場合、村人は確実に捕らえられる。
そして、赤騎士への人質として使われるだろう。見せしめに、酷い目にあわされる可能性だってあった。
彼女たちが赤騎士である以上、村人を見捨てて逃げることはないはずだ。あとは、村人たちにも勝手に行動しないように念押ししておかねば。
1人逃げただけでも、クランゼル王国側の心証は悪くなるからな。
「クリッカ! マドレッド、話がある!」
「は!」
「……はい」
シビュラがクリッカたちに、自分たちがクランゼル王国にいるということや、このままバルボラに向かうことを告げた。
マドレッドは難色を示していたが、村人を絶対確実にレイドスに運ぶ方法がない以上クランゼル王国に身柄を預けるしかないと説明されると、悔し気に折れていた。
やはり赤騎士は、国外事情に疎い者が多いのだろう。
そもそも、東征公によって殺されそうになった村人たちが、レイドス王国に帰りたがるかどうかも分からないのだ。
「でも、みんな疲れてる。ここで少し休憩してから、移動する」
「わかったよ。クリッカ、マドレッド、全員待機させろ。絶対に勝手な行動は許すな。私たちの行動が、民の今後の身の安全に直結してるんだ。いいね?」
「は!」
「了解」
よしよし。この分なら、バルボラまでは問題なく移動できそうだな。