軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1218 マドレッド

移動前に、少し休憩することとなった。

となれば、短い時間でしっかり体力を回復させねばなるまい。特に村人たちは、もう限界が近いからな。

思い思いに座り込む村人たちの間を回り、水の入ったコップと、皿に盛ったカレーを手渡していく。

バルボラで屋台をやった時のカトラリー類の余りが、役に立ったのだ。

ついでにヒールもかけて、足のマメなども治す。長時間歩いたことで、村人たちは大小の差はあれど足に痛みを覚えていたのだ。

「ありがとうお姉ちゃん!」

「いいにおいだな」

「嬢ちゃん、ありがとう」

村人たちは、笑顔でお礼を言ってくれる。こんな時でも冷静さを失わないのは、素直に凄いよな。レイドスの人たちはいざという時に魔獣と戦うための訓練を受けているというし、それが影響しているのかね?

フランはその後、赤騎士たちにもカレーを配った。

この後、また敵味方になる可能性もあるが、今は仲間であると認識しているんだろう。立場は違えど、村人たちを守りたいことに変わりはないのだ。

赤騎士たちは口々に礼を言いながら受け取るものの、口に入れない。毒やら何やらを疑っているというよりも、勝手に食べないように習慣づけられているんだろう。

シビュラがいいと言うまでは、待機し続けそうだ。言っちゃ悪いが、飼い主の「よし!」をまつ大型犬のように見える。

そんな赤騎士たちの中で、最初にカレーに口を付けたのはクリッカであった。そして、数秒後には赤騎士たちが一斉にカレーを食べ始める。

それは、茜雨騎士たちも同様だった。

「クリッカが毒見役なの?」

「気分を悪くさせちまったんならすまんな。いつもの通りにやっちまった」

「別にいい」

フランを疑っての行動でないのは分かるからな。

「クリッカは、鼻も利くし舌も鋭い。だいたい、先に食べる役を担ってるんだ。そのせいで、クリッカを待つ癖が付いちまっててね」

「シビュラなら、毒も効かないんじゃないの?」

「ははは! 私の場合、毒なんかまったく意味がなさ過ぎて、分からないんだよ」

耐性があるせいで、変な味付けなのか毒なのか判別することもできないらしい。シビュラにとっては、舌が痺れる猛毒も激辛唐辛子も、一味違うスパイスでしかないんだろう。

美味そうにカレーを食べる赤騎士たちの中で、1人だけ難しい顔をしている男がいた。茜雨騎士団長マドレッドだ。

今はゴーグルを外して素顔を晒しているが、嫉妬するほどの美形だ。やや中性的な外見なのだが、醸し出される戦士としての覇気が野生味も与えており、これで女性にもてないのはあり得ないってくらいのイケメンである。

フランが、マドレッドをじっと見ていた。も、もしや……! 男に興味ゼロのフランでさえ、魅了しているとでもいうのか!

だが、フランが見つめるその先は、マドレッドの顔ではなくて手元だ。止まってしまったスプーンを見て、何故カレーを食べないのかと気になったらしい。

食べ始めたらノンストップのフランにとって、カレーを食べることを途中でやめるなんて考えられない暴挙だからな。体調が悪いのだろうかと、気になったらしい。

「どっか痛い?」

「いや……」

マドレッドは先程までとはまた違う、複雑そうな表情で言葉を濁した。

フランへの敵意は忘れていないのに、今はフランを頼らねばならない。その状況が、呑み込みきれていないのだろう。そこに、シビュラが近寄ってきた。

「マドレッド。調子が悪いのかい? 転移前も、動きが鈍かったみたいじゃないか」

「……あの時は、戦場で体の動きが急に鈍くなったのです。それだけではなく、意識も少しずつ遠くなり始め……」

まるで重度の熱中症みたいな症状だが、そんな訳はないだろう。ステータスが高いこちらの世界の戦士は、そういった異常に対しても高い耐性があるのだ。

「呪いか何か?」

俺もフランと同じことを考えた。だが、マドレッドは違う心当たりがあるらしい。チラリとフランを見ると、そこで口をつぐんだ。

多分、レイドスの機密とか、そういう感じなんだろうな。それを見て、シビュラがあっけらかんとした調子で、口を開く。

「……東征公の宝具だな」

「シビュラさん!」

「どうせ東征公はぶっ倒すんだ。むしろ、奴の宝具のことは教えておく方がいい。フランが奴に操られちまえば、最悪だからね」

「操られる?」

物騒な話になってきたぞ。

「東征公の宝具は、他者を操る能力があるらしいんだよ」

「それは知っていたから、周辺に奴がいないかどうかはしっかり調べていました」

マドレッドも警戒していたようだ。

「てことは、射程が延びたとでもいうのかい?」

「射程、短かった?」

「最大で30メートルと言われていた」

短いとは言えない距離だが、俺たちなら苦も無く気配を探ることができる範囲だ。マドレッドもそうだろう。特に、マドレッドは感覚が優れているらしいしな。

あの戦場にいた敵は、ラランフルーラか、公爵ゾンビたちだ。南征公爵ゾンビが、東征公の宝具も持っていた? だとしたら、他にももっと操られる人間がいなきゃおかしいか?

「まあ、強者であれば問題ないそうだから、私なら問題はないんだが……」

「でも、マドレッドは危険だった?」

「……俺は、お前が許せない。どうしても、殺意を抱いてしまう。そこに付け込まれたんだろう。精神に揺らぎがあれば、宝具の影響を受けやすくなるそうだからな」

マドレッドは、幼い頃に紅旗騎士団長に命を救われ、そのまま入団して雑用係をしていたらしい。しかし、弓の才能が見込まれ、茜雨騎士団へと異動となったそうだ。

「異動が決まった時も、泣いて喜んでくれたんだ。俺にとっては、親代わりの人だった」

「……」

そんな人物が、フランによって殺された。戦争の習いとはいえ、割り切れるものではないのだろう。

フランも、謝らない。自分がやったことを後悔していないし、あそこで戦わなければこちらの味方が死んでいたのだから。

だが、親しい人が殺されれば、恨みを抱くのは当然だ。その気持ちも分かる。だから、何も言わずに、マドレッドを見つめることしかできなかった。

いや、できることはあるな。

「紅旗騎士団長の遺体。収納してる」

「なに?」

「落ち着いたら、返す」

「……ああ」

「……ん」

マドレッドとフランの間に、微妙な空気が流れる。まだ、彼からの強い敵意は感じるし、その表情から何を考えているかも分からない。

しかし、ほんの僅かに、向けられる殺意が弱まった気がした。