軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1044 ソフィの昔と今後

「まあ、仕方あるまい。神剣騎士を失って焦っておるからな」

「!」

メアの発言を聞いて驚くフランに続き、ソフィとヤーギルエールも思わずといった様子で口を開いた。

「神剣騎士を失ったって……。え? 死んじゃったの?」

「それは、本当なのでしょうか?」

アドルが死んだ? だが確かに無事な姿は確認していないが……。

「死んだとは言っておらん」

「なによ。紛らわしい」

本当だよ!

「では、失ったというのは?」

「姿が見えないようだ。どうも、逃げ出したらしい。クイナが調べてきたことだ。間違いないだろう」

「神剣はどうなりましたか?」

「持って行かなかったようだ。神剣を盗めば、地の果てまで追われるからな。従順に見えたが、心の内では色々と抱えておったのだろうよ」

「そう。アドルが……」

フランが複雑な表情で呟く。

フランにとってアドルは、いけ好かないところもあって好きにはなれないが、戦友でもあるという微妙な立ち位置だ。

ソフィを売るという話に関わっていたかもしれないが、あの男がそういった陰謀に加担するとも思えない。性格的にやらないというのではなく、立場的に国外とやり取りするようなことはできなかったのではないかと思うのだ。

彼が首謀者というよりも、シラードの諜報部や暗部が、神剣騎士の名前を使って各地で陰謀を仕掛けていたと考える方が納得できる。

「ではシラードが強引な手段で私を連れて行こうとしていたのは……」

「国へのゴマすりだろう。神剣騎士に逃げられておいておめおめと国へ戻れば、どんな罰があるかも分からん。それ故、強者を連れて戻って点数稼ぎをしたいのだ」

国へ帰れば、神剣騎士の代わりはいるはずだ。だが、今は連れてきてはいないらしい。それ故、フランやソフィに声をかけてきたのだろう。

特にソフィの場合、神剣使いだと確実にバレてしまった。

勧誘もかなり激しかったのだろう。医長との密約を盾に、従えと言ってきたようだ。

「あの国に行くなら、この大陸で死ぬ方がマシよ!」

「では、我が国はどうでしょうか?」

「え?」

ヤーギルエールの言葉に、ソフィが目を点にした。勧誘に対する嫌悪感を露わにしている状態で勧誘を受けるとは思わなかったのだろう。

しかも、その言葉にメアまで乗った。

「我が国でもいいぞ! 神剣使いならば大歓迎だ! 無論、この大陸の人々も受け入れよう!」

「あ! ズルいですよネメア様! 我が国も同様ですから!」

「えーっと?」

「心配するな、下手な契約で縛ろうなどと考えてはおらん。まあ、国に仕える者として、野良の神剣使いがいれば勧誘しないわけにはいかんのだ」

「私もです。それに、シラードよりは余程マシな選択肢であると、自信をもって勧められますからね」

「うむ! シラードよりはマシだ!」

要は、行く当てがないなら自分たちが口添えすると言っているのだろう。ノクタの住民のことを考えてシラードを選ぶくらいなら、自分たちに相談するようにと伝えたいのだ。

「ただ、ソフィは元々どこかの国の貴族だったのだろう? ご養父が音楽家で貴族だったと聞いたが? そちらを蔑ろにはできぬのではないか?」

「それは……」

どうやらメアは、中途半端にソフィの事情を聴いていたらしい。何気なく、ソフィの養父の話をしてしまった。

ただ、ソフィの表情を見て、すぐにそれがまずかったと理解したようだ。

「いや、なんだ、我の聞き間違いだったかも? そうだ! 違う人のことだったかもしれんなー」

棒読みでそんなことを言い出した。しかし、ソフィは昔のトラウマを乗り越えたのか、すぐに首を振って事情を語り始める。

「そうね。養父のことを無視し続ける訳にはいかないのよね――」

彼女の話は、以前聞いたものとほぼ同じだ。養父への複雑な想いが絡む、愛憎渦巻く過去語り。

相変わらずハードな幼少期である。フランも大概だが、ソフィも相当数奇な人生と言えるだろう。

メアも言葉を失っている。だが、何やら思案顔なのはヤーギルエールであった。

「そのご養父殿の名前は、ロベル・サラース殿と言いませんでしたか?」

「ご存じなのですか!」

「ええ。カプル大陸では有名な方でしたので」

セギルーセル王国は、カプル大陸の北部にあるらしい。クランゼル王国があるジルバード大陸とは、ゴルディシア大陸を挟んで反対側にある大陸である。

ソフィの出身地も、カプル大陸だった。

「騎士団長として、その事件のことは色々と耳に入ってきています。ただ、どうも私が聞いた話とは大分違っておりましたので、困惑しています」

「どういうことでしょうか?」

「サラース子爵の事件ですが、表向きには盗賊団との相打ちとされています」

「相打ち、ですか?」

「ええ」

ソフィの観点では、養父が傭兵団を率いて彼女の出身村を襲い、家族を殺したことになっている。

だが、ヤーギルエールが聞いた話だと、サラース子爵が率いていたのは重犯罪奴隷の集団で、戦った相手は村を占拠した盗賊団であったそうだ。そして、奮戦虚しく相打ちとなり、子爵は帰らぬ人となった。

「我が国にはそう報告されています」

「そんな……。それは、だって……」

ソフィが混乱した表情で、ヤーギルエールを凝視する。今まで信じていた悲劇が否定され、どう反応していいか分からないのだろう。

「彼の国とは同盟関係ですし、我が国の人間が現地に入って調査もしております。間違いないかと」

「じゃあ、私の生まれた村は? お父さんとお母さんと妹は? 私は盗賊の子供だった? それとも全部嘘? なにが、本当なの?」

「申し訳ない。混乱させたようですね。ですが、サラース殿は音楽狂いと言える御仁でしたが、悪意の人ではありませんでした。その、ソフィ嬢に様々な感情を味わわせるために、一芝居打ったのでは?」

「で、では、私は、養父を殺したのは――」

ソフィはそこで言葉を詰まらせて、不意にその場に座り込んでしまった。虚ろな表情でしばらく何かを呟いている。

「ソフィ、だいじょぶ?」

「フラン……」

「ソフィよ。ご養父は、満足だったのではないか?」

「どういう、こと……?」

「余命いくばくもない状態で、究極の音楽を聴きながら逝ったのだ。本望だろうよ」

「そんなの! そんなの……」

メアに反駁しようとして、ソフィの言葉は力を失う。どこかで、そうかもしれないと納得したのだろう。聞いたサラース子爵の性格だと、本当にそんな性格っぽいし。

「まずは、どこまでが本当なのか、確かめなきゃ」

「私もお手伝いいたしましょう」

「ありがとう」

「でも、よかったね」

「え?」

「だって、お父さんとお母さん、生きてるかもしれない」

「っ! そうね! そうなのよね……」

両親を失っているフランの言葉だからこそ、重みが違う。ソフィは目を真ん丸くして驚いた後、複雑そうな顔で頷くのであった。