軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1045 ゴルディシア出航

『ようやくこの大陸ともオサラバか』

「ん」

巨大抗魔との戦いから数日。

様々な事後処理を終えたフラン――まあ、フランはほとんど何もしてないが――は、西の港へと戻ってきていた。雇い主であるブルネンには色々と驚かれたが、最高の結果だと言ってもらえたのだ。

最初は、抗魔を狩って修行しつつ、墓参りをした後にトリスメギストスに話を聞くだけのつもりだったんだがな……。

想定の数倍もの、超々大冒険になってしまった。

神剣使いに7賢者に各国の騎士と色々な人とも知り合い、俺もフランもウルシも、当初の予定よりも数段強くなったのだ。

「船に乗るの久しぶり」

「オン!」

潮風を受けて目を細めながら、フランが船の甲板から港を見つめる。あと1時間もしないうちに、ジルバード大陸へと向けて出航する予定なのだ。

『挨拶回りは済ませたし、抗魔ポイントも全部使い切った』

「ん」

抗魔ポイントは、大陸の外には持ち出せない。正確には、大陸の外では使えない。ゴルディシア大陸限定の仮想通貨のようなものなのだ。

どれだけ大量に保有していても、ゴルディシアから出れば意味がなくなる。

まあ、冒険者をできるだけ長く、ゴルディシア大陸に滞在させるための方策なんだろう。他の大陸では使えないが、ゴルディシアでは豪遊可能な限定通貨。

そりゃあ、大量に保有している内は離れがたく思う筈だ。

今後、このシステムがどうなるかもわからんがな。30年近く抗魔の数が減るなら、下級の冒険者たちが稼げなくなるだろう。ポイントで生活するという循環が、破綻するはずだ。

それに、トリスメギストスの警告も、どう作用するか分からない。すぐに全員が退去とはならないだろうが、弱い者は大陸に入れるべきではないという風潮は強くなるはずだ。

すでに会議などでは議題に掛けられ、住民や下級冒険者、駆け出しの兵士などを大陸に入れるべきではないのではないかという議論が繰り返されている。

となると、抗魔ポイントシステム自体も、何らかの変更を余儀なくされるかもしれない。まあ、そこらへんはお偉いさんに考えてもらって、俺たちはただ使い切るだけだが。譲渡ができないせいで、使うしかないんだよね。

俺たちがポイントで購入したのは、主に石材などの建材だ。今回の件で被害を受けた各町に差し入れておいた。

いやね、他に使い道を思いつかなかったのだ。大量に所持しておいて無駄がないのは、食料や薬の類だろう。

だが、俺たち以上に、この大陸の住人たちのほうが必要としている。買い占めて混乱を招くわけにもいかないし、俺たちが勝手に仕入れて配ったとしても、それはそれで物流に偏りが出て困る人が出るかもしれない。

そうして色々と思案した結果、それなりの値段がして、普通なら運ぶのに苦労する建材に目を付けたという訳だった。

城を建てるのかと勘違いされるほどの量を仕入れちゃったよ。

それを配るついでに、お世話になった人に挨拶も済ませた。

ギルドの進退に悩む、ギルドマスターのリプレアやダンディサブマス。ナディアの救出に共に向かってくれたコゾンたち冒険者。

この大陸の獣人のために奔走する、メアやクイナたち獣人国の面々。

聖国と歩調を合わせなくてはならぬため、ノクタにとどまっているハガネ将国のアジサイたち。

フランの舎弟と化した兎獣人ドルーレイをはじめとする裏社会の面々。

共に戦った竜人のチェルシーや、傭兵のツァルッタ。狂鬼化を鎮めるために、大陸の奥地に引き籠ったアースラース。

皆がフランとの別れを惜しんでくれた。真剣にこの大陸に残ってくれというお願いもあったが、フランはそれを全て断っている。

雇い主であるブルネンを、ジルバード大陸へと送り届けるまでが依頼だからね。それに、黒猫族全体の呪いを解くというフランの目的はこの大陸じゃ達成できないし、魔石がないから俺も成長できないのだ。

「フランよ。世話になったな」

「今度、我が国に来てね」

「オーファルヴ、ジェイン」

女王二人が、お供もほとんど連れずに現れた。わざわざ見送りに来てくれたらしい。船から降りたフランと握手をしながら、口々に労ってくれる。

「ガルスに会ったら、我がよろしく言っていたと伝えてくれ」

「愚息によろしくね」

そう言えば、ガルスの義母と、ジャンの実母だったな。若々しいから忘れていたぜ。彼女たちを皮切りに、次々と見送り人がやってきてくれる。

「フラン! 行くのね」

「ベルメリア。お母さんはいいの?」

「ええ。フレデリックが付いてくれているから」

気安い様子で声をかけてきたのは、ベルメリアだ。一緒に戦ったことで、以前よりも友情が深まったらしい。

「スキルの事、ごめんなさい……」

「あの時は仕方がないわ。それに、アレは私には重荷でしかない。むしろ感謝してる」

彼女から奪った神竜化については、話が付いている。まあ、戻すこともできないし、仕方ないって結論になっただけだが。

もっと恨まれることも覚悟したんだが、ベルメリアは気にしていない様子だった。いずれ返せたらいいんだがな……。

「フラン嬢ちゃん!」

「イザリオ。なんでいる?」

「おいおい。随分なお言葉だねぇ。嬢ちゃんのお見送りだよ」

事後処理で忙しかったはずなんだが、わざわざ見送りに来てくれたらしい。フランはそれを悟って、嬉しそうにはにかむ。随分と懐いたもんだよな。

「ナディアおばちゃん。イザリオと知り合いだった?」

「一応ね。おっと。済まないねイザリオ殿」

「いや、病み上がりなんだろ? 無理しない方がいい」

イザリオと同時に、ナディアとムルサニも見送りにきていたのだが、顔見知りであったらしい。会話したことはなくとも、大陸で戦う強者同士、存在は知っていたようだ。

まだうまく歩けないナディアを、イザリオが支えていた。

「フラン。この剣は、有難く使わせてもらうよ」

「ん」

オーバーグロウスを失ったナディアには、竜人の長老レザルヴァから奪った魔剣を渡してある。これから獣人国へと向かう彼女には、ちょうどいい武器だろう。

「無茶すんじゃないよ?」

「ん」

「また会いやしょう!」

「フラン殿! お気をつけて!」

「色々とありがとう」

さらに、冒険者のディギンズやヤーギルエール、筋肉エルフのウィリアムなどが挨拶に来てくれる。この大陸でも、色々な繋がりができた。それが実感できる光景だ。

『そろそろ出航だな。ブルネンが呼んでるぞ』

「ん……。そろそろいく」

「フラン。泣くんじゃないの」

「ヒルト……」

一緒にこの大陸を離れるヒルトが、フランの涙を拭ってくれる。コルベルトやフォボスも一緒だ。彼女たちだって、弟子を数人亡くしたのだ。きっと色々な想いがあるに違いない。

それでもフランを気遣ってくれるのは、大人の余裕なんだろう。

「……! この曲!」

「オンオン!」

『ああ!』

港の堤防の先に、ソフィが立っていた。通り過ぎる船を見つめながら、ハープを奏でている。何度も聞いた、あの曲だ。

「冒険者の歌……」

ソフィの演奏が、見送りに来ていた冒険者たちにも届いたのだろう。誰ともなく、歌い始めた。

歌の輪は見送り人だけではなく、港にいた関係のない人にまで広がっていく。誰もが、歌うだけで楽しそうだ。

「負けるなー♪ 進めー♪ 意地見せろー♪」

「立ち上がれ! さあ、ここからが見せ場だ!」

「お前の全力見せてみろ!」

「俺たちが付いてるぞ!」

「俺たちゃ冒険者~♪」

「黄金の冒険者~♪」

大合唱を聞いたフランの眼の端には大粒の涙が溜まり、その口からは自然と歌が溢れ出す。

「俺たちゃ、冒険者~」

「オンオン!」

「おう、ごんの、冒険者~……ふぐぅ」

フランはウルシに抱き着いて、その毛皮に顔を埋める。涙を拭いているらしい。

「みんな、またね……」