軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1043 シラードの失態

宿に戻った俺たちを出迎えたのは、どこか切羽詰まった様子の聖騎士たちであった。真ん中には、気持ち悪い笑顔を張り付けた魔術師と鑑定師がいる。

「おお! お戻りになられましたな!」

「お待ちしておりました!」

俺の願い虚しく、奴らはフランに声をかけてきた。だが、フランは警戒状態だ。なんせどちらも目が笑っていないからな。

まあ、もともと聖国シラードに対しては、不信感しか抱いていないが。

「……なに?」

「我が国で、あなたを名誉騎士として迎え入れることが決定いたしましたぞ!」

「名誉騎士ともなれば、恩賞も名誉も思うがまま! おめでとうございます!」

フランが首を傾げた。こいつらの言っている言葉の意味が分からないのだろう。

「ささ、こちらの目録をどうぞ!」

「あとは、この国王陛下の書状をお受け取り下され!」

魔術師と鑑定師が、丸められた羊皮紙を差し出してくる。どちらにも、微かに魔力が通っていた。

多分、フランが羊皮紙を受け取っただけでも、何らかの契約が成立したと受け取られるのだろう。以前出会った、エイワース魔術師ギルドのやり口と一緒だ。

この世界で、子供を騙すための常套手段なんだろう。

『フラン。受け取るな』

(分かってる。こいつらなにか企んでる)

フランにすら陰謀を見破られるとは、お粗末だね。

「いらない」

「なっ! め、名誉騎士ですぞ? 聖騎士と並ぶ、最高位の騎士です!」

「普通は獣人などには贈られない、最高の名誉なのですよ? ささ、お受け取り下さい」

「いらない。じゃ」

脇を通り過ぎようとしたフランの行く手を、聖騎士たちが塞ぐ。無理やりにでも、名誉騎士とやらにしてやろうということらしい。

それにしてもこいつら、巨大抗魔との戦いの場にいたよな? フランの実力を分かっていないのか?

いや、半分くらいは明らかに腰が引けている。それに、兜の隙間から見える目には、怯えの色があった。

命令には逆らえんてことだろう。これだけ見ても、名誉騎士なんぞになりたいとは思えん。だって、聖騎士に並ぶ名誉なんだろ? つまり、今はこちらに羊皮紙を差し出しているクソどもよりも下ってことだ。役職名は派手でも、実質シラードに飼われた騎士の1人でしかなかった。

フランが軽く威圧感を解放し、聖騎士たちを睨みつける。それだけで道が開き、フランは素通りできてしまった。

激戦を経てさらに成長したフランにとって、この程度の相手はものの数ではないのだ。聖騎士の中でも下っ端っぽいしな。

それでも往生際悪くフランに追いすがろうとした魔術師だったが、新たな人影が道を塞いだ。

「待ちなさい! これを――」

「これは何の騒ぎですか?」

「き、貴様は……」

「ソフィ!」

食い逃げ少女ソフィ――ではなく、聖女ソフィーリアであった。彼女には何度も助けてもらったし、食い逃げ(未遂)少女呼びはもうやめてやろう。

「私やメアで失敗したから、次はフラン?」

「……貴様には関係のないことだ」

「ふふ。散々聖女って持ち上げておいて、勧誘を断ったら貴様呼ばわり? お国のレベルが知れるわよ?」

「我が国を馬鹿にするか!」

「シラードは馬鹿にしていないわ。あなたたちを馬鹿にしているの。でも、こんなお馬鹿さんを使っているんじゃ、シラードもやっぱり大したことがないのかもね?」

「貴様ぁ!」

「それしか言えないの?」

すっごい喧嘩腰! なにやら聖国はソフィを怒らせて、交渉が決裂したらしい。シラードのやつらが怒りを見せているが、ソフィの発散する怒りの前には、子犬の威嚇程度の迫力にしか感じなかった。

何をやったら、ソフィをここまで怒らせることができるんだよ?

これ、どうしよう? 頼もしい援軍かと思ったが、このままだと殺し合いが始まりかねない。収拾がつかなくなるぞ。

だが、そこにさらに第三者が現れていた。

「何の騒ぎですか? 宿の迷惑になりますよ」

「貴様は……」

「他国の騎士に貴様、ですか? 大国の人間とは言え、少々無礼なのでは?」

「その紋章! セギルーセル騎士国の!」

「第三騎士団長のヤーギルエールと申します。お見知りおきを」

「ぐ……」

ヤーギルエールであった。彼らも無事にノクタへ帰還できたらしい。

「お久しぶり――というほどではありませんが。何日も会わなかったように感じますね」

「ん」

優しい表情のヤーギルエールを前に、聖国の人間たちは委縮したように黙り込んでしまう。騎士国って言ったけど、もしかして結構大きい国の人間なのか?

「その羊皮紙。あまりいいものではありませんね? 我が国では、禁止されている、邪法の類のものだ。聖国では、未だにそのようなものが使われているのですか?」

ヤーギルエールの舌鋒に、シラードの人間たちは明らかに逃げ腰であった。というか、逃げ出した。

「な、何をおっしゃられているのか分かりませんな。まあ、騒ぎになってしまいましたし、今日はお暇しましょう」

「お、落ち着いたら改めてお話を聞いていただきます。時間を空けておいてください」

「出かけずに、お待ちいただけますよう」

何様だこいつら。お願いしているようで、実質命令だ。フランも嫌気がさしたのだろう。

「やだ。もうお前らなんかと話すことない」

「く……!」

自分たちのお願いが断られることに慣れていないのか、再び怒りの声を上げそうになる魔術師たち。だが、ソフィとヤーギルエールに加え、メアたちが姿を現したことに気付いたらしい。

そそくさと逃げていった。

「ありがと。助かった」

「いえいえ、あなたなら何も問題なかったでしょう。おせっかいを致しました」

「災難だったわね。私の方もしつこくて。勧誘の条件で、ノクタの人たちを奴隷扱いで受け入れてやってもいいとか言ってたのよ! 何様のつもりなのかしら!」

「ふははは! そちらもか! 我が方にも、似たような勧誘があったぞ! 獣人どもを有難くも聖国に奴隷として受け入れてやろう、だとさ!」

未だにメアの素性を分かっていないのか。これでシラード聖国は獣人国を敵に回したかもな。

「まあ、仕方あるまい。神剣騎士を失って焦っておるからな」

「!」

メアさん! さらりと爆弾!