軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1032 ファンナベルタとその主

褒美を与えると言いながら、ファンナベルタを構えるトリスメギストス。

虚を突かれたフランだったが、いきなり斬りかかってくることはなかった。

「フラン、『構えよ』」

「!」

また言霊か! 元々トリスメギストスを警戒していたフランは、その言霊でハッキリとした防御態勢を取った。多分、今のフランに『寝転がれ』的な言霊をぶつけたところで、効果は薄いだろう。俺に対して『動くな』という命令がほんの一瞬しか効果を成さなかったのと同じだ。

だが、本人がやろうとしていることを、もっとしっかりとやれという命令だったら? フランのような強者であっても、言霊通りに動かされるかもしれない。

トリスメギストスが何をしたいのか分からず、俺もフランも困惑気味だ。だが、それはトリスメギストスの構えるファンナベルタも同様であった。

『主よ、何をなさっておいでなのですか?』

「フランたちに褒美を取らせる」

『それは、どういう……?』

ファンナベルタでさえ、トリスメギストスの行動の意味を掴みかねているようだ。

トリスメギストスはそれ以上の無駄口を叩かず、ファンナベルタを振りかぶった。殺気などは感じられないが、こいつの場合はそれが当たり前だからな。

「ファンナベルタよ。汝は、嫉妬の原罪による精神の変質が進行し過ぎた。すでに、汝がいることの利よりも、汝がいることの害が上回っている」

『な、何を……。わ、私は、貴方様のためにこの身を捧げ尽くして――』

「うむ。汝こそ真の忠臣と言えよう。だが、もう不要である」

『トリスメギストス様っ! お待ちください!』

急に何が始まったんだ? 言い争いというか、愁嘆場というか……。

そして、トリスメギストスは動きを止めることなく、素早い太刀筋でフランに斬りかかってくる。

『ふ、不要? 主っ! 主ぃっ!?』

「フラン、『受けてみよ』」

「!」

まただ。言霊を受けたフランが、振り下ろされたファンナベルタに対して、俺をぶつけるように防御行動を取る。

そんなフランをみて焦りの声を上げたのは、ファンナベルタだ。

『トリスメギストス様! 刀身に魔力を! お願い! このままでは――』

「ファンナベルタよ。これまでの忠節、誠に大儀であった」

剣王術を持っているトリスメギストスには、どう剣を振れば負担が少なく、効率的であるかが分かる。つまり、どう振って、どう打ち合えば自身の剣が壊れてしまうかも分かっているということだ。

パキィン。

軽い音が聞こえ、ファンナベルタの刀身が半ばから真っ二つになっていた。

『ぎぁあいいぃぃぃぃぃ!』

『うおおぉぉぉぉぉぉ!?』

ファンナベルタと俺の悲鳴が混ざり、響き渡る。

共食いスキルが発動し、ファンナベルタの力が流れ込んできたのだ。

《共食いスキルの発動を確認。緊急起動します》

『アナ、ウンス、さん……』

《想定を大幅に超える異常な負荷を感知。外部への出力の大部分を遮断。内部作業を一時中断し、力の制御に集中します。再起動までの日数、不明》

つまり、今回の共食いで得た力を制御するため、アナウンスさんがかかりっきりになるってことか? その間、また俺たちと会話できなくなるし、復活がいつになるか分からないと。

『また、すまん』

《仮称・師匠、大丈夫です。あなたたちに、知恵の神の加護があらんことを……》

眠っちまったか。毎度毎度、頼りっきりだな、俺は……。だが、アナウンスさんのおかげで、制御不能なほどの力の奔流が弱まり、なんとか俺でも抑えられるようになった。

だが、溢れ出る魔力が収まっても、もう1つ俺を悩ませるものは全く変わっていなかった。力だけではなく、ファンナベルタの感情も一緒に流れ込んできたのだ。

アナウンスさんも、感情への干渉は難しいってことらしい。俺の内に、ファンナベルタから押し付けられた、様々な負の感情が強烈に渦巻いている。

主のために働けなくなることへの悲しみや、その切っ掛けとなった俺への怒りと嫉妬。そして、主の今後への不安。

だが、自分を破壊したトリスメギストスへの不満や憤怒は、一切なかった。嫉妬の原罪によって狂ってしまっていたが、主への忠誠心は本物だったのだ。

だからこそ、不憫だった。

共食いのせいで襲い掛かってくる膨大な負荷に喘ぎながら、トリスメギストスを見る。そこに、ほんの一欠片でも哀惜の念が感じられれば、それでよかった。

俺自身でもよく分からないこのグルグルと渦巻く感情に、決着がつくだろう。

だが、トリスメギストスの顔には、相変わらず一切の感情が浮かんでいなかった。もう、悲しさを感じるほどの人間性が残っていないらしい。

そう思ったら、トリスメギストスもファンナベルタも憐れに思ってしまう。憎い敵だったはずなのに、なんでだ?

いや、分かっている。無意識に、俺とフランに重ねてしまっているんだろう。自分たちが、同じようになってしまったら? そう思うと、気が狂いそうになる。

フランがトリスメギストスのようになることはあり得ないかもしれないが、俺はどうなるか分からない。

原罪系のスキルを手に入れたら? 剣化が進めば? フランは俺を見捨てないでいてくれるか? 見捨てないでいてくれるはずだ。だが、フランの負担になるのであれば、見捨ててほしい。むしろ、自滅するべきか? そうだ、俺なんかが――。

とりとめのないネガティブな思考が、頭の中を駆け巡る。ファンナベルタの感情に引っ張られているのだ。それが分かっているのに、気分を切り替えることができない。

「師匠? 平気? だいじょぶ、私が付いてる」

『ああ……』

不思議だ。フランの声を聴いた瞬間、全部の負の感情が消えた――気がした。消えてはいない。だが、気にならない。

『大丈夫だ。俺は、俺だ』

「? 当然。師匠は師匠。私の師匠で、相棒」

『はは、そうだな』

やっぱ、フランは最高の相棒だ。絶対に、フランを悲しませたりするもんか。俺は、絶対に狂ったりしないぞ。