軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1031 増えた人々

大勢の人々を殺すこと自体が目的であったと語るトリスメギストス。

『お前……!』

無駄だと分かっていても、怒りを抑えることができない。だが、俺の呟きに反応したのは、トリスメギストスではなかった。

『何も知らずに見当違いに怒ってるあんたに、どちらが悪いのかこの私が教えてやるわ!』

ファンナベルタが甲高い声で叫ぶ。

『トリスメギストス様があの城に押し込められた時、この大陸には竜人どもと我が主しかいなかったわ。しばらくは、大きく人が増えることはなかった。神罰の下された大陸だし、そもそも神々が戦える者だけが立ち入るようにと言い残していたから』

『戦える者だけ? だが……』

ノクタの住人の中には、一般人も多いように見えた。戦える者ばかりとは。

『ええ! そうよ! 今のこの大陸には、戦う力もなくただ抗魔の餌になるだけの能無しの蛆虫どもが多く入り込んでいる! それが、どれだけトリスメギストス様の負担になっているか分かるかしら?』

抗魔を倒さずに食われるだけの人間が増えれば、深淵喰らいの力がドンドン増すだろう。トリスメギストスが毎日どれほど深淵喰らいの力を削っているのか分からないが、その効率が下がることは間違いなさそうだった。

トリスメギストスと竜人、後は少数の冒険者しかいない頃は、マシだったようだ。だが、今は全く違う様相を呈している。

トリスメギストスも自身の使命の妨げになると、彼らに対して大陸外への退去を何度も命じたらしい。

だが、この大陸内に住んでいる者の多くは、外に居場所がない者たちだ。

ゴルディシアの住人たちは、他の大陸から逃げてきた者たちや、その子孫である。そして、この大陸に逃げてくる者たちの抱える事情は、生半可なものではないのだ。

たとえば犯罪者。この世界の常識として、犯罪者は捕まれば奴隷にされることが多い。牢屋に入れておくだけでは無駄に経費がかさむだけだし、場所も取る。

だったら軽犯罪奴隷にしてしまった方が、明らかに生産的だ。それに、犯罪者側にもメリットがある。

軽犯罪奴隷は明確に権利が保障されており、地球に過去にいた奴隷たちとはその扱いが全く違う。

それこそ、刑務作業のようなもので、使い潰されたり虐待される可能性も低かった。借金奴隷などになればさらに扱いは良く、ちょっと仕事がきつめの職業斡旋所みたいなものである。

フランの相棒である俺は、奴隷に関していい感情はない。だが、軽犯罪者の社会復帰や有効活用という面に関して、必要な制度であることも理解はできている。

それに対し重犯罪奴隷の扱いは酷い。戦場での肉壁や、危険な新薬の実験台。あとは殺し合いの見世物など、人権などという物とは程遠い扱いなのだ。

ただ死刑にしてしまうのはもったいないし、最後に有効利用しておこうという感じだから仕方ないが。

そして、そんな重犯罪奴隷落ちと同列に語られるのが、『ゴルディシア送り』という刑罰だった。その名の通り、ゴルディシアに送って抗魔との戦いに従事させるという刑罰だ。

つまり、この大陸に来るというのは、一般人にとっては死刑に等しい苦行であるということだった。

そんな中で、自身の意思でこの大陸にくる者たちは、どんな者が多いのか? 1つが、足枷付きで送られるよりはマシだと、逃亡先としてこの大陸にやってくる重犯罪者たち。当然ながら、各大陸やギルドで指名手配されているので、この大陸を出ることは不可能だ。

あとは、滅ぼされた国の王族や貴族といった、政治犯も多い。何せ、侵略国からしたら絶対に放置できない存在だ。捕えられれば一生幽閉か、死刑である。

ならばと、ゴルディシアに逃げこんでくる者たちは多かった。また、支配地域の人々への配慮として、捕まえた敵国の有力者を死刑にはせずにゴルディシア送りにする国もあった。死刑よりはマシだと言いたいらしい。彼らも、この大陸から出るわけにはいかなかった。

さらには、彼らの子孫が町を作り、増えてしまっている。そのせいで、戦えない者も多く存在していた。この大陸で生まれた人々は、戸籍のようなものもなく、外貨も持っていない。

そんな人間たちが、いきなり退去しろと言われても無理な話だった。各国も、自身の国で引き受けろなどと言われてはたまらないので、積極的に退去を指示することもない。

だが、トリスメギストスが、はいそうですかと簡単に許すはずもなかった。今の彼にとっては、神々に与えられた使命の達成だけが重要なのだから。

結果、今回の虐殺に繋がったというわけだった。トリスメギストスにとっては、巨大抗魔を生み出すことができるうえ、邪魔な人間を間引くことが可能な一石二鳥の作戦だったのだろう。

『あはははははは! 全てトリスメギストス様と私の狙い通りだったってわけ! 蛆虫どもも、我が主のためになれて、少しは価値が出たわね!』

「試算では、現有戦力と我が共闘すれば、問題なく強化型抗魔も倒せる予定であった。我が参戦する前に滅ぼすとは思わなかったぞ」

その言葉を聞いて、俺はふと気になった。

『……なんで、城の外にいる?』

「城の地下から生まれ出でた抗魔が結界の外に出てしまった場合、それを追うために一時的に枷が外れるのだ。第二結界内まで、ではあるがな」

『第二結界って、あの紫のドームか?』

「うむ。神の用意した、抗魔を逃さぬための仕掛けだな」

メルトリッテが用意したものではなく、元々あった機能であるらしい。それを悪用して、竜人たちを閉じ込めようとしたってことか。

「フランと師匠よ。汝らには褒美を与えよう」

「ほうび?」

フランが俺の下に辿り着くのを待っていたのか? フランが俺の柄に手をかけると同時に、トリスメギストスがそんな言葉を口にした。

だが、なんで俺たちだけ?

『主よ! こんな者たちに褒美など、必要ございませんわ!』

「神剣使いたちは、邪神の欠片と戦うことが義務である。褒美を与えるような功ではない。その他の者たちの中で、フランと師匠の功績は群を抜いている。褒美を取らせるだけの活躍だったと言えるだろう」

全く好きにはなれないが、この男がおためごかしや嘘を言う筈がないということも分かる。客観的に見て、真実を口にしているだけだろう。

確かに、神剣使いたちの中に交じって、遜色ない活躍はできたが……。褒美とやらが、まともなものであるとは思えなかった。

『褒美って、なにをくれるっていうんだ?』

「力をくれてやる」

そう言い放ち、トリスメギストスが何故かファンナベルタを構えた。