軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1019 第三形態

巨大抗魔の足に、残った全員で攻撃を仕掛けるが、3本すべてを消滅させることはできなかった。

足だけと言っても、地球の雑居ビルなどよりよほど大きい。しかも、未だに強力な障壁を纏っているのだ。

それでも全員が力を振り絞り、足2本を消滅させる。

フランやウルシは魔力を振り絞り、ヒルトやコルベルトは血反吐を吐きながら龍気を纏う。チェルシーら竜人たちは限界まで竜化を使い、他の者たちも魔術や武技を放ち続けた。

そして、3本目を半壊まで追い込むことには成功する。このまま押し切れるか?

だが、全員の心に僅かな希望が灯り始めた直後、すぐに絶望が襲ってくる。

皆が魔力不足に陥り、攻撃の手が緩んでしまったのだ。その隙は致命的であった。あっという間に再生速度が勝り、巨大抗魔の体が復元されていく。

こちらが焦っただけではない。足だけの状態でも魔力吸収能力が生きており、こちらの想定よりも早く魔力が尽きてしまったのだ。

結果、巨大抗魔はあっという間にその姿を取り戻し始めていた。すでに、胴体の半分ほどは再生してしまっている。

悔しいが、アドルがいない今の俺たちでは勝てん。それどころか、半数以上が戦闘不可能な状態で、全滅の危機ですらあった。

幸い、再生中の巨大抗魔はこちらを攻撃してくる余裕はないようだ。今のうちに逃げるべきだった。

もうここで押し止めることさえ難しい。一度生き延びて、大陸内の戦力を統合するくらいでないと対抗のしようもないだろう。

もしこの場で戦い続けるつもりなら、アドル級の戦力が確実に必要だ。しかし、アドルは意識を失い、生死の境をさまよっている。

後は、イザリオかアースラースだが、どちらも居場所が分からなかった。いや、イザリオは城の下に埋もれているかもしれないが、巨大抗魔を掻い潜って探すのはかなり難しい。

それでも、僅かな可能性はあるだろう。逃げるか、イザリオが生きている可能性にかけて城へと向かうか。

後者の場合、探索班と、巨大抗魔を引き付ける囮班に分かれる必要がある。囮班は、全滅の可能性も低くはない。決死隊と言えた。

そして、今や実質的な指揮官でもあるオーファルヴは、撤退を決意したらしい。誰も、その言葉には逆らわなかった。

フランもだ。イザリオは救出したいのだろうが、そのためにこの場の多勢を犠牲にすることができないということも分かっているのだろう。

動けない者を動ける者が担ぎ上げ、移動を開始する。

だが、巨大抗魔の再生速度は、こちらの想定以上であった。深淵喰らいからの魔力供給のせいなのか、初期の頃よりも早くなっているようだ。

距離を十分にとる前に、巨大抗魔が動き出していた。まだ足は5本しかないが、動くにはそれで十分らしい。再生したばかりの足を猛然と動かしながら、現実味の無い速度で迫ってくる。

「スノラビットの戦士たちよ! 前に出よ!」

「「「おう!」」」

「私たちも付き合うしかないかしら。動けない者たちが逃げる時間は稼がないとね」

「私たちもやるわよ、コルベルト。他の者たちは、冒険者たちとともに下がらせなさい」

「了解しましたお嬢さん」

ドワーフたちの落ち着き様には、感心を通り越えて驚いてしまうほどだ。迫りくる巨大抗魔を前にしても、整然と並んでいる。

フランも俺を構え、やる気満々だ。だが、巨大抗魔がこちらに到達する直前、フランが何かを発見していた。

(師匠。あそこ、なんかいる)

『なに?』

フランの視線を追うと、確かに上空に何かが飛んでいた。ここからでも、それなりに大きいと分かる。

俺たちが気づいた直後、謎の飛行物体が一気に急降下を始めた。巨大抗魔の背に向かって、グングンと迫ってくる。

ようやく全貌が見えたぞ。

真っ赤な竜だ。見覚えのある、1匹の竜である。

「リンド!」

『ああ!』

それは、暴竜剣・リンドヴルムの化身、赤竜リンドだった。つまり、あの背に乗っているのは――。

リンドから、複数の影が飛び降りる。

「メア! クイナもいる!」

『あとはゼフメートに、ソフィもいるじゃねぇか!』

彼らは落下しながら、それぞれの攻撃を繰り出した。メアの白炎に、リンドのブレス。クイナとゼフメートは、すれ違いざまに足を潰す。ソフィの魔曲によって強化されているのか、それぞれが驚くほどの威力を秘めていた。

「ふはははは! 我、参上!」

「ドヤっている暇があるのでしたら、フランさんたちと合流しますよ」

「う、うむ!」

相変わらずのメアとクイナに、ゼフメートとソフィが続く。

「フラン! 無事だったか!」

「ん! でも、どうしてここにいる?」

「あの忌々しい壁のせいだ!」

なんと、巨大抗魔と共に出現した薄紫の障壁は、俺たちが思う以上に広い範囲を覆っていたらしい。ノクタすら、その内側に取り込まれてしまったそうだ。

「あの巨大な抗魔に原因があると考えて、偵察にきたのですが……」

「よきところで到着したらしいな!」

「ん。助かった」

「我らで奴を足止めする! フランも手伝え!」

「わかった!」

こうして、メア、クイナ、ゼフメート、フラン、ウルシ、ヒルトという、高速移動が可能な面々による、巨大抗魔足止め戦が始まった。

オーファルヴたちは、部隊を引き連れて再びここを離れている。大勢よりも、少数の方が逃げやすいからな。

リンドに乗ったソフィの魔曲によって、全員の攻撃力が上昇している。そのため、巨大抗魔の足を重点的に破壊しつつ、その動きを阻害し続けることができていた。

(ソフィ、冒険者の歌は弾かないのかな?)

『あれは、町の人の協力がないと無理なんじゃないか? 単騎であの曲を使えるなら、オラトリオは強すぎる』

(そう……)

フランの場合、単純に冒険者の歌が聞きたかっただけなんだろう。ちょっと残念そうだ。まあ、やる気が出るし、俺も嫌いじゃないけどさ。

『ともかく、このままオーファルヴたちが逃げる時間を稼ぐぞ!』

「ん!」

メアたちと連携しながら、巨大抗魔を足止めし続ける。足が多いとはいえ、そこは狙う足次第だ。

俺たちは右側の3本を集中的に攻撃し、常にバランスがとりづらい状態を狙い続けていた。フランとメア、ヒルトが主体となり、今のところは上手く行っているだろう。

ただ、時間的にはまだ数分でしかない。常に向こうからの攻撃が一撃必殺であり、回避に気を使っているせいで、何十分も戦っているような気にさせられてしまうだけだ。

ただ、あと少しで、このギリギリの戦いからは解放されるだろう。ジェインの使い魔からの報告で、彼女の持つ全部隊への隠密付与が、もう数分で再使用できるようになるらしいのだ。

あっちの部隊さえ逃げ切ってくれれば、俺たちの仕事は終了だ。速度差を活かして一気に逃げることができる。いくら巨大抗魔が強くとも、速度では負けていないからな。

だが、この強敵が、このままで終わるわけがなかった。順調に進んでいるかに思えた戦いに、異変が訪れる。

巨大抗魔の動きが、急に止まったのだ。立ち止まり、その場で痙攣をし始める。7本足に変形した時と同じだった。

巨大抗魔は耳障りな音を立てながら、再びその姿を変え始めたのだ。

7本の足と頭部が、体内へズブズブと沈み込んでいく。そして、胴体の内側が小刻みに蠢いたかと思うと、ブクブクと肥大し始める。

蜘蛛にも似た、どちらかというと細身のフォルムだったのが、丸みを主体とした円形の姿へと変わっていく。ブクブクと、一気に肥大化し始める胴体。

数十秒後、そこにいたのは球だった。非常に綺麗な、球体である。

装甲の継ぎ目のせいで、どこかサッカーボールのようにも見えた。

中央には細い――いや、あの巨大抗魔と比べるから細く見えるが、実際は幅10メートルほどの溝が、その体を一周している。

溝に並んでいる球体は、目に見えるが……。ともかく、シンプルでありながら、妙に威圧感を感じさせる姿であった。

「ブウウウロオォォォォォ!」

『はや! こ、転がってるからか?』