軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1018 邪神斬り

起き上がることができない巨大抗魔が、なにやら変な動きをし始めた。四肢からダラリと力が抜け、その全身が痙攣し始めたのだ。

ただ、振動しているのは高層ビル並の、超巨体だ。その体が震えるだけで、周囲に凄まじい揺れが発生していた。

足腰が強いはずのドワーフたちでさえ、身動きが封じられるほどの振動だ。この状態で攻撃されたらマズイんじゃないか?

それくらいのことはオーファルヴたちも分かっているらしく、即座に配下たちを退避させていた。何度も転びながらも、ゆっくりと巨大抗魔から離れる。

周囲から人が消えるのに合わせて、アドルから攻撃が加えられるが、それでも痙攣を止めることはできなかった。

痙攣は次第にその強さを増していき、唐突に巨大抗魔に変化が訪れる。

メキメキという音を立てながら、その体が変形し始めたのだ。巨大な鉄筋がねじ切られているのかと思うような、甲高く重い騒音。奴の肉体の奥深くで、そんな音が発生するような何かが起きているらしい。

数分後。巨大抗魔の姿が、大きく変貌を遂げていた。色味やサイズは同じだ。だが、今までのような人型ではなく、昆虫のような多足の形になっている。

胴体は今までとほとんど同じ形だろう。

手足は何かを掴めるような形ではなく、細く長く関節が多い、昆虫のような形状だ。それが七本。今までの手足に加え、両脇から1本ずつ、お尻から1本という感じだった。

首から上もあまり変化はないが、首がやや変形して後頭部から胴体へ延びている。今の体で、前を向きやすいようになっているのだろう。

気色の悪い異形であるが、理にはかなっている。これなら、足を集中攻撃されて、転ばされる恐れが少ないのだ。

状況に合わせて、肉体の形状を作り変えるような能力も持っていたらしい。

「グオオオオオオォォォオ!」

「盾ぇぇ!」

「「「おおぉう!」」」

ドワーフの盾隊が、一斉に盾技を発動した。ほぼ同時に、巨大抗魔の口から邪気の塊が放たれていた。

まるでドラゴンのブレスのように放射状に広がる邪気が、青白い魔力の盾によって押し止められる。ただ変形して倒れにくくなっただけではなく、攻撃方法も変化したようだ。

より、大軍を相手にしやすい攻撃を身に着けたのだろう。盾技が消えた直後、今度は足の一つが薙ぎ払われた。

ドワーフたちは咄嗟に反応して再び盾を構えたが、重量級の一撃を防ぎきることはできなかった。

100人近いドワーフが吹き飛ばされ、地面に転がっていく。

足は多少細くなったとはいえ、直径10メートル以上ある。そんな重量物で薙ぎ払われたにしては、被害は少ないと言えるだろう。しかし、今までで一番の被害だ。

「一度、距離を取るよ! この位置は危険すぎるわ!」

「我らが引きつける! その間に、後続と合流せよ!」

巨大抗魔が変身したことで、近距離での優位性がなくなってしまった。女王たちは、それを即座に判断したらしい。

ドワーフたちが果敢に前に出ていく。自分たち以外が退避するための時間を稼ぐつもりなのだろう。

貧乏くじだが、ドワーフたちは一切の弱音も不満も口に出さなかった。先頭に立つオーファルヴを追って、歩を進めていく。

ここは迷っている暇はないだろう。まごまごしている間に、ドワーフたちの被害が増すだけだ。だが、巨大抗魔はこちらの動きを読んでいたかのように、新たな動きを見せていた。

「ガアアアアアアアアアアァァ!」

「跳びおった!」

7つの足を大きく折りたたんだ巨大抗魔が、飛蝗のようにジャンプしたのだ。

驚くほど衝撃の少ない着地を見せると、こちらの退路を塞ぐように身構える。今の飛距離を見るに、こちらが走るくらいでは逃げることはできそうもない。

いよいよ進退窮まった。もう、一斉攻撃で勝利を狙うしかないか? 一応、城の結界からは出ているので、ディメンジョンゲートは使える。ただ、ここで時空魔術を使って部隊ごと距離を取ったところで、あっという間に追いつかれるだろう。

時間が経てば経つほど魔力が供給され、強くなっていく巨大抗魔。無駄に時間を稼いだところで、不利になっていくだけだ。

皆それが分かっているため、その表情は厳しい。

誰もがどう動くか悩み、ほんの一瞬立ち止まってしまう。だが、そんな中でも動きを止めない男がいた。

「やはり、私が奴を倒すしかないようですね。あなた方はそこで見ているといい」

聖国シラードの神剣騎士、アドルだ。彼は全身に神気を立ち上らせたまま、巨大抗魔へと歩を進める。どうやらずっと力を溜め続けていたらしく、神気が全身を覆っている。

「待て。攻撃を仕掛けるのであれば、全員で合わせるべきだ。我らが援護する」

「不要です」

「あ、待つのよ!」

オーファルヴやジェインが引き留めようとしたが、アドルは止まらなかった。

直後、アドルの姿が消える。俺たちでも追えない速度で跳躍したアドルは、次の瞬間には巨大抗魔の眼前にいた。

奴も、アドルの超神速は捉えられなかったらしい。どこか驚いているようにも見えた。しかし、凄まじい反応速度を見せて即座に足を伸ばしている。

4本の足がアドルを叩き潰そうと四方から襲い掛かり――微塵切りにされていた。アドルが斬り裂いたらしい。ただ、その斬撃も、俺たちには見えなかった。

何度見ても、アルファを開放した状態のアドルの動きは異常だな。あれとは、戦いたくはない。

そんなアドルが、わざわざ力を溜めてまで放とうというのは、どんな技なのか……。もう止める術がない以上、見ていることしかできなかった。勿論、追撃をするために、力を練り上げながらだが。

「神剣技・邪神斬り」

ストレートなネーミングだな! だが、その攻撃は、その名に違わぬ凶悪な威力であった。本当に、邪神でも切れるだろう。

刃に纏った神気のせいで倍以上の長さに見えるアルファが、大上段から振り下ろされる。

やっていることは、フランの天断に似ているかもしれない。神属性を纏った、神速の斬撃だ。

だが、そこに込められた力が、俺たちではどうやっても捻り出せないほど、絶大な出力であった。

白い閃光が周囲を染め上げ、誰もが目を閉じている。そして、一瞬遅れて、恐ろしいほどの衝撃が大地を突き上げた。

たった1回の地揺れで、部隊の半数以上が倒れ込んでしまっている。そのすぐ後に押し寄せた嵐のような魔力の波が、残り半数を押し倒した。この場にいるのは、誰もが強者と言える精鋭部隊なのに、だ。

そんな戦士たちが、立っていられなかった。それが、アドルの放ったただ1発の斬撃によって引き起こされたのである。だが、真の衝撃はその後にきた。

目の眩みが収まったフランたちが見たものは、とんでもない光景だったのだ。

「……すごい」

「オ、オン」

「やはり神剣は途轍もないのう」

「神剣でも、直接的な戦闘特化じゃなきゃあれは無理よ」

全員の声が、驚きのあまり掠れてしまっている。

そこにあったのは、体の右側、全身の7割ほどを削り取られ、脇腹と、そこから生える3本の足だけが残った巨大抗魔の姿であった。

しかも、その後ろには延々と続く深い深い一直線の渓谷が伸びている。以前からあったかのような、深い谷が穿たれていたのだ。

余りにも長すぎて、先が見えなかった。1人の人間の成したことなのか?

以前、神獣化したフランが放った奥の手、黒虎雷咆でも似た光景が生み出されていた。ただ、こちらの方がより広く、深く、長い。

驚きのあまり、思考停止していると、フランたちがその場から駆け出す。大地に倒れ伏すアドルを発見したのだ。

フランも含め、全員の顔に笑顔はない。

『あんな姿になっても、倒せないか!』

巨大抗魔が再生を始めていた。我に返った戦士たちが、各足に攻撃を加える。だが、普通の攻撃では、再生を阻害することは難しそうだった。

『くそ! ジェインたちが儀式魔術を準備できてれば!』