軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

05 神さまのこと

成美がいるらしい『開かずの聖堂』に関わりのあるメンバーは、およそ十人ほど。

タブレットで情報収集したところによれば、スラン地区の神殿そのものが小さく、人員が少ないらしい。

そもそも『神殿』とはなんぞや、ということになるが、このあたりは根っからの日本人である成美には、いまいちピンとこない感覚である。

成美の上司にあたる神さま――創世神。これが神殿が崇める神で、名前はない。

そう、『ない』のだ。

神の名は秘せられていて、誰も知らない。

そのかわり、神の化身として六人の賢者がいる。

魔法の概念にありがちな、水火風土光闇。各地の神殿はそれら誰かを掲げることで運営されているという。

たまに無所属の神殿もある。成美がいるスラン地区がそれだ。

どこにも所属していないということは、情報はまわってこないし、援助も得られにくい。

唯一の創世神を崇める同士ではあるので、有事の際には助けてくれるが、普段の付き合いはない。そんなかんじらしい。

だからますます寂れる一方で。

けれど、ここが魔素の吹き溜まりであるため、聖堂を無くすわけにはいかないし、おいそれと移転もできない。この位置になければ、東部は魔素中毒に陥ってしまう。

結果、聖堂は建っているけど、神殿関係者以外の住民は、都会へ越してしまったという、過疎化した田舎町みたいな状況になっているというわけだ。

成美へお悩み相談が多い理由がわかってしまった。

人がいないし、六賢人の加護もない。

ないない尽くしの現状では、聖女さまに頼りたくもなるというものであろう。

鎧さんこと聖騎士は、聖女と対になる存在ではあるけれど、あくまでも民側の人間だ。聖女が神の代弁者で、その聖女を守護する者として、人間側が選出している。非常に名誉あるお役目といえた。

ただ、まあ。それもまた神殿および聖堂の規模による。

スラン地区の聖堂は言わずもがな。これまで聖女さま来る来る詐欺を繰り返してきたこのちっぽけな聖堂に、もはや権威など存在しなくなって久しいはず。聖騎士に任じられたデュランとて、どこまで名誉に感じているのやら。鎧で表情が見えないため、成美には彼の気持ちが未だよくわからない。

仕事用タブレットで調べたところによれば、聖騎士は神の啓示で選ばれるという。

しかし、特定の誰かに対して『そなたは今日から聖騎士である』と指名されるわけではなく、『聖騎士を決めてね』と神が告知してくる、というだけのこと。そこからの選定作業は各地に任されているようだ。

一般的に神殿関係者以外の者が就任する。

これはおそらく、聖女を神殿に囲い込まれることを防ぐ目的だろう。

聖女は神の代行者だ。

神にもっとも近しい者である。

そんな人間を、神を崇める神殿が欲しがらないわけがない。

聖女を――神を独占させないために、聖騎士は民草から選出するのだ。

とはいえ、本当に一般人から選ばれるのは稀で。だいたい、その土地の権力者の息がかかった者が据えられる。

多くは聖堂がある領の 長(おさ) の子だ。ここスランも慣習のとおり、領主の息子が任じられた。

つまり、デュランは貴族令息ということになる。お坊ちゃまだ。

成美はスラン地区を検索する。

Wiki的なページに遍歴が記されており、それによればスランは過去、それなりに大きく繁栄した都市だったらしい。曲がりなりにも聖堂があるので、栄える下地はあるのだ。

ただ、都からめちゃくちゃ遠い。

交通手段といえば馬車の世界で、ひとの行き来は時間がかかる。情報も届きにくい。過疎化するのも仕方のない場所である。

そして、成美の前の聖女さま達が「こんな田舎やだー」と拒否ったせいで、聖女が定着せずに不在となり、土地は痩せるし、魔素被害は出るし。こんな土地には住めないと出ていくひとが続出。そして現在に至っている。

「銀太郎、スランを治めてる領主ってどんなひと?」

「いいひとだよ。温厚で穏やかな」

「あー。なるほどね」

野心のないひと。ガツガツしていなくて、なんとしてもスランを盛り上げようという気概に欠ける、そういうひと。

堅実に無駄遣いをせずに暮らしていて、過去に築いた資産をすこしずつ切り崩している状態。

いくらかつては栄えていたとしても、お金は使えば減っていく。増える余地がないのなら、目減りする一方だ。

「でもなー、私がなんとかできるもんでもないしなー」

成美は聖女という仕事に就いていて、給料も貰っている。でも日本円として銀行口座に振り込まれているので、こちらのお金は持っていないのだ。

異世界カンパニー会社の聖女予算で購入はしているけれど、あれはデータでのやりとり。現金取引ではない。

異世界転生チート物語みたいなことをすれば、スラン復興もあり得るかもしれないが、成美は外に出られない。出たらたぶん体が耐えられずに、銀太郎いわく「パーンってなる」らしい。

スプラッタ待ったなし。

勘弁してほしい。ビバ引きこもり。

「となれば、領主側と直接話をするとかになるのかな。鎧さん、息子なわけだから、あのひとに話せばいいのかな」

でも、どうやって? そんな深刻な話を、玄関越しにするって、どうなの?

悩んでいると、イケボが聞こえる。この美声は鎧さんことデュランだ。

成美は玄関に向かう。

考えごとをしながら歩いていたせいで、うっかり柱の角に足をぶつけるという、典型的なミスをやらかして悶絶する。

「いったあ」

「聖女さま! どうなされた」

「あー、すみません、だいじょうぶで――」

その場にうずくまっていた成美は、焦りを帯びた男の声に顔をあげ、そのまま固まってしまった。

鎧を着こんだひとがいた。

カメラ越しでも、ドアスコープ越しでもなく。

現物の、 生(なま) の、実物としての鎧さんが、家の中にいた。

「は!?」

男女ふたりの声が重なり、「わー、びっくりー」と、聖獣が呑気につぶやいた。