軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

06 直接会うのは、はじめまして

「聖女さまですか?」

「……はい、いちおう、そんなお役目をいただいているところです」

「ではここが聖堂の中……?」

「ということになるのかどうか」

だってここは成美の住んでいる部屋だ。

部屋ごと転移したというか、空間がつながっているというか。そのあたりをどう説明したら伝わるのか。

言い淀む成美に対し、鎧は頷いた。

「聖女さまによって内装が異なると言いますので、これが貴女さまの聖堂なのでしょう」

「そういうものなんですか?」

「我が家に伝わる文献には、そう記されておりました」

そうである。このひとは、聖騎士の家柄なのだ。次の聖女の対となるべく、学んできたことだろう。酔った勢いで登録して当選した、ぽっと出の聖女とは異なり、聖騎士になるべく育てられたサラブレットだ。

「まあ、とりあえず座りなよ、聖騎士」

「はっ。もしや貴方さまは」

「うんー。ぼくは聖獣だよ」

「すでに聖獣さまを使役されていらしたとは。さすが聖女さまです」

「えっへん!」

顎を反らせて威張る銀太郎。

そんなもふもふ子犬に頭を垂れる鎧騎士。

見慣れた自分の部屋で、見慣れない光景を目の当たりにし、成美は眩暈がする。なんだこれは。

「成美ー。飲み物を淹れてあげなよ。あとお菓子もね。ぼくはミルクとジャーキーがいいな。聖騎士にも同じものを――」

「いや、それはさすがに失礼でしょ。きちんと人間の食べるものをお出ししないと。あの、なにがいいですか?」

「天上の盃を賜るとは。恐れ多いことです」

ハードルが上がっている。ただの水を出しても涙を流して喜びそうだ。

ひとまず中に入ってもらい、座ってもらう。

フローリングの上にラグを敷いた部屋なので、テーブルと椅子なんてものは存在しない。由緒正しい御家柄のご子息さまに、床に座れというのは、あまりにも無礼すぎやしないだろうかと思っていたが、とくに気にしたようすもない。甲冑の状態で器用に座り、なんだか人心地ついている。やっぱりあれは重たいのだろうか。

疑問に思いつつ、キッチンスペースに入って冷蔵庫から犬用ミルクを取り出し、お皿に注ぐ。

鎧さんには、作り置きのアイスコーヒーだ。自分用にも淹れて、ガムシロップと牛乳をパックのままお盆に乗せ、彼らのところへ戻った。

「おくちに合うかわかりませんが。飲みなれないと苦く感じると思うので、こちらの甘いシロップを入れたり、牛乳でまろやかにして飲んでください」

「頂戴いたします」

キッチンへ取って返し、流し台の上の収納扉を開ける。おやつボックスからクッキーを取り出し、百円均一で買った菓子皿に盛ってみた。独り暮らしには不要なものだと思っていたけど、デザインがレトロで可愛いなーと買ったやつだ。活用できてよかったと思う。

「これはなかなか良い味わいだ」

「それね、成美が神さま用に買ったコーヒー豆を使ってるから、高級品だよ」

「なんと。神の飲み物をお分けいただいたと。身に余る光栄」

いやいや、それこそ大袈裟な。でも気に入ってくれたならよかったと思う。

おかわり飲んでくださいねー。

そう言おうと思って振り返り、成美はまたも凝固する。

こちらに背を向けて座っている鎧さん――否、もう鎧さんではなかった。

甲冑はまだ着ているけれど、兜は外されている。

それはそうだ。飲食のためには邪魔である。

露わになった頭部を覆うのは、落ち着いた色合いの金髪。

高い位置でポニーテールを作っているのは、兜を被ったとき、髪を巻き込まないようにしているのだろうか。

「き、金髪ポニテ、だと……?」

思わず漏れた声を拾ったか、ポニテ男子が振り返った。

彫りの深い、整った西洋系の顔。なにに驚いているのか目を見張っており、エメラルドのごとき美しい緑色の瞳が成美を見ている。

「聖女、さま……?」

またそのやり取りですか?

成美の疑問は顔に出ていたのか、鎧改め金髪ポニテさんが、顔を伏せて謝罪する。

「申し訳ございません。ご尊顔を無遠慮に眺めるなど万死に値する行為でございました」

「いやいや、べつにそんなたいそうな顔じゃないですって」

「言い訳をさせていただければ、兜を付けていると視界が悪く、先ほどまで聖女さまのお顔をきちんと拝見できておりませんでしたので」

たしかに前が見えづらそうだなーとは思っていたが、やはりそうだったらしい。だったらなんで着ているのだろう、脱げばいいのに。

成美が疑問に感じていると、ポニテ氏は続ける。

「よもや、このようなお美しい方だとは思ってもおらず。つい見つめてしまったことをお許しください」

「いやいやいや、それは貴方のほうですよ。兜を外したら美青年でしたとか、そんなお約束な展開してくれちゃって、ありがとうございました」

シュレーディンガーの猫。

猫は生きているほうだった。イケメンのほうだった。勝利。

成美は小さくガッツポーズ。

「俺が美青年だとか、まさか。家族からは『顔を隠せ』と言われて育ったような男ですよ」

それはむしろ、美少年すぎたから、変な輩に狙われないように隠したかっただけなのではなかろうか。誘拐されたら困るだろうし、ショタを愛するスケベ親父もいるだろう。危険が危ない。

「それに引き換え聖女さまは、艶やかな黒髪、神秘的な瞳、折れそうなほどほっそりとした体、お召しになった天上界の衣服もお似合いで、まさに神の代行者にふさわしい御姿で」

「待って待って、そのへんでやめてください」

「失礼しました。俺なぞが神を語るなど不届きでした」

「そうじゃなくて」

どうしよう、このひと、ちょっとおかしい。聖女という存在を美化しすぎていて、おかしなフィルターがかかっている。

量販店で、季節終わりの在庫処分セールで買った、部屋着のワンピースのどこが天上界の衣装だというのだ。

こんなことなら横着せずに、もうちょっとマシな服を着ておくべきだったか。一応仕事中なわけだし。

後悔しつつ、成美は菓子皿を持って、彼の前におずおずと戻る。

銀太郎にジャーキーを放ってやり、改めてあいさつをする。

「スラン地区の聖女になりました、成美と言います」

「ご丁寧に。私はスランの聖女をお守りする聖騎士、デュランと申します」

「こうしてお会いするのは、はじめてですね」

「そのような気はいたしませんが」

「会話はしてましたしね」

玄関扉越しの御用伺い。動きにくそうな甲冑を着込んでの訪問、ご苦労なことである。

「あの、それ、着たままで平気ですか? 疲れません?」

「しかし聖女さまと相対するにあたり、失礼はできません」

「私は聖女なりたてのペーペーなので、むしろそちらのほうが先輩といいますか」

「ぺぺ?」

「新人、みたいなことです」

「なるほど。神の用語ですね」

ちがう。

しかし、ペーペーってどんな意味なのだろう。

あとでググっておこうと成美は頭の片隅にメモをする。