軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

04 引きこもり生活中

「聖女さま、お知恵を賜りたく存じます。近く祭祀を行いたいと思っておりますが、本日は生憎の雨模様。できましたら晴れの日に神へ祈りを捧げたく考えておりますれば」

そんなことを手を擦り合わせながら呟いている。

ふむ、天候とな。

成美はアプリを立ち上げて天気予報をチェックする。

地域をスランに設定しているおかげで、すぐに表示された。

週間天気によれば、今日と明日は雨だけど、明後日以降は太陽のマークがついていた。降水確率も0パーセント。大丈夫だろう。

用意されている紙とペンを使って回答を書くと、玄関扉の下から外へ向けて差し出す。

すると拝んでいた神官男性が「おおおお」と感動の声をあげる。

「ありがとうございます聖女さま。三日後で調整するよう皆に通達いたします」

そそくさと去っていく姿がカメラから見切れるのを確認しながら、成美は思う。

(そんな重要そうなイベント、明後日やるから! とか急に言われても、準備するの大変なのでは?)

指示するほうはいいけど、出席者の調整とか連絡とか、全員の予定を合わせるのは大変にちがいない。会社員生活を振り返りつつ、成美は彼の部下に祈りを捧げた。

がんばれ。

「神さまポイント、ゲットだね!」

「どれぐらい貯まったの?」

「ランクアップにはまだまだかなー。ランクが上がっていくと貯めるポイントもたくさん必要だし」

住民のお願いや困りごとにアドバイスをして感謝されると、神さまポイントなるものが貯まるらしい。徳を積む、みたいなことだと思われた。

徳を積みまくっていずれ悟りでも開くのだろう。神としての格がワンランク上がるのだ。

成美の仕事は、スランの魔素濃度の中和に加え、神さまをより偉くすること。

そうすることで土地は潤い、ひとは暮らしやすくなる。

魔素の浄化でもポイントは貯まる。毎日1ポイントぐらい。

ログインボーナス的に毎朝カウントされているが、それだけでは到底足りないので模索したポイント取得方法が、聖女によるご神託なのであった。

キッカケは偶然。聖堂のようすを見に来たひとりの神官がうっかりメモを落とした。

玄関の扉の隙間から滑り込んできたそれには「おとうさま おしごとがんばってね」とたどたどしい字で書かれており、これは絶対に返却しないとあかんやつやと成美は奮起。

子どもからのお手紙と一緒に、暇に任せて折り紙で作った飾りをつけて外へ向けて送り出したところ、翌日になって大勢の神官が詰め寄せた。

「聖女さま!!」

「神の御業を賜り、我ら一同、感服いたしております」

「やはり聖女さまはここにおわした」

「我らを救ってくださる」

そのようすは、成美が以前にドアスコープから見た景色を彷彿とさせ、既視感をおぼえる。

そして遅まきながら気づいたのだ。

あの白い服を着た外国人たちは、神官服をまとったスランのひとであり、彼らが扉越しに成美を呼んでいたあれは「聖上さま」ではなく「聖女さま」であったのだということを。

やんややんやの大騒ぎ。

ぜひ御姿を拝見したく。

いや聖女さまはみだりに姿をさらさないと聖書にはある。

こうして恩寵を賜ることができるだけ僥倖。

成美が返答せずとも勝手に理解が進んでいき、四畳半の部屋に引きこもったまま、たまに「郵便でーす」とばかりに差し出される紙面であったり、神社で柏手を打ちつつお願い事を呟く参拝客の声的なものに対して答えを返す、『聖上成美のお悩み相談室』をやることになっていたというわけだ。

聖女に就任して、そろそろ三か月。

成美は引きこもり生活を続けている。

いくらインドア派といえど、さすがに飽きるかなあと思っていたが、まったくそんなことはなく。成美は己のインドアっぷりに驚くばかりだ。

窓の外は相も変わらず謎空間。いったい時空転移とやらはいつ完了するのだろう。それが落ち着かないことには、外に出られない。

出なくても平気であることを実感してはいるけれど、せっかくの異世界転移だ。どんな世界なのか知りたい気持ちはある。

「銀太郎もさー、お外を散歩したいよね」

「んー、ぼくは聖獣だから、外に出ようと思えば出られるよー」

「え、初耳なんだけど」

「聖獣は空間を渡ることができるんだよー。だから、別の世界から来る聖女をお迎えに行けるんだし」

だが普通の人間はそうはいかない。体が新しい場所に馴染むまでに時間を要する。

同じ地球であっても、国によって環境は異なるのだ。惑星ごと異なるのであれば、そりゃあ適応に時間もかかるだろう。

「……ん? ってことは、私の体は異世界に対応するために組み変わっている最中ってことなの?」

「そだよー。急激な変化は体が壊れる可能性があるから、ゆっくりじっくりやってるのー」

「外の景色が未だに謎空間なのも、そのせいなんだ」

「そゆことー」

銀太郎が言うには、異世界との接続が完了しているのは、玄関のみ。それ以外はまだ日本と異世界の中間点、とのこと。

「つまりこの部屋自体が国境」

「そのうち地球からは切り離されるよ。押し入れ以外は」

「押し入れ?」

「いまも荷物が届いてるでしょー。ネット回線はあっちのを使わないと、成美は困るよね?」

「たしかに困る」

お取り寄せができないし、契約したサブスクが利用できなくなってしまう。

「ぼくとしてもさー、日本の食べ物おいしーしー、食べられなくなるのやだなーって思って。神さまに直訴したんだよ。一部は接続したままにしましょうよーって」

神さまポイントを貯める『お悩み相談室』も、グーグル先生に助けられている。

前世知識でチートするのは異世界転生あるあるだが、成美は転移者のほうである。現在進行形、リアルタイムで更新されていく新しい知識を引き出せるのだから、日本との接続を切ってしまうのはもったいないだろう。

「神さまもね、納得してくれたよー。日本のチョコレートおいしかったって言ってたし」

「いつのまに、そんなことを」

「ごめんね、ちょっとだけ持っていっちゃった」

「まあ、多少の賄賂は必要だよね」

「ほかのお菓子でもいいから、おすすめ買っておいてって言ってた。必要経費にしていいって」

「それはつまり、自腹を切らずに会社用の茶菓子にしていいと」

「そゆことー」

「神か! いや、神か」

正しく相手は神さまである。

美味しいスイーツから定番のスナック菓子まで、いろいろ献上させていただきますとも。

会ったこともない神さまに、成美は拝んだ。

祈り方がこれで正しいのかどうか、よくわからないけれど。