軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

73話 家に帰るまでが冒険です

翌日は宿屋でゆっくりと朝食を取ってから出発をした。特に急ぐ行程でもない。

もう一日休もうという話もあった。牛に追いかけられた話をしたら、アンに怒られたのだ。

「今日は休養日だっていうのに、何をしてるのよ。どらごまで出したって」

「楽勝だと思ったんだよ。ごめんなさい」

「ごめんなさい」

ティリカと一緒に神妙に謝っておく。たかが牛と舐めすぎてどらごを出す事態になったのはおれのミスだ。

「もう一日休んでいく?」

「ちょっと疲れたけど、おれは平気だよ」

「私も大丈夫。予定通り、明日出発でいい」

「そう?きついならちゃんとそう言うのよ」

いざとなったらゴーレムに乗っていけるし、夜は自宅の地下室でゆっくりと休める。何かとんでもないトラブルでも起こらない限り大丈夫だろう。

砦から出る時、門のところで兵士から注意が入った。

「昨日の午後、ドラゴンの目撃情報があった。もし何か見かけたら連絡をして欲しい」

「ええ、わかったわ。さ、行きましょう、みんな」

見つかったら騒ぎになるだろうとは思っていたが、予想以上だ。いくつもの調査隊が周辺を探索しているし、中には出発を見合わせているグループもあるという。正直すまんかった。

「どうするのよ。大騒ぎじゃない」

草原を森の方へと歩きながらアンが言う。

「やってしまったことは仕方ないでしょう。知らんぷりして放っておけば、そのうち沈静化するわよ」

「ごめんなさい」

「ごめんなさい」

とりあえずティリカと二人で謝っておく。ここで謝罪したところで、迷惑をかけられた人に届くわけもないのだが、ちゃんと反省はしておこうと思う。

「とりあえず、当分どらごの召喚はしないほうがいいわね」

「……わかった」

「そのうちAランクにでも上がれば堂々と公表すればいいわよ」

「それって大丈夫なの?」

「大丈夫とは言い切れないけど、冒険者としての実績があればなんとでもなるわ」

どの道どらごを使いたいなら、いつまでも存在を隠し通せるものでもない。その公表のタイミングがAランクということなのだ。この異世界ではAランクともなれば英雄クラスである。冒険者ギルドも手厚く保護してくれるし、その影響力も大きい。名も無き冒険者ならともかく、高名なパーティーが召喚魔法などというレアな魔法を使っていたとしても、そういうものかと納得もされようし、国家や他の機関が横槍をいれて来てもはねのけられるだろうという算段である。

冒険者の仕事というのは魔物と戦うこと。この一言に尽きる。戦闘力があれば全てが許される。現に最近も国が一つ滅んでいる。それほどこの世界では、魔物の存在が脅威なのだ。

「おれの時もAランクなら仕事を断っても大丈夫だった?」

防衛戦の時の治療や壁修理とかは別に渋々やったわけでもないが、できれば前線で戦いたかった。思いっきり経験値稼ぐチャンスだったのにな。

「もちろんよ。ランクが上がれば仕事なんて選び放題だもの。気に入らない依頼なんて断ればいいのよ」

「今回の大量討伐でランクは上がるよな?」

現時点ではエリーがBランク。おれとサティがC、アンとティリカがEである。

「そうね。今の時点で足りなくても、帰りの行程でたっぷり狩れば十分足りるわ」

ただし、エリーは既にBランク。雑魚をいくら狩ってもAランクになるのは厳しいという。もっと大物を狙わないとだめなのだそうで、それで魔境に行きたがっていたのだ。

「よく考えると別に急ぐ必要もなかったわ。私だけAランクになっても仕方がないし。うちはAどころかSになれる力があるんだから、ゆっくりやればいいのよ」

その割にはたった一日の休みで森に再突入しようとか、ちょっと過酷だと思うんだ。

「そのくらいは余裕でしょ。無理だとは言わさないわよ!」

確かにまだまだ余裕はある。だがもう少し休みたいと思うのだ。いっそおれの日本での生活っぷりを説明してやりたい。日がな一日TVを見て、ネットして、たまにコンビニにいって漫画雑誌を買って。

「もういつ雪が降ってもおかしくないのよ。雪が降り積もった中で狩りなんかしたくないでしょ?」

「冬はお休みなのか?」

「そうよ。ゆっくりできるわよ」

「それはいいな!ぜひゆっくり休もう」

「休みだからってだらだら過ごすわけじゃないの。剣の修行をしたり魔法を習ったり、色々あるでしょ」

「エリーの料理修行もみっちりできるわね」

「……だらだら過ごすのも悪くないんじゃないかしら」

そういいつつ、おれに助けを求めるように視線を送るエリー。だらだら過ごしたい気持ちは一緒だが、エリーの料理修行は約束だからな。ちゃんとやっておくべきだと思うぞ?

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

砦から町への行程は、特筆すべきことは何もなかった。出てくるのは雑魚ばかり。そこそこの数は狩れたものの、エリーは不満なようだ。おれとしてはアイテムボックスに余裕ができてよかったのだが。もし行きと同じレベルの巣に出会ったりすれば、あっという間に容量オーバーでまた大岩を捨てるはめになったかもしれない。

伊藤神にアイテムボックス容量増加のお願いもしてみたのだが、返事はなかった。確かに大岩をたくさん保存したいから増やして欲しいでは、ちょっと理由としてはアホらしいだろう。だがこの件に関しては粘り強く交渉を続けたいと思う。

「ルートを間違ったかしらね」

「山岳に近いルートだと行きと被るしなあ」

「私はこれくらいで十分だと思うけど。ハーピーとかオーク軍団とか何度も嫌よ」

おれも今回は怪我をしてないし、ほどほどに経験値は稼げたからいいとは思う。

「あと一つレベルが上がらないのよ……」

だがエリーの空間魔法レベル5を取るにはあと5ポイント。つまりレベル一個分足りないのだ。

「ティリカとアンのレベルを重点的に上げるのはみんなで決めたことだろ」

ティリカとアンのレベルが低かったので、雑魚が出てきた時は優先して倒してもらっていたのだが、そうするとエリーの出番が全く回ってこない。行程は一週間もあるからと楽観視していたら、結局最後まで雑魚ばかりで、もうまもなく森を抜けて町に到着の予定である。

「レベルも20を超えると上がりが悪くなる感じだしなあ。地道にやっていくしかないな」

「もう一周……」

「しない」

「しないよ。大体エリー。料理のレベルがさっぱり上がらないじゃない。町に戻ったらみっちり練習するんだからね」

「ちゃんと練習したわ!」

「包丁の練習ばかりだったじゃない。切るのだけ上手になっちゃってどうするのよ」

そうなのだ。地下室では火は使えないので包丁の使い方をメインにしてみたら、切り方ばかりメキメキと上達しちゃったのだ。肉や野菜はもちろん、リンゴなんかも器用にむける。包丁使いだけなら間違いなくレベル1に達しているだろう。

ついでに暇つぶしがてら投げナイフを教えてみたら、昨日ついにレベル1になった。なんでこう、素直に料理を覚えようとしないんだろうか。

「だいたいエリーはね……」

「何か来ます」

前方を歩くサティが突然警戒態勢を取った。

「数は二つですけど、片方が追われてるような……人のような気がします」

「どっちの方角?魔物に襲われてるなら急いで助けにいかないと!」

話を反らす気が満々なのが丸わかりだが、確かに急いだほうがよさそうだ。

「ほーくは?」

「向かわせている」

ティリカがゴーレムの座席から降りて言った。

「もし冒険者が追われていたら、逃げきれるように魔物を牽制してくれ。サティ、先行するぞ」

「はい、マサル様」

剣を抜いてサティが森の奥へと走りだすのについていく。ここは草原も近い。初心者の冒険者が無理をして入り込んだか、パーティーが壊滅したのか。

「やっぱり片方は人間です」

サティが走りながら言う。

「探知にもかかった。まだ距離に余裕はある」

冒険者と魔物の距離は安定している。これなら間に合いそうだ。

その時、森に魔物の吠え声が響いた。ゴガァァァァァ。まだ遠いはずだがおれの耳にもはっきりと届く。この声は聞いたことがある。オーガだ。

「オーガか」

サティも同意する。

「群れも来てます。かなり距離は遠いですが、冒険者を追ってきてるみたいです」

「急いだほうがいいな」

その時ほーくが頭上を通り過ぎる。

「ほーく!」

大声で呼ぶとほーくが木々の間を器用にぬって飛び、引き返してきた。

「オーガの群れが遅れて追ってきてる。冒険者を助けたらすぐに引き返すから、そっちは先に森の外へ出ておいてくれ」

肩に止まったほーくにそう告げる。草原が近いし、群れとは広いところで戦ったほうがいい。

「ほーくはそのまま冒険者の方を頼む」

ほーくはピィーとひと鳴きすると、また飛び立ち冒険者のいる方向へと向かう。

「見えました!」

「おれが正面に回る。サティは隠れて横に回れ!」

おれの言葉にサティは素早く姿を消した。目では追えないが探知で動きは把握できる。サティはこちらの動きに合わせて斜め前方を移動していた。打ち合わせはしてないが、こちらの動きに合わせてくれるはずだ。

おれの目にもこちらに逃げてくる冒険者が見えた。その後ろには巨大なオーガが迫ってきている。オーガの頭上にはほーくが飛んでいるが、オーガはまるで気にした様子もなく、冒険者を追いかけていた。冒険者は既にふらふらであるが、オーガにしてもそれほど動きは素早くない。

オーガの特徴はなんといっても、身にまとっている分厚い鎧のような皮だ。矢や低レベルの魔法はもちろん、剣や槍ですら生半可でははじき返される。サイズはオークよりはでかいが、トロールほどではない。頭には牛のような二本の角があり、長い腕には人間を軽く捻り潰せるパワーがある。ただし体が重いせいか足は遅い。でなければこの冒険者は既に死んでいただろう。

「こっちだ!」

冒険者が顔を上げこちらに気づいた。なんだ、男か。そいつは荷物はもちろん、手に武器すら持ってなかった。逃げる途中でなくしたのだろうか。どの道、初心者が武器を持っていた所でオーガと一対一ではまず勝てないだろう。武器も荷物も全て捨てて逃げたのはいい判断かもしれない。

「た、助け……」

「そのままこっちに来いっ」

足を止め、火矢の詠唱をする。冒険者がすれ違うのを待ち、オーガの顔面に向けて火矢を放った。大きい魔法ならオーガを仕留めるのは簡単だが、この冒険者を巻き込むわけにもいかない。

「こっちだ、化け物!」

火矢は命中したが、オーガにダメージはほとんどない。ただの挑発にしかならないし、思った通りオーガはこちらに注意を向けた。まずは逃げている冒険者からオーガの注意をそらさねばならない。

腕を振り上げたオーガがおれの方へと迫ってくる。まともに食らっては吹き飛ばされて終わりだろう。だが、ここは森の中だ。でかい木を選び盾にする。オーガは足を止め、おれを捕まえるために木を回りこもうとし、苦痛の叫び声をあげた。こっそり後ろに近寄っていたサティが、オーガの背中に剣を突き刺したのだ。サティの細い剣では斬りつけてオーガにダメージを与えるのは少々きついが、刺突となれば十分に頑丈な鎧を貫ける。

だが一箇所突き刺した程度ではオーガを怒らせるだけだった。オーガはおれから注意をそらし、後ろを振り向くが、サティはすでに距離をとっている。おれは気配を消すとオーガの背後に素早く忍び寄り、一気に剣を振り下ろした。剣には炎をまとわせてある。火の魔法剣の切れ味の前ではオーガの鎧の如き皮膚も、ただの粘土を切るようなものだ。

背中を切り裂かれたオーガはおびただしい鮮血を吹き上げ、悲鳴を上げる間もなく絶命する。役目を終えた剣はぽっきりと根本からへし折れた。通常の剣で魔法剣を使うと金属が耐え切れないのだ。

「安物はやっぱりダメだな」

折れた剣をその場で投げ捨てる。オーガの報酬で十分に元が取れるとはいえ、毎回これじゃもったいない。そろそろ魔法剣に耐えられる上等な剣が欲しいところだ。

「た、助かった……」

「まだ助かってない。オーガの集団がお前を追ってきてるぞ」

へたり込み、息も絶え絶えな冒険者にそう告げる。

「そ、そんな……もう一歩も……」

死んだオーガをアイテムボックスに収納すると、冒険者にヒールをかけてやる。ヒールは多少ではあるが、体力回復の効果もあるのだ。

「立て。走れ。もうすぐ草原だ。そこまで逃げれば助けてやる」

「わ、わかった」

冒険者は立ち上がり再び走りだす。オーガの集団がかなり接近してきている。急がないと追いつかれそうだ。

「ほら、もっと急げ。草原までいけばおれの仲間が待機してる。そこまでがんばれ。オーガに追いつかれたら死ぬぞ」

冒険者を後ろから叱咤して走らせる。こいつを抱えてフライで飛べば早いのだが、まだ余裕のあるうちは男なんぞ抱えたくはない。

ようやく森が開け草原が見えた。後方にはオーガの集団もしっかりとついて来ている。数は十ほどであるが、危険な相手だ。町も近いし、ここで確実に殲滅する必要がある。もし運良くうちのパーティーがいなければ町をオーガの集団が襲ったかもしれない。

草原に飛び出すと、冒険者を追い抜き、サティと共にみなの待っているところへと全力で走る。すぐにオーガを迎え撃つ準備をしなければならない。

「ちょ、置いてかないで……」

「急いだほうがいいぞ。ほら」

そう言って、森を指さすとオーガが数匹、森の中から湧き出すのが見えた。それを見て冒険者は最後の力を振り絞るがごとく、走る速度を早めたのだった。

ちょっと冷たい対応だとは自分でも思うが、男を助けるとか楽しくないから仕方ないよね?