軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

72話 牛がどこまでも追いかけてくる件

翌日は前日の夜間の見張りの疲れもあって、午前中は寝て過ごした。前日の夕食をたっぷり摂ったとはいえ、さすがに昼頃にはお腹が空き、昼食をみんなで食べる。アンとサティとティリカは午前中は散歩に行ってたらしい。エリーはおれと一緒に惰眠を貪っていた。

「何か面白いものでもあった?」

戻ってきた三人に聞いてみる。

「城壁はすっかり直ってました。それに工事中の第三城壁も見て来ました」

「城壁に登って魔境を見てきたんだけど、別に何も見えなかったよ」

「屋台で食べてきたけど、普通の味だった」

とりあえずは、各人それぞれに楽しんで来たのだろう。

「午後からどうする?」

昼食をおえて、まったりしつつ雑談に入る。

「見たいものは見たし、部屋にいるかな。神殿も挨拶に行ったし。マサルも後で行って来なさい。司教様が会いたがってたよ」

「わかった」

神殿はややこしいことになる可能性もあったけど、こそこそして見つかったほうが色々勘ぐられるんじゃないかと、普通にすることにしたのだ。どうせ一日だけの滞在だし、問題もないだろうと思う。

「私も部屋にいるわ。サティ、お風呂に入りましょう」

「はい、エリザベス様」

「おれは草原に行ってくる」

みんなでお風呂もちょっと惜しいが、それはまたいつでも出来る。防衛戦の時も草原は通り過ぎただけだったし、この辺りで野うさぎ狩りはやったことがなかった。せっかく野うさぎが豊富そうないい草原なのに、もったいない。

「私もマサルについてく」

ティリカがたいがをなでながら言う。

「また蛇でも捕まえるか?」

「このあたりの草原にはグレートバッファローがたまに出ると聞いた」

ティリカ曰く、美味しい肉が取れるのだがとてもレアで入手困難なのだそうだ。だからぜひ食べてみたいと。

「へえ、いいじゃない。見つけたら絶対に仕留めてきなさいよ」

グレートって言うからにはサイズはでかそうだし、食いごたえがありそうだな。よし、久しぶりに牛の焼肉でも食うとするか!

「よーし、任せとけ」

「気をつけて行ってきなさいよ。討伐はだいぶ進んでるみたいけど、魔境が近いんだからね」

アンが心配そうに言う。

「ティリカが一緒だし大丈夫だよ」

「マサルは私がちゃんと守る」

「そうだね。じゃあ狩りがんばってね」

それで野うさぎを狩りつつご機嫌で草原を闊歩してたわけなんだが、一時間ほども過ぎた頃、ティリカから報告が来た。

「いた」

偵察に出ていたほーくがグレートバッファローを見つけたようだ。結構距離があるので、のんびりと歩きながらほーくの帰還を待つ。たいがに切り替えてから乗って移動をするのだ。二人乗りくらいなら、本気を出したたいがはかなりの速度で走れる。

戻ってきたほーくを戻し、たいがを召喚する。

うおおおおおおおお、思ったよりはええ!? 本気のたいがの速さは想像以上だった。地面に近いからか、実際の速度以上に早く感じる。ティリカはたいがの首に捕まっており、おれはその腰に手を回しくっついて、たいがの背中の毛を千切れんばかりに握りしめていた。落ちたら確実に大惨事だ。

「いそげ、たいが」

ティリカがたいがにはっぱをかける。いや、そんなに急がなくてもいいんですよ?人生のんびりとですね……と、そんなことをがくがくと舌を噛み切りそうになりながら言ってみた。

「かなり遠い。急ごう」

だが速度を緩める気はないらしい。そしていつ終わるともしれない、ジェットコースター状態に耐え、グレートバッファローの群れが遠くに見える位置についた時、おれは息も絶え絶えに倒れ込んだ。

「おれはもうだめだ。ティリカ、あとは任せた……」

おれは地面に寝転がり、ティリカにそう告げた。

「そう?じゃあどらごで……」

「あ、すいません。おれがやります。やらせていただきます」

おれの探知では草原だと視覚以下の範囲しかカバーできない。ここまで誰にも会わなかったとはいえ、どらごの大きさだと知らずに誰かに見られていてもおかしくない。

改めて、グレートバッファローの群れをよく見る。数は三十か四十くらいだろうか。かなり広範囲に散らばって草を食んでいる。そしてやはりでかい。普通の牛の倍くらいはあり、立派な角が装備されているのもいる。そいつらが雄なんだろう。

ティリカによると、グレートバッファローは温厚な草食動物ではあるが、攻撃されるとあのデカイ体を生かして突進攻撃をしてくるそうである。それも群れごと。

メテオを使えば群れをまとめて殲滅できるが肉片すら残らないのでは意味はない。それ以外の手持ちの魔法じゃ半端に怒らせて群れ全体の攻撃を食らいそうだ。飛んで逃げればいいのだが、かなり足が早いらしく、間に合わないってこともないだろうが、ちょっと危険な気もする。

「レヴィテーションで上から攻撃すればいいか」

ティリカがこくりとうなずく。牛は空を飛べないし楽勝だ。どっちかを抱えて飛んで魔法でもよかったのだが、たまには弓を活用してみたい。せっかくスキルがあるんだ。

弓を出し装備する。使うのは久しぶりだが、弓のレベルは3だ。今回は上からの狙い撃ちだし、ぶっつけ本番でも問題はないだろう。

ティリカと二人で上空からゆっくりと牛の群れに近づく。近くに行くほどそのでかさに恐怖心が募る。あそこに落ちたら即死だな。魔法の制御はばっちりだから落ちたりはしないんだが、もっと遠くからどうにかできる方法はなかったのかと少し考える。ゴーレムが使えればよかったんだが、ゴーレムは遅い。逃げられたら追いつけないだろう。

「どれを狙おうか?」

群れの上空に着いたのでティリカに尋ねる。牛達はこちらには全く気がついていない。

「あれ。あれが美味しそう」

「あれって、あれか?」

ティリカの指差す方にいたのは、群れから少し外れたところにいた、ひときわ大きいグレートバッファローだった。立派な角に、盛り上がった肩や足の筋肉。強そうではあるが、どこが美味そうなのかさっぱりわからない。ティリカおまえ、一番大きいの選んだだけだろう。確かにでかくて食いごたえはありそうだが、ティリカは普通の分量しか食べないし、あのでかいのだと何ヶ月分になるんだろうな。

「一匹でいいの?」

量が欲しいなら何匹か狩ればいいと思うんだが。

「これは魔物じゃないから取り過ぎも良くない」

動物愛護なんて概念が異世界にあるのだろうか。もしかして野うさぎの狩りすぎとか、どこかから怒られたりはしないよな?

「怒らせないようにすれば人は襲わないし、魔物を駆逐してくれることもある」

益獣ってことなのか。草原をうろつくオークとかを勝手に減らしてくれるなら、それは確かに助かるな。野うさぎは益獣じゃないから、狩り尽くしでもしない限り大丈夫だ。安心した。

狙った牛にゆっくりと接近していく。やがて距離が十mほどになったので、弓を引き絞り狙い撃った。

この距離だ。狙った通り急所であろう頭に命中し、そして跳ね返された。あれぇ?

「頭は固い」

頭は牛のメインウェポンだ。矢が刺さるようなやわらかさじゃ、この過酷な異世界では生き抜けないのだろう。

ならばと、こちらに気づいて騒ぎ始めた牛達を無視して、最初の目標の背中に次々に矢を突き刺していく。獲物は逃げようとするが集まり始めた他の牛が邪魔で思うように逃げられない。そこに更に矢を撃ち込んでいく。

矢を撃ちこむこと十数発。ついにグレートバッファローは倒れた。矢くらいじゃ効かないかもと思ったが、近距離からの撃ち下ろしでぶっすり深く刺さったのがよかったのだろう。念の為に横倒しになってむき出しになった脇腹にも、二、三発撃ちこんでおく。これで確実に仕留めただろう。下では倒れた牛の周りで、他の牛達が大騒ぎをしている。

案外手間取ったが、弓も使えないこともない。今日みたいに二人組で戦える時ばかりじゃないし、やはり弓スキルは残しておいたほうが良さそうだ。

「おれがティリカを抱えるから、レヴィテーションで牛を引っ張りあげてくれるか?」

「わかった」

眼下で殺気立ってる牛達に向かって徐々に降下していく。時々立ち上がって威嚇してくる牛もいる。あいつらジャンプしてこないだろうな?何せ図体がでかい。あのぶんぶん振っている角が当たれば、おれ達などひとまたまりもないだろう。

ティリカが倒れたグレートバッファローを魔法で確保した。怒りの鳴き声を上げる牛の群れから死体を引っ張りあげ、そしてアイテムボックスに収納した。

「依頼完了。帰ろうか」

「うん。早く食べよう」

だが、レヴィテーションで牛達から遠ざかろうとするが、当然追いかけてくる。逃がす気はないらしい。

「ティリカ、フライを使うぞ。ちょっと抱えててくれ」

ティリカに体を支えてもらってフライを詠唱する。詠唱完了後、ティリカを抱えて牛の群れを引き離すべく、飛行を開始する。

牛達の群れは地響きを立てて追いかけてくる。それも早い。フライでも引き離せない。

「おい、どうする?」

「どうしよう?」

「ぶっ飛ばしたらダメなんだよな」

グレートバッファローの狩り自体は別に禁じられてると言うわけではないが、乱獲は褒められた行為ではないという。

このまま砦まで逃げると怒った牛の群れも追いかけてくる。今は第三城壁の工事の真っ最中だ。もし工事現場にこいつらが突っ込んだら酷いことになるだろう。

かなりの高空に一度上がってから、見失ってくれるのを期待して飛んでみたが無駄だった。進路を変えてみたりもしたんだが、正確に追随してくる。

「もう倒しちゃわない?」

「だめ。カードの記録に残る」

カードを外して始末すればいいと思ったんだが、それはティリカ的にはNG行為らしい。真偽官として嘘はつかないという義務に抵触でもするんだろうか。まあそれにしたって、罪もない草食動物にこっちから手を出して怒らせたのに、群れごと皆殺しとか人としてどうかと思う。

火魔法で牛を傷つけないように威嚇で放ってみたがだめだったし、ゴーレムは空中では作れない。傷つけないという縛りが思ったよりもかなりきつい。

「どらごを出す」

ティリカがそう言う。おれももうそれくらいしか思いつかない。どらごを召喚して、牛を傷つけないようになんとか威嚇して追い返してもらおう。だめならどらごに乗って逃げればいい。高空を飛べばたぶん見られても平気だろう。

ティリカを抱えてどらごを召喚してもらう。周辺は一応ぐるっと見たし、近くに人はいないはずだ。

召喚されたどらごは一瞬落下したが、すぐに翼を羽ばたかせて空中に留まった。

「どらご、下の群れを追い払って。でも傷つけちゃだめ」

「承知した」

下の牛達はいつしか静かになっていた。先ほどまでの大騒ぎが嘘のようだ。だが、まだ逃げたわけではない。戦おうか、逃げようか迷っている感じだ。

どらごは悠然と牛達に向かって下降していき、そしておもむろに咆哮をあげた。草原にどらごの吠え声が響き渡る。

それで牛達はパニックに陥り、我先にと逃げ出していった。

「ありがとう、どらご。戻って」

どらごは軽くうなずくとすぐに消滅した。

おれ達はグレートバッファローの群れが完全に見えなくなったのを確認して、地上に降りた。

「ひどい目にあったな。他の人はどうやって捕まえてるんだ?」

「わからない。そんなことより早く帰ろう、マサル」

「そうだな。苦労して取ったんだし食べるの楽しみだな!」

後日判明したことだが、群れに手を出すのは大馬鹿のすることで、普通はなんとかして一匹だけ罠にかけるか、はぐれたのを狙うのだそうだ。

帰って宿で調理してもらったんだが、味は普通だった。うん。これは肉だな。普通の牛肉だ。美味しいと聞いていたので、おれはちょっとがっかりしたが、ティリカは満足したようだった。珍しければなんでもいいんだろうか。

その捕獲難易度ゆえレアなのだが、このあたりでは肉は有り余っており、美味しいことは美味しいが特別美味というわけでもないので狙うものもいない。そんな面倒臭い獲物なのだ。おれももう二度と狩ろうとは思わない。肉がレアな理由がよく分かると言うものである。

そして砦の城門まで戻ったのだが、ちょっとしたことがあった。

「おい、お前達。草原で狩りをしていたのか?」

門を通る時、兵士にそう声をかけられた。

「ええ、まあそうですけど」

「少し前にドラゴンを見たって駆け込んできたやつがいてな。すぐにどこかへ消えたらしいが、何か見てないか?」

「え、いやあ。おれ達この近辺で野うさぎ狩ってただけなんで……」

「グレートバッファローがいた」

「ほう。こんな近場で珍しいな。あいつらは温厚だが近寄らないように注意しろよ、嬢ちゃん」

「知ってる。怒らせたら追いかけてくる」

そう言って、ティリカが兵士にうなずいた。どこまでも追いかけてくるのは実体験済みだ。言われなくても、もう二度と近寄りたくはない。

「よし、じゃあ通っていいぞ」

幸い、カードはちらりと確認されただけで、討伐情報までは確認されなかった。

しかし誰かに見られてたのか。どらごの咆哮も、かなりの音量だったしなあ。今回はどらごを見られただけで、おれ達のことは知られずに済んだようなので助かった。

グレートバッファローの肉で夕食を済ませると、サティを連れて神殿に少し顔を出し、その後はアルビンを尋ねて近くの酒場で軽く飲んだ。おれ達が明日にはもう出発すると聞くとずいぶんと驚いたようだ。

「それくらいタフじゃないとランクが上がらないのかなあ」

「前も言ったけど、うちを参考にしないほうがいいと思うぞ。色々と特殊だしな」

アルビン達との二日間はうちのパーティーの特殊性について、色々と考えさせられた。どらごを見られた件もあるし、これからは今以上に注意しないといけないだろう。