軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

74話 名もなき冒険者

最初のオーガを倒すのに時間を取り過ぎたかもしれない。オーガ集団はかなり接近していた。しかも面倒なことに、完全にばらばらになってこちらに向かってきている。範囲魔法で一網打尽とはいかないようだ。

アン、エリー、ティリカ達と合流し、ほんの僅か逡巡したのち、土魔法の詠唱を開始した。

「土魔法でタワーを作る。集まってくれ!」

冒険者の男もようやく追いついてきて、おれの横でへたり込んだ。

土魔法の発動に従って足元の地面がグングン盛り上がっていく。ちょっとグラグラするが、オーガが近づいてきている。急がないと。

「攻撃魔法の詠唱を始めてくれ。近寄って来るまでになるべく倒しておこう」

全員を乗せた、長方形型の土台が盛り上がるにつれて周囲の地面の土が吸い取られて凹んでいく。五mほども上がった所で一旦止めて周りを確認する。土の塔自体の高さは五mほどだが、塔に使った土の分が周りから削り取られてちょうどいい堀になっている。深さは三mほどだろうか。合計すれば結構な高さになった。

オーガに飛行能力でもない限り、上には届かないだろう。登ってこようとしたら大岩でも投下してやればいい。完璧だ。

アースタワーが完成した直後、オーガ達がこちらに追いついた。だが、堀の手前で躊躇している。数は既に五匹にまで減っていた。毎度思うのだが、何故半数もやられてこいつらは逃げないのだろうか。実に不思議だ。知能はそこそこありそうな感じなのに。

「揺らすから一発外しちゃったじゃない」

「あんまりゆっくりやるとオーガが来そうだったからさ」

「そうね。でもよくやったわ。これなら一方的に攻撃できるわね!」

「こおりの竜よ、敵を貫け。アイスオブドラゴン」

「ウォーターストリーム!」

エリーがオーガを見下ろして余裕ぶっこいてるうちに、アンとティリカの魔法が発動し、敵が残り一匹になった。

「ああ!? 私の獲物も残しておきなさいよ!」

「わかった、わかった。早くやってくれ」

さすがにオーガも最後の一匹となっては逃げ出そうとするが、そこにサティの矢が膝にささる。それも二本三本と。あれじゃもう走れないだろう。あとはエリーが仕留めるだけだ。サティは要所要所でいい仕事をしてくれる。

エリーの詠唱が終わるのを待っていると、逃げようとしていたオーガがこちらを振り向いた。逃げるのを諦めたのか?

「あ、石……」

冒険者が言う。石? あ! オーガがこぶし大の石を手に持ってる。そして振りかぶって……第一投、投げた!?

とっさに仁王立ちしているエリーを引きずり倒すと、石が頭のすぐそばをかすめていった。さすがにオーガのパワー。150kmとか出てそうだ。

「な、な、な」

「伏せろ、伏せろ!」

オーガが第二投目を準備してる。いかん、急いで詠唱を。

オーガの第二投目がドガンッという轟音を発してアースタワーの上部に命中した。伏せたおれ達を狙ったのだろう。まともに命中したら、体が吹き飛びそうだ。サティが弓で攻撃を続けていて、矢が何本か体にささってはいるが、硬い皮に阻まれてどれも致命傷にはなっていない。

そしてオーガが第三投目を投げようとした時、おれの詠唱が完了した。

「エクスプロージョン!」「アイスストーム!」「アイスストーム!」

おれとアンとティリカ、三人の魔法がほぼ同時に発動し、爆破と氷の嵐が消えたあとにはオーガの体はかけらも残っていなかった。素材がもったいないが、まあ仕方ないだろう。

「すげえ! あんたら、なんだこれ!」

全てのオーガが倒され安心したのか、冒険者が騒ぎ始めた。

「落ち着け。お前一人か? 仲間は?」

慌ただしくて聞くのを忘れてたが、たぶん一人だろう。一人であって欲しい。もし仲間がいたなら手遅れだ。

「え、ああ。一人っす」

「一人で森で何をしてたんだ?」

「狩りをですね……」

「おれには狩られてたように見えたが」

「それがその……」

要約すると、路銀が尽きそうだったので、一発逆転を狙おうと森に単独で潜ってみた。そしてオーガにばったり出くわして、武器も荷物も何もかも捨てて逃げ出したと。

話の間におれとこいつ以外はレヴィテーションで下に降りている。

「おれ達が運良くいてよかったな」

「なんとか逃げられたっすよ!」

「町までか?」

「はい」

「オーガの集団を連れて?」

「ええっと……すんません、兄貴」

ようやく、自分が何をしようとしていたか理解したようだ。あのままオーガが町に到達すれば、どれほどの被害がでただろうか。城門には兵士が詰めているとはいえ、オーガ十匹をどうにかできるほどの戦力ではない。街道にもそこそこ通行がある。

シュンとしているこいつを改めてみると、若い。体格がいいから大人かと思ったら、日本でいうと高校生くらいな感じだ。そしてイケメン。いや美形だな。背は少々高いがヒョロっとしてるし、女装させたら似合いそうだ。

「おれはマサルだ。お前、名前は?」

「ウィルフレッドっす、マサル兄貴。ウィルって呼んでください!」

名前まで格好いい。以前のおれなら嫉妬の炎に焼かれていたかもしれない。イケメンのウィルフレッド。きっと小さい頃からもてたんだろうな。

「よし、ウィル。武器とか荷物はどうする?森に置いてきたんだろ?」

「それがどこをどう逃げたのかわからなくて。それに剣も荷物も安物っすから、危険な森に取りに戻ることもないかなーと思うんす」

死にそうな目にあって、たかが装備を取り戻すのに森に戻る気になれないんだろうな。おれとしても安物の装備品を探しに森へ戻るのは御免こうむりたい。

「わかった。なら町まで送ろう」

「ちょ、ちょっと待って下さい。兄貴! おれを弟子にしてください」

「剣を教えてもらいたいならギルドの訓練場で鍛えてくれるだろ?」

「そっちじゃないっす。魔法を、魔法を教えて下さい!」

そこにエリーがレヴィテーションでふわりと降り立った。

「回収終わったわよ。どうしたのマサル?」

「ああ、こいつがね」

「おれを弟子にしてください、姐さん!」

そういって、土下座を始めるウィル。土下座はどこでも土下座なんだなあ。

「はあ?弟子なんか取るわけないでしょう」

うちは秘密保持がただでさえ大変なのに、弟子なんか取れるわけがないよな。

「おれこんな土魔法の使い方みたことないっすよ!」

そりゃ魔力消費がきついから普通の魔法使いはできないだろう。この土のタワーは単に魔力を大量消費しただけの力技だ。

「それに他のお三方も! 高レベルの魔法を連発して、さぞかし高名な魔法使いかとお見受けしました! おれに魔法を教えて下さい!」

「普通にどこかの学校でも入って来なさいよ」

エリーがうんざりした顔でそう言う。

「それが無理だったんですよ。でもどうしても! おれ何でもしますから! お願いします!」

「普通のとこで無理ならおれ達でも無理だろ?」

「あそこの獣人の子、レヴィテーション使ってましたよね? 獣人が魔法使うなんてみたことないっすよ!」

なんて目ざといんだ、こいつ。一瞬しか使ってないはずなのに。

サティはここ二週間ほどの地下室生活で余暇の時間をほとんど魔法の練習に費やした。魔力はもちろんおれが補給したわけだが、何度も気絶したりしたものだ。そのかいあってか、先日レヴィテーションを見事に習得。魔力が低いから体を持ち上げるのも無理だが、五mから飛び降りる程度ならふんわりと着地できる。レヴィテーションの発動は一瞬のはずだが、それをしっかり見ていたのだろう。

「別に魔法使えなくても冒険者でやっていけるだろ?素直に剣でも鍛えとけよ」

「だめなんすよ……うちの家族、全員魔法使えるんすけどね。家族にも教えてもらったし、家庭教師もついたけど、全く」

「へー。あんた貴族?」

「ええ、まあ。そこら辺は家出してきちゃったんで勘弁してください、姐さん」

いつの間にか見に来ていた、ティリカにちらりと目線を送る。ティリカは軽く頷いた。嘘は言ってないみたいだな。

「諦めろ。ちゃんとした教師についてだめだったんだろ?」

「おれの家族も家庭教師も兄貴達ほどの魔法使いじゃなかったっす! 全員その若さでこの魔法の腕! 何かすごい練習法でもあるんじゃないっすか!?」

なんだかデジャブを感じる展開だなあ。

「な、ないわよ、そんなもの!さあ、いい加減町へ急ぐわよ」

そういうと、エリーはタワーからさっさと飛び降りた。エリーさんうろたえ過ぎだよ……すっげえ怪しいわ。

「とりあえず帰るか。はやく家でゆっくりしたい」

「あ、兄貴、弟子にしてもらう話は……」

「今度な、今度。ゴルバス砦から移動してきたんだ。すっごい疲れてるんだよ」

実際問題特に疲れてるってこともないんだが、いつまでもこいつの話を聞いてると精神的に疲れてくる。

「あ、はい。すんません、兄貴」

レヴィテーションを使ってゆっくりとタワーから飛び降りた。ティリカとサティも続いて降りてくる。

改めてじっくり見るとでかいタワーになったな。堀もでかいし、あとは上部に城壁みたいに塀をつけるといいかな。乗る場所が平らな台だけなのはまずかった。あとは中身を中空にしたら魔力消費が減らせないだろうか。元がただの土なので強度の問題があるけど、かなりしっかり固めてあるから多少中抜きをしても平気なはずだ。

「兄貴~」

「どうした?」

というか兄貴ってやめて欲しいのだが。

「降りれないっす」

確かに五mもあるし、壁面は取っ掛かりもないし普通の人だと降りれなさそうだ。サティはぽんっと飛び降りてたけど。

「飛び降りろ」

「無茶っすよ~」

「みんなは先に戻ってる?おれもうちょっとこのタワーを改良したい」

みんなを振り向いてそう言う。

「そうね。投石くらいは防げないと困るわね」

「うん。もっと城壁みたいにしようかと思ってね」

「じゃあ私は先に戻ってるわ」

「私はマサル様と残ります」

「私もおねーちゃんと残る」

「じゃあエリー、一緒に戻りましょうか。だいぶ放置してたから家の中を掃除しないとね」

「え、私もマサルと……」

「さあ、行くわよ!」

エリーはアンに腕をつかまれるとずるずると引きずられて行った。ちなみに周辺の草原と町まではほーくで安全を確認してある。二人でも大丈夫だろう。

「あの、兄貴?」

「ああ、ちょっと待ってろ」

とりあえずウィルを降ろしてやらないとな。

土魔法を発動し、タワーを変形させていき階段を形成する。こんなもんか。でも階段も結構な魔力を消費するな。やっぱり縄梯子を用意しておいたほうがいいな。

「いやー、すごいっすね、兄貴。全然魔力切れした様子もないし」

できた階段からのこのことウィルが降りてきた。

「その兄貴ってなんだよ。普通にマサルさんって呼べ」

「そんな! マサル兄貴は命の恩人っすから!」

「ていうか、お前貴族じゃないの? 何その喋り方」

「いやあ、冒険者になるのに舐められちゃいけないって思いましてね。勉強したんすよ」

方向性が明らかに間違ってる。そんなこと考えてる暇があったら、剣の修業をするなり、森の危険性を教えてもらうなりすりゃいいのに。やっぱりこいつは貴族のボンボンだわ。世の中舐めてる。おれも日本人らしく平和ボケしてると思うけど、こいつはもっと酷い。おれより酷いと思うよね?

「そーかそーか。おれはもうちょいここにいるから、勝手に町に戻ってもいいぞ。もう用もないだろ」

「おれも待ってるっすよ。何するんすか?」

「このタワーだがな。即席で作ったから石投げられたり結構危なかっただろ?ちょっと改造して使い勝手を良くしようかとな」

「そうっすね。降りるのも階段ないと不便っすよ」

「いや、階段はねーだろ。敵が登ってきたらどうすんだ」

「それもそうっすね。でも降りたり登ったりしたくなったらどうするんで?」

「うちは全員飛べるから問題ない」

サティでもレヴィテーションとジャンプを組み合わせればここくらいなら飛び乗れる。

「ええっ? おれは飛んだりできないっすよ!?」

「お前は関係ないだろう。名前も知らない行きずりの冒険者」

誰か他の人がいるときは縄梯子でも使えばいいな。今度手に入れておこう。

「ウィルっす、兄貴。覚えてください!」

こいつの相手をしてても話が進まないので、放置して階段を登る。とりあえずは体を隠せる壁を作らないとな。

土魔法を発動させて、壁で頂上の周囲を囲っていく。その分高さは減ったが、今のところ関係ない。壁の高さはおれの胸のあたりくらいにしてみた。

「城壁ならデコボコがありましたよ、マサル様」

「そういえば砦はそんな感じだったな」

サティの助言にしたがって、お城の城壁にあるようなデコボコをつけていく。

「これなら身を隠すのも狙うのもやりやすいな。強度はどうだろう。サティ、試してみてくれ」

「はい」

サティが剣を抜いて、城壁を切りつける。そして城壁は見事に切り裂かれた。うん、人選を間違えた。おれかサティがやったら石の城壁ですらすっぱり切れそうだ。ティリカは無理だし、この名も知らない冒険者に協力してもらうか。

「そこの、名前も知らない人。ちょっと手伝ってもらえるかな?」

「ウィルっす、兄貴……」

「ほら、この剣をやるから城壁を攻撃してみろ」

「もらっちゃっていいんすか!?」

「お前も丸腰では危ないだろう。安物の剣だから気にしないで持っておけ」

「さすが兄貴! 一生ついていきます!」

「そういうのはいいから、城壁を攻撃してみてくれ。全力でな。剣の予備はまだあるから、ぶっ壊す勢いでいいぞ」

今まで土壁の強度テストとかしたことなかったしな。この機会に色々やっておこう。

「任せといてください!」

ウィルが剣を構え、城壁をがしがしと攻撃しだす。固めたとは言え、元はただの土だし結構削れるな。それよりも、ウィルの剣の腕が思ったよりもいい感じだ。貴族と言うだけあって、ちゃんとした人に習ったんだろうな。

「はぁはぁ、こんなもんでどうっすかね」

「ちょっと強度的に不安があるな」

この部分だけ作る時は硬めにするか、硬化をかけておくかするか。厚さはちゃんとあるから、すぐ壊されるほどは弱くはないし。

そのあとはタワーを改造したり、形をみんな(ウィルを含む)で検討してみたり、色んな魔法で攻撃して強度を確かめたりし、最後におれとティリカの魔法で派手にぶっ壊して家路についた。それにしても、この名前も知らない冒険者はいつまでついてくるつもりなんだろうか。