軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

59話 司祭様とアンジェラ、ティリカの師匠、エリザベスの事情

結婚式までの7日間、おれは別にごろごろしてたわけじゃない。

まずはウェディングドレスのデザイン画を描き、仕立屋に持っていった。これでおれの役目はすぐに終わった。デザイン画を見せて説明すると、その場で似たような服を探し女性陣に着せ、簡単に打ち合わせするだけだった。貴族のパーティー衣装に似たようなのがあったらしい。あとは女性陣の採寸などだったので、おれは抜けだして指輪を探しに行った。場所は既に聞いてある。

指輪のデザインも相談済みでエリーの持ってる魔力の指輪のような、簡素なものにした。材質だけ少々値段のはるミスリル製。だいたいの事が決まったので、色んなサイズの鉄の指輪をもらって仕立屋にいる女性陣の指のサイズを確かめた。品物は見てのお楽しみってことで。

おれの衣装?エリーに選んでもらったのを少し裾直しとかだけして終了。わりとどうでもいいよね。

次の日はオルバさんの義足を作ってみた。こちらの義足を見せてもらったがただの木を足に装着しただけの簡素なものだった。日本にいるときTVで見た、パラリンピック選手の付けていたような、バネのついたものができないかと試行錯誤してみたのだ。これには土魔法の錬成が役に立った。

錬成は物質を変形、変質させる魔法だ。変質はかなり難しいが、変形ならイメージ次第でなんとかなる感じだ。ちなみに鉄を金にしたりは無理だった。変質はせいぜい土を石に変えたりする程度。もっと熟練したら色々できるらしいが初心者にはそのあたりが精一杯だった。

以前司祭様と家を訪ねて目を治した人、フリオさんが鍛冶屋さんだったので鉄とか作業場を融通してもらった。結婚するというとジーナさんと式に来てくれることになった。ジーナさんが色々と大変でしょう?お手伝いしますよ、と言ってくれたがこれは断った。ただでさえ、4人の嫁が家にいて色々ややこしいのにこれ以上人を増やしたくなかった。いや、楽しいし、すごく幸せなんだけど気遣いも4倍と言った感じなんだ。ちなみに今日は一人だ。サティには家のことを任せてある。

鍛冶屋さんの工房を借り、最初は変形で板バネを作ってみたのだが耐久度に問題があった。鉄の問題だろうと思い、変質を使って硬くしてみたんだがこれも上手くいかない。品質が安定しないのだ。強度の上がった部分と上がらない部分がまだらに交じり合い、元のほうがましという有様だ。職人さんの作業を魔法で再現するのは無理そうだ。

日本で見た義足はなんの材質だったんだろう?黒っぽいからカーボン?それともプラスチックか?どっちにしろこちらでは手に入りそうにない。カーボンなら炭だろうと、変質を使ってみたが、ただの固い板ができてしまった。しかも強度も弱くぽっきり折れる。使い道はなさそうだ。プラスチックは石油かな?だけどカーボンの失敗を見るとこれも望み薄だ。

油圧式もサスペンションも少しだけ考えたが構造を全く知らなかった。

最後に本命、スプリング。つまり丸いくるくると巻いたバネだ。スプリングが最後になったのはフリオさんに丸く細い鉄の棒を作ってもらっていたからだ。何度かの失敗の末、やっと1個のスプリングが完成した。丸く巻いていくのが難しかったんだが、適度な太さの木の棒に巻いていくことを思いついて、そこからはスムーズに進んだ。出来上がったスプリングをフリオさんに手伝ってもらい義足に組み込む。

足をはめ込む部分はオルバさんに付けてもらって調整しないとだめだけど、体重をかけてみたところ悪くない感触だった。

さっそく完成品第一号をオルバさんのところへ持っていく。宿は以前と別の少しグレードの落ちるところに移っていた。節約しようということなんだろう。とは言え、ランク的には普通のところだったが。

布をクッションにして、足にとりあえず合わせ、皮のベルトで足に縛り付ける。オルバさんがナーニアさんの手を借りて立ち上がり、足の感触を確かめる。

「すごいな、このスプリングというのは。このまま走っても大丈夫そうだ」

「あー、あんまり負荷はまだかけないで下さい。まだ試作品なんで」

「もうちょっと高さを上げれば、そのままでもいいと思うがな」

「強度が心配なんですよ。走ってぽっきりいったら困るでしょう」

「注意することにしよう。それに暇になるからレヴィテーションとか魔法を習ってもいいかもな」

「そうですね。ヒールとかも自分でできればずいぶん楽になると思いますよ」

オルバさんほどの冒険者なら魔力はそこそこあるだろうし、時間がかかるにしても習得は問題ないはずだ。ヒールがあれば足との接合部分が痛んだりしても、すぐに治せて便利だろう。

「これはこのままもらってもいいのかい?」

「はい。高さの調整とかはどうします?」

「それはこっちでやろう。前の義足を使えば足にも馴染みやすい」

オルバさんの足の長さを確認し、以前の義足の接合部分の型を土魔法を使い粘土で取る。

「では明日また試作品を作ってもってきます」

「おれがそっちに行こう。どこでやっているんだ?」

「西門の南の方にある鍛冶屋で、名前は……」

翌日、材質や太さ、長さを変えながら何個もスプリングを試作した。長さと太さは研究の余地があるが、材質は黒鉄鋼がいいんじゃないかと言うことになった。高級な剣によく使われるだけあって、硬度も粘りも申し分がない。

黒鉄鋼で作った試作品、そこそこ使えそうな品も全部オルバさんに引き渡して義足作成は一旦の終了を見た。

オルバさんはいいものを作ってもらったとずいぶん喜んでいたが、おれはあまり素直に喜べなかった。あの禁呪を開発できれば治せる可能性はあるのだ。司教様は考えるなと言ったが、オルバさんを目にすると考えざるを得ない。この義足が少しは罪滅ぼしになればいいんだが。

次の日はサティを連れて街の外で巨大ゴーレムのテストを行った。決闘で使った20m級のゴーレム。でかすぎて強度が足りないように見えたのだ。あの時は崩壊するようなことはなかったが、実は結構やばかったんじゃないかと思う。ジョージも案外そのあたりを見抜いていたのかもしれない。

試しに同サイズの20mの巨大ゴーレムを作って色々と動かしてみたのだが、足がミシミシいって怖い。結局魔法を解くまで崩壊はしなかったが、戦闘となるとどうなんだろうか?どちらにしろこれが限界サイズのようだ。実戦はもう1サイズ落として複数作るのが正解なんだろうな。

メテオとフレアのテストもやった。念の為に1時間は街から離れた場所でぶっ放す。メテオは広範囲殲滅魔法。フレアは単体用の超高熱ファイヤーボールだ。どちらも最高レベルの火魔法にふさわしい威力だった。フレアはともかく、メテオを第一城壁と第二城壁の間で使ったらやばいことになっただろう。試さなくて本当によかった。

帰りにサティと一緒に野うさぎを狩って戻ると、門番にまた魔法の練習か?と声をかけられた。門のところまでメテオかフレアの音が聞こえたらしい。さすがにそんなに大規模な魔法だとは思わなかったようで特に注意はされなかった。

結婚式にはクルックやシルバーも呼びたかったんだが不在だった。詳しい話は守秘義務とやらで教えてもらえなかったが、護衛任務で遠方に行っているらしい。そういえばゴルバス砦でもいなかったな。

でもまあまた嫉妬に狂ってややこしいことにならなくてよかったかもしれない。

それから街に戻ってすぐくらいに、アンが司祭様に結婚式の主催を頼みに行ったのだが、使徒の件が速攻でバレた。以下、アンに聞いた話だ。

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

「お話とはなんでしょう。シスターアンジェラ」

「実はこの度、マサルと結婚することになりまして、司祭様にご報告をと」

「おお、そこまで話が進んでいたのですか。めでたいですね。祝福をさせてもらいましょう」

「ありがとうございます。それで結婚式で神殿を使いたいのですが」

「もちろん。もちろんですとも。主催もやらせてもらいますよ。ほう?アンジェラの他に2人もですか。ああ、一緒にいたあの子達ですね」

この時点ではティリカはまだ人数に入ってなかった。

「最近は神殿でもね、実情にそぐわないと、一夫一婦制の教義はなくすべきじゃないかとの声もあるのですよ」

神殿も色々あるようだ。とりあえずはあっさりと司祭様に認めてもらって何よりだ。

「それともう一つお願いがあるんです」

「なんでしょう?」

「冒険者になってマサルのパーティーに入ろうと思うのです」

「……あの話はどうなりましたか。結局マサル殿は?」

「……」

「まさか!?本当に?」

どう話すか迷っているうちに、誤魔化す暇もなく即座にばれたらしい。司祭様すごいな。

「あの!司祭様、このことは!」

司祭様はアンジェラを見て考え込む。

「すいません、司祭様。この孤児院に来て以来、司祭様はとてもよくしてくれました。両親のことはあまり覚えていませんが、父がいれば司祭様のような人がいいって勝手に思ってました。でも……」

「ええ。私もアンジェラを娘のように思ってますよ。家内もそうです。結婚の話を聞けばさぞかし喜ぶでしょう」

「司祭様に嘘はつきたくありません。でもマサルに迷惑もかけたくないんです……」

「わかってます。もうこれ以上は聞きますまい。このことは私の胸にしまっておきましょう。それがマサル殿のためになるんですね?」

「はい。ごめんなさい、司祭様……」

「いいのですよ。これから結婚しようと言うのです。私より、神殿より、マサル殿を大事にしてください」

「はい、司祭様」

「そんなに泣きそうな顔をしないで下さい。それよりも最近の話を聞かせてもらえますか?砦ではあまり話せませんでしたし」

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

その後、使徒の件をさけて普通の話をして、パーティー加入のことも認めてもらったと。

暇ができたら、司祭様とは一度きちんと話をしないといけないようだ。

ティリカの師匠も結婚式前日にやってきた。真偽院の一級真偽官。結構偉い人らしい。我が家に招いて、ティリカと3人で話をすることになった。

ティリカの事情も結構重い。これは結婚式に呼ぶ人を考えたときに聞いた話だ。

「元両親はいる。けど呼ばなくていい。師匠だけ呼ぶ」

「元?」

「子供の時に売られて、親子の縁は切った」

ティリカの家は貧乏で、魔法の才能を見出されたことで真偽院に売られちゃったんだそうだ。奴隷でこそないが、売られたことには変わりない。

「両親はいないものと思えと教えられた。師匠が親代わり。こっちに来てからはドレウィンが面倒を見てくれてる」

真偽官に求められる高い道徳性に肉親の情が邪魔になる。彼らは他のあらゆるものを捨てて真実に仕える徒なのだ。

「結婚はいいんだ?」

「早く子供産めってうるさく言ってくる」

「マサル様とティリカちゃんの子供ならきっと可愛いですよ!」

「……産もうかな」

いやいや、そんな理由で早まっちゃダメだってば!

「冒険者稼業もあるから当面はなしでね」

「わかった」

それで今、目の前にいる師匠の人は年配で厳しい風貌をした少し怖そうな人だった。

「あの、おれは……」と、挨拶をしようとすると手で制された。

「この男でいいのかね?」

「いい」

師匠の人の質問に、そう言ってティリカは軽くうなずく。

「もっといいのを用意できるが?」

もっといいのってなんだよ……

「いらない」

「そうか」

次はこちらに向き直り質問を発する。

「おまえはティリカでいいのかね?」

「いいですけど」

「ティリカを守れるのかね?」

「できうる範囲で全力を尽くしますよ」

「まあよかろう。ティリカ、私はしばらくこの街に留まる予定だ。何かあれば来るといい」

「わかった、師匠」

そういうと、挨拶もせずに家から出て行った。おれは戸惑いつつそれをただ見送る。

「もう終わり?これだけなの?」

「マサルの本心は師匠に知れた。私もわかっている。それで十分」

師匠の人の名前も聞いてない。二言三言の簡単なやり取り。これが心を読めるということなんだろうか。

ともあれ、無事にティリカの師匠に結婚を認めてもらえたようでホッとした。

エリーの事情も聞けた。

エリザベスの実家は帝国の中堅クラスの貴族だった。魔境には接してはいないが近くではあり、かなりの兵力を保持していた。そして近くの魔境と接する砦の警備を任される。

小規模の魔物の襲撃があった。小規模と言っても砦を落とすには十分な数だ。だがエリザベスの父親は何故か兵を引いてしまった。そして砦は落とされる。たまたま近くに来ていた騎士団とエリザベスの実家と隣接する領地の私兵団と協力し奪還をするが、砦を突破した魔物たちが帝国内に侵入し、しばらくの間、周辺はひどい有様だったらしい。

エリザベスの父親とナーニアさんの父親は砦の奪還時に討ち死に。その時はナーニアさんも一緒にいたらしい。当主はエリザベスの兄がついだものの、元の領地は取り上げられ小さな領地に転封された。

「はめられたのよ。あの豚領主め!」

砦に来た騎士団に近くの国境が破られそうだ、救援に向かってくれと連絡を受ける。砦の防衛は騎士団が受け持つと。だが砦は空にされた。騎士団の団長はそんな連絡はした覚えはないという。エリザベスの父親や腹心達は死んだ。話を証明する者が下級兵士だけでは簡単に握りつぶされる。他に証明する者と言えば騎士団と豚領主の私兵団しかいない。

魔物の襲撃に合わせての騎士団と豚領主の私兵団の動きはタイミングが良すぎる。

「どうにかして魔物の動きを掴むか、誘導するかしたのよ。でもその方法がわからない。証明のしようもない。騙されたと言っても騎士団と豚領主が結託してる以上、私達にどうしようもなかったの。家が取り潰されなかっただけましね」

移された領地は開拓地だった。つまり元魔境だ。領地経営はそれはもう厳しいものだったらしい。それでエリザベスとナーニアさんは得た報酬を全て領地に送っていた。

「ナーニアの分のお金はそのうち返さないといけないわね。マサルも協力してね」

「うん、いいけど」

「それでナーニアと冒険者になってね。Sランクになって有名になって、あの豚領主をぶっ殺して領地も取り戻してやるって」

冒険者になって1年くらいでオルバさんに会って、暁の戦斧に加入する。

「でも冒険者になって現実ってものがだいぶわかってきたの。いまさらうちの元の領地を返せなんて言えないし、無理な話だわ。新しい領地もだいぶ順調になってきたしね。でもあの豚領主はいつか殺す」

そうか。無事ぶっ殺せるといいな、豚領主。

そして結婚式前日までに、エリーもティリカもメニューが開いた。夜にたっぷりと仲良くしたかいがあったというものだ。