軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

58話 解放と

巨大ゴーレムを土に返し、砦で培った土木工事技術によって華麗に訓練場を直したあと、砦の戦いでの報酬をもらおうと思ったのだが、おまえはややこしいから後にしてくれと追い出された。エリザベスはすぐにもらって実家のほうに送金してたし、サティの分も問題なかった。

ちなみに送金は冒険者ギルドがギルド員のために責任を持ってやってくれる。ギルドの支部から支部へと情報を送り、必要があるならそこからさらにお届けをする。もちろんその場合は多少の経費はかかるが確実に届けてくれるという。エリザベスの場合、領地に小さい支部があるので手数料もいらないのだそうだ。

ギルドを出たあとは隣の武具店に来ている。ティリカちゃんはお仕事だ。

連日の戦いで革鎧にかなりダメージが出たせいだ。主にナーニアさんに付けられたものなんだけど。修復してもよかったのだが、この機会にもっと防御力がいいものに変えてしまおうと思っている。

今の革鎧をベースに胴をプレートメイルに替えて、あとは腕と足の要所も鉄で補強する。ナーニアさんが付けていたハーフプレートメイルのような感じだろうか。

サティとアンジェラのもお揃いで購入。アンジェラはちょっと重いって言ってたけど強化前提だし大丈夫だ。体形に合わせて仕上げるため、完成まで数日かかることとなった。

「ちょっとアンジェラとエリザベスは先に帰っててくれる?」

「そうだね、ほら。エリー行こう」

「ちょっと。2人でどこ行くのよ」

「いいからいいから。来なさいよ」

「わかったわよ。そんなに引っ張らないでも」

アンジェラに引っ張られるエリザベスを見送る。

「お土産なんか買ってくるよー。んじゃサティ、行こうか」

サティの手を握って歩く。

「はい。でも本当にいいんですか?私はこのままでもいいんですけど」

「でも別に何も変わらないだろう?」

「んー」

サティはちょっと考えているようだ。

「アンジェラとエリザベスとティリカちゃんと同じになるだけだよ。そのほうがいいだろ?」

「そうですね。みんな一緒なんですよね!」

「そうそう。呼び方も変えないとなー。マサルって呼んでみな?」

「マ、マサル……」

サティはそういうと真っ赤になってうつむいた。なんかいいな。ちょっとグッと来たぞ。

「マサル君、マサルさん。マー君?」

「マサル君、マサルさん、マー君?」

「どれがいい?」

「やっぱりマサル様で」

「そう?」

「はい」

「あ、ついたよ」

サティを買った奴隷商の前で立ち止まる。サティはこちらを不安げな顔で見上げた。

「あの……私が奴隷じゃなくなったら……20年たったら連れて行ってくれるって約束はどうなりますか?」

奴隷だから連れて行ってくれるのかもしれない。そんな感じで不安なのだろうか。

「別に何も変わらないよ。でもそうだね。みんなと結婚するんだし、もう帰らなくてもいいかもしれない。うん、約束するよ。サティを置いてどこにも行かない。これでいい?」

「はい、マサル様。約束です」

今でも日本には未練はある。でもこっちで骨を埋めるのも悪くないかもしれない。嫁が4人だもんな。たぶんおれの人生で今が絶頂だろう。痛い目や恐ろしい目に何度もあったけど、あえて言おう。我が生涯に一片の悔いなしと!

いや、まだエリザベスとティリカちゃんとはやることやってないな。ちゃんとやってからにしよう。

ぐっと拳を握って決意したおれをサティは首をかしげてみていた。

はっ。いかんいかん。今日はサティの解放に来たんだった。

「よし、入るぞ」

扉に向かおうとするとあっちから開いた。ちょっと店の前で時間をかけすぎたようだ。いつもの中年の禿げたおっさんだ。

「おや、あなたは。それに君はえーっと」

「サティです」

「そうそう。サティだ。うまくやってるかい?」

「はい。よくしてもらってます」

「そうかい。さあ、中へどうぞ。それで今日はどんな御用で?」

「実はこの子を解放しようと思って」

「なるほど。お客さんタイミングがいい。ちょうど紋章師の先生が来てましてね。すぐに呼んできましょう」

そういうと部屋を出て行った。そういえば紋章師とかそういうの考えてなかったな。解放するぞ!ってやって来てできる人がいませんでした。明日来て下さいとかなったらとんだ笑いものになるとこだった。

ほどなく禿のおっさんは灰色のローブを来た、陰気臭そうな男を連れて戻ってきた。

「奴隷紋の解除だな。料金は800ゴルドだ。いいかね?」

「はい」

高いか安いかはさっぱりわからないが、お金はたっぷりある。アイテムから銀貨を8枚取り出し渡す。

「腕を出しなさい」と、サティに命令をする。

「ふむ。私がやったものだな。これならすぐに解除できる。解放は別室でやらせてもらう。術を見せるわけにはいかんからな」

簡単に解除はできないようになってるとは言え、施術を見れば魔法使いなら再現できる可能性はあるという。奴隷紋を刻む、解除する技術は資格のないものが覚えるのは危険だ。勝手に奴隷を作ったり解放されては社会が混乱する。

「すぐに済む」

そういうとサティを連れて部屋を出た。

「大丈夫ですよ。うちとは長い付き合いでしてね。安心して任せられる方ですよ」

おれの不安が顔に出ていたのだろう。

「そうですね。大人しく待ってます」

出されたお茶を一口飲んで思い出した。

「そうだ。あの、前にも聞いた年上のおねーさん、連絡つかないですかね?」

サティと結婚することを話すと快く連絡することを約束してくれる。そのあたりのことを話しているうちにサティ達が戻ってきた。

「これでこいつは自由人だ」と、紋章師が言う。

「おめでとう、サティちゃん。結婚もするし、いい人に買ってもらってよかったね」

「はい」

「結婚するのか。では私からも祝福させてもらおう」

「ありがとうございます」

サティの手を取る。奴隷紋は刺青みたいなものに見えたのに綺麗に取れるもんだな。紋章があったあとは全くなにもない。

「じゃあ行こっか。日取りが決まったら連絡しますね。では」

「お幸せに」

帰りの道々、サティと手をつなぎ歩きながら考える。こっちの人は苗字がないことが多いけど、サティが山野を名乗るとすればサティ・ヤマノになるのか。どっかの日系人みたいだな。アンジェラ・ヤマノ、エリザベス・ヤマノ、ティリカ・ヤマノ。うーん。どれも似合わん。鳳凰院とかもっと派手な苗字だったらよかったのにな。サティ・鳳凰院。うん。良い感じだ?鳳凰院サティ。鳳凰院エリザベス。これならなんとなく合うな。今度相談してみよう。

そんなことを考えながら黙って歩く。2人きりのときはサティはあまり話さない。おれも口が達者なほうじゃないから助かってる。ちらりとサティのほうを見ると目があい、サティはにっこりと笑う。おれも釣られて笑い、握った手に少し力を込める。

「私……」

「うん?」

「もう奴隷じゃないから」

「うん」

「マサル……マサル様のこと、好きでもいいんですよね?」

最近はなかったが、サティはたまにこういう時がある。自分の立場が不安なのだろう。まあこういう反応も愛おしいんだけどね。

「うん。おれもサティのこと好きだよ」

「私も。私も大好きです」

「うん」

その後は黙って歩いた。ふんわりと幸せな気分にひたる。サティに今幸せかどうか聞くのは無粋だろうな。この子はいつも楽しそうにしている。これからもこんな日々がずっと続けばいいのに。

市場に寄って色々と食料品を購入していく。少し遠回りをして、馬牧場にも寄って馬乳ヨーグルトも手に入れておいた。エリザベスは食べたことがないからきっと喜ぶだろう。

家に戻り、サティの腕をみんなに披露する。アンジェラはもちろん、エリザベスも我がことのように喜んでくれた。その日の夕食は大事に取ってあったドラゴンのお肉を使ってご馳走にした。そういえばティリカが最初に来たのはこのドラゴン肉のおかげだったな。感慨深い。

結婚式は一週間後に、オルバさんナーニアさんと合同でやることになった。こじんまりとした式がよかったんだが、なんだかどんどん規模が大きくなっていく気がする。もちろんおれの力弱い主張は4人にあっさり却下された。ティリカでさえ、結婚式はすごく楽しみなようだ。

ただ一つだけ、ウェディングドレスのデザインだけは通させてもらった。こっちでは花嫁衣装は特に決まってないらしく、好き勝手に着飾るんだそうだが、おれが下手なりにイラストで描いたのを見せたら気に入ってくれたようだ。4人分、おそろいで仕立屋さんに発注した。時間がなかったのであまりひらひらしたのは付けられなかったが、シンプルで清楚な感じに仕上がったと思う。ナーニアさんも相談して同じようなのを作った。

【マサルによるウェディングドレスデザイン】

婚約指輪は既婚者の司祭様や副ギルド長に訊いたが役に立たなかった。受付のおっちゃんに聞いたところ、いいお店を紹介してもらい、ミスリル銀を使ったお揃いの指輪を5個誂えた。

結婚式の費用、家にいれる家具、指輪やドレス。砦で得た報酬がすべてなくなり、手持ち資金まで減る有様だ。オークならあほみたいな数を倒したのだが、いかんせんあいつらは討伐報酬より肉が高い。時々は回収できたのだが、それも結婚式の招待客に振る舞う食事として全て提供してしまった。砦の防衛自体の報酬は安かった。緊急依頼に関しては半ばボランティアということなのだろう。放置しておけば国が滅びかねないのだ。みなわかって命をかけていた。

結婚式までの7日間で初夜は済ませた。部屋割りは悩んだのだが、エリーとアンがそれぞれ一部屋。サティとティリカとおれで大部屋を使い、おれが順番に4日ごとに泊ってまわるってことになった。体が持つだろうか。絶倫というスキルがあるのだが、取るかどうか悩ましい。

指輪を探しに行った以外、結婚式の段取りは全部アンとエリーに任せっきりでおれは他のことで時間を潰していた。サティとティリカもこれに関しては役に立たず。ティリカは半日は仕事をしていたが、サティは家事のみであとはおれの暇つぶしなどに付き合ってくれていた。

ティリカは師匠が結婚式に来るらしい。エリーは実家が帝国の南方なので手紙が届くだけでも時間がかかるそうだ。そのうち挨拶に行くことを約束した。奴隷のおねーさんは連絡がつき、来てくれることになった。サティの家族は王国内にいるらしいが、もちろん呼ぶ予定はない。元の家族のことを話すと悲しそうな顔をするのでそれからは一切話すことはなかった。

結婚式当日。4人の花嫁が揃うのを見て、おれはこの後のことを一時忘れて感動に打ち震えていた。

「みんな……綺麗だ」

既に衣装合わせでは何度か見ているが、きちんと着て揃っていると壮観の一言に尽きる。

「ありがとう、マサル」と、一番近くにいたエリザベスが言う。

「さあ、行くわよ」と、アンジェラ。

「え、もう?」

アンとエリーに両脇をつかまえられる。

「こ、心の準備を……」

「諦めなさい、マサル。もう始めるわよ」

「往生際が悪い」と、ティリカが言う。

「人間誰しも苦手なものというのが……」

今いるのは神殿ホールの袖の部分。ホールは参列者で鈴なり状態になっている。出て行けば皆が否応なしに注目するだろう。これなら治療の時のほうがいくらかましだ。

「ちょっと。何気配消してるのよ。普通にしてなさい。普通に」

隠密を発動させていたらエリーに怒られた。

2人に両脇をかかえられ、サティとティリカが後に続きホールに出る。わっと歓声があがる。

そこから先はひたすらアンとエリーの指示に従って周りを見ないようにした。まあ結婚式で新郎なんか所詮おまけみたいなもの。みんな新婦さんを見に来ているんだろうし。

幸いだったのはこちらの結婚式の進行が簡素だったことだ。舞台役者みたいに5人揃って皆に一礼するのはどうかと思ったが、指輪交換もキスもなし。司祭様が結婚するにあたってなんたらかんたら、神に感謝してなんたらかんたら。内容は覚えていないけどそんな感じだった。そして神の前で愛を誓う。最後に司祭様が正式に結婚を認め、また歓声があがる。

式は終わりだが次はお披露目や挨拶がある。神殿の中庭に立食パーティー形式の用意がしてあって、俺たちはひな壇みたいな一段高くしたところに座らされ、ひたすらやってくる人と挨拶をかわすのだ。

おれの知り合いは少ないはずなのだが、花嫁に挨拶するついでにおれにも声をかけていく。こっちは名前を知らないのに相手は知っている。とりあえずありがとう、ありがとうございますと繰り返すのみ。いい加減逃げたいがアンとエリーの監視がきつい。トイレの中にまで孤児院の子が逃げないようにとついてきた。

永遠とも思われる数時間が終わり、おれは解放された。孤児院の食堂にぐったりと突っ伏せる。

「お疲れ様、マサル」

「情けないわね、これくらいで」

「苦手なんだ、こういうの」

人の結婚式でもなんか苦手だった。荘厳な、きちんとしないといけない雰囲気がだめなんだろうか。ましてや主役をやれとか胃に来る。きまくった。もうだめだ。

「大丈夫ですか、マサル様?」

「家に帰って休も、マサル。私も疲れた」

そうだな。我が家に帰ろう。みんなで一緒に。