軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

60話 野うさぎな神器

結婚式当日、神殿の中の部屋でそわそわと式が始まるのを待っている、奴隷のときサティと仲の良かったおねーさんが来たというので部屋に通した。何故かあの時の4番の一番値段が高かった子と一緒に。お付きか護衛らしき人も2名ついていた。

「サティ!」

「セルマさん!」

2人が駆け寄って抱き合う。それを4番の子と一緒に眺める。4番の子は上品そうなドレスを着てすごく綺麗だ。まあうちの嫁達には敵わないが。

サティとセルマさんは部屋の隅のほうへ言って話している。おれたちも椅子に座ってお茶を出す。お付きの人はお茶も断ってそのまま立っていた。

「ええっと?」

とりあえずサティがセルマさんと話していて暇なので4番の子に声をかける。

「アデリアよ。セルマの付き添いで来たの」

「お二人は同じ所に?」

「ええ。うちは大きい商いをしていてね。セルマが内向きのことをやって私が店を手伝っているのよ」

そういえば教養とか完璧って言ってたな。でも貴族に貰われたって言ってたような。

「馬鹿正直に個人情報教える訳ないでしょう。頭悪いわね」

馬鹿でごめんなさい。この子無理して買おうとか思わなくてほんとによかったわ……

「でもいいわねえ。私もこんなに頑張ってるのに解放なんて話はとんと出ないわよ」

「4人で結婚するのに、一人だけ奴隷っていうのもかわいそうでしたから」

「4人!?3人も一気に嫁を取るの?」

「いえ、嫁が4人です」

「はー。見た目は頼りない感じなのにどこがいいのかしら?魔法使いとは聞いてるけど優秀なの?それともお金持ちなの?」

「魔法はそこそこですかねー。お金は冒険者で稼いだ分だけなんで、そんなにでも。ほんとに自分でもなんで4人も嫁に来ることになったのかよくわかんないんですよ」

「なんかぼんやりしてるわね」

「すいません、ぼんやりで。セルマさんとアデリアさんは生活はどんな感じです?」

「可愛がってもらってるわよ。奥様が体調を崩されていてね。私はその代わりもしているの。セルマは家事の他に奥様の子供の乳母役ね。まだ2歳の子供だけどよくなついてるわ」

この子を夜に好き放題してるのかなあ。いいなと思う反面、おれだとすごく尻に敷かれそうだ。たぶんエリーより性格きついんじゃないだろうか。無理してまで買わなくてほんとうによかった。

サティとセルマさんの話が終わったようだ。セルマさんに結婚おめでとうやら一通りの挨拶を受ける。サティがセルマさんの場所を聞いてきたのでまたいつでも会いにいけるだろう。

「そうね。別に遊びに来てもいいんじゃないかしら。旦那様も奥様もあまりうるさい方ではないし」

「ありがとうございます、アデリアさん。おねーさん、きっとまた会いに行きますね」

「うん。じゃあ私達は参列者のほうに行くね」

2人とお付きの人をサティと見送る。

「よかったな、会えて」

「はい、元気そうでよかったです」

そして結婚式はおれの精神をガリガリ削った以外はつつがなく終わり、その翌日。夕食前にクルックとシルバーが家を訪ねてきた。

2人を居間に通す。おれの嫁ーズは遠慮してくれて、夕食の準備をしてくれている。最近はエリーもたまに手伝っている。料理の腕はお察し下さい。気長に行こう。気長にね。

「えらく久しぶりだな、元気にしてたか?」

「はい、結婚の話を聞いたときは驚きましたが、マサルさんもおかわりないようで」と、クルック。

「マサルさんってなんだよ?」

「いえ。4人も一気に結婚とかもうタメ口はきけません。マサルさん、いや。マサル兄貴と呼ばせて下さい」

シルバーもうんうんと頷いている。

「いや、おまえら何言ってんの。おれ達友達だろう?この前友情を確認したじゃないか」

「友達だなんて、そんな。恐れ多いですよ」

シルバーもうんうんと頷いている。

「おい、やめろよ。おれはお前らの友達のただのマサルだよ。マサルちゃんって呼んでくれてもいいんだぞ」

「いや、マサルちゃんはないわ」

「うん、ないな」と、シルバー。

「そうか。おれも言っててないわって思ったわ」

「まあ冗談は置いといて。結婚おめでとう。おれの心の中の魔物はお前を殺せとささやいているけど、今日のところは祝福させてもらうよ」

「おめでとう、マサル」

「ああ、なんか引っかかる言い方だったがありがとう、2人とも。それにしてもずいぶん長いこと街から離れてたんだな」

「うん。ちょうど長期の護衛任務が入ってね。帝国の首都まで行ってきたんだよ」

「ほー、いいな。おれ帝国は行ったことないんだよ」

王国首都すら行ったことない。というかむしろこの街と砦しか行ったことがなかった。

「それがそうよくもないんだよ」

「なんで?楽な護衛任務だろ。こっちがどんだけ苦労したと思ってるんだ」

「楽すぎたんだ」

「いいことじゃないか」

「ゴルバス砦と緊急依頼のことを聞いたのは出発した翌日でさ」

「タイミングいいんだか、悪いんだかわからんな」

でもたぶんタイミングがいいんだろうな。ハーピーのときといい、こいつらには危険を避ける特殊能力みたいなものがあるのかもしれん。一度奴隷紋をつけてスキルを調べてみたいものだ。

「タイミングが悪いんだよ。ラザードさんがすっげえ機嫌悪くしてさあ」

「なんで?」

「ゴルバス砦の救援に行きたかったんだよ。でも護衛任務を放り出す訳にもいかないだろ?」

「だなあ」

「それでも放り出して行きかねなかったから、全員で必死に説得したよ。依頼を故意に放棄するとなると違約金がすごいことになるからな。代役を立てようにも冒険者はみんな砦のほうに行っちゃったし、リーダーで一番強いラザードさんが抜けるわけにもいかないし」

「それで不機嫌だったのか」

「それだけじゃない。軍が動くだろ。おれたちが通るルートって王国軍も帝国軍も使うルートなんだよ」

「へー」

「王国軍が砦に向かうの見て、落ち着いてたのがまた不機嫌になってさ。その上、軍が通ったすぐあとだから魔物の1匹も出ない」

「そりゃ暇そうだな」

「ひまひまだよ。夜ですら、なんにも出ないんだぜ?で、雇い主の商人が言うわけだ。こりゃ護衛とかいらなかったな!って」

「うっわー」

「リーズさんがいなければあの商人の首は飛んでたね。あいつは自分が生死の境にいたことは気がついてなかったけど」

「こえー」

「おれたちが怖かったよ!」

シルバーもうんうんと頷いている。

「そうか。おまえらもそれなりに苦労してきたんだな」

「そっちはどうだったんだ?おれたち、今日帰ってきたばっかりで砦のことは人伝にしか聞いてないんだよ」

「ああ、あの日はな……」

出発した日のことから始まって、騎士団の人に聞いた開拓村のこと、砦の様子などを詳しく話してやる。王国軍の兵士が来る前あたりの話で夕食の準備ができたとサティが呼びに来た。

夕食を取りながら話を続ける。エリーも時々補足をしてくれた。エリーは開拓村にいたし、ずっと防衛についてたからおれより色々詳しい。

夕食後、2人はすぐにお暇した。

「新婚を邪魔しちゃ悪いからな」

「そっか。もっと話したかったけどな」

「それなら明日の午前中にギルドの訓練場に来いよ。そこで話そうぜ」

「……話すだけだよな?」

「もちろんだよ。訓練の名を借りてマサルを亡き者にしようなんてこれっぽっちも考えてないよ」

「おい」

「冗談だ。まあ半分くらいは」

「……まあいい。ちょうど体がなまってるって思ってたところだ。相手してやってもいいぞ」

「ほう。じゃあ明日な」

「おう、ラザードさんは呼ぶなよ」

「絶対呼ばないよ!!」

翌日、2人を木剣でぼこぼこにしてやったのは言うまでもない。

さて。

避けて通れない問題がある。スキルの件、使徒の件だ。居間でアンと善後策を協議していると、さっきまでサティと一緒に裁縫をしてたはずだけど飽きたのだろうか、ふらりとティリカがやってきた。ティリカは最近はサティだけじゃなく、おれやエリーやアンにも懐くようになってきた。

「どうしたの?」

急に話をやめたおれたちを見て、ティリカが問う。これはちょっとやばいんじゃないかと思ったが、なんでもないよと、アンが答えてしまった。

「それは嘘。何をしていたの?」

おれとアンは顔を見合わせる。

「ふふふ。ついにおれの秘密を話す時が来たようだな!」

「何言ってるのよ……」

「マサルの秘密?」

「そう。おれの秘密。エリーとサティも呼んできてくれる?みんなに話すよ」

「わかった。呼んでくる」

「ごめんね、ぽろっと言っちゃって」

「まあどっち道そろそろ話そうってことになってたじゃないか」

「ううー。司祭様にもあっさりばれちゃったし、私は本当にだめだ」

「いや、本当に仕方ないって。アンが悪いんじゃないよ」

おれの情報統制のゆるさと口の軽さは実証済みだ。隠していても遠からずばれただろう。司祭様やティリカみたいな隠し事をあっさり暴いちゃう人がいるのが悪い。

「でも……」

「はいはい。もうみんな来るから切り替えようね。エリーがちょっと怖いからアンには援護して欲しいし」

「そうね。わかった」

居間は暖炉の火で暖かい。ソファーは2つ、暖炉を囲むように置いてあり、全員が座っても余裕があるようにしてある。

すぐにサティが来た。そしてティリカに手を引かれて2階からエリーが降りてきた。昼寝をしていたらしい。眠そうだ。チャンスじゃないか?エリーがおねむのうちにやってしまおう。

「みんなに重大な発表があります」

「ふぁー。突然何よ。重大発表って」

「おれが遠くの国の出身って話したことあると思うけど、実は異世界から来ました」

「ふうん?」

あれ?なんか反応が鈍いな。ここはあれだろ。なんだってー!?ってやるところじゃないのか?

「遠くの異国の出身なんでしょ。それは前にも聞いたわよ」

これはもしかして伝わってないのか?

「異国じゃなくて、異世界なんだけど」

「異世界ってどこにあるんですか、マサル様」

「え?」

どこだろう?おれ神様に連れてこられただけだし。

「アンはわかるよね?異世界」

「それは……どこか遠くの世界?」

完全に伝わってないよ、これ!天動説がまかり通ってるような中世レベルの文明度で、異世界ってどうやって説明するんだ?

「ええっとですね。この星じゃない別の世界がありましてね」

「星?空の星が何の関係があるの?」

あかん。これはあかん。地動説から説明するの?惑星の運行とかを説明できたとしても、異世界って他の惑星ですらないし。平行世界理論とか言ったらもっと伝わらない気がするぞ……

「じゃあこんな想像をしてみてくれ。もし魔物も魔法もない、そんな世界があったらどうだろうって」

「魔物がいないのは平和そうでいいけど、魔法がないと色々どうするの?文明が崩壊しちゃうわよ」

「うちの世界は別に魔法なくても平気だったけど」

「何言ってるのよ。マサルは魔法が使えるじゃない」

ああ言えばこう言う。エリーは調子出てきたみたいだ。

「そういう世界があるんだ。異世界。魔法もない。魔物もいない。おれの故郷。おっけー?」

「ああ、うん。どこかにそういう世界があってそこがマサルの故郷なのね。わかったわ」

あかん。まだちょっと遠くの国くらいにしか思われてない。

「異世界ねえ。ティリカはどう思う?」

「嘘は言ってない」

「そう。じゃあそういうことなんでしょうね。指輪の話が聞けるのかと思ったのに。話はそれだけなの?」

それだ!異世界にこだわりすぎて忘れてた。本題は使徒ってことなんだ。

「あ、まだあります。続きがあるのでもうちょっと」

「あら?指輪の話?」

「うん。あれって神様からもらったんだ」

「神様?神様ってあの神様?」

「どの神様か知らないけどあの神様だよ。伊藤神っておれは呼んでるけど」

「イトーウースラ様のことかな?それって主神様だよ」と、アンジェラ。

アンジェラにはバレた時のことを考えてスキル関係の話はしたが、神様関連のことはまだあまり教えてない。

「わからない。名前が伊藤って聞いただけだし。でも神殿の神像に顔は似てたような気がする」

「どうなの、ティリカ?」

「嘘は言ってない」

「伝説級ですらなくて、神器なのね、これ……どうやって手に入れたの?」

え?それ聞いちゃうの?あんまり言いたくない黒歴史なんだけど。

「野うさぎ狩ったらくれたんだけど……」

「はあ?」

「野うさぎってあれ?相打ちになってギルドに運ばれて来たっていう」と、アンジェラ。

「ああ、うん。その話だよ」

「野うさぎ?相打ち?」

おれが説明するの?説明するんですね……

「こっち来てすぐくらいのときに野うさぎを狩りに行ったんだよ」

「ほんとに野うさぎ好きねえ」

草原行くと狩って帰ってくるからな。我が家の食卓には野うさぎ肉が毎日乗る。

「それで調子よく狩ってたら、体力が尽きちゃって。ついでに魔力も限界まで使っちゃって」

「魔力切れで倒れたの?」

「うん。野うさぎもちゃんと倒したんだけど、おれも倒れちゃって。街道近くだったから通りがかった人が街まで運んでくれてね」

「……相打ち?野うさぎと?」

エリーが呆れてる……アンは知ってたみたいだけど。

「そう言えなくもないかなあ」

「はぁ~。野うさぎってたまに呼ばれているのって、そういう意味だったの……」

ため息つかれちゃったよ。おれも言いたくなかったんだよ!

「それで野ウサギと死闘を繰り広げた男として有名になり、おれは宿屋に数日引き篭もったんだ」

「マサルカッコ悪い」

「違うぞ!おれはそのあと野うさぎを狩りまくって名実ともに野うさぎハンターになったんだ!もう野うさぎなんかに負けたりはしない!」

「当たり前でしょう!野うさぎに負けたとか聞いたことないわよ!恥ずかしいったらないわ」

「ご、ごめんなさい」

「それで?指輪とどう繋がるの?」

「ええっとね。毎日の出来事とかを日誌に書いて神様に報告してるんだよ。野うさぎのこともちゃんと書いたらね。面白かったからってご褒美くれたんだ。それがその指輪」

「……それって哀れに思われただけじゃないの?」

うっ。言われてみればそうかもしれない。

「神器……野うさぎで神器ね。なんか一気に有り難みが薄れたわ」

「すいません。あほな理由で……」

「だ、大丈夫ですよ!マサル様は強いし格好いいです!」

ありがとう。サティだけはいつでもおれの味方だよ。