軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

345話 アンチマジックメタル

「他ではアンチマジックメタルの装備は確認できなかった?」

戻ったシャルレンシアからそう報告が入った。各地を転移で回ってもらって 耐魔法(アンチマジック) 装備への注意喚起を行ってもらった結果、少なくとも現時点ではそのような装備はどこにも確認できなかったという。

「それは朗報だな」

アンチマジックメタルを世界中に配るほど用意できなかった。それでエルフの里へ配備を集中させたか? それならなんとかなる。

ただし各地で始まった戦闘も予断を許さない状況ではある。固まっていれば範囲攻撃魔法で殲滅される。だったらバラバラに攻めればいいとばかりに散開して攻めてくる。それで砦が陥落することはまずないが、砦以外の場所からの少数の魔物の侵入が多数報告されるようになってきたそうだ。

今はまだ決壊した場所はないが、いずれ思わぬ場所から侵入を許すかもしれない。そうなると数の多い魔物側に戦局が優位となりかねない。

やはり早めに叩いておいたほうが良かったか? だが今からでも問題はない。結局早いか遅いかだ。

「今は防衛に徹して、日が落ちてから俺が出よう。航空機を使ってメテオ爆撃をする」

考えた末にそう指示を出す。エルフの里でも散開戦術は取られていて、思うように魔物は倒せていなかった。しかし魔物の後方にはさすがに陣らしきものがあり、そこには魔物が集結している。

動きの鈍った夜間、そこを叩いてしまえばいいのだ。普通に魔物の陣に迫るにはリスクが高すぎるが、俺たちには航空機がある。空を飛ぶ魔物も航空機には追いつけない。

「すまないがシャルレンシア、もう一度連絡をしてきてくれるか?」

当然エルフの里だけじゃない。俺の魔力が許す限り、世界各地の魔物を殲滅してまわるのだ。

それで肝心のアンチマジック装備であるが、これがかなり厄介な代物だった。エルフの中級魔法なら大きな盾で防いでしまう。当然普通の弓なんかも通らない。サティの剛弓と総鉄矢なら盾だろうが簡単に貫くが、エルフでは盾は無理。鎧のほうなら角度が良ければ矢が突き立つこともある。しかし装備兵には頑強なオークを揃えているようで、急所以外の矢ではさほどのダメージを与えた様子もない。

サティと師匠の見立てでは鎧や盾の強度は鉄と同程度か少し劣るくらいではないかと言うことだ。これで特別に硬ければ更に面倒なことになっていたかもしれない。

「やりようはいくらでもある。一体に火力を集中させるよう徹底させよ!」

そうリリアが指示を飛ばす。レベル1の攻撃魔法はもちろん、レベル2はほとんどダメージを与えられなかった。火魔法のレベル3呪文であるファイヤーウォールもさすがに炎に巻かれると苦しいらしく、すぐに逃げ惑ったが倒せる様子はない。

レベル3のエクスプロージョンなら最低二発同時。レベル4のファイヤーストームかハイエクスプロージョンの直撃でようやく盾を破壊できる。

しかしレベル3で倒すなら複数同時に当てる必要がある。複数人の同時詠唱でもそこまで精度は出せないから四人か五人の同時詠唱で倒すことになった。

「土魔法の通りが良いの。レベル3のロックキャノンが効果的じゃ。あとはゴーレムも試したいのう」

土と火の通りが良く、水と風が多少弱い。やはり物理的な硬度も関係するのだろうか。

「もっとよく調べるためのサンプルがほしいな」

「そうじゃな。そろそろ妾がやってみよう」

魔物側もまだ本気の攻めではないようで、かなりの距離をおいて遠巻きにちょっかいをかけてきている感じなのだが、俺たちの力を見誤っているようだ。俺たちの魔法なら十分に届く距離だ。

しかし念を入れて前衛部隊に出撃の準備をさせ、城門を出たところに布陣をさせる。

「二〇〇メルトだけ前進させよ」

その指示が実行された後、リリアが詠唱を始める。魔物も釣られて近寄ってきている。まだかなり距離があるが、射程を伸ばしたリリアの範囲攻撃が前進してきた魔物たちに炸裂した。前衛部隊がすぐさま前進をし、魔物の装備を回収、戻ってきた。俺たちも城壁から降りて、前衛部隊を出迎える。

「これがアンチマジック装備か。結構頑丈そうだな」

以前に鹵獲した陸王亀の装備していたアンチマジックメタルとは色も少し違い、濁った感じだ。何か混ぜ込んでいるのかね?

「精霊が近寄るのを嫌がっておる」

精製されて強化されただけあって、魔力への影響が大きくなったのだろうか。シャルに帝都の研究所へと運んでもらおうと思ったが、普通の転移では無理か。

「俺のアイテムボックスなら収納も問題ないな。ちょっと待っててくれ。研究用に帝都へと届けてくる」

そう言ってすぐに帝都へ転移を発動させた。やはり俺のアイテムボックスならアンチマジックメタルにも影響されない。そうして二セットのアンチマジック装備を帝都で待機中のエルフに託した。

戻る時には何人かのエルフがくっついてきた。帝都での待機を命じられたものの、やはりエルフの里の危機に居ても立っても居られなかったのだという。今のところ別に危機でもないが……いや油断はしないようにしよう。魔物は相当な戦力を用意して、このような秘密兵器も投入してきているのだ。

「マサル様にご迷惑はおかけしませんので、どうか」

そう頼まれれば無碍にもできない。そうしてこっそり連れて戻ったところ、魔物側に動きが確認された。ハーピーが遠方から集結してきている。

「一気に来そうだな」

地上の魔物もようやく重い腰を上げ、エルフの里全周を囲うように移動を始めていた。南側、王国領方面で大規模な攻撃魔法の発動が見えた。ティリカが攻撃を始めたようだ。ティリカは今のところ自由に動いてもらっている。この機会に経験値を稼ぎたいそうで、エルフのフライで運んでもらいながら、魔物の多いところに攻撃を加えるそうだ。

「戦力も備えも十分じゃ。魔物はエルフの里へ攻撃を加えた愚をすぐに悟ることになろう。そんな知能があれば、じゃが」

そうリリアが周囲を鼓舞するように言う。常駐を始めた王国兵、近隣の領民軍。冒険者にヒラギスからの出稼ぎの獣人兵。それから神殿からも騎士団と治癒術師を送り込まれている。それでも足りなければ王国軍、帝国軍からの増援も無尽蔵と言っていいくらい呼べる。やはり負ける要素はない。

ティリカの二撃目が今度は西側で炸裂した。

「じゃあこっちも一発驚かしてやるか」

それでもこれほどの戦いだ。どこかで被害は出る。それを極力減らすのだ。【メテオ】詠唱開始――

「メテオ」

魔境側の空を覆い尽くすように燃え盛る隕石が出現、降下を始める。接近しつつあったハーピーの集団を巻き込み、すでに相当荒らされた森を、進軍する魔物ごと完膚なきまで破壊し尽くした。

「ふむ。まあこれくらいでは止まらんか」

相当数の魔物は倒したはずだが、やはり広く散開されていて、全体としての被害はそれほどでもないように見える。後方にはまだまだ大量の魔物が控えている。そして燃えた森をものともせずに魔物が進んで来ている。

「あとは任せる。大型種には注意しろよ?」

「うむ。強化したとはいえ、城壁の強度を試すこともないからの」

俺は夜間の攻撃に向けて気力体力の温存だ。

ハーピーたちが弓の射程圏内に入りつつあり、攻撃が始まっていた。矢の備蓄は潤沢だし、それを使う人間、獣人、ドワーフ兵たちも十分にいる。

ティリカが俺たちのほうへもやってきた。どうやらエルフの里の外周をぐるぐると回っていく作戦らしい。すぐに魔物の接近を確認すると、魔物の多そうな場所へ向けて詠唱を始めた。

ティリカと周囲の者たちにまとめて加護をかけてやる。ティリカの魔法が着弾し、続けてもう一発と詠唱を始めた。

「あんまり無理は……」

俺がティリカにそう言いかけたところでサティの切迫した声に遮られた。

「マサル様、アレを!」

高空から急降下してくる大型の飛竜。狙いはエルフの里の中心、王城か!?

「【ショートジャンプ】!」

即座に単独で城のテラスに転移し、攻撃魔法の詠唱を始めた。火魔法レベル4のハイエクスプロージョン。詠唱は――間に合った。射出されまっすぐ向かう火球は飛竜の正面だったが、飛竜もそのまま食らうつもりはないようでブレスがその口から吐かれた。俺の魔法と激突して直撃は防がれる。それでも多少の勢いは弱まったが、飛竜の巨体はそのまま城へと……

「あとはお任せを!」

エルフたちが精霊でのガードを何重にも展開していた。それを突破できず、飛竜は城のすぐ横の大地に地響きを立てて激突することとなった。

もはや瀕死の飛竜にエルフたちの攻撃魔法が集中し、飛竜は息絶えた。ほっと緊張を解いて息を吐く。

城には非戦闘員が避難している。少々焦ったが、城には十分な予備兵力も詰めていた。俺がやらなくとも飛竜の一匹程度はどうにでもなったか。

「すまん、余計な手出しだったか?」

「いえ。マサル様の攻撃で勢いが落ちて助かりました」

しかし直接内側を狙われるのは面倒だな。今も攻撃の届かないような高空からハーピーがエルフの里上空に侵入してきている。おそらく飛竜の攻撃での混乱に乗じようとしているのだろうが、その飛竜はもう遺体となって転がっている。

「兵をある程度内側にも配置しておくか?」

「今のところは必要ないでしょう」

城にはまったく稼働してないエルフの予備兵力がかなり常駐しているのだ。ハーピーくらいなら魔法で殲滅してしまえるか。遅れてサティと師匠もエルフに運ばれてやってきた。それなら少しここで様子を見るか。

サティの矢が接近するハーピーに狙いを定める。俺はまあいいか。体力の温存温存。

もっと飛竜と同期した攻撃だったら厄介だったかもしれないが、こうもタイミングがずれていれば、ただの各個撃破だ。何の問題も……

ハーピーが何かを投下した。革の袋?

「毒だ! 風精霊でガード! ガスマスクを持っている者は装備しろ!」

俺の言葉ですぐさまエルフが行動に移る。これで毒にやられることはないはず。毒を防いでハーピーの投下が終わってから、浄化して回れば問題はないはずだ。しかしえげつない攻撃を考えるものだ。

しかしそれも……

ピンクの粉が舞う。ゆっくりと城へ、俺たちへと落ちてくる。誰かが風魔法を発動させるが、ピンクの粉に当たるとその勢いをなくしてしまう。

革袋が何の抵抗もないかのように精霊の魔法によって守られていたはずの城のテラス、俺たちの近くへと落下し、その中身のピンクの粉末を周囲にぶちまけた。

「アンチマジックメタルの粉末!?」

まずい、そう思って口を塞いだときには、近くの護衛の頭に当たって飛び散った粉を全身に浴び、おそらく幾ばくかの粉を吸い込んでしまっていた。口の中の砂の感触。

急速に周囲への探知情報が消えていく。エルフの精霊も感じられなくなる。エルフたちも混乱を来し、その間にも大量の革袋がハーピーから投下され、城を、エルフの里をピンクの粉が覆っていく。

精霊のガードがあったのだ。まさかそのまま落ちてくるとは想定外で、まともに粉を浴びてしまった。俺もサティも師匠も、誰も反応できなかった。

「マサル様、これを」

そう言って俺の護衛がガスマスクを差し出してくれたので、それをありがたく装着させてもらう。

「魔法は使えそうか?」

そうマスクをつけた護衛に確認をする。

「粉は吸ってはいませんが、体に付着していますし、これほど周囲がアンチマジックメタルで覆われてしまうと……」

俺も魔力の発動くらいはできるが、それが形のある魔法にはまったくならなくなってしまっている。

「落ち着け。まだエルフの里も兵力も健在だ。弓を取れ! 剣を構えよ! 戦いはこれからだぞ!」

魔法を封じられてパニックになりかけたエルフたちをそう言って鼓舞をする。

サティは手を止めずに接近するハーピーを撃ち落としていっている。城内は……と城を見るが、エルフの城は開放的だ。精霊がいれば開けっ放しであっても年中一定気温が保たれる。窓や扉は普段からも開放され、今も何箇所かが開いたままだ。すでに混乱したエルフたちが出入りして、アンチマジックメタルの粉末の侵入を許してしまっている。

これか。ダークエルフの本当の切り札。俺の力を知ってなお、倒せるとの自信の源。

どうする?

「城の地下に脱出路があるな?」

「申し訳ございません……」

え? なんで謝る?

「脱出路は土魔法で厳重に封鎖されております。魔法が使えねば使用はおそらく無理でしょう」

土ならまだしも、岩、岩盤での封鎖である。人力ではどうしようもない。それでも普通なら土魔法で簡単に除去できたはずなのだ。

「人をやって、脱出路の開通できないか、試してみてくれ」

これ用にどれほどのアンチマジックメタルを確保したのだろうか。いまも矢の届かない上空から、ハーピーたちが好き放題にピンクの粉が入った革袋を投下し続けている。

ピンクの粉末は相当に細かいようで、ホコリのように周囲を舞っている。手で払う程度ではどうしようもなく、たとえば水で流したとしても空気中の粉末がある限りどうしようもない。すでに呼吸して肺にも入ってしまっているだろう。しかもエルフの里は高い城壁によって二重に囲まれ、自然の風で吹き散らされることも期待できない。

「魔法なしで航空機は使えそうか?」

「旧式のプロペラ機なら離陸も可能でしょう。ですが新型の双発では滑走距離が足りません」

旧式は軽い一撃で壊れるほど脆いし、魔法の加速もないとあれば速度も遅い。さすがにハーピー以上の速度は出るが、飛竜に追いかけられて逃げ切れるか? 新型も機体の強度はあがっているが、その素の速度は旧型とほぼ同程度だ。脱出を考えるならともかく、その攻撃方法も魔法頼りでは今は役に立たない。

「石油の備蓄が大量にあるな? 城壁に運び込んで魔物が来たら浴びせてやるんだ」

火炎瓶やナパーム弾の準備はしてあったが、その実戦配備は実験的な少量だった。だがただの石油でも投下して火をつけてやれば、魔物を撃退する助けになる。

他は? 他に何か使えそうな物はないか? 魔法の代用。千年計画とはこのような魔法が使えない場面でこそと考えたものだろうに。

「マサル。お前は脱出するべきだ」

「師匠……」

「ランディーズが作っておった蒸気戦車がある。あれで魔物の群れに突入して、そのあとは剣で血路を開けば良い。お前とサティならなんなく突破もできよう」

俺とサティはそれでいい。だがリリアは? ティリカは? 今の段階で見捨てて逃げるとか論外だな。

「逃げるのではない。一時脱出し、アンチマジックメタルを除去して外からの攻撃を考えるのだ」

多少はいい考えにも思える。しかし俺もかなり吸い込み、肺にまで入り込んでしまっている。解毒か浄化か? しかし肺の内部の異物を除去する。誰も試したことのない高度な魔法だ。砦にそのような熟練した神官か魔法使いがまだいるだろうか? 戦力になりそうな者は全員、エルフの里へと集まっている。しかも徒歩の移動だ。全力で走っても王国領の砦までは二時間か三時間か?

「それは最後の手段にしましょう。いまだ兵も城壁も健在。俺たちが負けると決まったわけじゃありません」

脱出はいつでも可能だ。それよりも希望はやはり外部からの救援だろう。もしまったく連絡がないまま何時間も経過すれば、誰か転移持ちがエルフの里の様子を見ようと転移しようとするはず。そこで転移できないと異変を察知してくれれば、ヤマノス村までは全員転移ポイントを持っている。

もし他でも同様の手段で魔法を封じられていなければ。

「アンチマジックメタルを除去して魔法を使う方法がないか、城の者で方法を探してくれ」

それから? まだ俺のアイテムボックスは使えるし、装備は潤沢に蓄えてある。

「俺たちも外壁へと行こう」

リリアとティリカが心配だ。いや遠回りになるが、石油をアイテムボックスに詰め込んでから行くか。まだできることはたくさんある。他になにかないか? 考えろ。