軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

344話 休戦協定

「マサル、ダークエルフから連絡が来たっ」

リリアが俺の執務室へ飛び込んで来るやいなやそう言ってきた。

ミズホを占領して一カ月、俺は毎日忙しく働いていた。当然ながらミズホの運営に関してはかなりな部分を丸投げしているのだが、最初のうちは俺がすべきことや判断することは多かったし、剣術の修行も本格的に始めている。千年計画も相変わらず大きく関わっているままだ。

エリーは手伝いや相談くらいは乗ってくれるが、さすがにミズホ運営までは任せられないし、リリアやアンも他で忙しい。ティリカとサティが案外いい助手となってくれている。あとはラザードさんが堅実に仕事をこなしてくれてとても助かっている。クルックとシルバーは、うんまあ、最初は誰しもあんなものだろう。今はまだ学ぶ期間だ。

「なんて?」

「三日後、あの時の返答を聞きにエルフの里へ行くと」

俺に魔族の仲間となれと勧誘した件だ。時間稼ぎにと返答を半年待たせて、しかもヒラギスとエルフの里周辺での休戦協定も結ぶことができた。しかし返答の期限までまだ二カ月ほどはあるはずだが、俺たちのミズホ攻略でさすがに仲間になることはないと諦めたのだろうか。

それでも一応返答は聞きに来るあたり律儀なことである。

「どうやって連絡を?」

「エルフの里へ、子どもに手紙を持たせて来たのじゃ」

前回と同じだな、そう思ったが子どもの話によると魔物に襲われて村ごと攫われたらしい。

「少し前に魔物の襲撃で王国の村が丸ごと一つ消えた事件があったな?」

しかも俺の最初の領地、ヤマノス村にも近い地域だったのでエルフも調査に出向いたからよく覚えている。

「うむ。子どもの話からもその件で間違いなかろう。それでまだ一〇〇人以上が魔物に捕らえられているそうじゃ」

人質か。厄介な。

「手紙には話し合いに応じない場合やこちらが休戦協定を破って攻撃してきた場合、攫った村人の首をまとめて落とすと」

そして話し合いが終われば村人たちは無事に解放すると手紙は結んでいたそうだ。

「いいぞ。会おう」

「ならば準備万端、待ち構えようぞ」

休戦協定を早期に終わらせるつもりなら、そのまま攻めてくるか? その可能性は考えたほうがいいだろう。

「先制攻撃は絶対にするなよ?」

「わかっておる。人質もおるし魔物が休戦協定を守っておるのじゃ。我らから破ったりはせぬ」

エルフの里とヒラギス周辺での半年間の休戦協定はエルフ、ダークエルフともにまだ守る気はあるようだ。一度ヒラギスの魔物の残党狩りをしたが、それはノーカンということであっちも特に言及もしてこなかったようだ。

「魔物の動きは?」

「ミズホ周辺では相変わらずかなり活発じゃが、我らが一カ月前に荒らしてやったせいでもあるしの?」

攻めてくるのか、それとも俺の襲来に備えての防衛なのか、距離を取っての偵察からは判別は付かないという。ただ俺がメテオで焼け野原にした地域は完全に荒れ果てた土地となって住むには適さず、今のところ魔物の姿は見えども再入植する様子もない。

「念の為に改めて偵察を飛ばしてみてくれ。あと他の地域にも魔物の動きがないかの問い合わせと注意喚起を頼む。他には何かあれば夕食の時に集まって話そう」

翌日、世界各地で魔物が一斉に動き出していることが報告された。俺たちと連携している国で偵察できた地域ほぼすべてで、大規模な魔物の襲来を予想される動きが確認されたのだ。

「一旦守りを固めてもらおう。現時点では俺たちからの攻撃はなしだ」

まだ攻勢が来ると決まったわけじゃない。

「マサルの返答を待ってから総攻撃ってところかしらね?」

「そういうことかもな」

「ミズホにヒラギス、エルフの里。我らが別れて分担したほうが良いかの?」

「そうしよう。兵力は十分。追加もいつでも可能。防壁も強化済み。俺たちが負ける要素はない。そうだな?」

みんなが力強く同意をする。

配置した戦力で不十分なら改めて転移で移動させればいい。各砦に後衛の加護持ちが一人居れば十分だろう。それとも砦に魔物が迫った時点で俺が出てメテオで殲滅してやってもいい。

「他の地域は?」

どこも魔境に接している地域がある。南方国家群、東方国家群、それから帝国もだ。エリーのお義兄さんの領地やビエルスも峻険な山岳地帯を超える必要があるとあって、軍団規模の魔物を見ることはないらしいが、攻めることができないわけでもない。それから新ブランザ領方面だ。ブランザ領は魔境からは離れているが、隣の隣の領地くらいが魔境に接していて、そこでは常に警戒をしている状況だ。

「各方面に注意喚起と、できれば魔物の動きがないかの確認を頼む」

手紙が来てから二日後。世界各地での魔物の蠢動が改めて確認された。

「そこいら中じゃな」

「南方もかつてないほどの戦力が集結している様子です。できればプロペラ機を旧型で良いのでお貸し願いたいのですが……」

そうイオンがおずおずと申し出る。東方でも魔物が大きく動いているという。

「新型の双発機を持っていけ」

「よろしいのですか?」

「南方を一人で見るつもりだろう? せめて装備はいいものを渡しておく。あと危ないと思ったら早めに救援を呼ぶんだぞ」

南方はかなり広い地域で魔境と接しているが、人類が最初に根付いた場所だけあって、その防衛も硬い。何段階かの防衛ラインが敷いてあって、どこかが突破されても一国が蹂躙される、なんてことにはならないのだそうだ。

「すべての魔物の総動員ってことか?」

「それはわからぬが、かつてない規模の魔物の襲来ではあるのう」

ダークエルフがやってくるのは明日。そのタイミングで攻撃か。面倒な。

「しかしこれほどの規模でよくタイミングが取れるな。特に北と南で連絡を取るなら人族領域を横断しなきゃならんだろ?」

ハーピーが全力で飛んでも、横断に何日かかる? 普通の方法では手間がかかりすぎる。

「だとすると魔族にも特別な連絡方法があるのか、転移が使えるのかもしれんな?」

「エルフも空間魔法が扱えないわけではないのじゃ。ダークエルフが先んじて習得していてもおかしくはないのう」

神出鬼没のダークエルフだ。転移使いだったとしてもおかしくはない。

「それよりも戦力の配置だ」

転移ですぐに移動ができるとはいえ、現地に誰か一人は配置しておきたい。

ミズホにはアン。ヒラギスにはルチアーナ。南方国家にイオン。帝国にエリー。エルフの里に俺とリリア、シャルレンシア三姉妹。ティリカは……もう結構お腹が大きくなってるんだよな。できれば動かしたくないし、一番安全な場所は……

「わたしはエルフの里で。エルフの里は絶対落とせない。完全に守り切るならわたしが居ても安全」

「そうだな。地下の脱出路はもう作ってあるんだろ?」

「うむ。今は封鎖してあるが、王城からすぐに地下道に入れるのじゃ」

使うこともあるまいが、万一の脱出も考えてあるし、もとよりエルフの里を落とすことなど、俺やエリークラスの魔法使いでもいなければ不可能だ。居ないよな? 居ればもうとっくに動いているはずだ。

「各人にプロペラ機を任せるから、好きな場所を指定してくれ。俺が運んでおく」

装甲と速度、航続距離を伸ばした最新型の双発プロペラ機がいま三台使える。こいつはエルフの里とミズホだな。旧型と新型の単発プロペラ機は数があるから他の場所はそれで我慢してもらおう。

「今日の夜のうちに叩ける場所は叩いたほうが良いのではないか?」

明日のダークエルフとの会談を待ちたいところだが、これほど各地で敵が動いているとなると、どこか弱い場所が攻められて侵攻を許すことも考えられる。

「各地の砦の強化状況はどんな感じだ?」

「南方はすべての箇所が強化済みです。わたくし一人居れば、陥落することはありません」

「帝国と王国も要所は強化済みよね」

「むろんエルフの里もじゃ」

イオン、エリー、リリアがそれぞれ言う。特にエルフの里は世界のどこよりも高く頑健な二重の強化城壁に加え、最近ようやく王国の砦からの戦力移転も始まり、もはや鉄壁といってもいいくらいだ。しかしウィルが不安そうに言う。

「東方国家が怪しいっすね。あそこは帝国からの技術供与を拒否した国ありますし……」

「誰か送り込んでおくか?」

「私が見ておきましょう。ヒラギスの二カ所に加えて、東方国家の数カ所程度を確認するだけなら問題はありませんし、それで危険があるようなら救援を頼めばいいですから」

そうルチアーナが言う。

「ヒラギスにはエルフを多めに配置しておこう。必要ならそれを東方国家に回してくれ」

「それで良いと思う。それで先制攻撃はどうするのじゃ?」

「一旦は防衛に徹しよう。総攻撃されるとすると最初はきついかもしれないが、砦で時間を稼いでいるうちに叩いて回ればいい。明日は連絡を密にして、危なそうな場所には戦力を送り込むことにしよう」

無線通信機が間に合わないのが悔やまれる。有線ならできないこともないのだが、各地を結ぶとなると相当量の銅線が必要で、未だ大規模な量産には成功していない。狼煙か魔法での合図か、それか航空機をぶっ飛ばしても十分間に合う距離くらいしか今の手持ちでは敷設できそうもないのだ。

「ダークエルフがどんな話をしてくるのか気になるし、もしかすると何かしらの休戦協定がまた結べるかもしれない」

「あやつらは絶対にやる気じゃぞ?」

「まあそれでも万が一ってこともあるだろ。戦わないで済むならそれが一番いい」

人質までとって俺との対話を望んだのだ。攻め込むなら黙って攻め込めばよかった。それなら俺たちが気がつかないまま、どこかの砦を一つくらいは落とせたかもしれない。予告してからの攻撃など馬鹿げている。

俺の力はもう何度も見せた。この程度で俺やエルフの里をどうにかできると考えているのなら愚かすぎるし、あるいは俺を倒す算段でもあるのかもしれない。たとえば暗殺。転移でダークエルフか、あるいはソロモンを送り込む。しかし俺の周囲はサティに師匠、ミリアムもいるし、腕っこきのエルフの護衛が固めている。しかも明日は戦力もいつもより厚いのだ。こんなふうに予告しての暗殺が可能だとは思えない。

単に俺を諦める、休戦協定を破棄するだけなら、ただ攻め込めばいいのだ。それとも手紙だけでのやり取りを人質を使ってすればいい。やはり何かしらの話し合いを希望していると考えていいはず。そう俺の考えを話す。

「まあ各国の軍もできうる限りの動員をしておる。何かあってもそう悲惨なことにはならんじゃろう」

「必要なら俺が世界中を回って叩き潰してやってもいい」

高高度からのメテオ爆撃は対処不能だ。

「うむ。魔物どもを後悔させてくれようぞ!」

最悪の考えがある。村人一〇〇人を人質に俺の身柄を要求されれば? 断るしかないが、もしそれが、たとえばソロモンとの決闘の要請なら? 断ることはできないかもしれない。いや断るか? 人質を取っての脅しに応じるのは悪手だ。応じれば上手くいくと人質作戦が横行してしまう。一〇〇人が一〇〇〇人だとしても見知らぬ村人だ。俺自身をいま危険には晒せない。

あるいは俺の誰か大切な人が人質ならどうだろう? それでも俺は自分の身のほうが大事だろうか? それがサティやティリカなら? わからんな。でもサティとティリカ、アンとエリーにリリアまとめてなら交換するかもな。お釣りが来るくらいだ。

「エルフの里の研究所は? 万一に備えて研究資料の退避はできているか?」

「重要な情報は複製を作って帝都に保存しておる。そのための王家の森じゃからな」

研究所はエルフの里の外周にある。一時的に突破されて荒らされることも考えられるのだ。

千年計画における俺の役目はもはや小さい。頭の中の情報はまだ出し切っていないかもしれないが、重要そうなことはすべて記録が終わっている。俺がいま抜けても誰かが変わって進めてくれるようにあらかたの仕事は丸投げ済みだが、その研究資料が失われることは避けなければならない。

「研究員も早めに退避させておけよ?」

「マサルは少々心配しすぎではないか?」

「そうかもな。まあ普通の用心だ」

だがこれほどの規模の全世界同時侵攻だ。何か魔族なりの考えがあるはずだ。一体何を考えているのか? それを知るためにも明日の会談はやる必要がある。

当日。魔物の軍勢はエルフの里から五キロほどの地点まで移動して停止、ダークエルフ、アデラルードが配下のオークと人質を引き連れてやってきた。エルフの里の城壁から三キロほど離れた地点が会談場所となった。

「村人が少ないぞ」

アデラルードが連れている人質の村人は一〇人。手紙を持ってきた子どもの話では一〇〇人ほどは居るはずだ。

「残りは話が終わってからだ。話が終わったとたん攻撃されてはかなわんからな」

「まあいい。用件はなんだ? こうして出向いてきたんだ。何か話があるんだろう?」

「返答を聞きに来た」

「そいつはまだ二カ月ほど期限が先だが?」

「勇者マサル・ヤマノス、貴様のせいだぞ」

「俺のせい?」

「そうだ。貴様はやりすぎた。オークは大量の仲間を殺されて怒り狂っている。戦いは止められぬ」

ミズホの先へと攻撃をしたのは失敗だったか? しかし隣接地帯に大量の魔物を放置するのもリスクがある。どのみちミズホでの大量殺戮の時点で引き金が引かれたかもしれないのだ。何が正解だったか、判断は無理だ。

「休戦協定はどうする?」

「今日をもって破棄だ」

「俺が仲間になると言ったら?」

「エルフの里を潰すことには変わりはない」

「無理だな。俺の力は思い知ったはずだ。他の場所でも魔物を動かしているようだが、すべて叩き潰す」

「それで?」

そう言うアデラルードの言葉に、何がそれでなんだと首を傾げるとアデラルードが続ける。

「我らの仲間になるのか、ならないのか。ならねばここでエルフと共に死ぬことになるぞ」

「仲間になどならないし、俺はここでは死なない」

俺がそう言うとアデラルードが空を見上げた。太陽の位置を見た? 太陽はちょうど真上に差し掛かろうとしているくらいの正午。時間を確認したのか。

「そうか。では話はこれで終わりだ。人質は解放しよう。その後、我らは進軍を開始する」

「待て。なぜ戦う必要がある? 今回も大量の犠牲が出るぞ」

「お前がそれを言うのか?」

そう言われれば返す言葉もないが、だいたいにおいて俺は反撃をしているだけだ。

「勇者よ、前にも言ったはずだぞ。これは神々の遊戯、我々が血を流せば流すほど神々はお喜びになるのだ。そこに理由など問うても無意味だ」

そう言ってアデラルードは踵を返し、歩き去っていった。神々の望み。そんな理由で魔物はひたすら戦いを挑んでくるのか? やはりこの戦いは終わらせるべきだ。

少しして解放された村人たちが必死に走って来るのを保護した。少し遅れて魔物の進軍が開始された。

「マサルがやるか?」

そうリリアが聞いてくる。

「リリアたちに任せる。経験値も稼いでおきたいだろ? それにダークエルフの余裕が気になる。俺は余力を残しておこうと思う」

転移による暗殺や誘拐にも警戒は十分している。俺やもちろん他のメンバーもだ。

「マサル様、あれを見てください」

そう魔物の接近を弓を持って観察していたサティが言う。

「先鋒の魔物の装備? あれは……」

盾と鎧、それがエフィルバルト鉱石、アンチマジックメタルの特徴的なピンク色だ。

「これが魔物の切り札か!」

「しかしある程度の魔法は阻害すれど、魔法防御の効果は薄いはずじゃが……」

だからこそ大量に用意して陸王亀に装備させるくらいしか運用方法がこれまではなかった。普通に盾や鎧にしても鉄より脆い上に、初級魔法を防ぐくらいの効果しかないとされていたのだ。それならば鉄の盾でも同じことができる。

「魔物は以前からエフィルバルト鉱石の運用をしていた。もし新しい精製方法とかで魔法防御を高めることに成功したとしたら?」

俺たちももっとエフィルバルト鉱石の研究もしておくべきだったか? しかし他にすべき研究は山積みだったし、金属の精錬にも魔法を使う俺たちとの相性が悪いのもあった。

「他の場所にも警告をしないと」

「しかしまあ問題はあるまい? 通常の魔法使いの攻撃は防げても、我らの魔法攻撃は防げぬ」

だが普通の魔法使いの攻撃が通用しないとなると大問題だ。

「シャル、他のメンバーと各地に警告を出してきてくれ」

俺の要請にすぐに転移していく。エルフの里は大丈夫だ。俺やリリア、ティリカも居るし、防御地点も一カ所と限られている。今回は魔物の襲来に備えて、通常の兵士や冒険者たちも大量にエルフの里へとやってきてもいた。

「とりあえずどの程度魔法を防ぐか試してみるか。射程に入り次第、適当に攻撃を加えさせてくれ」

帝国ゴールドハウブズ領で採掘され、行方の知れなかった大量のエフィルバルト鉱石。それにこんな風にお目にかかるとは。

普通のエルフの魔法攻撃がどの程度防がれるか。それ次第で今回の戦い、厳しいものになるかもしれない。