軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

28話 豪火

一番早くに目が覚めたのはサティだった。マサル様が目の前で寝ているので安心する。だがふと見るとエリザベスがいる。反対側にはアンジェラだ。なんなんだろう?サティはとりあえずマサルを起こすことにした。

「マサル様、マサル様」

小さな声で呼びかけながら体をゆする。

「ん……んん」

「マサル様、朝です」

「ん……ああ、サティ。おはよう」

マサルが体を起こした。

「おはようございます、マサル様。それでこれは一体……?」

ベッドまで持ち込んである。いつの間に?

「えっと。夜中にエリザベスとアンジェラがやってきて、一緒に寝たいって」と、小声で話す。

サティはちょっと考えてから、

「エリザベス様とアンジェラ様もマサル様のことが好きなんでしょうか?」

「この2人がおれのことを好き?いや、そんなことは……な……い……?」

一緒のベッドで寝る結果になったのは、エリザベスが抜け駆けをごまかそうとしたからで、アンジェラもそれに釣られただけだ。お酒も少し入ってたし。だけど、昨日の行動を見ると、もしかして好意があるんじゃないか、そう思えないふしもない。

ごまかすためにしても、好きでもない男のベッドに入ろうだなんて思わないものだが、そこまではマサルの頭が回らない。

「そうなのかな?どう思う?」

「一緒に寝たいっていうのは好きだからです。ティリカちゃんもそうでしたし」

そうなのか?

いや、待て。ここで調子に乗るとまたあれだ。お友達でいましょうコースになる。ここは慎重に事態を見極めないと。そんなことを考えてると、アンジェラが起きだした。ぱっと目を覚まして、起き上がる。

「おはよう、アンジェラ」

「あ……マサル……。お、おはよう。あ、あの。顔を洗ってくる!」

ばたばたとベッドから出て行く。その騒ぎでエリザベスも目を覚ます。

「んん……なによ……うるさいわね……」

寝返りをうとうとして、手をこちらのほうにもぞもぞと動かしてきた。あ、ちょっと、そこは!急いでエリザベスを叩き起こす。

「エリザベス、エリザベス!朝だ、起きろ」

「んー、もうちょっと……ナーニア……」

「ほら、おれはナーニアじゃないぞ。起きろ」

エリザベスが目を覚ました。まだぼんやりした顔をして、目が覚めきってはいないようだ。こちらの顔を見てぼーっとしている。

「おはよう、エリザベス」「おはようございます、エリザベス様」

エリザベスは伸びをして、ふぁああああと大きいあくびをし「おはよう」と言うと、もそもそと布団から這い出て部屋の外に出て行った。

「あー、おれたちも起きるか。ティリカちゃんも起こしておいてくれ」

「はい、マサル様」

ちょっと寝不足だった。女の子と寝るんだからもうちょっとこう、きゃっきゃうふふな展開があってもいいんじゃないだろうか。なに、あの緊張感。寝返りもうてないから体も痛いし、今日はもうゆっくりしたい……

朝食は最後のマヨネーズを使って卵サンドを作ってみた。あとは定番のスープとサラダ。マヨネーズまたサティに作ってもらわないとな。

朝食中、アンジェラはかなり気恥ずかしそうにしており、こちらをちらちら見ては目をそらしている。同衾って言っても5人もいたんだし、間に2人挟まって接触はまったくなかったんだが、それでも恥ずかしいのだろうか。なんかいつものアンジェラとイメージが違う。こうかわいさが3割増し?ナイフを手に刺したり、魔法を厳しく教えたりしなかったら、この子も文句のつけようないほどかわいい子なんだけどね。この感じをぜひ維持してもらいたい。

エリザベスはあんまり気にしてないようだ。サンドイッチを美味しそうに頬張っている。既に部屋着を着替えて黒ローブだ。昨日の部屋着、可愛かったんだけどな。強気な性格さえ無視すれば、頭をなでなでしたいくらい可愛いんだけどな。人の服装けなすくらいなら黒ローブなんとかすればいいのに。

朝食を食べるとアンジェラがすぐに出かけて行った。

「いい?わたしが戻ってくるまで絶対に、マサルに魔法を教えちゃだめだからね!」

「ティリカちゃんをギルドに送っていくけど、エリザベスはどうする?」

「そうね。わたし午前中は魔法の修行をしたいのだけれど」

「いや、アンジェラに怒られるだろう」

「違うわ!わたしのよ。ドラゴンのとき、いまいち活躍できなかったじゃない?新呪文を開発しようと思ってるのよ」

「へー、どんなの?」

「風の上位呪文よ。ウィンドストームを更に強力にするの」

エリザベスも努力してるんだな。

「それでマサルもついてこない?一人で町の外に出たらナーニアが怒るのよ」

「いいよ。じゃあとりあえずティリカちゃんを送っていくか」

町の外に行くので、おれとサティは装備を整える。サティが嬉しそうにティリカちゃんに装備を見せていた。エリザベスはもちろん黒ローブを装備済みでいつでも出発できる。

「それで指をやけどしちゃってさー」

「あはははは。馬鹿なことを考えるわね。でもそれじゃだめよ。距離が離れると魔法の効果が切れちゃうから」

最初の発想からだめだったのか。ナイフのときも的のすぐ近くで投げてたもんな。それならそうと教えてくれたらいいのに。

「忘れてたのよ。魔法を通す高価な金属ならたぶん距離は伸びるはずだけど、そんなのを使い捨ての矢にはできないしね。あとはそうね。風魔法なら、矢の初速を加速するのに使えるわ」

便利だな風魔法。飛べるしシールドもあるし、風と雷の2系統使えるし。

「そうよ。風魔法こそ魔法系統の中で最強なのよ!」

最強かどうかはわからんけど、攻防のバランスがよさそうな系統ではあるな。

ギルドにつき、ホールを抜け、奥のほうの部屋へと行く。ドレウィンの執務室のようなところだ。

「おお、マサル。ありがとうな。ティリカ、楽しかったか?そうか。よかったな」

「おねーちゃん、マサルありがとう。楽しかった」

「おねーちゃん?」

「うん、妹にしてもらった」

「わははははは。そりゃよかったな!いや、しかし妹か。ああ、すまん。笑って悪かったな」

「ティリカちゃん、またいつでも、その……」と、サティがこちらを見る。遊びに来てねって言いたかったのだろうが、さすがに奴隷の身分で言うのをためらわれたのだろう。

「そうだな。またいつでも遊びに来るといい。サティの妹なら、あの家はティリカの家も同然だ」

「うん。またいく」と、こくりとうなずくティリカちゃん。

別れを告げ、ギルドホールを抜けようとしたところで、チンピラ冒険者に絡まれた。ふわふわと歩いていたサティが冒険者にぶつかってしまったのだ。

「いてーなあ、このチビ。なんだあ?かわいい格好して。それで冒険者かあ?」

やばい。典型的なチンピラだ。すごい顔でこっちを威嚇してきてる。

「げひゃひゃひゃ、よく似合ってるじゃねーかよ。いっぱしの冒険者だなあ、おい」

確かにサティは子供が冒険者の格好をして遊んでるようにしか見えない。すごく勇気を出して助けようとしたところ、すいませんすいませんと謝った後、サティは特に臆することもなく、

「あ、似合ってます?ほんとうですか!」と、嬉しそうだ。きっとかわいいとか似合ってるって部分が嬉しくて他のことがどうでもよくなったんだろう。

「ん、ああ。まあ似合ってる……けど」

予想外な反応に毒気を抜かれるチンピラたち。見た目悪人で泣かそうって感じでサティを威嚇してたもんな。喜ばれるとは思わなかったろう。

騒ぎを聞きつけて他の冒険者達もやってきた。

「なんだ、おまえら。こんな子供達をいじめて」

サティも小さいが、おれとエリザベスも小さい。冒険者どもはどいつもこいつもでかいもんな。ちなみにエリザベスは難を避けるようにすぐにおれの後ろに隠れた。

「荒事は苦手なのよ。ギルドで魔法をぶっ放すわけにもいかないでしょ?」とのことである。エリザベスはその強気な性格が災いして何度かトラブルを起こし、最近は大人しくしてることを覚えたのだそうだ。ギルドで魔法をぶっ放そうものなら、たちまち捕まって説教をくらい、罰金を取られる。経験者は語る。こいつらにはムカッと来たが、わたしが出て行くと、確実にトラブルが拡大する。何度も経験があるからわかる。

「いえ、いじめられてなんかいませんよ。この人たち、似合ってるって褒めてくれたんです」

なんてポジティブなんだ。

幼少の頃より、この役立たず!無駄飯食らい!邪魔なんだよ!といじめられてきたサティにとって、この程度いじめでもなんでもない。ちょっとどすの利いた声で話かけられただけだ。さらに、今まで目が悪かったサティには人の表情が理解しにくい。威嚇されてるとわからないのである。

「エエソウデスネ、ニアッテマスヨ?」と、チンピラ。

「ああ、確かにかわいいな。似合ってる」「かわいいかわいい」と、集まった冒険者達は口々にサティを褒める。喜ぶサティ。

「ありがとうございます!わたし、昨日冒険者になったばかりのサティです。みなさんよろしくお願いしますね」と、満面の笑顔でぺこりと頭を下げる。

「サティちゃんって言うのか!」「礼儀正しいな」「かわいいかわいい」

大人気である。サティ神経図太いなー。もっと小動物みたいな感じかと思ったのに。

冒険者の一人が気配を殺していたおれに気がついた。

「お。野ウサギハンターじゃねーか。おめーら、こいつはドラゴンスレイヤーだぞ」

「え、こんなガキが?」

「優秀な火メイジだそうだぜ。怒らせたらおめーらごとき消し炭にされちまうぞ?」

いやいや、消し炭とかどんだけ凶悪なんだ、おれ。出来ないこともないけど。チンピラ2人はドラゴンスレイヤーと聞いてちょっとびびったようだ。ちなみに別に討伐に参加した全員がドラゴンスレイヤーの称号を名乗れるってわけじゃない。クルックやシルバー、あまり活躍しなかった人たちは名乗ることはない。

冒険者の集まる酒場などがあって、そういう情報はやり取りされている。調査隊がドラゴンを討伐して帰ってきたという情報は、もちろん即座に噂になった。マサルは酒はあまり飲まないし、ごつい冒険者が集う場所などにはなるべく近寄らないようにしているので情報には疎い。

「え、あの……」

「ああ、いやいや。うちのサティがぶつかっちゃって、すいません」

「あ、ああ、うん。全然なんともないよ」

「ほら、サティ行くぞ」と、サティを引っ張ってギルドを後にする。

ギルドを離れ、ほーっと息を吐く。おれ一人のときは隠密で気配を殺しつつ行動して、ああいうのには全く絡まれなかったけど、やっぱいるもんなんだな。ちょっと注意しようかとも思ったが、ご機嫌なサティを見てやめておいた。まあ自分で事態を収拾したし。サティは案外大物かもしれん。

エリザベスはさっきのことで、何か思うところでもあったんだろう。なにやらぶつぶつ言っている。

「わたしだって、ああいうかわいい感じにすればきっと……」

エリザベスはまず、その黒ローブを何とかしような、とは思ったけど言わないでおいた。

町の外にでる。

「で、どうするの?」

「それを考えてるのよ」と、エリザベス。

「本当はメガサンダーをもっと強力にしたいんだけど、魔力が足りなくて」

だから風系を強化しようと。

メガサンダー撃った後、ぜぇぜぇ言ってたものな。

「魔力を増やす方法はないの?」

「地道な修練か、あとは魔境の奥に超魔力水が出る泉があって、それを飲めば魔力が増えるって言われてるわ」

超魔力水ってうさんくさいな。

「勇者の仲間の風メイジがそうやってパワーアップしたのよ!」

物語の知識かよ!しかも何百年前の話だろ!

「どっちも今できることじゃないな」

ちょっと考えてみる。威力を増やすんじゃなく、数を増やしてみればどうだろう。

【火壁】をまず見せる。

「ファイアーウォールね。これがどうかしたの?」

「うん、一本だとこの程度。だけど、複数にしてみればどうか」

そして、【火嵐】を詠唱。発動。ゴウッと火柱が数本あがる。火柱があたりを焼け野原に変えていく。火壁はただ燃えるだけで、こっちは火柱が回転しつつ動きまわるので、だいぶ違うがまあいいだろう。

「ふおおおおお」

驚いてる驚いてる。おれも最初見たときは驚いた。

「すごいの持ってるじゃない。ちょっと驚いたわ。でもなんでこの前のときには使わなかったの」

「森でこんなの使ったら森林火災になっちゃうだろ」

「それもそうね。でも複数か……」

腕を組み考えるエリザベス。

「そうね、こんな感じかしら」

詠唱をしていく。今回は呪文はないようだ。

「サンダー!!」

メガサンダーよりずいぶん細いが、雷が2本、草原に落下した。

「いけそうね」

「サンダー格好いいなー。おれも覚えたい」

そうでしょう、そうでしょうとエリザベスはドヤ顔である。

「これを10本くらい全身に撃ち込めば、あのドラゴンも止まったかしら」

あの時は頭に直撃だったから。体に当てれば止まったかもしれない。

「20くらい撃てばばっちりじゃないか」

「20って……まあこの呪文はサンダーレインと名づけましょう」

レインってもまだ2本だけどなー、とエリザベスにマギ茶を差し出しながら思う。

「あら、ありがとう。気が利くわね」

ふと、増やすのじゃなくて一本にしてみたらどうだろうと思った。火嵐の火柱を一本にまとめる。

「おれもちょっと試したいことがある」

火嵐の魔力をそのままに、一点に集中する。うむ、イメージはそんな感じか。初めての呪文だし、威力も高いので慎重に頭の中でイメージを固める。

詠唱開始。魔力を込めていく。イメージ。イメージ。詠唱完了。発動する。

ドウン!という音と共に、巨大な火柱が天高く立ち上る。20mか、もっと高いかもしれない。そして数秒、火柱は持続すると、すっと消えていった。なんか思ってたよりでかいぞ!?

「なんだかあれね。使い道の狭そうな呪文ね」

おれもそう思う。ドラゴンにぶつけるなら大爆破でもいいわけで、存在意義を問われる呪文だな。まあ派手なので威嚇くらいには使えるだろうが。素人が考えても新呪文なんてそう簡単にできないもんだな。この呪文はとりあえず【豪火】と名付けておこうか。

「特訓を続けるわよ!」

そして調子こいたエリザベスが、サンダーを7本にまで増やしたところでぶっ倒れた。

「しっかりしろ!ほら濃縮マギ茶だ!」

「うっ、ぶほっ、げふぉっ、げふぉっ」

しまった、急に飲ませたんで咳き込んだ!?しっかりしろ、死ぬな、エリザベース!

「死なないわよ!」

ぽかりと殴られた。

町に帰ると、門番の兵士に怒られた。

「火柱がここまで見えてたぞ。魔法の練習するならもっと遠くでしろと言っただろう」

ごめんなさい。