軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

27話 ブートキャンプ再び

軍曹どの、おれはいま、家の庭で、2人の鬼教官にしごかれてるわけでして。お願いです。助けてください。

まず、2人のどちらが先に教えるかで揉めた。じゃんけんでようやく決まる。

そして、言うとおりに魔法を撃っていく。当然そんなにすぐには上手くいかない。罵倒が飛んでくる。なんでできないの!ちゃんというとおりにやりなさいよ!

魔法を一発撃つと教官が交代する。魔法を撃つ。怒られる。罵倒される。交互に来るのである。そんなプレッシャーのなか、上手く行くはずもなく、最初はそれほど厳しくなかった鬼教官2人も、どんどんヒートアップしていく。

ああ、軍曹どの。思えば軍曹どのの訓練がどんなにやさしかったことか。この2人は鬼です……

初心者講習会は少しくらいは休憩できた。だが、おれの魔力が膨大なのをいい事に、2人は容赦なく攻め立ててくる。もうやめてください。泣いてる子もいるんですよ!

2時間後、プリンができたと呼びに来たサティによってようやく解放された。一時的に。おれはぐったりと地面に座り込んでいた。

「あの、大丈夫ですか。マサル様?」

ああ、サティ。君だけだよ、おれのことをこんなに心配してくれるのは。

サティに連れられ、家に戻る。サティに指示をしてプリンを出し、カラメルをかける。

「あら?さっきのと違うのね。この黒いのは何かしら」「カラメルっていうの?」「おいしいです!」「……」

このプリンを食べ終えたときが終わりだ。ポイントを使おうか?だが、ポイントを使って「いやー、師匠たちのおかげで魔法を覚えられました!」なんて言った日にはティリカちゃんから「ギルティ」の声を食らうだろう。それにスキルのことが知られる可能性があるのは色々とまずい。

「美味しかったわ」「ありがとう」と口々に礼をいい、食べ終えて庭に行こうと立ち上がる2人を止める。まだだ。まだ持ち弾はつきてない!バケツプリンを取り出す。見ている前で巨大なバケツプリンを大皿に取り出し、カラメルをかける。おー、と歓声があがる。さあ、食うがいい!これを食いきるのは時間がかかるだろう。どうせならどちらかが食いすぎで倒れてくれないものか。

だが現実は非情である。死刑執行の時間が引き延ばされただけだった。

「あの、ティリカちゃん。ギルドには戻らなくていいの?」

「いい。サティと遊ぶ」

どうやら年少組の2人は仲良くなっていたようだ。何故この2人はこれができないのか。何故人は争うのか。

この2人がもし子供の手を引っ張りあう母親だったら。子供が泣いても引くのをやめず、腕がひっこぬけるだろう。この戦いに果たして勝者がいるのだろうか。少なくともそれはおれじゃない……

数時間後、夕飯の準備があるからとサティが呼びにきて、やっと開放された。ぐったりとしたおれを見て、2人はようやく状況に気がついたようだ。

「あ、あの、ちょっとやりすぎちゃったかも」「そ、そうね。ちょっと厳しすぎたかもしれないわね」

ああ、もっと前に気がついて欲しかったよ……

夕食はサティにぶん投げた。だってつらかったんだもん。後ろでの指示はしたけどね。そしてなぜかティリカちゃんが、あまり手伝いになっていない手伝いをしていた。2人で料理をしながらきゃっきゃしている。主にサティが。ティリカちゃんはまじめな顔をしてそんなに楽しそうにも見えないんだけど、自主的にやってるんだからきっと楽しいんだろうな。

夕食のメニューはパンにサラダに、トマト風味のスープ。ステーキ。そしてリクエストがあったから揚げである。もちろんドラゴン肉をふんだんに使っている。スープは昼のにトマトを加えたくらいで同じだし、昼とラインナップがかぶりまくってるが、みなの評判はすごくよかった。疲れてるところに、新しいレシピ考えるのはきつかったんだよ!

昼間より大量に作って、さすがにこれなら余るだろうと思ったが、そんなこともなかった。そういえば、昼はサティが食い足りなさそうにしていたな。山のように積んだから揚げは全て食べつくされてしまった。太るよ、君たち……

夕食準備中ちょっと嫌味を言ってみた。どうしてあの2人みたいに仲良くできないのか。見習うといい。さすがに悪いと思ったのか、しきりに謝ってくる2人。

「ごめん、つい熱が入っちゃって。怒ってない?そう?ほんとにごめんね」

「ちょっと、やりすぎかなーと思ったけど、あれはマサルのために厳しくしたんであって……その、悪かったと、ちょっとは……」

反省してるようなので、許すことにした。美人と美少女がしおらしい感じで上目遣いで謝罪してくるのだ。いやいや、もういいよ。もうあんなことはしないでね?とどさくさにまぎれて肩とかをぽんぽん叩きながらにっこりと許すと、2人ともほっと安心して笑顔になった。うん、こういうのがいいんだよ。もう鬼教官とかはこりごりだ。

夕食後、ティリカちゃんにギルドに戻るかと聞くと、泊まっていくという。

「ドレウィンは泊まっていってもいいって言った。今日はサティと一緒にねる」

「うん、じゃあ泊まっていくといい。サティ、ちゃんと面倒を見てあげるんだぞ」

「はい、マサル様!」

すっかり仲良しだな。サティも嬉しそうだ。よし、これで今日の危機は回避されたんじゃないか?さすがに人が泊まってるのに、いたしたいとは言わないだろう。ついでにアンジェラとエリザベスにも泊まって行く?と聞いてみた。本当に、つい聞いてみただけなんだ。2人とも泊まるって言い出すとは思わないじゃないか。

マサルは社交辞令的に言ってみたのだが、この世界、ホテルや宿がどこにでもあるわけでもなく、田舎などに行けば誰かの家に泊めてもらうのはごく普通の行為である。ましてや2人は魔法の師匠。ちょうど職人の親方と弟子くらいの関係くらいだろうか。マサルなどはさっさと回復魔法を覚えたが、普通は半年や1年は指導をすることになるのである。師匠の権力は絶大なのだ。指導が容赦なく厳しかったのもそのあたりも関係している。

それに普通は無償で魔法を教えてくれるなんてほとんどない。アンジェラに回復魔法を教えてもらったときみたいにお金を払うか、弟子入りするのが通常である。ちなみにアンジェラに払った3500ゴルドもずいぶん安いほうだった。普通のところでお金を出して習おうとするなら日本で大学に入るくらいのお金は必要になってくるだろう。

「そうね。ここの食事は宿より美味しかったし、朝も出してくれるんでしょう?わたしは泊まって行くことにするわ」

それに依頼の間はマサルとはずっと一緒だったしね、とわざわざ付け加える。もちろん別のテントだったし、一緒に寝たような事実は全くない。そしてアンジェラのほうを見て、あんたは帰りなさいと言いたげに見る。食事中は和気藹々としていたから仲直りしたのかと思ったが、気のせいだったようだ。

「わ、わたしも。わたしも泊まるわよ!」

なにかそういうことになってしまった。どういう状況なんだ、これ?

アンジェラは一度戻ってお泊りの用意をするようだ。エリザベスは着替えとかも持ってきているという。ティリカちゃんはサティのを貸せばいいか。

お風呂を新しくいれて、みんなで入ることにした。まずはティリカちゃんとサティ。次にエリザベス。エリザベスが入ってるうちにアンジェラが帰ってきたので、アンジェラに次にはいってもらった。最後におれが入る。もちろん、サティにはティリカちゃんの面倒を見ておけ。今日は一人で入りたい気分だと言って一人ではいったよ。でもあの4人の残り湯……ちょっと興奮したのは仕方ないよね!

おれが風呂に入ってるうちにナーニアさんが来た。

扉がコンコンと叩かれる。

「こんばんわ。ナーニアです。エリーこっちにきてませんか?」

「誰か来た?お客?」

サティが玄関に行こうとしたが、立ち止まって言う。

「はい。ナーニアという方が、エリーこっちにきてませんかって言ってます」

「あら、じゃあわたしね」と、エリザベスが玄関に行く。

「え、今日は泊まっていくんですか?エリーだけで?」

男性と2人切りで?危なくないだろうか。

「ほら、あの子たちも一緒よ」と、奥をのぞかせてもらう。少し挨拶をする。女の子が3人。なるほどお泊り会みたいなものだろうか。大きい子もいたし、これなら問題ないか。

「ナーニアも泊まっていく?」

「いえ、邪魔をしては悪いですし」と、ナーニアさんは帰っていったそうだ。

そして、風呂からあがってくつろいでいると、ドレウィンもやってきた。

「なんかサティと仲良くなったみたいで。今日はサティと一緒に寝るんだって言ってますよ」

「そうかそうか。んじゃよろしく頼むわ。明日は朝から仕事があるから、ギルドに必ず送ってきてくれよ。そんなに朝早くはなくてもいいから。ティリカ、朝は弱いからな」

「はい。ちゃんと送っていきます」と、約束するとドレウィンも帰っていった。

居間でお風呂上りにドレウィンが持ってきたお酒を出してみた。20年物の上等なやつだ。ティリカとサティには果物を。お酒はまだ早いからね。

何故かおれは、ソファーでアンジェラとエリザベスの2人に挟まれて座っている。しかもぴったりくっついて。風呂上りで部屋着の2人は大層色っぽい。さすがにエリザベスも黒ローブは脱いで普通の服だ。初めて見る、ローブ以外の服装はとてもかわいくて新鮮だ。アンジェラも無駄に成長した胸をこれでもかと見せつけてくる。いや、別にほんとうに見せつけてきてるわけじゃないんだけどね。でも隣にあるだけですごく気になるんだよ!

3人で座ってお酒をのみながら取りとめのない話をした。今日の料理のこととか、森の調査のこととか。ティリカちゃんとサティは2人で仲良く果物を食べている。

「こうして見ると姉妹みたいね」「そうね、名前も似てるし」

それを聞いて、「わたしがおねーちゃん」と、ティリカちゃんが言う。

「わたしのほうがおねーちゃんじゃないですか?」

うん。サティのが少し大きいね。

「じゃあわたしが妹でいい、おねーちゃん」「なあにティリカちゃん」「おねーちゃん」「ティリカちゃん」「おねーちゃん」「ティリカちゃん!」「おねーちゃん」

いつまでやるの、それ?

部屋割りは少し揉めたが、大部屋がおれ、小部屋2個がアンジェラとエリザベス。居間の床に布団を敷いて、ティリカちゃんとサティが寝ることになった。2人にベッドを譲るといったのだが、サティが頑として断り、ティリカちゃんはサティと寝れればどこでもいいと。サティはおれと一緒に寝るといったが却下した。もれなくティリカちゃんもついてきちゃうし。エリザベスとアンジェラが一緒に寝て、ティリカとサティにもベッドでいいのではと提案してみたら、すごい勢いで反対された。君ら、いい加減仲良くしなさいよ。

日誌を書いたあと、ベッドで本を読んでいると、サティがティリカちゃんを連れてやってきた。

「あの、マサル様、お話が……」

「うん、どうしたの?」

ベッドに3人で腰掛ける。

「わたしの目、まだ治ってないんですか?」

「え?どうして?」

鷹の目じゃ不十分だったのか?

「昼間にマサル様たちが話してるのを聞いて……」

ああ、あれを聞かれてたのか。かなり小さい声でしゃべってたのに、ほんとに耳がいいな。

「それに気を抜くと、視界がぼやっとするんです。以前みたいに」

なるほど。鷹の目は常時発動ってわけじゃないのか。任意発動なら気を抜けば効果が消えるよな。

「わたしの目、また見えなくなっちゃうんでしょうか?」

「いやいや、大丈夫だよ。確かに目は治ってないんだけど、魔法みたいなもので目が見えるようにしてあるんだよ。ちょっと説明が難しかったんで治ったって言ったけど。効果が切れることはないから、ずっと目は見えるよ。大丈夫」

「本当に?ありがとうございます、マサル様!」

そう言ってきゅっと抱きついてきた。抱きしめて頭をなでてやる。うん、ほんとにかわいいな、サティは。目のことは絶対になんとかしてやろう。回復魔法を4か5にあげればきっと治るさ。

「マサル」と、ティリカちゃん。

「ん?」

「マサルはいい人。おねーちゃんを助けてくれてありがとう」

それを聞いて、サティはおれから離れ、ティリカちゃんをぎゅっと抱きしめた。

「うん」

うん、ティリカちゃんもいい子だな。

この2人、おれが鬼教官達にいじめられてる間に、お互いの不幸な境遇について語りあっていたんだという。それであっという間に仲良くなったと。ティリカちゃんの不幸については聞けなかったけど。

「あの、今日はやっぱり一緒に寝てもいいですか?」

目をうるうるさせて訊いてくる。ここまで来て追い出すなんて鬼畜なことができるはずもない。

「一緒に寝るだけだよ。寝るだけだからね」

「はい!」

ティリカちゃんはというと。サティがいればどこでもいいそうだ。本当に仲がいいね。

おれ達3人はサティを挟んで川の字で寝た。サティがぴったりくっついてきたので、なかなか寝付けなかった。

やっと寝れるか?と思った頃、次のイベントがやってきた。

「マサル?入るわよ」と、返事も待たずにエリザベスが入ってきた。

こちらを見て固まる。

「なんで一緒に寝てるの?」

「いや、なんでと言われましても」

サティとティリカちゃんはぐっすりと寝ている。

そこにさらにアンジェラが来た。

「扉が開く音がしたんで見にきたら。エリザベス、抜け駆けする気だったわね!?」

エリザベスはおろおろしてる。

「明日の午前中はわたしが見れないから、午後からだって決めたじゃないか!」

説明台詞ありがとう。ていうか、あれをまだやるつもりなのか。そしてエリザベス、抜け駆けして、夜中におれに魔法を仕込もうとしてたのか。勝つためには手段を選ばんな。

確かに午前中はしないと約束した。だが午後からと約束したわけじゃない。夜中なら?うん、これなら約束を破ったことにはならないわ。そう考えてきたのだが、さすがに気まずい。

「いや、あの……そのね。違うのよ」

「何が違うのよ」

「あの……そう。わたしもマサルと一緒に寝に来たのよ!」と、おれのほうを指さしながら言う。それを見て、アンジェラもようやく3人が一緒に寝ているのに気がついた。こっちを見て、何かいいそうになったが、とりあえずはエリザベスを攻撃することに決めたようだ。

「あのベッドに4人もきついわよ」

「寝れるわよ。待ってなさい」と、部屋を出て、ベッドをレヴィテーションで運んで持ってきやがった。そして2つのベッドをくっつける。

「これで大丈夫よ!さあ、わたしはマサルと寝るんだから、アンジェラはもう出て行きなさいよ」

力技で抜け駆けの事実をうやむやにしようとするエリザベス。おれの意思を無視して事態は進む。あの、一言くらいおれにあってもいいんじゃないですか。

「わ、わたしも……。その……」

アンジェラがもじもじしながら言う。

「その、何よ?」と、仁王立ちし腕を組みながら、用がないなら出て行きなさいといいたげなエリザベス。

「わたしも一緒に寝るわ!」

どうしてこうなった。どうしてこうなった?

5人で寝ることになった。あの騒ぎでもサティとティリカちゃんの2人はぐっすりだ。エリザベスはおれの横。アンジェラはサティとティリカちゃんを挟んだ向こうになった。さすがにエリザベスはくっついてはこないが、肩はあたっている。横を向けばエリザベスの顔が近くにあって、向こうもこっちが気になるのか、時々目があってしまう。アンジェラをサティの頭越しに見ると、そっちは完全にこっちに顔を向けて寝ている。おれは目を瞑り、心を無にして寝るしかなかった……