軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

29話 騎士とお姫様の物語

帰りに商店街で食材を購入して帰る。昨日はあいつらに食い尽くされてかなり消耗したことだし。卵に砂糖に、馬乳。他にも色々買い込む。食器類も増やしておく。

サティにお小遣いを渡し、好きなものを買っていいと言うとすごく喜んで商店街を見てまわった。このあとたっぷり労働してもらうことになるからな。報酬の先渡しだ。

サティは甘いパンのようなものに、果物をいくつか買っていた。この匂い、この前飲んだジュースか。よっぽど気に入ったんだな。その場で1個味見してみると、美味しかったので大量に買っておいた。

帰りに服屋にも寄った。サティの服が古着で買ったものだけだったので、追加したかったのだ。メイド服とか売ってないだろうか。きっと似合うと思う。それにエリザベスからも、同じ服なのを見咎められた。ここ数日、町ですごして普段着でいる時間が長くなっている。毎度毎度、黒ローブのお前が言うなとは思うんだが、言ってることは妥当だと思ったので、自分の分の服も購入することにした。

サティとエリザベスは2人であーだこーだと服を選び中である。まあエリザベスはセンスは悪くないみたいだから、任せとけば間違いないだろう。おれはと言うと、すでに数着購入済みですることもない。暇そうにしていると、エリザベスに髪を切ってきなさいと、数軒隣の床屋へと送り出された。確かに少し前髪が邪魔になってきてる。

床屋は丸椅子が置いてるだけの簡素な店で、髭で角刈りな渋めのおっちゃんが出迎えてくれた。

椅子に座り、「短く」とだけ告げると、ちゃきちゃき切っていってくれる。おっちゃんは黙々と髪を切る。やはり散髪はこうじゃないとな。ぺらぺらしゃべりかけてくるようなところはとても苦手だ。日本にいた時通っていたところも、「いつもの」というだけで手早く切ってくれてとても楽だった。ほどなく終わり、頭がさっぱりする。手鏡を見せてもらい、少しうなずく。それで終わりだ。髪の毛を払ってもらい、お金を払い店を出る。うん、いい店だな。次もまたここでやってもらおう。

服屋に行くと、ようやく選び終わったようで、両手に服を乗せられる。なんかぴらぴらのフリルがついたのもあるぞ。サティに着てもらうのが楽しみになってきた。数も多く、値段もそれなりにしたが。

帰ったらマヨネーズ作りである。エリザベスは今日もから揚げをご所望だ。もちろんタルタルソースもつけて。いつになったら宿に帰るのだろうか。いて当然という顔をして、我が物顔で我が家に居座っている。部屋ではさすがにフードはしてないものの、ずっと黒ローブだし、せめてもうちょっと普通の格好をしてくれれば、家の中も華やいですごく歓迎できる気分になると思うんだが。

「さて、サティよ」

「はい?マサル様」

「マヨネーズ作りだ」

「!」

「マヨネーズ。食べたいだろう?」

「食べたいです……」

「だったらわかるな?」

「はい……マサル様」

「なあに大丈夫だ。2人でやろう。協力すればすぐに出来るさ」

「はい!マサル様!」

大きなボールにいっぱいのマヨネーズを作るのはとても重労働だ。混ぜる混ぜる、ひたすらかき混ぜる。油を少しずつ加えてしっかり混ぜないと油が分離してちゃんとしたマヨネーズができないのだ。サティと交代でがしがしと混ぜていく。エリザベスにもやらせてみたんだが、即座に放り出した。

ようやく大量のマヨネーズが完成した。これで何日持つだろうか。昨日より作ったとは言え、こいつらはよく食う。毎回この作業はやってられないな。どこかに頼んで作ってもらうか?あ、子供達にやらせるか!アンジェラに頼んでみよう。子供を動員して大量生産をして、あとはアイテムにしまっておけばいい。うん、実にいい考えだ。

ちょっと暇になった。昼までには時間があるし、どこか行きたいところがあるわけでもない。エリザベスは居間のソファーでうつらうつらしている。魔力切れで眠くなったんだろう。サティは二階の掃除中だ。

昨日買ってきた本を取り出す。勇者の物語のほうは最初の部分を読んでみたが、なんか文章が古風でとっつきにくい感じだった。何百年前の話なんで仕方ないんだろう。もう1冊の絵本のほうを開く。

ある若い騎士がお姫様と恋に落ちる。だが身分違いだとして城を追われてしまう。失意の騎士は放浪の旅に出て、モンスターの罠にかかっている人々に出会う。機転を利かし、罠を打ち破り、モンスターを退治する。助けた中の一人はこの地方の領主だった。騎士を気にいった領主は彼を自分の跡取りにし、騎士はお姫様を迎えに行き、結ばれる。めでたしめでたし。

10分で読み終わっちゃったよ。まあ絵本だし仕方ないんだけど。

絵本を置いて、勇者の物語を読んでいるとサティが二階から降りてきた。

「掃除終った?」

「はい」

「じゃあこっちに来て」と、椅子に座らせる。はい、これと絵本を渡す。

「サティのために本を買ってきたんだ。読み書きを習ってみないか?」

「習いたいです!」

本を手に持って、目をキラキラさせている。料理を教えたとき並の食いつきようだな。とりあえずは読み聞かせでもしてみようか。

椅子を2つ並べてくっついて座る。教科書を忘れて女の子に見せてもらった小学生の頃を思い出すな。あの頃は普通にそういうイベントがあったんだよ。当時はあまり気にもとめなかったが、今ならどれだけ貴重なイベントだったかわかる。

絵本を開いて、文章を指差しながらゆっくりと読みすすめていく。サティは真剣な顔をして聞いている。身を乗り出し気味でぐいぐい体を押し付けてくる。うん、これは勉強を教えてるだけ。やましい気持ちはないのだ。別にすぐそばにあるサティの髪の匂いをくんかくんかなんかしてない。普通に呼吸しているだけだよ?でもなんでこんなにいい匂いがするんだろうな。同じ石鹸使ってるはずなのに……

読み終わって、サティははぁーとため息をついている。

「面白かった?」

「はい、あの、お姫様が素敵でした」と、最後の結婚式の絵を見ながら言う。うん、お姫様は絵師の人も力いれたんだろうな。すごくきれいにかけている。

「じゃあその本はサティにあげるから。読み書きの勉強はゆっくりとやっていこう」

「はい、ありがとうございます。マサル様!」

しかし問題があった。文字は読めるし、単語も問題ない。しかし文字の並びがわからないのだ。50音のあいうえおやアルファベットのABCDEFGと言ったあれだ。数字なら間違いなく順番は同じだが、50音とかあいうえおの他に、いろはなんてのもあるからな。そういう情報はスキルに含まれていないんだろう。普段はなくても困らない情報だったが、サティに教えようとして発覚した。サティの前で醜態を晒すわけにもいかない。おれはサティに料理の準備を任せると、ぐーすか寝ているエリザベスを起こしにいった。

「あんた、そんなことも知らないの?」と馬鹿にされた。

「うん、読み書きは我流で覚えてね。サティに教えようと思ったんだけど知らないのに気がついたんだ」

エリザベスにノートとペンを渡し、書いていってもらう。ふんふん、そういう並び順か。エリザベス字がきれいだな。すぐに書き終わってノートを返してもらう。

「ありがとう。助かったよ」

「どういたしまして。ところで今日はプリンはあるのかしら?」

「うん、ちゃんと作った。今のお礼に2個食べていいよ」

「あら、悪いわね」と、エリザベスはにっこり笑った。

お昼のメニューは、パンにスープ、から揚げ、それにパスタとソースで焼きそばっぽい何かを作った。ちょっとソースの味が違うが焼きそばと言い張れないこともない。次はお好み焼きでも試してみるか。

食後にアンジェラがやってきたのでみんなでプリンを食べる。

「ええ、いいわよ。明日の午後に子供達をつれて来てあげる。何人くらいがいい?5人ね。わかった」

これでマヨネーズは大丈夫だな。量産用に食材もたっぷり仕入れておこう。

プリンを食べ終わったあと、エリザベスがアンジェラのほうを見て突然言う。

「今日の昼もから揚げだったわよ。野ウサギの肉でね。美味しかったわあ」

「!?」

悔しがるアンジェラを見て、ふふふふんと嬉しそうなエリザベス。おれがアンジェラに依頼してるのを聞いて、また対抗心が出てきたんだろうか。相変わらず仲が悪いな、こいつら。

「晩も作るからさ。アンジェラも食べていくでしょ」

「う、うん。ならお呼ばれしようかな」

「でも2日連続で抜けてきて大丈夫なの?」

「うん、頼んだらなんか、司祭様が行ってきなさいって」

実はアンジェラちゃんに春が来た!と神殿メンバーは応援態勢である。マサルはなかなかに優秀なメイジで有望物件だ。うまくいくように応援しよう。ついでにマサルが神殿に来てくれないものか。マサル殿に魔法を教えに?ぜひ行ってきなさい。彼には色々お世話になってるでしょう。二つ返事である。

ちょっと神官にしては生臭いと思うが、これには理由がある。この世界の宗教はすこし地球のとは趣が違う。いるかいないか、わからない神に祈るのではない。本当に神がいて、神託が下る。数千年前の聖人の残した教義みたいな、年月とともにあやふやになるような不安定なものではない。神の神託に従って、モンスターと戦い、人々を助けるのが存在理由である。だから教義のようなものはあるが、現場は実際的で融通がきくのだ。清貧を重んずるようなところがあって、一夫一婦が望ましいとされるが、別に守らなければ破門というわけでもないのだ。ないのだ!

「じゃあやるわよ!」

「ほんとにやるの?昨日みたいなのは嫌だよ」

「大丈夫だって。優しくするから」

「そうそう、安心して任せておきなさい」

逃げるわけにもいかないから大人しくついていく。今日も昨日みたいだったら即ポイントを使おう。ティリカちゃんもいないことだし。

だが、2人は優しかった。昨日のはなんだったの。ねえ。あんなに厳しくする必要があったの?馬鹿なの?死ぬの?と思ったほどである。

「そう。こんな感じでね。魔力をしっかり集中して。うん、上手いじゃない」

「ちゃんと呪文は叫ばないとダメよ。威力が2割増しになるんだから」

「はっ。まだそんなこと言ってるの?そんなの言ってるの一部の人たちだけじゃない。マサル、別に呪文は口にだす必要はないの。要は魔力をどれだけ集中させるかなんだから」

「そんなことないわ!これは証明された理論なのよ!マサル、ちゃんと呪文は口に出すのよ」

どうやら2割増しうんぬんはエリザベスの習った独自の流派のようである。おれとしてはアンジェラの理論を押したい。叫んで2割っていうのは、気合をいれて2割増しで魔力をぶちこんでいるってことなのだろう。そういう意味ではエリザベスも間違ってはいないが。

2人は喧嘩ばかりだがおれに対しては優しくなった。時々エリザベスが暴言を吐きそうになるが、アンジェラに嫌味を言われるのでよく抑えている。

そして午後も半ば、ウォーターボールの魔法が成功した。ちゃんと水魔法Lv1がついている。

「わたしの勝ちね!」

「うぐっ」

「まあ水魔法のほうが先に習ってたしねえ」

「そ、そうよ!そんなのずるいわ!今日中に風魔法も覚えたら勝負は引き分けよ!」

「何言ってんのよ……」と、アンジェラはあきれ顔である。

さすがに夜中に出し抜こうとしたり、往生際も悪い。

「今日中に覚えたら引き分けよ!」と、必死である。そこまで勝負にこだわる必要はあるんだろうか。おれ、覚えられたらそれでいいんだけど……

「はいはい、夕食までに覚えられたら引き分けでいいわよ」

アンジェラは微妙に条件を厳しくしてきた。

「わ、わかったわ。それでいい。マサル、急ぐわよ!なんとしても夕食までに覚えなさい!」

「あらあら。あんまり厳しくしちゃだめよ?優しくするって言ったじゃないか」

「わかってるわよ!さあ、やりましょうかマサル」

ちょっと笑顔が引きつってますよ、エリザベスさん。

「あの、そろそろ夕食の……」「延長よ!夕食は少し待ってなさい」

3度にわたる延長で夕食は日没後まで遅らされ、おれはなんとか風魔法を習得した。

エリザベスは大喜びで、おれは燃え尽きていた。