軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

283話 ミレニアム・プロジェクト その2

「エルフの里の危機にヒラギス陥落。近年、人族は魔物に押されているのが現状で、俺はその状況を是正するために神に遣わされた」

そう何事もなかったように話し始める。世界が滅びるとかの話はできないし、神との契約の話も判断は保留だ。

「俺が教えた城壁強化法で城壁の強度は三倍になった。君たちエルフが提供してくれる魔力開発法も大きな力となるだろう。つまるところ知識は力となる。諸君にはこれから新しい知識、新しい技術を身に付けてもらう」

そう言って壇上から聴衆を見回す。多くのエルフたちに、最前列に俺の関係者、嫁たちに獣人たち。人数は絞ってもらったがそれでも大きなホールで声を届かせるのに、かなり大きな声を絞り出す必要がある。

「しかしただ新しい知識と言っても漠然としすぎているから目標を設定した。月だ。俺たちは月へと行く。それが 千年計画(ミレニアム・プロジェクト) だ」

聴衆がざわつく。

「なぜ月なのか。どうやって月へと行くのか。その説明をしていこう。まずはこれが我々が暮らす大地、地球だ」

そう言って地球儀と小さな月を空中に浮かべる。

「エルフなら地平線を見たことがある者は多いだろう? あれは大地がこのような球形だからどこに行こうと弧を描いて見えるんだ。そして月も同じように球形で、地球の近くを回っている。近くと言っても結構な距離がある。このエルフの里から帝都まではおおよそ三八〇〇キロメルテってことにしようか。地球から月までの距離は三八万キロメルテ。ちょうど一〇〇倍だな。飛べる者なら知っているだろうが、上空に上がるにつれて空気が薄くなっていき、やがて完全に空気がなくなってしまう。空気が無い中、三十八万キロを踏破する。これだけの大事業が成せれば技術的な副産物は非常に多い」

もうすでによくわかってないという顔をしている者は多いが、今日はとりあえず話を進める。俺の発言は記録も取ってもらっているし、後でゆっくり話の内容を考えてもらえればいい。

「月は地球の周囲を回っている。そして地球は太陽の周囲を一年かけて回っている。この軌道が少し楕円になっているから夏と冬が発生するんだ」

聴衆の反応は気にしないで一気に話していく。

「太陽とは燃え盛る星だ。地球の一〇〇倍くらいのサイズがある。月は地球の四分の一くらいだな。星はでかい物の周囲を回る習性がある。我々の太陽の周りには地球の他にも八個か九個ほどの惑星が回っている。我々のこの地球もその中のひとつに過ぎない。そして太陽も銀河という巨大な天体系の周囲を回っている。夜空で光る星々はすべて他の太陽で、銀河にはおおよそ二〇〇〇億個の太陽がある」

銀河系が夜空に見える天の川で、銀河は宇宙全体で数千億個以上あるとの説明に至ると、事前にある程度の話を聞いていた者たちでさえ理解が遠く及ばないようだ。

「この世界は恐ろしく広いんだという理解をしてくれればいい。つまり魔物と領土を争わなくとも、宇宙に目を向ければとてつもなく広大な空間が広がっている。そこに到達するための最初の一歩が月ということだ」

ここから更に話は難解になっていく。これからする説明をもし理解できるなら、そいつは科学を習得するに相応しい頭脳を持っている。

「では我々の住む惑星、地球に話を戻そう。なぜ地球がこのように丸いのに我々は普通に立っていられるのか? それはすべての物質には引力があるからだ。物と物は引き寄せ合う。しかし小さい物、俺たちくらいのサイズだとその引き寄せる力はそよ風より弱く、感じることすらできない。この地球、直径が一二〇〇〇キロメルテもある巨大な物体だからこそ、我々を常にその中心部、つまり下へと引き寄せているんだ」

そう言って取り出した布を落とす。

「なぜ物がこうやって落ちるのか。それにもきちんとした理由と理論があるんだ。そして月は地球に引き寄せられ、地球は太陽に引き寄せられている。これを万有引力の法則。重力という」

正直どこまで正確かはわからない。なにせ俺の記憶だけが頼りだからだ。おそらく間違って部分はあるだろうし、正確さはさほど期待できないだろう。それでも何とかして説明して理解してもらう必要がある。

「ではなぜ引力があるのに月は地球に落ちてこないのか。それは非常に高速で動いているからだ。つまり落ちようとする力と離れようとする力が釣り合ってしまっているから、周回軌道になっているわけだ。太陽と地球も同じような関係だ。銀河の中心にも巨大な天体が存在し、その重力で太陽は銀河を周回している。なぜそんなことがわかるのか。それは長年の観測と計算、そして計算が観測と一致するかどうかの検証を何度も何度も繰り返し、正確な数字を導き出してきたからだ」

ここで重要になってくる物理学や数学の話はさすがにまた今度だな。そうしてここまでの話をおさらいする。地球と月、太陽。夜空の星。銀河。そして宇宙。

「それが我々の住む世界だ」

だからこそ月へ最初の一歩を踏み出し、宇宙へと手を伸ばさねばならない。そう締めくくる。

聴衆の反応は様々だ。ぽかんとしている者、理解しようと必死で頭を働かせている者、周囲の者と話あったり、俺へと何か聞こうしている者もいる。しかしまだ話は続く。

「では次に身近な話をしよう。この世界はそもそも何でできているか。たとえば水だ。水はどこまで分割できるのか? そしてどこまでが水と言えるのか?」

分割していくとたどり着くのは分子、そしてそれを構成する原子。さらに原子は陽子と中性子、電子で構成され、その数によって物質の性質は決まる。そのことをなるべく噛み砕いて話していく。

説明も難しいが言葉の問題もある。この世界で対応する言葉がない場合は新しい言葉を作る必要がある。俺が今後のこの世界での物理学や科学の用語を決める。責任重大なんてもんじゃない。

「もう一度繰り返すが、この世界のすべての物質は原子であり、それを構成する陽子と中性子と電子で出来ている。水や空気、木や鉄、我々の体もすべてだ。それが重力を始めとするいくつかの力の影響を受けて存在している。だが周囲に目を向けてみればその構造は非常に複雑だ。それは水の一滴ですら原子や分子が数百、数万どころか、数億数兆という数が集まって構成されているからだ」

そうして世界を理解するには全体像だけなく、それを構成する物質への解明と理解が必要だと話していく。

「地球と月、太陽、宇宙、そしてそれを構成する物質。まずはそれを、俺の話が真実かどうかを君たちは確認する必要がある」

「真実ではないのか?」

どこからかそんな呟きが聞こえた。

「俺は俺の話が真実だとわかっているが、君たちは俺の話を聞いただけだし、俺がなぜそれが真実だと知ったのか。どうやってそれを知ることができるのかはまったく知らないだろう。だから俺の話を信用してもいいし、判断を一旦保留してもいいし、疑ってかかってもいい」

太陽や月、近場の惑星の動きは望遠鏡がいくつか完成すれば確認することができる。しかしその先は大変だろうし、そればかりやっていくわけにはいかない。

「宇宙や物質の話をされても、それが何になると思った者もいることだろう。だからもう少し実用的な話をしよう。まずはこれだ」

以前エリーに蒸気機関の説明をした時に作った実用模型だ。土魔法で作った器に水が入って、熱すると細い出口から蒸気が噴出し、そこに設置した風車が回転するのを実演する。

「小麦を砕くのに使われてる水車を知っているだろう? 蒸気でも同じことができる。つまり水と火があればどこでも水車のような力が得られるんだ。さらに想像してみてくれ。この風車が馬車の車輪なら?」

もちろんこの模型で馬車は動かせないが、もっと大きくて効率のいい蒸気機関を作ればいいだけだし、要は火の力を動力にしているだけで、火と水よりもっと効率のいい組み合わせもあると説明する。

「火力を使った動力は進歩すれば馬の数倍の速度が出るし、一度に運べる物も火力の強さに応じるから馬車一〇台分でも楽々運べる。しかもこいつは魔力を使わないから、火を維持できれば一日中でも動かすことができる。蒸気機関で馬の倍の速度が出る乗り物を作れれば、エルフの里と王国の首都は魔法がなくとも一日の距離となるだろうし、荷物も大量に運べるようになる」

全員が魔法が使えるエルフにしても王国首都まで一日で行くのは難しいし、荷物はほとんど運べない。

さらに人間だとエルフのように風精霊も持てないし、魔力も少ないのだ。

「動力のパワーが上がり、また小型化できて持ち運べるくらいになれば、色々な力仕事を代用できる。二四時間疲れ知らずの動力だ。使い道は多い」

発電にも必要だし、動力源の開発が最初の仕事だな。

「さて、蒸気での動力を開発して首都とエルフの里が一日で結ばれたとする。何か緊急の連絡がしたい。しかしそれでも一日かかる。これをどうにかしたい」

そう言ってライトの魔法を発動させ、消したり付けたりする。

「これが光を使った通信だ。昼でも数十キロメルテ、光は視認することができる。そして符号を決めておけば会話すら可能だ」

そう言ってモールス信号の概念を説明していく。モールス信号自体は覚えていないが、どのみちこちらの言語にカスタマイズする必要があるから誰かに新しく考えてもらえばいいだろう。

「これで長距離の通信が可能になったとはいえ、数十キロメルテ置きに信号の受け渡しをする人員を置くのは大変だ。もっと楽な方法がほしい」

そう言って今度は鉄の針金を取り出して見せる。

「雷、電気は鉄や銅を通る。そしてそれは光のように一瞬で届く。こいつを数十キロメルテ、数千キロメルテの長さで設置してやればいい。そうして符号、信号を送って通信を実現する」

もちろん技術的にはそう簡単な話でもないが、発想自体はシンプルなものだ。そして電気が扱えるようになれば、電波が使える。電波や電磁気、電気モーターなんかの話もしたかったが、さらに話が複雑だし理解が難しくなる。磁石も必要だし次回以降に持ち越しだ。

「世界とは、物質とは何か。蒸気機関、通信技術の四つに関して話した。これらの知識は初歩の初歩で月への到達に役に立つには程遠いが、知識を積み上げていけば必ず道は見えてくるはずだ。疑問点はたくさんあるだろうが、まずは君たち同士で話し合ってほしい。今日のところは質問は一切受け付けない。続きはまた明日だ」

そう言って話を打ち切った。大声で長く話したせいで喉がもう限界だし、こんなところで質問会なんて始めた日には、一日たっても絶対終わらない。それに俺には答えようのない質問が相当数来るだろう。なるべく自分たちで考えて解決してほしい。

話に使った資料と蒸気機関の模型をそのままに、これは好きにしていいと言って壇上から降りる。

そうして再び会議室へと移動する。最初の会議のメンツに加えて、俺の側のメンバーも全員集合である。今日はエルフ城でお泊りでそろそろ休んでもいい時間であるが、さすがにこの状況でおやすみなさいと引っ込むのは無理がある。

「さきほどは済まなかった。あの場でのいきなりの紹介は失敗だった」

会議室で落ち着いたところでそう切り出す。まずはエルフの襲撃の話をしないと。

「いや、あの者を会場に連れてきた我らの責任だ」

「危険を承知で止めなかったのだ。マサル殿たちに責任はない」

俺の謝罪にエルフ王と帝王陛下がそう応じる。

「ふむ。あれはマサルが悪いな。じゃがエルドレッド殿も首をやるなどと煽るようなことをされては困るぞ」

リリアにばっさりそう断じられ、帝王陛下もダメ出しを食らう。

「しかしあそこで突っ立っておっては面目も何もなかろう?」

そう帝王陛下が反論する。俺が土下座をして当事者の帝王陛下が突っ立ったままではまったく格好がつかない。何かするにも土下座以上となるともうハラキリくらいしか選択肢はない。それで咄嗟に首をやるなどとなったのだろう。

「だからマサルが悪いのじゃ。それに父上もあやつを止めるべきであった」

「すまぬ。だがあの者は英雄なのだ」

帝国からの王国独立戦において、エルフを率いて帝国に大きな被害を与えたエルフの英雄。それも帝国に仲間をすべて殺された悲劇の英雄だ。その苛烈な戦いぶりに帝国の戦線は崩壊し、帝国撤退の大きな要因となったのだそうだ。

リリアが知らないのも現役を引退して久しいからで、今回はエルフの今後を決める話ということで興味を持って出てきたという話をエルフ王が説明してくれた。

「だからできればあの者の処罰は軽くしてやってほしい」

そう頭を下げてお願いされてしまう。俺が神への反逆だなんだと言ったからか……

「処罰などない。そうじゃな?」

リリアがそう俺へと確認をする。

「反逆は正直言い過ぎた。あれくらい強く言えば止まるだろうと思って」

「マサルは使徒ではあるが、ただの人に過ぎぬ。実際にマサルに対して罵倒しようが殴りかかろうが、神への反逆などとはならぬ。単にマサルが腹を立てるかもしれないだけじゃ」

ひどい言い草であるが、全くその通りすぎる。

「だからといってマサルに無礼を働いて我らが見過ごすわけでもないがの?」

そう言って帝国の面々を視線をやる。リリアもまだ帝国が俺を攫ったのを完全に許したわけではないらしい。

「神託に関しても誰かが協力しないと言ったところで、神は気にも止めないだろうな。俺たちの神はそれほど狭量ではない」

「つまるところ此度の件はマサルの責任であって、エルフにも帝国にも責任はない。遺恨もない。それで良いな?」

うんうんと俺が頷き、エルフ王も帝王陛下も頷いた。

「そしてマサルは今後はエルフと帝国の関係改善に関して何かするなら、事前に我らに相談することじゃ」

まああれだけ俺が仲良くしろと警告したのだ。自分たちでどうにかするだろう。

「肝に銘じるよ。それで話の続きだ。さっきは質問を受け付けないとは言ったが、聞きたいことがあるなら構わんぞ。その前にこっちも探してほしいものがあるし」

そう言って必要な物をあげていく。

「まずは通信に使う電気を通す線だ。銅がいいんだが、銅線だけじゃすぐにダメになるからゴムの皮膜が必要だ」

ゴムの木の説明をし、どこかにあるはずだから探してくれと依頼する。そして石油と石炭だな。

「石油と石炭は火を燃やすための燃料に主に使うんだが、ビニールなんかも石油から作れるんだ」

そう言って日本から送られてきた支援物資の空き包装を見せる。

「物質を理解すれば思いもよらぬ物ができる」

ビニールは偶然の産物だったはずだが、できるとわかっていればなんとか作れるはずだ。

「それからやはりドワーフの参加は必要だな。鉄の加工技術は今までよりもっと切実に必要となるはずだ」

蒸気機関は当然鉄製になると説明をする。でないと強大なパワーに耐えられない。エルフの鍛冶師も腕はいいが、基本的に自家消費分を作るくらいの少数しかいないし、加工がメインで鉱石からの精製はやっていない。

「それと磁石だな。これが一番重要まである」

方位磁石として細々と流通しているようで磁石はある。

「磁石? 何に使うんじゃ?」とリリア。

「磁石があれば電気を動力に変えられる。逆に動力を電気に変換もできる」

いまいちピンと来てないようなリリアたちに説明をする。

「例えば水車の動力を電気に変えて銅線で遠くに送るだろ。それを好きな場所で動力に変換するんだ。つまり火以外の動力源だな」

それと電波を作るのにも必要だ。通信なら電線を引くより電波を飛ばす設備を作るほうが早そうだが、まずはそもそも電気とは何かを理解してもらわないと電波には進めない。

「実際のところ一日で王都へなど行けるようになるのか?」とエルフ王からの質問。

「蒸気機関の発展はそれなりに時間がかかるでしょうね。相応にパワーを上げるのに鉄の品質を今よりもっと上げる必要があるし、機構も複雑になる。おそらく先に通信が完成するだろうと考えています。宇宙と物質に関してはレンズのいいのができれば一気に進むでしょうけど、これはかなり地道な研究になるかな」

航空機が魔法の補助ありで案外早くできるかもしれない。離着陸に推力にと、魔法は有効だ。電気モーターでプロペラを回し、風系魔法使いを動力にしてしまえば燃料すら不要だ。

「食料生産の話はどうなったのだ?」と、帝王陛下が質問をしてくる。

「電気と蒸気機関の研究が先です。動力があれば大規模な生産と輸送ができるようになるし、物質への理解と研究で質のいい肥料や農薬が大量に作れるようになるんし、肥料なんか空気から作るようになるんです」

俺の発言に意味がわからないという顔をする一同。ハーバーボッシュ法ってどうだったか。高温高圧で窒素と何かを触媒で反応させるくらいしか覚えてない。

「空気はいくつかの物質からできている。そのうちの一つを高温で圧力をかけて液化して反応させると窒素化合物ができて、これが肥料になる。製法はかなり難解だが、一度やり方を覚えれば肥料が作り放題となるんだ」

しかし肥料の話はいまいちピンとこなかったようだ。これは食料生産力が激増するガチで偉大な発明なんだがな……

「あの、エルフの秘術、魔力開発法とはどのような物なのでしょうか?」

そう手を上げてフローレンス神殿長が遠慮がちに発言する。そういえば神殿にやってくれと言うだけで、そこらへんの説明は全然なしだったな。リリアに頼むと言って説明を任せる。

「要は体に外部から直接魔力を流してやれば良いのじゃ。つまり――」

魔力の型は一二種類あって同じ型でないと、魔力を流すとダメージどころか死ぬことすらある。しかも魔力の型が同じであっても極めて繊細に魔力を流さないと痛みを伴い、危険が大きいらしい。

リリアの説明を聞きながら、もっと細かく魔力の型があるのかもしれないと考える。まったく同じなら魔力が危害を及ぼすことはないはずだ。それとも揺らぎや波があるのかもしれない。

とにかく方法としては簡単だ。型が合致したと判明した術師と対象が両手を合わせる。右手から腕、胴体を通って左手へ、次に逆、左手から右手へと何度か魔力を流して、半ば強制的に魔力感知を呼び覚ます。

場所は違うが、だいたい俺のやった方法で正解みたいだ。

「ま、秘術とは言ったものの、知ってみれば簡単なことじゃろう?」

「だがそれもエルフの尽力があってのことだ。他の種族ではあと一〇〇〇年あっても気が付かないだろうな」

簡単そうに言うリリアの言葉に付け加える。人間なら魔法が使えなくとも仕方ないと諦めることもできた。魔法使いは人口のせいぜい一割程度、魔法が使えない者のほうが圧倒的に多い。しかしエルフは? 寿命の尽きる五〇〇年間、全員魔法が使える同胞の中で魔法なしで過ごすのはきっと地獄だろう。だからこそすべてのエルフが魔法を覚えることができるようにと、この手法が考え出されたのだ。

「このような貴重な知識を分け与えてくれたエルフには感謝しかありません」

「礼ならマサルに言うのじゃな。我らがマサルから受けた恩はこの程度では返しきれぬ。それにな、我々は種族の垣根を超えて協力し合うのじゃろう?」

それに、とリリアが続ける。

「すぐにわかることじゃし正直に言うが、我々はマサルの度重なる要求に余力がなくなりつつある。帝国の協力、期待しておるぞ」

ヒラギス復興と防衛。非常時のポーション生産。エルフの里の拡張工事に鉄筋工法の導入。帝都の王家の森への水精霊の設置と移住計画に、今やっている最中の大治療大会への支援。

動ける者の多くに動員をかけていたところに今回の千年計画だ。

「いや、ほんと悪い……」

「しかし見返りは大きいのじゃろう?」

何度目かの確認。俺の話はふんわりしすぎているし、何より先行きに不安があるのだろう。一九年後に滅ぶという預言があるのだ。

「魔物など軽く吹き飛ばすだけの力を得ることができると約束しよう」

「じゃが今日の話は移動とか通信の話じゃったであろう? 具体的にはどのようにして吹き飛ばすのじゃ?」

「そうだな……魔力という力、エネルギーを俺たちは色々なことに使っている。生活や生産、攻撃とかな」

リリアが頷く。

「火や電気もエネルギーであり力なんだ。生活、生産、そして攻撃にと応用ができる。鉱山では今、エルフの火魔法使いが炉で燃料代わりに働いているだろう? 火も電気も、移動や通信のための動力もすべては魔力と同じエネルギーと考えることができるんだ。魔力は一日使える量に限度があるが、火ならどうだ? 燃料さえあればいくらでも燃やすことができる。もしも火を魔法のように自由に使えて、そしてその火の力を溜めて一気に解放できれば相当な破壊力になると思わないか?」

なるほど、とリリアはようやく腑に落ちた顔だ。

「今日俺が話したことは結局のところいかにエネルギーを作り、魔力のように自由に使えるようにするか、そういう話に繋がる」

「魔法のように使える別の力か。それは確かに便利そうじゃの」

そうだ。破壊ばかりじゃない。便利にもなるんだ。平和的に利用するか破壊に使うかは今後の選択次第。ポジティブに考えよう。

「よし、じゃあ他に質問は?」

「はいっ! 宇宙の話をもっと聞きたいです!」

「いや、蒸気機関車のことをもう少し教えてもらいたい」

おや、質問はリリアの弟君とお兄さんか。これまでほとんど交流がなかったし、この機会に少しは仲良くなっておくか。

「じゃあ宇宙の話からしようか。まずは俺たちの属する太陽系だ。この大地、地球は太陽の回りを周回している内側から三つ目の惑星で、太陽に近い順に水星、金星、地球、火星――」