軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

277話 貧民窟、日々の修行

貧民窟の二回目の治療は何事もなく終わりを迎えた。相当な数の治療希望者が集まっていたのだが、俺にアンにティリカにエリー、そしてエルフの治癒術師団が総掛かりでやったらさほどの時間もかからずにすべての治療が完了した。

「終わった?」

「そのようですね」

現地に居た神殿長が俺の言葉に答えた。水場への人の流れはこの時間でもまだ普通にあるから、誰かが妨害しているとかもないだろう。

「じゃあ神殿と養育院の建物を作ってみますか?」

神殿長の要望で三つほど建物を建てた。終わり。

ちなみに炊き出しは明日からの予定で、神殿長はその準備と養育院の立ち上げに奔走していたらしい。ご苦労様である。

「では今日の修行だな」

「そんな気分じゃないんですが、師匠」

「敵がお前の気分に構ってくれるとでも?」

道理ではあるが、師匠は味方でしょう。

「準備をしてくるから少し待っておれ」

そう言って俺の言い分はまったく聞かず、貧民窟へ消えていく師匠。

しかし日々の修行を気分が乗らないからと中止していては、俺の場合際限なくさぼってしまいそうのは確かだ。

相手は貧民窟のギャング団かな。数だけはいっぱい居たが、俺の相手になるのかね? そんなことを考えていたら、戻った師匠にハンデを付けられた。

「左手は封じる。むろん奥義も魔法もなしだ」

そう言って左手を畳んで体に縛り付けられた。やりずらっ。

「たとえば片手を失っても戦わねばならぬ状況もあろう。そして相手は手負いのお前を仕留めるために捨て身でかかってくる」

なんと、俺に軽くでも一太刀浴びせれば、土地の賃貸料一〇年間無料に加え、建物も作ってやるのだという。もちろん俺がだよ。

一太刀も喰らわず全員を倒す。そして治すのか? いやアンとかに任せればいいか。さすがにそこまではだるすぎる。

「いつでもいいぞー」

ぞろぞろと俺を囲むように集まってきたギャング団どもに告げる。早めに倒してさっさと休もう。

「神官さんよぅ。いくら剣聖様の弟子だからってその状態で勝ち目があると思ってんのかぁ?」

おや、チャラ男くん。案外ちゃんとした構えだな。そりゃそうか。そこそこの実力があるからこそこうやって集団の先頭に立って調子に乗ってんだろうし、ビエルス出身のこいつのボスに剣くらい教えてもらっているんだろう。

「でもお前、昨日の俺の動き、見えなかっただろ?」

しかし昨日の脅しで大人しくならないって根性があるのか、アホなのか。

「か、囲んじまえばそんなもの関係ねー!」

「じゃあ俺はここから動かないでやるから、ちょっとくらいは楽しませてくれよ?」

「なっめんなー!」

舐めてるのはお前らだな。一斉にかかってくるが、ほとんどは腕っぷしが多少強いだけの剣士というのもおこがましいただの雑魚だった。帝国騎士相手に同じことをしたのだ。使えるのが片手だけとはいえ相手になるものでもない。

剣の範囲に入った者から容赦なく叩き伏せていく。ていうかチャラ男は来ないのかよ。

「倒れたやつはそっちで片付けてくれよ」

倒れた者は動かない俺より攻撃側の障害となる。

「囲え! いくら強くても後ろからの攻撃を避け続けるなんてできるわけがねー!」

ところが俺は後ろにも目があるんだ。正確には全方位レーダーだな。どこから襲いかかろうと関係なく処理をしていく。

歯ごたえがなさすぎる。そう思ったが、ようやく真打ちの登場のようだ。

「ボス!」

師匠の弟子の弟子の、そのまた弟子のジョルジュだ。オーガで心が折れて帝都に戻ったらしいが……

「やるぞ」

ボスジョルジュの言葉にチャラ男ともう一人が素早くフォーメーションを組んだ。正面にボスで二人が両翼。その動きには迷いがない。

「あっちは動かないんだ。いいか……」

そう俺の目の前で堂々と作戦会議を始めた。どうやらヒットアンドアウェイで一撃を狙うようだ。まあ俺が動かないんだから、それが最適解ではある。

相談が終わってボスが動いた。そして正面と左右から同時に剣が飛んでくる。一つを躱し、一つを弾き、一つを受けた。三人は俺の反撃が来る前に素早く距離を取る。

前言撤回。こんな相手じゃねーな。連携もしっかりしてるし判断もいい。一太刀で勝利だというのを良くわかった動きだ。

それをこの場から動かないでどうにかする? 難しいな。いっそ動かない縛りは終わるか?

連携に慣れた手練が三人。しかも一人は何年も前にオーガクラス下位だったが、師匠の目に止まるくらいの素質があったという。今はどれだけ強くなっているか。

強い弱いじゃないな。勝つんだ。たとえ片手で相手がほんの一太刀いれれば勝利だとしても、こんな相手に負けるわけにはいかない。

再びの攻撃。躱す躱す弾く。やはり即座に下がって迂闊に突っ込んで来ない。きちんと対処すればさほど回避が難しくないほど打ち込みが浅く、だからこそ反撃する隙もほとんどない。

どうしたものかと考える。カウンターを当てようにも攻撃は三人同時。当たれば負けの三本の剣を躱しつつ、こちらは相手を倒す必要がある。しかしこの場から動けないから先手や撹乱はできない。奥義も魔法も禁止。

左肩を前に半身の構えにする。ボスは恐らくオーガ上位くらいの実力はある。しかし左右の二人はオーガにも及ばない程度。

三人が動くタイミングに合わせて、腰を低く落とし足を下げた。つまり正面への面積を半身よりさらに小さくし、その上相手の剣から距離を取ったのだ。俺の動きで三人に迷いが生まれた。気の迷いは剣の迷いと連携のズレを生み出す。

そうなれば決着は一瞬だった。乱れを見せた左右二人の剣を弾き、躱し、ボスの剣を体に当たるギリギリ受け流す。そしてしまったという顔をして逃げるボスを剣の切っ先で完全に捉えた。

大きく動きはしたが、軸足は動いてないからセーフで良かろう。

「さてどうする?」

ボスは俺の剣で倒れないまでも膝をついて呻いている。残り二人ではもう勝ち目はないが、ボスが立ち上がるなら待ってもいいが……

「あああああああああ!」

しかしチャラ男は雄叫びを上げ、突っ込んできた。それを一撃で斬って捨てる。

実力は足りてないが、そういうのは嫌いじゃない。何度やられても心が折れないのは評価してやろう。

「俺たちの負けだ」

ようやく立ち上がったボスが言い、完全に伸びているチャラ男を引っ張って俺の前から去っていった。それはそうだが反省点も多い。あそこまでヒットアンドアウェイと割り切られると、縛りもあってか帝国騎士を相手にするより厄介なくらいだった。こいつらも俺が動かないんだから、もう一度作戦会議でもすれば良かったのだ。そうすれば結果はまた違ったものになったかもしれない。

もう少し体を動かしてみたいところだったが、ギャング団どもはすでに戦意を喪失している様子だ。

「物足りぬという顔だな。だが心配するな。次の相手も用意してある」

出てきたのはイオンの護衛の二人。レーダとトニエラだった。今度は二人相手か。

「腕は解いて良いぞ。奥義も解禁する。ルールも剣闘士大会ルールだ」

強いのかという問いは愚問というものだ。神国でもっとも貴重な人材に付けられた護衛が弱いはずもない。かなりやりそうだとは思ったが、奥義も解禁しないと勝ち目がないレベルなのか。

「では剣聖殿、我らが勝てば約束を果たされますよう」

そうレーダが師匠に言う。

「約束って?」

戦う当人を蚊帳の外にして勝手に何かの約束とかしないでほしい。

「こやつらは天輪流でな」

それで師匠は説明が終わったとばかりに口をつぐんでしまった。

「剣聖殿は若かりし頃、天輪流で剣を学んだのだ」

レーダがそう話し出す。天輪流は神国発祥の最古にして当時最高峰と言われていた剣術だった。そして師匠は本物の天才だった。入門するや瞬く間に天輪流の術理と奥義を我が物とし、後継者に指名されるまでとなった。

「しかし剣聖殿は後継者の地位をあっさり捨て出奔した。つまり天輪流の技を盗むのが目的だったのだ」

その後は各地で様々な流派に潜り込んだり戦いを挑んだりして、天輪流の術理を元に独自の剣術を編み出した。天輪流の上位互換の剣術の完成だ。そして師匠はそれを全世界に広めた。

天輪流ももちろん黙ってはいなかった。最高の使い手を何人も差し向けるも、相手は後の剣聖である。全員返り討ちに合い、師匠の名声をかえって高めるだけの結果となった。そうして天輪流の没落は決定的となり、剣術の主流から外れてしまうことになる。ビエルスの剣術が世界を席巻したのだ。

それが今現在一〇〇歳の師匠の若い頃の話である。今や天輪流は神国で伝えられるのみ細々と続くのみで、名前を聞いても帝国では知る者とてほとんど居なくなった。

そして今回の立会いで俺が負ければ師匠がそのことに関して頭を下げると言う。

「それは師匠が悪い。俺の勝敗を待つまでもなく頭を下げてはどうです?」

「ワシにも言い分があるのだぞ。天輪流は限られた才能ある剣士にしか門戸を解放しなかったのだ」

師匠はそれを全世界に大公開した。学びたい者には奥義以外はいくらでも教えた。

それは酷い。酷いが、師匠のやったことで剣士全体の実力が底上げされたこともまた真実なのだろう。

俺としては師匠の肩を持ちたいところではある。身内なのもあるが、有用な術を隠し持つというのは全体の利益を損なう。

全体の利益のために少数を犠牲にしていいのか。決してよくはない。だがそんな綺麗事が通用する世界でもないのだ。

「もしかして奥義も天輪流なんですか?」

俺の言葉に師匠は頷く。師匠も奥義に関してはその習得方法を秘しているのだ。天輪流とて奥義があるからこそ選ばれた剣士にのみ剣術を教えたのだろう。

「天輪流を学ばねばワシの剣術は完成しなかったであろう。これでも感謝はしておるのだ」

感謝はすれど悪いとは思っていなさそうだ。

「今更どうしようもない話ではあるのだが、せめて剣聖殿に頭を下げさせたとなれば、先人たちも多少の胸はすこうというもの」

なら師匠に挑めばと少し思ったがそれは無理か。誰も勝てない。

俺とサティでなら、こちらがなんでも有りで戦えばいい勝負ができるとは思うのだ。しかし師匠を追い詰めるイメージがどうしても作れない。何か必要な一手が足りない気がするのだ。

「剣聖殿に頭を下げさせたとなれば国で大きな顔をできますしね」

これはトニエラだ。身も蓋もないし、やる気をなくす話である。それに勝ったつもりになるのは早すぎる。

「これは真面目な話なのだぞ、トニエラ。本当なら真剣でやりたいくらいなのだ」

「他流試合での真剣の使用は厳禁ですよ」

「剣聖殿は元同門なのだ。なんとでも言い訳は立つ」

これだけ人が居て言い訳もないだろう。

「いやいやいや。絶対にアウトですって!」

トニエラがやけに必死だと思ったら、他流試合の真剣禁止は天輪流だけじゃなく、はるか昔からの先人たちの決めた剣士全体に及ぶ法なんだそうだ。

「かつてそのような決まりがなかった時代がある。流派同士の勝負だ。刃引きの剣などでは決着はつかぬと真剣での勝負が繰り広げられたそうだ」

そう師匠が説明してくれた。結果どうなったか。剣士のどちらかが死ぬ。死なないまでも大きな傷を負う。恨みを残す。報復、復讐が行われる。そして復讐は復讐を呼び、血で血を洗う争いが各流派入り乱れて勃発したのだという。もはや誰が誰を殺したのかもわからない。他流の剣士と見れば即座に剣を抜き合う。そんな地獄めいたことが一時期横行した。

「たくさんの優秀な剣士が命を落とした」

人同士の争いでだ。それを重く見た当時の国家や冒険者ギルドや神殿は連名で剣士たちに通達をした。他流試合での真剣の使用は固く禁ずる。破った流派は流派ごと潰すと。

しかし師匠と天輪流は同門だった。追手の剣士は何人も命を落とした。数十年たってもその深い恨みは消えてなくなってはいないということか。

「師匠が済まないことをした」

頭こそ下げないが、そう謝罪を口にする。

「そしてそういうことであれば、せめて全力でお相手をしよう」

天輪流の術理を盗んで完成させた剣術が弱くては、死んだ天輪流の剣士も浮かばれまい。

そして真剣勝負を口に出すほどなのだ。もし俺が受ければやるだけの覚悟は間違いなくあるはずだ。

やる前に剣闘士大会準拠で装備を揃えることになった。俺は軽装備だが、二人はがっつり実戦装備だ。そのままやると装備の差がハンデになりすぎる。

装備を替えているうちに我が家のみんなが集まりだした。すでに日も落ちて休んでいる時間だったからエリーが呼んだらしい。

「せっかくのマサルの勝負なんだしみんなも見たいでしょ」

「でも今日は勝てないかもな。相手は二人だし」

「マサルがバルナバーシュ殿の看板に泥を塗るっていうのがまずいわ。絶対勝たなきゃダメよ!」

俺の発言にエリーが強い調子で言う。俺なら頭を下げる程度はどうでもいいが、師匠は立場というものがある。俺が負けて師匠に頭を下げさせても本人は気にしないだろうが、周りはどう思うだろうか。勇者としての俺の名前に傷がつくとエリーは言いたいのだろう。

ただの日々の修行のはずが、やけに重大になってきてないか?

「ワシはマサルが勝つと信じておるぞ」

余計な約束をした師匠がしれっと言う。勝つじゃなく、勝つと信じる。言い方で勝ち目が薄い感じがプンプンするな。

まあ実際どの程度かやってみないとわからないし、負けるのは好きじゃない。好きじゃないのだが、そもそもこんな条件をなぜつけたって話である。二人をガチで戦わせるためなのだろうが、俺のほうは勝っても何もないってどうなん……

それに普段ならもう少しやる気を出しただろうが、世界の終わりだなんだって話の後だと面子だとか過去の因縁だとか些事すぎる。あの二人も話は全部聞いていただろうに。

俺が装備を整えて戻ると、二人は俺に聞こえないと思ってこそこそと話をしていた。

「ここでなるべく無様に倒せば、イオニティース様も目を覚まされるかもしれない」

「えー、わたしはいいと思いますけどね。マサル様」

「アレはダメだ。協力するのは問題ないが、イオニティース様のお相手には絶対相応しくない!」

アレ呼ばわりでレーダが俺のことを否定してくる。まあ俺の素行を知ればわからないでもないが、レーダの本当の目的は俺とイオンの仲をどうにかすることか。真剣使用もいっそ亡き者にくらいに本気で思ってて、師匠に頭を下げさせるのもただの口実だった可能性もあるな。

ここで俺が無様に負けた程度でどうにかなるようなことではないと思うが、しかしそういうことなら負けられない。そしてトニエラは何かあったらしっかり助けてやろう。

今回は剣闘士大会ルールだ。回復魔法は許可されている。光魔法、加護や鼓舞は使わない。ビエルスでの立ち会いは実戦重視で攻撃魔法すら許されていたが、剣闘士大会ルールと明言されては光魔法の使用は微妙なところだろうし、切り札にとっておこう。もし二人が強くてどうしようもなければ使うかもしれない。

たくさんの見物人が囲む中、二人に相対する。レーダが胴体が全部隠れるくらいの大盾持ちで前衛で正面を受け持ち、トニエラが一歩下がった位置。二人の剣のスタイルがわからないのが少々怖いが、それはあちらも同じこと。俺の実力はまだまったく見せていない。

だが俺は一対二は普段からサティたちとやって慣れている。勝率が高いのは先手必勝。ただでさえ相手は二人で不利なのだ。後手に回っては勝ち目は薄い。

二人の準備ができたと見て、特に合図もなくレーダに正面から打ち掛かる。力を乗せた一撃は、それで普通なら吹き飛んでもおかしくない威力であるが、レーダは軽く後退したのみでがっつり受けてみせた。そこから剣を押し込んでみるもびくともしない。不動の使い手か。

そして崩せないとなると一気にピンチになる。トニエラはすでに移動済みで、組み打っていた俺をレーダごと巻き込むような容赦のない剣を俺のやや後方、死角から放ってきた。

それを最小限の動きで躱す。しかしそれで今度はレーダが自由になる。

トニエラの追撃をさらに回避し、レーダもそれに合わせて来たのを必死で受け、回避し、なんとか距離を取る。

「その体格だからと高を括っていたが、どうしてどうして。さすがは勇者といったところか」

「でも想定の範囲内ですね」

やはりまともに戦っては防戦一方。しかしある程度の二人の実力も把握できた。腕はいいが身体能力は常識の範疇。範疇なのだが、おそらくここから奥義での強化がある。そして連携のレベルが高い。二人での戦いに慣れている。

盾持ちは基本攻略が難しいからトニエラに仕掛けるかと思い、位置取りを変えようとしてみるが、二人もそれに合わせて動く。大きく動いて軽くつっかけてみても、常に大盾持ちのレーダが正面に来る立ち位置を変えられない。俺にあまり攻め気がないのもバレていてぴくりとも釣れない。

対応を考えようと後退し、ふっと息を抜いたところでトニエラが動いてするりと懐に入り込まれてしまった。レーダと位置をスイッチしてたトニエラの剣を剣で受ける。後手を踏んでしまった。後手を踏むということは相手に主導権を渡すということでもある。二手、トニエラの攻撃を防いだところで、すでにレーダが肉薄し攻撃態勢に入っていた。

トニエラ一人であればこのタイミングで反撃を仕掛け、圧倒できたはずだ。しかしレーダの存在が攻撃の目すら摘んだ。

盾とトニエラに隠れたレーダが剣を放つ。その軌跡は本来なら完全に見えないはずで、しかもトニエラの攻撃と同期した完璧な攻撃だった。空間把握がなければ食らっていたはずだ。

トニエラの剣を弾きつつ、無理やりな体勢で躱す。そうなるともう俺にできることは多くはない。レーダの強烈なシールドバッシュを左腕の小さな盾で受け、押し出されるように後退しレーダの追撃を躱す。

そこにトニエラの剣が俺の動きを先読みしたかのように放たれ、まともに食らってしまった。さらなる追撃から逃れるため、大きく後退する。

しかしそれで一旦攻撃の手を止めてくれたようだ。

「手応えはあったようですけど……」

平然とした顔で構えをとる俺にトニエラがそう呟く。威力は十分だった。骨が折れたかヒビくらいは入っていそうな激痛。

「いい攻撃だったけど軽いな」

そう言いながら【小回復】を詠唱し、発動させた。あっ、とトニエラが声を上げる。完全な治癒ではないが、激痛が緩い痛みくらいには収まった。これなら普通に動ける。

今の状況で攻撃を続行されたらおそらく終わっていた。しかし攻撃が通ったことで、一旦様子見をしてしまったのだろう。それは決して間違ってはいない。

呼吸を整えたかっただろうし、俺の傷が深ければ戦闘力は確実に落ちるはずだからだ。もし軽くともダメージは確実に与えたのだし、ここまで有利に戦えたのだ。無理押しをする理由はない。

しかし俺の回復魔法の詠唱の早さと強力さは、この二日ずっと見て知っていたはずなのに警戒すべきだと、実感としてはなかったのだろう。油断というには酷ではあるが。

「今ので回復したんですか?」

頷く俺にトニエラが嫌そうな顔をする。勝ったと思ったのに状況がリセットされたのだ。

「気にするな。倒れるまで何度でもやればいい」

レーダが冷静に言う。確かにこれまで通りなら俺に勝ち目はほぼない。レーダの動きは不動に加えて流水系の剣だった。そして二人がお互いの動きを完全に把握して、相手を追い詰める連携を取る。最後の攻撃は完全に俺の動きを読まれていた。

ある程度の攻撃パターンは作ってあるのだろうが、それでもお互いの動きを完全に把握していなければあそこまでの戦闘の流れは作れない。

これが本物の連携。そしてトニエラは奥義すらまだ見せていないのだ。勝てると自信を持つはずである。

しかし俺とて奥義はまだ未使用。まあ使わせてもらえないだけなのだが、やはり活路はそこにしかないだろう。

相手は完全に格上。だが無理をすれば勝てないこともない。師匠もいい相手を見つけてくるものだ。

「俺が二度もやられるとでも?」

無茶をする覚悟を決めてそう言い放ち、俺は歩を進めた。