軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

278話 貧民窟、騎士の戦い

二人を甘く見ていたというより、自分の力を過信していたのだろう。最近また強くなったからと、どこか慢心があったのだ。しかしだ。最初から全力を出すのも相手を見ないと対戦相手が死にかねない。

まあ二人の実力を見誤ったのと、奥義をいまだちゃんと使えない俺が悪い。つまるところ修行がまだまだ足りないのだ。

再び、最初を再現するかのようにレーダに突撃をかけた。結局のところ、盾持ちのレーダを崩さないとどうにもならない。

剣と盾が激しい音を立てて衝突する。

ブルーブルーとさえ打ち合えた俺の本気のパワーだ。たとえ不動の使い手とてまともに受ければ並の人間に耐えきれるものではない。

ぐらりとよろめいたレーダにさらに不動で押し込み崩す。反撃は考えなくてもいい。両手で支えねば盾ごと吹き飛ばしている。

当然そこにトニエラがやってくる。だがレーダが完全に崩れるとは想定外だったのだろう、俺の劣化雷光が先手を取る。

レーダが復帰するまでのほんの二、三秒が勝負の分かれ目だ。

初手の劣化雷光は防がれたが、トニエラの剣が弾かれる。俺の剣が普通に使われている両手剣で重いのもあるが、やはりトニエラの剣は軽い。流れるように本気の【雷光】を放つ。

それもかろうじて防がれたが、もはやトニエラは死に体だ。俺の三撃目を防ぐこともできずにまともに食らい、倒れる。これで俺でもなければ確実に戦闘不能だ。

しかしレーダがもう復帰してきた。まあ押して体勢を崩しただけだしな。

このまま一気にと行きたいところであるが、俺も奥義の連打ですぐには全力は出せない状態だ。

レーダの打ち込みを防ぎつつ後退し、息を整える。

もはや勝負はついた、そう思ったのは早計すぎた。レーダの後ろで魔力の集中を感知した。トニエラだ。まずい。

神殿所属の騎士なのだ。回復魔法が使えるのは予想して然るべきだった。

呼吸の乱れなど気にしている場合じゃない。レーダを倒すか。トニエラの詠唱を妨害するか。

しかし俺の攻撃をレーダは盾で捌いていく。俺の攻撃を受け、受け流し、トニエラを守るべく俺の動きの妨害と防御に徹し、時間稼ぎを完遂した。

「ヒ、ヒール……」

そしてゆっくりとトニエラが立ち上がる。ここまでかと、レーダから距離を置く。

「急げ、そう長くは守りきれんぞ」

レーダが焦りを滲ませた声で言う。あのダメージで通常のヒールなら完全回復まで二回か、三回くらいは必要だろうか。

「いや、いい。待ってやろう」

仕切り直しだ。俺のほうも無理をして動いたし、トニエラからのダメージを完全に回復したわけではないのだ。俺も回復魔法をかけて傷の回復をしておく。

この期に及んでまだ甘く見ていた。相手を殺しかねない? 次にやられるのは俺のほうかもしれない。

本気奥義使用の後だったのもあるが、止めを通常の剣戟でしたのは失敗だったか? 頭を狙う、意識を刈り取るというのは言うのは簡単ではあるが、それも相手次第。俺くらいやられ慣れていると、攻撃を食らっても無意識にダメージの軽減に体が動く。致命傷を貰わなければ、意識を残していれば復帰できるのだ。

剣を食らった直後の激痛の中での詠唱は簡単ではないのだが、それも修練次第。慣れればできるようになる。

「顔色が青いぞ。降参したほうがいいんじゃないか?」

ダメージを完全に回復したとしても、失った体力までは戻らない。そして激痛に耐え、その中で詠唱をするのだ。精神力もゴリゴリと削られる。

俺が戦闘不能だと判断したほどのダメージだったのだ。トニエラは回復が終わったにも関わらず脂汗を浮かべ、その息は荒い。

「この程度で勝ったと思われては心外だ。どちらかが立っている限り、我らに負けはない」

その言葉に嫌そうな顔をしたトニエラは違う思いがあるようだが、ようやく呼吸を整え、目にも力が戻ってきた。

トニエラもかわいそうに。普通なら前衛の盾持ちが被害担当のはずなのだが、レーダの硬さが尋常じゃない。不動流水の使い手で防御特化の装備持ちを崩すとなると、やれたとしても相当な手数が必要で、それをトニエラが随時妨害してくる。

そうなると先に被害を受けるのは防御が比較的弱く、攻撃を担当して前に出る機会のあるトニエラとなる。

そしてトニエラがダメージを受けてもレーダが数秒でも耐えれば、一回は回復魔法を使える。

集団戦闘ならまた話が違ってくるのだろうが、俺は一人だからこの構図を覆すのは簡単ではなさそうだ。やはりトニエラを狙うのが基本方針か?

レーダも硬いだけで別に無敵というわけでもない。盾の先は全員同じ革装備だ。防御力に差はない。攻撃が届けばの話であるが、実際に崩すところまではできたのだ。レーダから倒す目も十分にある。

攻撃魔法が使えれば簡単に勝てるんだが。あるいは鼓舞と加護があれば。

それでも俺に絶対的に有利な点がある。速度と力だ。スキルによりその両方が俺は常人離れをしている。それで押し切る。いつものダメージを受けるのを前提としたゴリ押し戦法である。

もっと華麗な戦い方をしたいものであるが、手合わせした感じ、技は俺と同等かそれ以上。やはり修行不足は否めないが、無いものねだりだな。今ある手札で戦うしかない。

【リジェネレーション】をかける。さあ、削り合いだ。

しかし一度やられて警戒したのか、二人は防御重視に方針を変えたようだ。

人のスタミナには限界がある。二人がかりならいずれ俺のスタミナが切れ、動きが鈍るとの判断だろうか。俺はスタミナも常人離れして有利になりそうな気もするが、相手の思惑に乗る理由はない。

レーダの間合いに大きく踏み込み、打ち合いを挑む。この時、レーダをトニエラに対する盾にするように動くのだが、絶妙に息の合った動きで一瞬にして二人を相手にしている状態にされてしまう。レーダも後ろに目があるかのように、トニエラとぶつかるぐらいの至近距離でもするり動いてお互いの位置を調整してしまうのだ。

二人を相手をしているといってもレーダの手数が少ないのが救いであるが、流水剣の使い手であるレーダは、ここぞという嫌なタイミングで剣を振ってくる。探知があり、流水系の技を知ってなければ何度か食らっていたことだろう。

幾度かのお互いに決め手のない攻防。俺が踏み込んでも上手く攻め手をいなされてしまう。

そうしてリジェネレーションも切れたと一旦距離を置く。

戦っていてふと違和感を覚えたことがある。流水系の技もそうだが、二人の剣技に馴染みが有りすぎるのだ。つまるところそれは俺が唯一知っているビエルスの剣技である。

「天輪流というのは何が違うんだ?」

休憩がてらの俺の問いかけに、今度はレーダが苦虫を噛み潰したような顔をする。

「同じじゃよ」

師匠がそう答えた。師匠はかつて天輪流を盗み、発展させ、そのすべてを全世界に公開した。そして後年、天輪流もそれを学んだのだ。

元が同じ流派である。もちろん細かな違いはどこかにあるのだろうが、剣術の天才たる師匠があらゆる流派から学び取った剣技の集大成、天輪流の完全上位互換だ。それを学んだ天輪流はその剣技術理を変えることも、新たに付け加えることもできなかった。

「ワシは天輪流も喜んで受け入れた。それで和解は済んだ、そう思っていたのだがな」

「いや、師匠それは……」

天輪流の側からすればどうだろうか。怨敵から学ばねば剣術の趨勢から遅れを取ってしまう。それは余計に腹立たしい状況だったことだろう。和解とはほど遠い。

「そうか……」

師匠がそう言ってため息を吐いた。やはり頭を下げるべきかとも思ったが、長年の恨みつらみはもはや土下座をしたところで許されるようなことではないのだろう。

それでも師匠の行為を罪と断じることはやはり俺にはできない。天輪流のすべてを盗み取ったのは確かだが、それで俺たちを始め、多くの人が利益を得たのだ。正義だ悪だと単純に語ることはできない。俺は当事者ではないし、何よりそれは過ぎ去った、もう変えようのない過去なのだから。

「誰が許さなくても俺が許しますよ、師匠」

俺が言うのは傲慢だろうが、それでもそう言いたかった。師匠が居て軍曹殿が居て、それで俺は生きのびた。

限られた者にしか伝えられなかった流派の剣術をすべて学んで逃げたのだ。その結果が予想できなかったはずもない。汚名を被り天輪流を裏切る決断をした師匠には感謝しかない。

帝王その人の士官の誘いも断り、辺境で後進を育て、後継者を探し求めたのは罪の意識もあったのだろうか。私財も投じて、お金でずいぶん苦労したとリュックスが言っていた。

時間も金も、一〇〇年の人生の何もかもを剣術に捧げ、それを惜しげもなく後進に伝えた。だからこそ師匠を知るビエルスの人々は、剣聖様と呼び敬うのだろう。

そしてその人生の最後の仕事として俺の育成を選んだ。

なんだかここで負けたら大変なことになりそうな気がしてきたぞ!?

「すまないな。つい長話になってしまった」

そう言いながら詠唱……はできなかった。レーダの剣が詠唱を妨害してくる。

「そう何度も好き勝手は許さん」

リジェネレーションが使えれば奥義の使用が楽になるんだが、まあ仕方あるまい。

レーダがとっさに動いたせいでトニエラの動きが遅れた。レーダを揺さぶるべく盾にフルパワーで攻撃を加えてみるが、やはり力の上限を見せた後だ。体勢を崩しながらも受け切られてしまう。そしてそのままわずかに立ち位置を変え、あっという間に二対一の状況にされてしまった。

トニエラのほうの攻撃を受け流し反撃をしようとしたが、トニエラは一度の攻撃であっさり後ろに下がってしまった。レーダも一手攻撃をして俺に避けられると、また守りを固めてしまう。やはり防御重視で俺の疲れか隙を狙う感じか。

仕掛け直すかと後退しようとしたところで、またもそれに合わせて嫌なタイミングで二人が前進してくる。俺を休ませないつもりか。ならば今度こそトニエラを仕留める。

俺に向かってくるトニエラは見え見えの突きの構え。

しかしその速度は予想を超え、躱しきれなかった俺の頬を軽くかすめる。突きの雷光か。

引き戻された剣は再び俺を狙う。胸のあたりを狙った二段目の突きをかろうじて弾く。

そして三段目の突きにレーダも合わせてきた。左手装着の小盾で受けようとするも剣の軌道を逸らされレーダの剣を左腕に貰い、トニエラの突きは脇腹に突き入れられた。

致命傷……はない。まだ体は動く。利き手は無傷。左腕のダメージは不明だが、レーダの剣は軌道を変えたことで威力が弱まって、骨まで砕けた様子はない。トニエラは奥義から三連撃という無茶で三連目の威力が、俺が二段目を弾いたことも相まって、奥義とも言えないほどの威力しか出せなかったようだし、刃引きの丸められた剣先では革を貫けなかったはずだ。

そしてトニエラは奥義の使用で、その動きがほんのわずかな時間、硬直状態となっていた。俺と同じ、全力の奥義をまだ使いこなせていないタイプか。

「雷、光!」

二人の攻撃をまともに食らった俺がまさか反撃をしてくるとは予想外すぎたのだろう。片手で無理やり振るった俺の劣化雷光がトニエラを確かに捉えた。

そのまま右手の剣で俺へとぶつけられようとするレーダの盾を受け止める。しかしレーダの動きはもはや手遅れ。トニエラは崩れ落ちる。

左腕と脇腹の激痛を無視し、右手一本の全力の不動で、一気にレーダを押し戻し後退させる。

ほんのわずかであるが、余裕を作れた。左腕と脇にかなりのダメージを負ったことで、ここで回復できなければ敗北は必至だ。いくら俺でも限界というものがある。

なりふりかまわずレーダから距離を取り、今度は通常のヒールを詠唱する。もはや小回復でどうにかなるダメージではない。体勢を立て直し、追いすがるレーダが振るう剣ををするりと回避し、回復魔法を発動させた。

「動きながらでも詠唱できるのか……反則だな」

回復魔法が発動したことで追うのは諦めたらしく、レーダがそう言う。トニエラが復帰しなければ一対一で勝ち目がないと考えたからだろう。

「それぐらいできなきゃ生き延びられないんでね」

動きながらの詠唱は確かに難しいが、魔力のコントロールを完全に維持すればいいだけの話なのだ。最初は歩きながら詠唱する。それができたら走りながらだ。長々とした詠唱が必要な魔法はさすがに難しいが、レベル1か2程度の魔法なら、詠唱短縮の効果もあって問題なく可能だ。

素早くヒールを重ねがけしていく。三回目でほぼ回復したように感じたので、リジェネレーションをかけておく。

その間にトニエラも回復魔法を使い復帰したようだ。しかし奥義の使用に加え、俺からの攻撃を食らい、相当に辛そうだ。

俺にしてもダメージと無理な動きで、今すぐ動くのは無茶ではあるが、剣を両手に持ち、横に構えてレーダとの間合いを詰める。

トニエラの動きが鈍っているであろうここで押し切る。

真・烈火剣。俺の新しい切り札である。原理は簡単だ。レビテーション、物や自分の体を持ち上げたり、動かしたりする魔法である。その魔法で剣を押さえつけ力を込める。すると剣は弓を引き絞った状態と同じように力を溜める。

魔力の発動か、それとも明らかに剣に力を込めた俺にレーダは反応し、盾を構え直し防御態勢を取ろうとする。

遅い。レビテーションでの抑えからの発動はほんの一瞬だ。抑えられた剣を一気に解き放ち、そこに烈火剣のパワーを上乗せする。その速度と力は俺の本気の烈火剣をも当然ながら上回る。

爆発するように放たれた剣は空気を切り裂き、完全な防御姿勢を取れなかったレーダを盾ごと吹き飛ばした。

それでもレーダは膝もつかず盾も手放さなかったが、初めてその全身を俺の前に晒す。

軋む腕を無理やり動かし、上段から剣を振り下ろす。レーダは剣で受けようとしたが、なんとしても盾を離すまいとした行動が仇となった。俺の剣は片手で受けきれるものではなく、その剣ごとレーダを叩き伏せた。

それを見てトニエラが突っ込んできた。

動かない体を無理やり動かす。トニエラの剣を受ける。躱す。攻撃するにはもう息が続かず防戦するしかない。しかしトニエラのほうも回復した直後でまったく動きに精彩がない。

このまま時間を稼いだところでレーダのダメージは大きい。意識も刈り取ったはずだ。

防御をしつつ、呼吸の回復を待ってトニエラを仕留める。ここに来てリジェネレーションが勝負の天秤を大きく俺へと傾けてくれた。後はトニエラを仕留めれば……

レーダがぴくりと動き、うめき声を上げた。トニエラの表情に希望が灯る。

倒れた時点で意識はなかったはずだ。そういう倒れ方だった。今更目を覚ましたところで、痛みと意識の混濁で回復魔法など使えるわけがない。

案の定、すぐさま回復魔法を詠唱しようとしているようだが、その魔力は切れ切れでまともな詠唱にはならない。

「もう無理だ」

トニエラを追い詰めながら短く告げる。

「レーダ様は絶対立ち上がる! それが我ら騎士の誇りだ!」

その叫びに応えるようにレーダの魔力が安定を見せる。嘘だろ?

というか立たれるとヤバい。度重なる無理で俺の腕は熱を帯び、普通に剣を振るうだけで精一杯。休もうにもトニエラが決死の覚悟で俺の前に立ちふさがる。

トニエラを避けてレーダに止めを刺す? さすがに倒れた女に追撃するとか見た目が最悪すぎる。

奥義は使えるとしても今の状態では精々劣化版が一回か。しかも俺の奥義はモーションがわかりやすく、単発だと対処されやすい。だからこそ連打で補っているのだ。

通常の剣技でもその速度と力はトニエラを軽く上回る。それで追い詰めているはずなのだが、トニエラは崩れない。じりじりと後退しつつも俺の攻撃を受け、躱し、ひたすらに耐える。

焦る俺の攻撃にカウンターすら合わせて反撃してきさえした。あと一手。あと一撃が決めきれないことが、余計に焦りを生む。

そうして俺とトニエラが呼吸を荒らげて必死の形相で打ち合う中、ついに回復魔法を詠唱しきったレーダが立ち上がった。

「トニエラ!」

レーダの声にトニエラが後退し、レーダを前にしたフォーメーションに戻る。このタイミングでか?

たった一回の回復で立ち上がったはいいが、レーダは盾を持つ手すら震える有様。回復がまったく足りず、そんな状態で俺の前に立ったところでまともに戦えるはずもない。トニエラにしたところで消耗は俺以上。そう判断し、呼吸を整えるために一旦追撃の手を止めてしまった。

レーダがなぜ無理をして立ち上がったのか。それはすぐに判明した。後ろに下がったトニエラがレーダに向けた回復魔法を詠唱し始めたのだ。くそっ、そんなこと少し考えればわかったはずだ!

すぐさま攻撃に移ったが、ふらつきながらも大盾を構えたレーダが俺の進路を塞ぐ。一撃、二撃、三撃と俺の攻撃をしのぎ、トニエラの回復魔法を受けた。レーダの盾を持つ手がとたんにしっかりする。

ここまでか。俺も一度休みを入れないと限界だと、二人から距離を置く。

「なんて面倒なやつらだ」

無理に無理を重ね倒したはずが、もう片方が立っていれば必ず復帰する。そして守りに回った時の頑健さ。完全に攻撃力が上回るはずの俺が、一対一に持ち込んでもどうしても押しきれない。普段はここにさらに防御力の高いプレート装備とかを着込むのだ。護衛としては難攻不落と言ってもいいだろう。

「それはこちらの台詞だ」

そう言うレーダは比較的平静を装ってはいるが、完全に意識を断ち切るほどのダメージを与えたのだ。疲労の蓄積は間違いなくある。俺とトニエラはもちろんぼろぼろだ。

「これ、まだ続けるのか?」

せっかく考えだした切り札まで使って勝てなかったのだ。正直もう打つ手がない。このままやっても削り合いの泥仕合。勝っても負けてもろくなことにならないのは目に見えている。

イオンの護衛、味方相手にそこまでやる必要があるのか? やる気なら受けて立つが、ここで終わっても双方の顔は立つ。

「ここで引き分けにしましょう! ね? ね?」

レーダは俺の提案に悩む様子だったが、回復魔法を詠唱していた後ろのトニエラがすぐにそう主張し、必死なトニエラの調子にレーダの気も抜けたようだ。

「いいだろう。マサル殿の力と覚悟は十分に見せてもらった」

覚悟とかできれば見せたくなかった。いつもいつもこんな身を削る戦いばかりして、もっとスマートに戦いたい。

「わたくしは剣のことはわかりませんが、素晴らしい戦いだったのは分かります」

パチパチと手を叩くイオンに、会話の聞こえない観衆もようやく立ち合いが終わったと理解できたようで、俺たちの敢闘に拍手と歓声が沸き起こった。

確かにいい戦いではあった。得難い戦闘経験はあったし、真・烈火剣の実戦テストもできた。切り札を公開してしまったのはもったいなかったが優秀な技なのはわかったし、後でウィルたちにも教えてやろう。

ただこの技、咄嗟に使ってしまったが、レビテーションを使うから剣闘士大会ルールだとたぶんアウトだよなあ。しかし魔法の発動はほんの一瞬。レーダは何があったか気がついただろうか? もし反則負けだと言われてしまえば反論できない。

「帰るか」

何か言われないうちに。今更勝敗をひっくり返すようなことは、言う方も言われる方もあまりに格好がよくない。

それに明日も早い。屋敷に戻って風呂に入ってさっさと寝よう。

しかしいい感じに退場しようと歩き出した俺を、誰かが呼び止めた。ここでまたチャラ男かよ。

「俺もビエルスに行って修行するぞ! そうしたらお前なんか!」

「俺なんか?」

あっさりやられて、そして俺のと二人の戦いを見てまだ突っかかる元気があるのか。

「ぜ、絶対に倒してやる」

チャラ男が言い切ったが、どう考えても無理で無謀だ。

「ビエルスの修行は、特に上を目指すなら地獄のように厳しいんだぞ。お前にそんな覚悟があるのか?」

本当の才能か、才能を乗り越える身を削るような努力があったとしても到達が容易ではない境地。人類の剣の最高峰。それが俺たちの立ち位置だ。

「望むところだ。やってやらぁ!」

なかなか根性があるじゃないか。もしかすると真面目に修行すれば、そこそこいいとこまで行くかもしれない。

そう思って俺に向かって吠えたチャラ男の首根っこを問答無用で素早く掴み、詠唱を始める。

「なら今すぐビエルスに連れて行ってやろう」

そう言って転移を発動させた。転移先は真っ暗だったがビエルスでの俺たちの拠点、道場屋敷だ。ちなみにサティと師匠もちゃんと転移についてきていた。

チャラ男について来いと言って真っ暗な中、屋敷を出て道路を挟んだお向かいの道場に勝手に入り込む。お向かいはまだ起きていたようで部屋の明かりが見えた。

「たのもーう」

明かりのある部屋にそう呼びかけるとすぐに道場主の老剣士が出てきてくれた。

「おお、マサルさんではないですか! いつ戻ってきたのです?」

「詳しい話はまた今度しますよ。それよりもこいつの面倒を見て欲しいんです。バーナビーという人の道場で学んだ人の、その弟子でね。本場のビエルスで剣の修行をしたいってんで連れてきたんですよ」

「そういうことなら万事お任せください」

お向かいさんには以前俺のメイドちゃんたちに剣の手ほどきを頼んでいたし、借金返済の手助けをしたことがあるので話が早い。

「おい、ここどこなんだよ!?」

「ビエルスって言ったろ? 修行するんだろ? それともさっきのは口だけだったのか?」

チャラ男はさすがにマジかよと呟いてキョロキョロと辺りを見回した。道場内だし今は夜だから何も見えないぞ。

「お前のボスにはちゃんと話しておいてやる。あとこれは餞別だ」

そう言って金貨を一枚投げてやる。

「どうする? 今から帝都に戻るから、引き返しても俺は構わんぞ」

俺の言葉にようやく状況を理解し、覚悟を決めたようだ。

「……首を洗って待ってろ。絶対にお前より強くなってやる」

「楽しみにしておこう」

心からそう言って俺は帝都への転移の詠唱を始めた。