軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

252話 エリーの実家訪問ともろもろの報告

アポ無し訪問したにも関わらず、お義兄さんは俺たちを大歓迎してくれた。最初は俺のことをひどく警戒していたお義兄さんであったが、何度も会ううちに基本的には俺が人畜無害な大人しい人間だとわかってくれたらしい。

「いや、いつもすまないね」

物資の輸送をしているのも歓迎されている大きな要因だ。食料は十分なのだが、それ以外の調味料だったり日常用品だったりは領地外から輸入の必要がある。辺境で、しかも峻険な山越えが必要とあってはそれも簡単ではないのを、俺やエリーで定期的に供給しているのだ。

ヒラギス戦中もエリーは物資の輸送は続けていたようだ。通常のアイテムボックスは、転移に重量分の魔力を消費することになるのだが、一〇〇人をまとめて転移できるエリーの魔力からすれば何ほどでもない。

今回は俺が輸送を担当するのがヒラギス後で初とあって、鉱山から一旦戻って、大量の物資を持ち込むことにした。有り体に言えばご機嫌取りである。

まずは食料。十分とはいっても余分の食料はいくらあっても困らない。メインはお肉。ヒラギスでは処分に困るほど溢れている。それから穀物や野菜、果物。夏から秋に移ろうという季節で、ちょうど収穫シーズンとなっている物を帝都で買い込み、ついでにお義兄さんとその家族向けのお土産を、俺のエルフ城宝物庫からいくつか見繕う。

「こんなにいいのかい?」

「いいんです、いいんです。鉱山がかなり儲かってますから」

「今日は突然だったからこれだけだけど、必要なものがあったらいくらでも買ってくるわ!」

大量といっても村での分配も考えると一人分はそれほど多くもない。今現在のブランザ領の村は三つ。元からあった村と、ヒラギス避難民を誘致して作った村。それと鉱山作業員たちが住むための村である。全部に行き届くにはやはりちゃんとした仕入れルートでの大量購入が必要だ。

「ヒラギスの後始末がやっと落ち着いてきましてね。帝都でもうすぐお祭りがあるでしょう? それまでゆっくりしてようかなと。何か頼み事があれば、いつでも承りますよ」

「帝都にも拠点を作ったから、今度みんなで遊びに行きましょうね」

「あまりマサル君たちに手間をかけさせるのも悪いよ」

「いいのよ、お兄様。いままで本当に忙しくて、なかなかお手伝いができなかった分を取り戻さないとね」

ビエルスでの修行から即座にヒラギスでの戦争である。むしろヒラギス奪還作戦の最中でも、何度か様子を見に来る余裕がエリーにあったのが驚きだ。

「それで今日は鉱山に関してですね。色々と動きがあったのでご相談したいなと」

鉱山と鉱山村に関してはお義兄さんは報告を受ける程度で、責任者はエリーがやっている。人員誘致も建設作業もエリーで主導したせいもあるが、なにせブランザ領でもかなり外れのほうで、往復するだけでも大変な距離だ。エリーが転移でチェックしてお義兄さんに報告を上げるほうが楽だし管理も行き届く。

「ああ。鉄を増産したいって話は聞いてるよ」

「増産に関しては目処が立ちそうです」

そう言って、火魔法を使った生産ラインを立ち上げたことを説明する。

「平時は暇なエルフの火魔法使いが結構いましてね。潤沢な魔力で一気に火を入れると、普通に燃料を燃やすより短時間で、大量に鉄が作れるんですよ」

しかも燃料費がいらないからコストが圧倒的に安い。ドワーフも補助的には火魔法を使ったりするようだが、メイン火力とするには力不足で、これはエルフ以外ではできない鉱山運営方法だろう。

「それでかなり収入は増えるんだけど……」

エリーが言いかけるが、その話はまだ早い。

「収入もですが、その増産した鉄の利用方法なんですけどね。エルフのほうで鉄筋っていう通常の三倍くらいの強度がある城壁が考案されましてね――」

鉄筋の簡単な説明。エルフは世界各国にその技術を供与する予定だということ。それによって今後鉄の需要が大幅に増えるだろうこと。

「城壁の強化か。うちでもできるかい?」

「もちろん。優先してやりましょう」

鉄さえあれば労力は城壁造りと同じである。今度、エルフの技術者に話を聞きにいって、鉄筋城壁の最新の作り方を聞いておかないとな。俺がやると鉄の比率とかが適当になってしまう。

ヒラギスも優先ではあるが、鉄の産地は当然優遇すべきだろう。エルフの里で使う分の鉄はブランザ領鉱山でのこれまでの生産分と、市場から買い集めた分でほとんど確保済みで、あとは建設の進行次第で多少補充する必要がある程度だから気にしないでいいらしい。

それは有り難いと、お義兄さんが軽く頭を下げる。さて、ここからが本題だ。エリーは俺に任せたとばかり口を開く気はあまりなさそうだ。

できれば言わずに済ませた方がお義兄さんも平和に暮らせることだろう。しかし鉱山を新しく作ったことを秋祭りに合わせて、お義兄さんが帝国政府に報告に行く予定なのだ。遅かれ早かれ知ることになるなら早い方がいい。

「さっきエリーが言いかけてましたが収入と言うか税金の話なんですけど……」

そう言ってアイテムボックスから書状と短剣を取り出す。

「帝国王家の紋章?」

まずは短剣に目がいったようだが、書状の中身も見るようにお義兄さんに促す。

「帝王許可状。この者マサル・ヤマノス、ガレイ帝王の代理にて、あらゆる便宜を図るべし……」

いま気がついたが、ガレイ帝王名義か。きっとウィルパパが帝王を継いでも権利を引き継ぐように言い含めてあるんだな。

お義兄さんは書状を読み上げると俺を見て、書状を見て、また俺を見て言った。

「マサル君、さっぱり意味がわからない」

俺もお義兄さんの立場で何の説明もなくこんなものを見せられたらそう思うだろう。

お義兄さんの顔色から血の気がスーッと引いていく。何かを察した。いや、確信しちゃったか……

「実は帝国とちょっとしたトラブルがありまして、その書状は帝王陛下が詫びにと寄越したものなんです」

「帝国とトラブル!? 帝王陛下が詫び!?」

その声は裏返り、お義兄さんは今にも卒倒でもしそうな雰囲気だ。

「もうそのトラブルはすっかり解決したのよ? だからお兄様が心配する必要は全然ないわ」

そうエリーに言われてじゃあ安心だ、などと思えるはずもない。

「それでついでにここの鉱山の税も免除してもらいましてね。恒久免除ですよ。その上新規の開発も無税! すごいでしょう?」

だがお義兄さんはあんまりすごいとは思ってくれなかったようだ。

「そ、そのトラブルというのは……」

「ほら、ウィルって居ましたよね?」

ウィルはエリーの護衛に付くことが多かったから、ずっと兜を被ったままで顔出しは一切してなかったようだが、お義兄さんも名前くらいは知っている。

「あいつね、実は王太子殿下の息子なんですよね」

正式な呼び方は王太孫殿下ということになるのだろうか。

「王太子……ランディーズ帝国軍総司令閣下の!?」

そうそう、と頷く。お義兄さんは話を聞いているだけだと言うのになぜか呼吸が荒い。今からそんなんで大丈夫か?

「そのウィル王子と、この書状はどういう……」

うん。本題は、トラブルの内容はここからだ。かなり刺激が強いぞ?

「ヒラギスが落ち着いたんで、ウィル……ウィルフレッド王子が一度里帰りすることになって、帝都の王城まで送っていったんですよ。それが三日前の話ですね」

その翌日に救出されて、そのさらに翌日が王城での式典で、今日は朝から査問会。考えてみればエリーがお義兄さんに報告に来る暇などなかったか。

その帰りに俺が転移術師向けの罠に捕まってしまったこと。俺を捕まえたのがウィルパパで、奴隷化して配下にしようとしたこと。俺がエルフに助けを求めて、エルフは特使を立てて俺を返すように帝国側に要請したところ帝国が拒否し、エルフと帝国が戦争寸前になりかけたこと。

「待って。待ってくれ!」

はい、待ちます。

「戦争はなかったんだね? トラブルはちゃんと解決したんだね!?」

戦争は回避できましたと言って続きを話す。サティが王城に一人で乗り込み、俺を救出したこと。

「それは普通に王城を訪ねて、マサル君を解放するようにお願いしに行ったということかい?」

サティを見ながらそんなことを言う。

「乗り込んだんですよ。正面から、武装して」

「正面から? 武装して? 王城に?」

お義兄さんがオウム返しに聞き返す。

「剣聖の伝説を聞いたことありますよね? 行く手を遮る兵士や騎士をすべて倒して、王の下へと辿り着き直訴した逸話」

お義兄さんは信じられないといった様子でサティを見やる。

「サティはヒラギスに行く前に、剣聖からソードマスターの称号を授かっているんです。そりゃもう強いですよ?」

並み居る兵士や騎士、王家指南役にエルド将軍に親衛騎士団。そのすべてを倒してサティは帝王へと辿り着いたこと。

そして帝王に剣を突きつけて俺を返せと言ったところまでは良かったが、出てきた俺が人質にされていたこと。

「わたしが勝ったはずなのに、ひどいと思いませんか?」

サティが同意を求めるようにお義兄さんに言う。サティにしてみれば帝王に辿り着いた時点で勝ったと思っていたところであっさり五分に戻されたことに関しては、今でも納得がいかないようだ。

双方が人質を押さえられた膠着状態に、ウィルパパは帝王を見捨てる決断をしたこと。帝王に剣が突きつけられていることなど構うものかと、サティを倒せと部下たちに命じたこと。

話しながらあれはそれなりに良い判断だった、そう考える。サティは俺を人質に取られた時点で打つ手をなくしていた。ウィルパパはウィル祖父を切り捨てる決断ができたが、サティは俺を切り捨てることは不可能だった。もしウィルが登場しなければ、サティは為す術もなく制圧されて終わっていたかもしれない。

だがあくまでその場では、である。その後がまずいことになっていたことだろう。俺は戻らない。単騎で突入したサティの行方も知れないでは、リリアは帝国との戦争を躊躇しなかったはずだ。

そうなってしまっては、ウィルに事態を止められたか微妙だろう。一歩間違えれば大惨事である。

リリアの判断を俺は責めない。俺は俺自身の判断で動いているが、俺は元ニートの俺の判断をあまり信用していない。だから皆にも神託などの一部のことを除いてはなるべく自由にさせているし、家族会議もまめに行って、みんなの意見もしっかりと聞く。そのほうがいい感じに事態が運ぶんじゃないかと思っているからだ。今のところ、それで致命的な事態になったことはない。

今回戦争になりそうだったのはやりすぎかもとは思ったが、話し合いが決裂した以上、実力行使もやむ無しではあるし、他に対案もないのだ。まあ戦争や実力行使といっても、いきなり全面戦争や虐殺行為をする気はリリアとしてもまったくなく、軽く脅せば帝国など屈服するだろう程度に考えていたようだ。

実際剣聖と配下の剣士に、加護持ちの魔法使いの力は圧倒的だ。一方的に帝国側に被害が出て、戦いはエルフの勝利であっさり終わったことだろう。現に帝国はサティ一人すら、止めることができなかった。

「そして一触触発の場にウィルが現れて、その場を収めてくれたんです」

めでたしめでたし。

「……うん? それが、どうしてこれに繋がるんだい?」

話を終えた俺にお義兄さんがそう聞いてきた。ちょっと端折りすぎたか。この先を話すには俺が勇者か何かだと言わなければならないのだが、俺が勇者だと思われてることは帝国では大々的に知られてしまった。辺境とはいえ、ここに噂が到達するのも時間の問題であろう。

「実は、俺は周囲から勇者と呼ばれてるんです。ウィルはそのことを言って――」

結局俺が機転を利かせて、それに即座に反応したサティが上手く隷属の首輪を切ってくれて助かり、そして最後は歩いて王城から帰還したところまで、今度こそ話し終えた。

「勇者? マサル君が?」

「ええまあ。勇者というか勇者っぽいというか……ほぼ勇者?」

「マサルは使徒なの。ずっと神託に従って動いていたのよ。その使徒を帝国は捕まえて奴隷にしようとしたの」

「しかも失敗して逃げられた。神殿は激怒したでしょうね」

「だから帝王自ら、すぐに謝罪に来て頭を下げたのよ。それがこれと鉱山の税の免除ね」

帝王許可状と税の恒久免除。オリハルコンの剣とウィルの姉妹を差し出そうとした件はまあ言わずともいいか。

「て、帝王陛下が頭を下げた!?」

「その日のうちにエルフとの友好関係樹立の式典をして、俺とのトラブルは解決したと周囲にアピールして今回の件は手仕舞いとなりました。そのこともあって今朝は神殿に行ってきたんですが、帝国とのトラブルは問題視はしてなかったですね」

神殿がどこまで情報を得ているのか定かではないが、俺が矛を収めた以上、口出しをすることでもないとでも判断したのだろう。それとも俺の話が衝撃的すぎて話すのを忘れたのかもしれない。

「しかし陛下が頭を下げたなどと……」

お義兄さんは震えて、完全に怯えた様子である。顔色を完全に無くしている。

「遺恨はもう全然ないんですよ。鉄筋の話をしたでしょう? 他にもいくつか技術供与を約束したら、帝王陛下はとても喜んでましたし、王城でやった式典では城の人たちも、勇者が味方なら帝国も安泰だってそりゃもう大歓迎でしたね」

ただウィルパパだけは神国に一年の修業に出されることになって、思うことは色々あるかもしれない。

「だから心配することなんて何もないのよ?」

だがエリーがそう言ったところで、お義兄さんの心が休まる様子がまったくないのは、仕方がないことなのだろう。

「一体どんな顔をして王城に上がればいいんだ……」

しばらくしてようやく落ち着いたお義兄さんがぽつりと言った。

「わたしが代理で行っておきましょうか?」

当主が領地で動けなくて、代理が帝都で活動するのはよくあることである。特に帝都から距離がある辺境部で、なおかつ地位も低い男爵程度だと、帝都に行くのも一生のうち数回、なんてことも話に聞く。

今回の王城訪問は鉱山と、村も増えたのでその報告である。ただどちらも税金関連の事務手続きだけの話であるので、帝王に謁見なんてことはまずないはずなのだが、勇者の義兄的な立場である。何があるかわからない。

「考えておくよ、エリー……」

「本当に申し訳ない。お義兄さんに迷惑をかける気はまったくないんですけど、俺の立場上、各方面に影響が大きくならざるを得なくって」

「いい面もあると考えましょうよ、お兄様。マサルのお陰で鉱山で儲けられたし、村ももっと大きくできるでしょ?」

エリーが俺と出会ってからの稼ぎで借金も一気に返済できた。村の規模も三倍に、鉱山からの収益で、領地の稼ぎは一〇倍では収まらない規模にまでなった。いい事ずくめである。しかしお義兄さんはそう単純には喜べないようだ。顔色の改善はまったく見られない。

「エリー、私はね。父上が倒れられて、領地を失った時、もう金輪際トラブルには関わるまい。今後はできうる限り平和に生きようと心に決めていたんだよ」

わかる。めっちゃわかるよ。田舎で領地を開発しながら、家族との時間を大切に、のんびりと平和に暮らす。理想的な生活だな。

それを俺が乱してしまった。しかもトラブルの相手はこの国の最高権力者、帝王と次期帝王である。

「もし借金や付いて来てくれる領民がいなければ、貴族籍の放棄をすることまで考えていたんだ」

領民や家族の手前、話したことはなかったがとお義兄さんは付け加える。

いや、本当に申し訳ない。しかも俺に関わった以上、今後も何かしらトラブルは付いて回るのは間違いない。

「お兄様もブランザ家の男子として生まれ、いまは当主となったんです。しっかりと覚悟してもらわないと」

「わかっている。わかってはいるが……」

そう言って俺を見るが、俺としてもどうしようもないのである。お義兄さんと関係ないところで、お義兄さんにはまったく手に負えないトラブルが発生する。もし今回の件が平和裏に終結しなければどうなっていたことか。一切罪がなくとも、俺たちの関係者というだけで帝国の最高権力者に睨まれる。お義兄さんとしては生きた心地がしないだろう。だが安易な慰めの言葉は言えない。

「今後も何かと迷惑をかけるかもしれません」

今後二〇年以内に世界は動乱の時代となるだろう。平和を求めるなら、自分の手で、力をもって手に入れるしかない。

俺の言葉にお義兄さんは絶望的な表情を浮かべる。釣られて俺のほうまでなんだか胃が痛くなってきたぞ。

「だからまずは村を強化しましょう、お兄様。そしてお金もいっぱい稼ぐのよ」

この世界でもお金があれば大抵のことはなんとかなる。

「そうだな。生きている以上、不運はどうしたって付いて回るけど、こうやって支援も貰って、生活もずいぶんと楽になった」

やれることをやって、精一杯いまを生き延びる。

「そうよ。マサルにかかれば滅んだヒラギスだって取り戻せるの」

「勇者か……」

お義兄さんはその言葉の意味を、ようやくじっくりと考える気になったようだ。

「マサル君も大変なんだね?」

大変なんてもんじゃないですよ、ほんと。そう思ったが、言わずに頷くだけにしておいた。お義兄さんに愚痴をこぼしたい気分ではあるが、いまは他に優先すべきことがある。

「色々大変ですが、目先のことを一個一個片付けていきましょう、お義兄さん。まずは鉄です。鉄の新しい鉱山をこの周辺でまた見つけられないかと――」