作品タイトル不明
251話 ブランザ領鉱山にて
「おめでとう。どうやら帝国神殿は正式にアンジェラを聖女と認定する運びとなりそうだぞ」
「ええっ!? マサルの例のアレの話じゃなかったの?」
「そうだよ。勇者と 例(禁呪) の話だったよ」
そう言いながら家族会議で査問会の様子を説明していく。
「それで最後のほうに、もう聖女にも呼び出しはしないでくれって言ってやったんだけど……」
あれはやぶ蛇というものだったろうか。だが俺が本物の使徒である以上、行動を共にするアンが偽聖女では話が通らない。勇者は本物でしたが、同行している神官は聖女でもなんでもないただの神官でしたでは、神殿としても格好がつかないだろう。
実際のところ、聖人や聖女に関して使徒のような明確な基準があるわけでもない。あの人は聖人や聖女っぽいと誰かが言い出し、それに相応しいかどうか神殿が審査する。
しかし審査するに当たってなんらかの基準はどうしたって必要だ。そこで過去の偉人と比較することになる。人柄が良い、人物として立派なのは当然として、注目点はやはりその業績である。
ヒラギス居留地では私財を投じ、住居や養育院を作り、食料支援や治療でたくさんの難民を救う。ヒラギスでは常に最前線に立ち、兵士を治療し、鼓舞し続けた。既にパンデミックと言っていい状況だった疫病の発生を一晩で、それもたった一人で抑え込んでみせ、その足ですぐにまた最前線に戻って北方砦の奪還を裏で支えた。
それ以前も魔物から村を救ったり、辺境の村々を訪ねては治療や支援をして回っていた。
どれか一つでも立派な業績と言えるが、それが二つも三つもとなると、もう間違いない。つまり俺の発言だったり使徒だったりというのは、最後のひと押しにすぎなかったのだ!
「……というわけで呼び出して審査するまでもなく、本物であろうと完全に思われたというわけだ」
「半分くらいはマサルとかエリーの仕事じゃない……」
弱々しくアンがそんなことを言う。
「半分でも聖女と呼ばれるには十分じゃないかしら?」
エリーは積極的にアンの名声が高まるように動いていたし、俺もアンと行動する時は裏方で目立たないようにしていた。
俺はアンが目立つ分、俺への注目が分散されていいなと思っての行動だが、エリーの動機は目立ちたい、じゃなくて名声がほしい、である。
元々は没落した実家の復興を目指していたのだが、現実問題として不可能そうだ。領地を取り戻したとして離散した家臣団は戻ってくるのかとか、領地軍の再建だとか問題は山積み。その上、大前提としてお義兄さんにそのつもりがなければ、エリーががんばってもどうしようもないのである。
お義兄さんは豚伯爵のバックに大物がいることを察していて、中央での権謀術策には絶対に関わりたくないと思っている。
そしてエリーは領地を取り戻すことを諦め、それでも名声はほしいという欲求が特に意味も目的もなく残った、実に悲しい女の子なのである。
「マサル、今わたしを見て何か失礼なことを考えてない?」
いえ、ぜんぜん考えてません。
「そういえばSランク昇格の話はどうなったのかなと」
「ヴォークト殿待ちなんだけど、いっそ帝国ギルドに行ってみようかしらね?」
そちらは急ぐものでもないし、昇格希望はエリーくらいのものである。俺はまた審査だのなんだのが面倒だからAランクのままでいいし、サティたちはBランク以下だから適当に昇格することになるだろうか。
「アンもついでにSまで昇格しとく? 聖女様なら余裕よ」
「いい」
Sランクに上がったところで冒険者ギルドで優遇してもらえるとか、一般の人や仕事相手にも敬意を持って扱ってもらえるとか、正直俺やアンにはすでに十分すぎるほどあるのだ。
すっかりしょげて何かの被害者にでもなったような雰囲気のアンであるが、アンにしても名声によって随分と利益は得ているのだ。
アンの趣味はボランティア活動である。人助けをするのに聖女の名声は計り知れない価値がある。ヒラギスへの寄付もそれでたくさん集まった。
俺にしてもエリーにしてもアンのボランティア活動を積極的に手伝っていたし、神官のアンと違って冒険者にも関わらずほとんどが無償での協力である。アンもそれには感謝していたし、俺やエリーの動きは黙認していたのだ。
それにそもそも聖女と呼ばれ始めた発端は、アンがヒラギス居留地で全力での治療活動を行ったことである。自業自得な面が強い上、加護の力を無制限に振るう以上、遅かれ早かれ有名になるのは避けられないことだと本人もわかっていて、ただ感情的に納得していないだけなのである。
幼い頃孤児となり、神殿でつつましく養われて育ったアンは、いまだに聖女だとか子爵の奥方だとかにまったく慣れないようだ。まあわからないでもないけど。
で、だ。神殿の件が速攻片付いたので今日はかなり時間ができた。帝国とのトラブルでは三日間潰れたし、神殿も最悪それくらいはと覚悟していたので、当然予定など考えてなかった。
働くか。ごろごろするか。働きたい気分じゃないが、ぶっちゃけ仕事は山積みである。
「ヤマノス村はいまどんな感じだ?」
「 ソイビーンソース(醤油) と ソイビーンペースト(味噌) は量産できそうって報告が来てたわね。蒸留酒のほうも、そろそろ仕込みが始まりそうよ」
醤油と味噌に関しては販売も考慮し、どっちも見た目から味や原材料が想像できない欠点を補うべく、 ソイビーン(大豆) と原材料を明記することで、初見の人にも親しみやすくしようという作戦である。
「米の栽培場所の選定は?」
今回のヒラギスの神託の報酬はお米と各自への10ポイント加算。それで先日毒耐性を取れたのだ。
「一応場所だけは決めておいたわ」
お米の栽培は春先からだから、これも急ぐ必要はない。とりあえず種籾はお米二種に、もち米、日本酒用の米と四種類を神様から送ってもらっている。親切丁寧栽培ガイド付きである。そっちの日本語からの翻訳もしないとだな。
ついでに支援物資も来ていた。前回とほぼ同じ内容の、日本の懐かしいお食事セット。
米にお餅に味噌や醤油、カレーに海苔や梅干しや漬物。コーヒーやコーラやスナック菓子に、インスタントラーメン。今回は缶ビールも入っていた。
「獣人の里は?」
「とりあえず領主の館とその周辺を中心に整備しているところね。それと城壁はどうするの?」
「まずは普通に作っちまおう。鉄筋の配備は北方砦と東部砦の城壁が最優先だ」
やはり鉄の確保がネックだな。思ったより鉄筋に必要な鉄の量が多い。うちの鉱山からの産出量はかなりあるのだが、鉄鉱石を選別して鉄に精製して、鉄筋の形にしてと、すべての作業を考えると、そうそう生産量は増やせない。設備もいるし、燃料も大量にいる。単純に人手を増やせば良いというものでもないからだ。
いや、人手も燃料もなんとかなるか?
「今日はこれからブランザ領の鉱山を見に行くことにしよう」
俺には無限に湧き出る魔力と強力な火魔法がある。鉄鉱石も土魔法で効率よく掘り出せるかもしれない。
「午後からは獣人の里に行って、当面はそっちで泊まることにする」
ここ数日、否応無しに帝都の館に滞在していたが、やはりメインのお仕事である獣人の里を拠点とすべきだろう。
「他に何か報告はあるか?」
「転移ポイントですが、ミスリル神国へは明日中には到達できそうです」
ルチアーナがそう報告してくれる。ミスリル神国か……ウィルパパを送っていく話が出たんで気を利かせたんだろうな。
「ウィルにも知らせてやってくれ。神国にも拠点を作るつもりか?」
「その予定です」
「なるべくこっそりとやってくれ。当分は神殿とは関わりたくない」
「かしこまりました」
俺自身が神国に行く予定はたぶんないが、それでもエルフ経由で呼び出されたりするのは嬉しくない。
「それと転移に関連してじゃがな、暇をみつけてエリーとマサルに空間魔法習得の指導に来てほしいのじゃ」
空間魔法の習得法かあ。リリアの話ではエルフで空間魔法を使えるものを増やそうと最近計画を始めたのだという。しかしエルフの空間魔法の使い手二名は覚えたての新米。加護で取得したので習得方法などさっぱりわからない。
「普通は一年か二年でも試してみて、素質がなさそうなら他に行くのじゃが、空間魔法は初めてじゃからのう。どうやればいいのやら手探り状態なのじゃ」
俺たちも指導できるかっていうと疑問なのだが、一応アンやティリカ相手に試行錯誤した経験はある。転移までいかず習得が中途半端に終わったとしても、アイテムボックスを覚えることができれば相当に役に立つ。
「急ぐ必要はないのじゃ。一〇年か二〇年もあればモノになるじゃろう。我らは長命。一〇〇年かけて一人前になれればそれで良い」
一〇年も修行すればアイテムボックスくらいはなんとかなりそうだ。
「じゃあ明日にでも」
俺のほうでもエルフに頼みたいこともある。
「俺が襲われた時の麻痺毒をエルフで調べてたろ。あれどうなった?」
「いま対応策を練っているところです」
そうルチアーナが答える。今のところは常時、風の防壁を展開するのが最善だろうということだ。ただし魔力消費の問題もある。一〇人分くらいを覆う風防壁を常時展開すると普通の精霊使いなら一刻すら保たない。術師本人だけでいいなら、時間も延びるから状況と術者の魔力量に応じて考えればいいだろうということだ。
そして一人無事な者が居れば毒を吹き散らかして、解毒魔法をかけてしまえばいい。
「もう二度と、あの毒で後れを取ることはありません」
実際にその麻痺毒が使えるなら都合がいい。新しく取ったスキル、毒耐性のテストをしたいのだ。
「毒の現物があるなら俺も何か考えてみよう」
護衛担当にはガスマスクでも義務づけるか? どの道フードで顔はほぼ隠れているし、あとは効果的なガスマスクがこの世界にあるかどうかだな。なければ自作する必要がある。
だがガスマスクは意外でもなんでもないところからぽろっと出てきた。
「これはなんだ?」
さっそくブランザ領の鉱山に移動して、ドワーフの親方に鉄鉱石を溶かして鉄を生産する炉を見せてもらっていた時である。工房の道具の中に、どこか見慣れた感じの物があった。
「ガスマスクでさあ、旦那」
なるほど。採掘で地下に潜るのにガスマスクは必須だな。うちは今のところ露天掘りでガスマスクの必要はないらしいが、私物として持ち込んで転がしてあったそうな。
見せてもらったガスマスクは革製でお椀状になっていて、お椀の底のほうのいくつもの開いた穴から吸気して、フィルターを通して呼吸をする、ごくごく一般的な物のようだ。
「これ、どこで手に入る?」
「自分たちで作るんでさ。ご入用で?」
自作か。まあ鉱山技師も兼ねた本職の鍛冶屋だしな。鉄製品でなくても物作りはお手の物だろう。
「すぐ作れるか?」
材料があればという話で、分解して中身を見せてもらう。フィルターは布と、スポンジ。スポンジはこの世界でも海から取れる自然素材で、海綿スポンジというのが普通に普及している。しかしずいぶんとシンプルな構造だ。
「これで効果はどの程度あるんだ?」
「してない者と比べると、倍くらいは生き延びられますぜ」
地下に潜る際のガスマスクは自己責任でやるものだそうだ。していたところでガスにやられれば多少長生きできる程度。マスクは呼吸が苦しくなるし、それならしなくてもいい派と慎重派で対応が分かれているそうだ。
実際につけてみると、確かに息がすぐに苦しくなった。
「吸う息と吐く息を分けてないのか……」
「吸う息と吐く息ですかい?」
「つまりだな、吸うのはこれでいいとして、吐く息を別のルートで逃さないと、自分の息で窒息するんだ」
空気の通り道が一本だと、あまりフィルターを分厚くすると、どうしても呼吸に支障が出てフィルター性能を落とさざるを得ない。だから吸気と排気を分けて作る必要がある。
ドワーフの親方は説明だけじゃよく理解できなかったようだし、実際に作ってみたほうが早いか。
土魔法で円筒状の物を二つ作る。350mlの缶ジュースくらいの大きさと形状の物と、それを半分くらいの長さにした物。両方とも上下には穴が開いている。長いほうが吸気で適当に布を突っ込んで仮のフィルターとする。
「革の切れ端がないか?」
用意してもらった革の切れ端で開閉できる簡易の蓋を作る。吸気は内開き。排気は外開きだ。
吸気用の円筒を口に付けて息を吸うと、蓋は内開きなので開いて空気を通す。息を吐くと蓋は押されてぴったりと閉じてしまう。排気は逆だ。息を吸う時にはぴったり閉じて外気を入れない。だが多少の逆流はあるので、排気にもフィルターを配置する必要がある。
「見てろよ?」
これをガスマスクの形状にしたものに一体化して実演してみると、息を吸うと吸気部分だけが開き、吐く時は吸気が閉じて排気部分が開くのがはっきりとわかる動きをする。呼吸を繰り返しても息苦しくはならない。
「お、おお……お!? こりゃすげえや、旦那!」
ドワーフの親方は俺の作ったガスマスクもどきにえらく興奮している。
「吸気と排気を別にしたお陰でフィルターも分厚くできる」
親方の持っていたガスマスクはスポンジと布の二層。それも分厚いとはとても言えない代物である。たぶん花粉くらいになら効果はある。
フィルターも布をもっと目の細かい物にして、あとは炭か?
スポンジ、布、細かく砕いた炭。これを何層にも重ねれば、相当処理能力は向上するはずだ。
もちろん俺が雑に作った物では論外レベルのガスマスクもどきであるが、ドワーフにしてもエルフにしても職人の能力は高い。基本構造さえ把握すれば、あとはいい感じの製品に仕上げてくれることだろう。
「しかし炭ですかい?」
「炭は濾過材として優秀なんだぞ?」
熱帯魚を飼う時の定番の濾過材の一つである。そういえば水も濾過できるなと思い出して、炭の浄化能力の実演をしてやることにする。空気じゃ目に見えないからな。
キレイな飲水に土を混ぜて泥水にする。先ほどの円筒状フィルターをもう一つ作ってスポンジ布炭フィルターを設置。そこに泥水を投入するとあら不思議。透明な……
「少しはキレイになってるかしらね?」
エリーが俺を慰めるように言う。層が薄すぎたか。あと炭は少し洗っておこう。それと砂利だ。細かい砂利を一番上の層に入れて……
「どうだ!」
見事、泥水が透明な水になりました! ほおーと今度は周囲も感心してくれた。
「こんなにキレイになるものなのね」
「それはともかくガスマスクじゃな。すぐに試作品を作ってテストせねば」
エルフはキレイな水には興味がなさそうだ。まあ魔法使いだらけだもんな。
「そうですな。このガスマスクがあれば、鉱山での人死にがずいぶんと減りまさあ」
「新製品じゃ。名付けねばならんな」
そう言って俺を見る。さすがにリリアも最近はマサル式とか付けるのは遠慮している。
「エルフ式複式給排気ガスマスク?」
「長いのう」
「長いですなあ。エルフ式ガスマスクでどうですかい?」
もうそれでいいよ。ていうかガスマスクは今日の用事じゃなかった。
「そっちは一旦置いて、もっと鉄の増産はできないか?」
「やってますがね。すぐには難しいですぜ?」
すでに増産要請はしていて、対応はしているのだ。その上さらにせっつかれても困るだろう。
「炉は俺が作ろう」
土魔法で簡単に作れる。
「鉱石も十分あるだろ?」
いまのところむき出しの鉱床から拾ってくるだけの状態である。
「それで俺は火魔法が使える」
「いや、旦那。火魔法で鉱石を溶かそうってんなら、最低でも魔法使いが四、五人がかりになりますぜ?」
「たった四、五人でいいのか? 一〇〇〇人分くらい用意できるぞ」
それなら増産も可能か、とエルフを見ながら親方も納得してくれたようだ。
そして魔法使い専用炉をさくっと作って、鉄鉱石を放り込んでもらう。
「もっとだ。限界まで詰めてみてくれ」
どうせ魔力は有り余っているし、一度に大量にやれたほうが楽である。鉱石を詰めたら、炉の口を閉じて、内部に火魔法投入である。
ゆっくりと込める魔力を増やしていくと、すぐに鉱石が溶け始めたのが空間魔法の探知、空間把握でわかった。
温度はこれくらいかと維持していると、溶けた鉄が炉の外に流れ出てきたので火魔法の火力を少し抑える。あまり温度を上げすぎると、炉自体が溶けてしまう。
「だ、旦那、もうちょっとゆっくり!」
どうやら一気に溶けて、受ける側が追いつかなくて大変なことになりかけている。火魔法を完全に止めてしばらく様子を見る。炉は煙突部があるくらいで、一度温度を上げてしまえば簡単には下がらない断熱構造になっている。
「どうだ?」
「これならいくらでも増産できますぜ!」
そう言って親方もにっこりである。火魔法によりごくごく短時間で鉱石が溶ける温度に到達できた。しかも火力にはまだ余裕もあるから、もっと大きい炉でも可能。生産量を飛躍的に伸ばせるだろう。
それでも鉱石集めに人手は増やす必要はあるが、体が動けば誰でもいい、単純な肉体作業だ。
今回の鉱石はインゴットにしてしまったが、用意した型に流し込めば、そのまま使える鉄筋が完成する。
いままでの通常のラインはそのままにして増産分は鉄筋専用、魔法専用にしておけば、鉄鉱石が枯れても人手が無駄になることもほとんどない。
「ふむ。これならうちの火魔法使いも役に立つかのう」
あー、火魔法って日常では使い道ないもんな。戦いでは花形ではあるのだが、普段はただの穀潰しである。まあ火魔法だけって魔法使いも少ないのだろうが、火魔法が得意な者の活躍場所が限定されるのも確かである。
「じゃあ普段はエルフにやってもらって、それで追いつかない時は俺を呼ぶって感じでいこうか」
鉱床に関しても、いまのところ新規に掘る必要はないと、俺の出番はなさそうだ。それに鉱山ではエルフも何人も働いている。エルフでも鉱山運営をしてみるかと技術習得のためである。当然土魔法使いも居て、小規模な採掘なら俺が出る必要もない。
「また儲けがでるわね!」
当然、できた鉄筋は相場程度の値段で取引される。それも増産分は元手もタダに近い上、帝王からは無税のお墨付きを貰った。雇ったドワーフや、エルフ、作業員たちにたっぷりとボーナスを払ってもその儲けは莫大なものとなる。
できた鉄筋は当面はヒラギスに行くことになるが、その原資はエルフからの援助になるだろう。それが回り回って俺の元へ。
意味があるのかと思うが、だからといって鉄の値段を勝手に下げたりはできない。
「むしろ鉄の値段はこれから高騰するでしょうね」
世界で鉄筋が認知されてしまえば、鉄の需要はうなぎ登りとなるだろう。
「鉱山をもっと増やしたいな」
鉱山運営に関してはもう問題がない。あとは新たな鉱山をどこかで見つける必要があるな。
「この周辺にも探せばまだあるだろうし、エルフの里に獣人の里の周辺」
ビエルスもすぐ近くは山岳地帯だ。十分な儲けが出るとなれば剣聖の孫で賭けの胴元のリュックス・ヘイダが興味を示すかもしれない。
「ブランザ領の新規開発は無税にしてもらえたし、とりあえずこの周辺で探してみるようにお義兄さんに進言するか」
そうね、とぎこちなくエリーが頷いた。
「そういえば鉱山の税免除とか、お義兄さんに説明した?」
「まだよ」
「俺たちが帝国と揉めたことも……」
「まったく知らないわね」
そこからかあ。知らせようと思えば一瞬だろうに。
「お兄様には一緒に説明しましょ? ね?」
一緒にっていうか俺にやらせるつもりか。しかしエリーのかわいらしいお願いである。
「仕方ない。行くか」
俺は悪くないとはいえ、俺が主たる原因だ。それに無税とかの話も知らせないわけにもいかない。
「いい話だし、お義兄さんもきっと喜ぶよ」
まあ胃は確実に痛くなるだろうが、いい話なのには間違いない。だがそうは言ってみたものの、エリーも欠片もそう思ってないようだった。