軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

247話 対決

「エルド将軍、そこをどいてください」

「それは出来ぬ相談だ」

「お師匠さまもお怒りですよ?」

「その剣。師匠のか……だが」

わたしの言葉にちょっと怯んだ表情になったエルド将軍だったが、意を決したように腰の剣を引き抜いた。

「エルドレッド陛下には名前が同じというだけで可愛がってもらい、将軍にまで引き上げて頂いた大恩がある。たとえどんな事情があろうと、ここを通すわけにはいかぬ」

「そう、ですか」

できればやりたくなかった。エルド将軍ほどの相手に手加減は不可能だ。やりあえばどちらかはただでは済まないだろう。

「肩で息をしているな。その小さな体でここに来るだけで相当無茶をしたのだろう」

そう言いながら黒い重そうな鎧を着た大きい人が前に出てきた。三度の奥義発動で、かなりの体力を消費してしまった。呼吸は戻りつつあったが、失った体力が戻るには時間がかかる。普通の相手ならそれでも問題はなかったが、相手は同じくソードマスターの称号を持つエルド将軍。あのヴォークト軍曹殿とかつては互角の戦いを繰り広げたという剣士だ。

それに加えて相手はもう一人。盾持ちの頑丈そうな騎士。帝王との間にも騎士の一隊が待ち構え、後ろからもわたしを追ってきた騎士たちが続々とやってきている。

このすべてを排除せねば帝王には届かない。

「見た目に騙されるなよ、オルグへッグ。こやつは一番新しいソードマスター。師匠にもっとも将来を期待していると言わしめた剣士だ」

「わかっている。ガルドス殿も倒したのだろう。油断はせん」

さっきの相手か。あの人も強かった。

「二人でやるぞ。他は手を出すな。邪魔になる」

その言葉で騎士たちが距離を取り、帝王への道をさらにがっちりと固めた。

「わたしはここまで一人も殺さず来ました。でも、そこをどかないと命の保証はできませんよ」

「お互い、主のために死ねるなら本望というものではないかね?」

その言葉には頷くしかない。話しているうちに、疲労はあるが呼吸はすっかり平常に戻った。休みたいときはとにかく何か話せばいいというマサル様の教えはほんとうに偉大だ。

まずはたぶん弱いほうをやる。エルド将軍のいる左側に軽く一歩。そう見せかけて黒騎士のいる右側に全速力で回り込み、剣を打ち込む。盾に弾かれた。いい盾を使っている。だがそれ以上に使い方が上手い。刃の角度が悪ければ、オリハルコンの剣といえども簡単に弾かれてしまう。不意をついたのにきっちりと対応してきた。

エルド将軍が回り込もうとするのを黒騎士が間に来るように動く。

複数でも二人を相手にする時、それも二人ともが強い相手だった場合、とにかく一対二の状況を作らないことが重要となる。一人を盾にするように動くのが理想的だ。

だが盾にされたほうももちろん大人しく盾にはなってくれない。当然ながら攻撃してくるし、相方の動きに合わせてきっちり二人が相手をできるよう動こうとする。

しかしすぐにわかった。この二人は手練ではあるが、明らかに連携が取れていない。騎士として集団戦闘の心得くらいはあるのだろうが、高いレベルでの意思疎通ができていない。

黒騎士は守りを固めてしまえば良かったのだ。そうすればエルド将軍の剣が活きた。だがわたしの相手をするべく前に出てしまった。

それを利用した。相手の動きが上手くいったと見せかけ、二対一の状況をわざと作り出した。当然攻撃に意識が向く。

チャンスは一度切り。歴戦の剣士であるエルド将軍に二度目は通用しないだろう。

ここで奥義を使う。

「な!?」

黒騎士が驚きの声をあげる。剣が当たると見えた瞬間、わたしがかき消えたように見えたことだろう。戦闘中に隠密忍び足でステップするマサル様の得意技に、奥義のパワーを足に乗せての高速の移動術。

黒騎士はわたしを見失い、エルド将軍の動きを一瞬であるが邪魔をした。

雷光一閃。黒騎士の鎧を切り裂く。だが本命はエルド将軍のほうだ。倒れようとする大きい体の黒騎士を利用した、完全なる死角からの一撃。

「なかなかやるな」

だが、当たるはずの一撃は剣で受けられた。

「さすがはソードマスター。奥義を完全に使いこなしている。だがそれも想定の範囲内だ」

膝をついた黒騎士を挟んでエルド将軍と対峙する。読まれていた? それとも経験のなせる技だろうか。どちらにせよ、やはり手強い。

「くっ、おおぉ」

黒騎士がなおも立ち上がろうとする。

「下がっていろ、オルグへッグ。ここからは私が一人でやる」

「かなりの深手です。急いで治療しないと死んじゃいますよ」

わたしの言葉に部下らしき黒い鎧の騎士たちが慌てて黒騎士を引きずって下がっていった。

黒騎士を倒すのに二度も奥義を使ってしまった。奥義とはすなわち体の限界を超えて体を無理やり動かす術。凄まじい威力を誇るが、同時に術者の体には大きな負荷をかける。それを短時間で五回。また息は上がり、足も腕もすでに軋みをあげている。

「では続きといこうか」

そう言ってエルド将軍が動いた。上背のあるエルド将軍の剣は、リーチが長く、鋭く重い。それをギリギリのところで躱し、受け流す。防戦一方で攻撃に回る余裕も余力もない。

それにエルド将軍は切り札を一度も切っていない。まだ奥義を見せていないのだ。ヒラギスでの立ち会いでも見せなかった。使えないということはあり得ない。でなければヴォークト軍曹殿に対抗するのは不可能だったろう。

だがそれはすぐにわかった。攻勢のただ中で放たれた一撃。

受けてはいけない。そう感じ、咄嗟に無理をして躱した。

「よくぞ躱した。だが!」

エルド将軍の強い剣はまともに受けてしまえばそれだけで体が吹き飛ばされそうになり、腕が痺れるほど。体勢を崩したところへの連打は、一歩でも間違えればどれも致命傷となりうる攻撃だった。

そこに予備動作が何もない烈火剣が、通常の一撃に紛れて飛んでくる。いや、わずかに予兆はあった。完璧に予備動作なしとまではいかず、だからこそ辛うじて躱すことができる。

「剛剣のエルド」

誰かがそう呟いた。得意技は烈火剣か。雷光の速度と不動の力を併せ持つ、必殺の剣。速度も力も雷光不動より劣るとはいえ、烈火の名を冠するに相応しい威力がある。

恵まれた体格から放たれる剣は基本に忠実。だがリーチ、速さ、重さ、すべての面において高いレベルの剣はそれだけで敵を圧倒する。

そして止めとばかりに放たれる、予備動作のほとんどない烈火剣は生半可な防御ごと敵を打ち砕く。まさしく剛剣。

奥義の本質はもちろんその規格外の速度や力にあるが、それ以上に大事なのが溜めと残心。奥義を放つ前の予備動作と技を放った後の動き、次の攻撃への移行をいかにスムーズに行うか。

もし通常の攻撃と同じ動作で奥義が出せれば。それは防ぎようのない必殺の攻撃となる。

エルド将軍の連撃が止まらない。辛うじて躱せているのは基本に忠実で、どことなく動きに単調なところがあるからというだけだった。

休む間をまったく与えてもらえず、ここまでの無理もあった。息は絶え絶えとなり、手足の動きは鈍る。動きが読めてなお、防御に回るしかさせてもらえない。

限界。勝てないかもしれない。そう心によぎる。

それが迷いに繋がったのだろう。ごくごく基本的なフェイント。単なる剣の軌道の変更に対応できず、その一撃をもらってしまった。ガリッと防具ごと、胴を切り裂かれた。

「浅かったか。だが治療せねば長くは持つまい」

そうエルド将軍が話してる間にも、血は鎧の内にじわりと広がっていく。浅いと言われたが傷は大きかった。ここで回復を使うか? だが小ヒールでは到底回復しきれまい。ヒールを二回分は必要だ。

わたしの回復魔法はマサル様のように早く詠唱できない。それを見逃すほどエルド将軍は甘くないだろう。

「潔く負けを認め、剣を捨てれば悪いようにはせぬ」

だが治療をしなくてもまだ十分動ける。戦う力は残っている。マサル様はいまも助けを待っているのだ。

「ここで。こんなところで終わるわけにはいかない!」

そう叫び、剣をしっかりと握り直して一歩前へ踏み出す。

「主に殉じるか。それもまたよし!」

エルド将軍は手を休めるべきではなかった。ほんのわずかな休息。それが体に力を取り戻させた。

無拍子。その一撃に初めてエルド将軍が受けに回った。

「ふうっ」

全力全開での烈火剣。だが手管も何もない、予備動作が見え見えの一撃は同じくエルド将軍の放つ烈火剣と激しくぶつかる。

激しい衝撃に手がびりびりと痺れる。動きが止まる。動きを 止めてみせた(・・・・・) 。

大きな隙にエルド将軍は食らいついた。剣も盾も間に合わない。エルド将軍の剣の前にあるのは腕一本。

その剣は腕の途中で、骨まで達したところで止まった。エルフの名工の手による強靭な手甲のお陰か、エルド将軍の手も烈火剣同士のぶつかり合いで痺れ、わずかにでも鈍ったか。

これは賭けだった。剣が腕で止まらねば、腕は落とされ、そのまま体ごと切り裂かれて終わっていた。

「う、腕を犠牲にするか……」

わたしの剣はエルド将軍のお腹を深々と貫いていた。

見事。そう言うとエルド将軍が膝をつく。

「エ、エルド将軍が負けた!?」

予想外だったであろう決着に周囲が騒然する中、倒れたエルド将軍の脇を抜け、ゆっくりと前へ進む。

帝王のいる王座へと。

血に塗れ、満身創痍で片手しか使えない、息も絶え絶えなわたしに騎士団は、気圧されたようにじりじりと後退する。

「か、囲んでただ待っていれば、いずれ出血で死ぬ」

騎士の一人がわたしを止めないことを言い訳するようにそう言った。しかし残念だけどそうはいかない。進みながら唱えた回復魔法が、体の傷を少しずつ癒やしていく。一回。二回。三回……

「こ、こいつ、回復魔法を!?」

「馬鹿な、獣人だぞ!」

「と、止めろ、回復させるな!」

だが騎士団が動いた時にはすでに三回目の回復魔法を唱え終わっていた。完治はまだだし、犠牲にした腕は動かせないが、出血は完全に止まった。十分だ。

間を詰めてきた騎士たちを切り払う。切り払う。切り払う。何人か倒しているうちに息も整ってきた。

足を使って騎士たちを引っ掻き回す。広い場所だったが、それでも戦場というには窮屈な場所だ。動きの速いわたしに騎士団は簡単に混乱した。

そして帝王のいるあたりを目指して、一人の肩を足場に大きく飛んだ。

着地した先は王座のすぐ前、帝王を守る騎士をも後ろにし、ついには帝王に剣が届く範囲に踏み入れた。

「全員動くな!」

わたしの声に騎士たちの動きがぴたりと止まった。

「陛下!」

そこここで帝王の身を案じる声があがる。悪い帝王なのに案外人望があるようだ。それに剣を突きつけてるのに随分と堂々としている。

「わたしの主、返してもらえますね?」

「ふむ」

その瞬間、矢が左右から飛んできた。それを見もせずにわずかに体を動かして躱す。

「動きは見えてました。奇襲ならもう少し上手くやるんですね」

帝王がほんのわずかに上へと視線をやったのだ。射手は謁見の間の上部にある張り出しに二人。合図を待った上に姿も中途半端に現して動いていた。完璧にやるなら姿は見せず、石のようにじっと動かず機会を待つべきだった。それくらいやればもしかすると当たったかもしれない。

「これはお手上げだな。連れてこさせろ」

帝王の指示で、脇に居た一人が渋々といった風に王座の奥へと入っていった。

「お前、名はなんという?」

「サティ」

「若いのに大した剣の腕だ。ビエルスではウィルフレッドと一緒に修行をしたのかね?」

頷く。

「お前から見てウィルフレッドの腕はどうだ?」

「まだ不足している部分は多いですけど、一年もすればわたしも追いつかれるかもしれません」

レベルを上げてステータスとスキルが揃って、いくらか経験を積めば、わたし以上に強くなれないという理由はない。マサル様がそう言っていた。

「そうかそうか。ウィルフレッドはそれほどか。ヒラギスでも一緒だったのか?」

「はい、パーティの仲間ですから」

「そちらの働きはどうだった?」

「ウィルフレッド様は王子様なのにそれを一切鼻にかけず、エルフや冒険者に混じってよく働いてくれていました。細かいことにも気がついて、つまらない雑用を命じられても文句一つ言いませんでしたよ」

「ほうほう」

「もちろん戦場でも活躍していました。ウィルフレッド様は後ろを安心して任せられる剣士です」

なおも何か話そうとした帝王もさすがに口を閉ざした。マサル様が一人の兵士に連れられてきた。手錠に足枷をして、その首に短剣を突きつけられて。きっとわたしの顔色は一瞬でずいぶんと変わっていたことだろう。

「こいつの命が惜しくば剣を捨てよ」

戻ってきた男が言った。

「ずるいです」

「そうだな。だが現実は物語や伝説のようにはいかぬものなのだ」

わたしの非難に帝王が淡々と答えた。

「さてどうするね?」

「主に指一本でも手を出せば、この場の者は皆殺しにします」

面白がるような帝王の質問にそう答える。

「そっちこそ、陛下に手を出したら許さぬぞ」

そう答えたのはエルド将軍。時間をかけすぎた。エルド将軍に黒騎士。それに謁見の間の前で戦った強い剣士まで治療を終えて復帰されてしまった。この三人を相手にもう一度はさすがに厳しいものがある。

「いい加減、俺を解放したほうがいいんじゃないですかね?」

にらみ合うわたしたちに、そうマサル様がのんびりとした様子で言った。

「ダメだ。お前がいれば帝国はさらに大きく、偉大になれるのだ!」

そうか。悪いのは帝王じゃなくて、部下のこいつだったのか。だがどうにかしようにも、警戒されて十分な距離を取られている。投げナイフ……は片手が使えない。剣を帝王に突きつけたままでは無理だ。

周囲はエルド将軍や手練の剣士に、謁見の間を埋め尽くすほどの騎士たち。上にいる射手にも相変わらず狙いを定められている。

完全な手詰まりだ。ここからどうしていいかさっぱりわからない。

「エルド将軍。そやつを倒せ」

「いや、しかし閣下……」

閣下と呼ばれた諸悪の根源の言葉に、困ったようにエルド将軍が答える。

「他の者でも良い、そやつを討ち取れ! 褒美は思いのままぞ!」

その言葉に何人かの騎士がじりじりと距離を詰めだした。

「動くな!」

そう言って一層剣を帝王に突きつける。

「酷い息子もあったものだな」

「お許しくださいとは言いません。帝国の繁栄と存続はあらゆる事に優先される。父上自身のお言葉ですぞ」

「それもそうか」

そう言って帝王は目を閉じた。

「帝国は痴れ者の剣には決して屈せぬ。やれ!」

その言葉に何人かの騎士が覚悟を決めたようだ。エルド将軍が下がったのが唯一の救いか。手強いのは黒騎士と剣士の二人。一か八か、マサル様を助けてしまえば……

「双方そこまで!」

一触即発の空気の中、そう言って現れたのはウィル様だった。

「父上も、もうお止めください」

「口を出すな、ウィルフレッド」

いいえと、ウィル様が首を振る。

「帝国の存続を考えるなら、その方に手を出すなどとんでもないことです」

ウィル様の視線を受けて、仕方ないという風にマサル様が頷いた。

「その方こそヒラギスで勇者と呼ばれた方です」

ウィル様の言葉に周囲がどよめく。

「勇者? なんのことだ?」

そう帝王も怪訝そうな声をあげた。やはり何も知らなかったようだ。

「勇者? こやつは勇者パーティの転移術師のはず……」

「勇者とは何のことだ、ウィルフレッド」

戸惑う閣下とやらを見て、帝王が質問の矛先をウィル様に変えた。

「古の勇者以降、誰一人として習得が叶わなかった光魔法を習得し、ヒラギスの危地を救ったのです。この方のことを誰もが勇者だと言っております」

認めたがらないのはマサル様本人くらいのものだ。

「ランディーズ?」

「ち、調査中だったのです。勇者の真贋が判明するまでは報告の必要もないだろうと……」

ランディーズと呼びかけられた閣下がそう答えた。

「エルド?」

「間違いなく本物でしょう。光魔法を使いこなし、剣の腕はそこのサティにも匹敵し、魔法の実力は宮廷魔術師が赤子に見えるほど。それに仲間に剣聖や聖女、真偽官まで従えているのです」

そうそう、ウィルフレッド殿下も仲間でしたな。そうエルド将軍が付け加える。

「本物か……かつて帝国を救った勇者のこと、知らぬはずはあるまい。それを捕まえて隷属の首輪をつけたと?」

「捕まえたのは転移術師です!」

「俺は魔法全般得意なんだ。転移くらいできるよ。あ、光魔法、見てみたい?」

首に短剣を突きつけられたまま、気軽な感じでマサル様が言う。

「ほう、ぜひとも見たいものだな」

「こいつの命令がないと魔法が使えないんだ」

こいつと呼ばれた兵士に帝王がやれという風に首を振る。

「……魔法の使用を許可する」

すぐにマサル様が魔法の詠唱を始めた。光魔法のエフェクトはとても印象的で特徴的だ。光がマサル様を中心に集まり、それが周囲の者に吸い込まれるようにして発動する。

「これが鼓舞……そして……これが加護……」

鼓舞はよくわからなかったようだが、加護の回復効果は帝王にもわかったようで、ほう、と声をあげた。

「そしてこれが……」

そう言ってマサル様がいつも 閃光(フラッシュ) を使う時の変なポーズをした。意図がわかったので、ぎゅっと目を瞑って顔も逸らす。

そして光った瞬間動いた。標的は首輪の主人。

誰もが目がくらんで動けない中、マサル様の首に突きつけていた短剣を、その持ち手ごと切り落とす。返す刀で、マサル様の首輪も切り裂いた。

「ぎゃああああ、手が、手があああああ」

うるさいと、そいつを蹴り飛ばす。両手が使えれば他にやりようもあったが、片手ではこうせざるを得なかったのだ。

「手くらい、急いで治療をすればくっつきます」

師匠がいつもそう言っていたから間違いない。試したことはないけど。

「この短剣、俺のだろ。まったく……」

そう言って、マサル様が手と短剣を嫌そうに拾った。ほら、と渡された自分の手を持って、兵士はよろよろと逃げていく。

「しかし閃光がセーフで助かったな。まあダメだったら土魔法でどうにかしたんだけど」

「傷をつけないから大丈夫なんですかね?」

マサル様の言葉に閃光をちゃっかり防いでいたウィル様がそう答える。

「かもしれないな。ああ、良くやったサティ。がんばってくれたんだな」

手錠と足枷も切ったところで、そう褒められた。

「はい!」

マサル様がヒールをしてくれ、腕が完全に動くようになった。さらに加護と鼓舞もかかっている。

ようやく視力が回復しだした帝国の人たちが呆然とわたしたちを見ている。

「ウィル、助けに来るのが遅いぞ」

「いやあ、色々と探ってはいたんですけどね。申し訳ない」

「まあいい。サティが来てくれたしな」

そう言いながらマサル様が詠唱を始め、その身に雷を纏い始めた。

「スタン」

そう言うと一筋の雷光が、じりじりと距離を取って逃げようとしていた閣下に命中し、ぐあと声を上げて倒れた。

「あの、あれでも俺の父親なんで……」

「手加減はしておいた」

そう言いながら動こうとしていた騎士たちにも幾筋もの雷を放ち、ばたばたと倒していく。

「他に俺の邪魔をしたい者はいるか?」

かっこよく雷を纏うマサル様に誰も動かない。誰も動けない。

やはりマサル様は別格だ。わたしがあんなに苦労した相手が、大量の騎士たちが、一瞬にして戦意を喪失していた。

「帝国は勇者の邪魔などしない。済まなかったな。息子の独断だったようだが、詫びが必要ならワシの首を持っていくがいい」

「陛下! 勇者殿、陛下は事情をご存じなかったのです。私は薄々知りながらもサティ殿と戦ったのです。首なら私の首を!」

帝王を庇うように、エルド将軍が土下座をせんばかりに頭を下げ、必死にそう言い募る。

「首とかいらない。ウィル、詫びは何か適当に考えておいてくれるか?」

「はい。謝罪は後ほど改めて」

「じゃあ帰るか」

「はい。帰りましょう!」

バチバチと雷を纏ったままのマサル様が謁見の間の出口へと向かうと、騎士団の中央がざざざざざっと分かれ道ができた。あれほど大変だった道行きが、帰りは誰一人邪魔する者もなく、まるでただの散歩のようだ。

謁見の間を出て、城の通路を適当に辿り、遠巻きにする兵士や騎士の間を抜けると、わたしとマサル様は皆が待つ王城の外へととてもあっさりとたどり着いたのだった。