軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19層 あれは伝説の......! 伝説って? ああ!

――19層、そこは有り体にいえば霧がかった湖畔であった。ダンジョンの中だというのに存在する広大な空は重々しい雲で隠されていた。

昼か夜かも分からない深い霧に、神秘さと陰鬱さを掛け合わせた景色は一言で表すと

「うわ、テンサゲー」

だった。

まあ俺にとっては視界良好なのだが、どんよりとした雲が気分を落としているのも事実。

無駄にだだっ広いのでマッピングに時間がかかりそうだ。学校のタイムリミットまでそう長くはない。

小走りで探索を開始する。

パッと見、中央に湖、その周りに地面といったところでおそらく階段は中央にあるのだろうが、いかんせん湖の大きさが一度見たことある琵琶湖くらいありそうだったので先に周囲から歩くことに。

幸いにも地面の方は一本道で、傍らにまばらな間隔で広葉樹林があるくらいで、霧の影響を受けていない俺にとっては見晴らしの良い場所であった。スマホのカメラ越しに見ると、数メートル先すら見えない深い霧に覆われているようだったが。

「とはいえ地面ゾーン、なんにもないな」

霧で方向感覚を失わせ迷子にさせるくらいしかできなさそうだ。ペースを上げよう。どうせなら探索業で成長した記録をとるのもいいかもしれないな。

確か今年の50m走が八秒とかそこらだったから、八秒数えてどこまでいけるかやってみよう。

「さぁ南選手、クラウチングスタートの構え! 位置について、よーい……どん!」

――走る。

思えば、測定とかで義務感でやるものを除いて全力で走ったのはいつぶりだろう。世界が変わり、俺も変わる前は自重して冷笑していたクソみたいなスタンスだった気がする。

ついでに言うと戦闘してる時はそっちのことで頭がいっぱいだ。空っぽにして走ることだけに集中するというのもたまにはいいものかもしれない。

「――はち! ふぅ」

八秒、後ろを振り返ると、湖を半周ほどしていたようだった。目印に木をへし折っておいたので、それが対岸に薄ら見える。

「疲れは無い、か」

精神的には全力疾走で息切れしているつもりだったのだが、平時と変わらず息は整っており、余裕を持って口臭を確認できる。

「あ、思い出した」

最後に全力で走り、息を切らして膝に手を置いて肩を揺らした日を。小学校の時にうちのマザーと大喧嘩したんだったなー。悪を滅そうとしたんだが、軽くいなされらされて敗走、その後ビルの屋上にある小さな遊園地みたいなとこに逃げたんだっけ。

そこで――

と、思い出に意識を委ねつつ歩みだけ進めて湖畔の一周ぶらり散歩道は特段これといったファンタジー要素もなく幕切れとなった。

そして何かあると言わんばかりの湖に足を踏み入れる。

瞬間、中央付近に優雅に泳ぐシルエットが見えた。

湧いたといった方が正しいだろうか。

長い首の先に丸っこい頭があり、小さな島のやうな丸まった背、水面からはみ出るしっぽ。

伝説と名高いUMA――その名もネッシーである。

恐竜のイメージまんまで少しばかりワクワクしてきた。爬虫類感の強いネッシーはこちらに気付き、じっと野良猫のように見つめてくる。俺の接近もその図体のように寛容に――あ、目が光った。

――チュドンッ。と音が遅れて響く。

咄嗟に横に回避していたから良かったものの、俺がさっきまでいたところに派手な水の柱が立っていた。蒸発したせいか、その位置の湖の底も一瞬だけ見える。

ネッシーを見ると、またもや目が光ってこちらを凝視していた。

おーけーおーけ。速くて威力高い連続攻撃の目からビームね。

何度か回避を続けているとテンポは読めてきた。人ひとり分の当たり判定で、発射後一秒弱のタメがあり、休みなく撃ってきている。

要は足を止めなきゃ当たらない。

「ずっと目キラキラさせやがって! 映えそうだなおい!」

真正面に進むのは普通に当たりそうになった時があったので、斜め前に走ってネッシーへ徐々に接近する。ヤツは首だけ回して俺を追いかけ、ひたすらビームを撃ってくる。

手の届く距離になった。光線を大きめに回避して 塵舞(じんぶ) を取り出す。

獲物を首の近くに放り投げ、地面に突き刺しておく。既に水深のそれなりにあるところまで来ているため、剣は持ち手の半分ほどが湖に浸かり、俺も胸上まで入っている状態であった。

「前ロリ!」

勇気の前ローリング。

水の影響を受けない俺だからこそかもしれないが、ギリギリで回避。そのまま突き刺さった剣を抜き放ち、切ってと言わんばかりに長い首を斬り上げた。

防御力自体は大したことなく、長ネギでも切るかのようにすんなり切り裂くことに成功した。

薄黒い霧を浴びながら、一息ついて改めてこの階層の危険さを噛み締める。俺だったから初見でもなんとかなったが、本来であれば視界の不明瞭な状態からの絶え間ない連続ビーム、それも光ったと同時に着弾する速度だ。

殺意マシマシである。

「ここは多めに写真撮って湧き位置もある程度絞っとかないとな」

今後現れる同志のためにも、また改めて念入りに調査しよう。地上付近には湧かないようなので、それ含めて後日調べよう。

――今日はとりあえず、このまま20層を目指すんだけどな。

その後ネッシーとは二匹遭遇し、時間も迫っているので転移からの首チョンパでケリをつけて階段を発見。楽勝楽勝と口ずさみながら次の階層、推定ボス部屋へ進むのだった。