作品タイトル不明
14層 早弁で話聞き逃すやつ
今週最後の平日、またの名をきん〇まキラキラ金曜日。
――コケコッコー。
この辺に鶏なんていないので、きっとその辺のアタマがおかしくなったサラリーマンが叫んでいるのだろう。
俺も共鳴しようと思ったが、鶏を狙う猛禽類に持ってきたうな重弁当が奪われることを考慮してその欲望を抑えた。
無事猛禽類に襲われることなく教室まで辿り着いた。
「なるほど、大金を持ち歩いている気分ってのはこんな感じか」
クラスメイトまでうな重を狙う刺客に見えてきた。
これはマズイ。いや、美味しいからこそマズイのだ。このままだと近寄られたら攻撃してしまいかねない。
俺の愛情込めたうな重弁当をいかに防衛すべきか考えていると、視界の端で金髪が揺れた。
蛇字丸(じゃじまる) さんだ。
……あ、そういえば昨日家燃えたんだっけ。可哀想に。
「蛇字丸さんおはよ、ちゃんとふんだくった?」
「あ、ああ。家くれるって。あと借金も、その……あ、あ…………」
なんだ?
何を言いづらそうに――はっ!
そうか、蛇字丸さんはうな重の匂いを嗅ぎつけてきたのか。クソッ、とんだ伏兵もいたものだ。
「蛇字丸さん、悪いが俺にも 譲れないもの(うな重) があるんだ。それ以上は、な?」
「そうか……意外とお前にも そういうの(正義感や優しさ) あるんだな。それでも言わせてくれ、ありがとう」
……?
何の話?
ま、よく分からないがうな重を守り通せたのならよし。
「じー」
「あらあら……」
遠巻きに…………えーと、トットットさんだ。彼女とセツナァ! が見ている。まさか彼女らもうな重を狙っているのだろうか。なんかすっごい見られてるしたぶんそうだろう。
少しでも席を開けた瞬間、俺の丹精込めた世界最高のうな重弁当は俺という主人を失い、この教室は血の雨が降り注ぐ地獄の争奪戦が始まるに違いない。
ここは世界平和のためにも――。
◇
「えー、ここの計算を……八百枝」
「ふぁい!」
教科書を立てたまま、頬にご飯を入れつつも、何とか黒板に答えを書いた。
ふう、危ない危ない。
「八百枝、数学の時間だぞ。なんで数式の答えが“Yes, I have to eat lunch.”になるんだ」
「…………数式の声が聞こえたんです」
「お前だけ宿題追加な」
「先生には 数式(彼ら) の声が聞こえないんですか! ほら、耳を澄ましてください――」
「えー、では、ちゃんとした回答を、じゃあ後ろいって山田」
◇
何度かの授業を無事やり抜き、ついに今日限定の昼休み前の学活か何かの時間になった。ワイワイガヤガヤ楽しそうにして意識がそれぞれのところへあるうちに、集中してうな重を堪能することができるのだ。
「あー、幸せ……」
この隠すことなく極上の弁当を堪能できる瞬間、俺は今神にでもなったような全能感と溢れる慈愛で満ちていた。
……【平常運転】で引っかからないので俺はもとから慈悲深かったのか、あるいは慈悲深いのは錯覚か。たぶん前者。だって俺ならたとえ茨城を「いばらぎ」と読んだり、さいたま市を「埼玉市」と書いたり、そして便座カバー。
「我、みほとけぞ? うまぁ……」
「八百枝、グループ決まってないなら一緒にどう? って 兎渡香(ととか) が」
「なっ!? それは言わなくていいじゃん!!」
「……どうして私の後ろに隠れるんですかね? 日に日に遠くなってません?」
「ええよええよー」
しっかし味変として味付けのりを持ってきてよかったな。手で粉砕してパラパラとかけるだけで塩分や食感の違いで無限に楽しめる。
「やった! 机持ってくる!」
「……聞いてんのかなこいつ」
「まあまあ、了承してくれたのには違いありませんから」
なんか知らない間に机を横向きにされて班活動みたいな形にされてるが、今はそれどころではない。実は来る途中に蒲焼きのタレを買っておいたので、追いタレができるのだ。
ふふん、我ながら今世紀始まって以来の大軍師よのー。
「じゃあ、今から班行動の行き先を決めます!!」
「私はどこでもいい」
「そうですね、実家がそっちなので行きたいところとかは特に……」
ああ、更に味が濃くなって濃厚な味わいが舌に乗る。
だいぶ減ったしまった。残り四分の一、ここからの方針で後味の良さの全てが決まる。
「無限だな(もぐもぐ)」
「え、あ、うん! 行き先なんて無限だよね!! 南っちもどこでもいいって感じ?」
普通にうな重として食べ切るのはどうか――チッチッチッ、素人の考えだ。学校という限られた環境の中で、いかにそこを追求するか。
自分の用意周到さを、頷きながら自分で披露する。
「どこでもいいらしいし、 兎渡香(ととか) が決めたら?」
「じゃあここの――」
俺は妥協しない、そのための準備はしてきた。ここまで海苔と蒲焼きのタレを鞄に入れたきたのは知っての通り。そして俺には最後の切り札がある。
先生は職員室へ行ったため居ない。ふふん、まさか鞄の中に枕を入れていたとは誰も思うまい。そしてその中に――電気ケトルを忍ばせていたこともな!
俺は弁当とケトルを抱えて廊下へダッシュ、ケトルに水を入れてすぐに戻ってきた。そしてコンセントにケトルを装着。
お湯が沸くまでの間に、切り札のお茶漬けのもとを取り出した。そう、シメのお茶漬けだ。うな茶漬けというものも調べたところあるらしく、ピッタリだと思ったのだ。
「八百枝……学校でご飯に本気出しすぎだろ」
「かわちい……」
「お腹すいてきますね」
外野がうるさいが、俺は精神統一をして最後のうな茶漬けを食べる心持ちを整える。お湯が沸いたのを音で察知して即座にケトルを回収、お湯を投入した。
お茶漬けのもとをふりかけ、ゆっくりとスプーンでかき混ぜる。優雅にお茶漬けの中で泳ぐ蒲焼きは、ダンジョンで泳いでいたうなぎそのもの。
自然に還り、お茶漬けの味が染み込んだそれをゆっくりと口に入れた。
「――これぞ、青春の味」
人生における青春というものが、ここに凝縮されている。期待感と不安感、行き場のない感情をお茶漬けという名の小さな世界に閉じ込め、外の世界を夢見る一品。これを青春と呼ばず何と呼ぶのか。
「――とりあえずこんな感じで決まり!」
「いいんじゃない?」
「そうですね、今からでも楽しみです♪」
「――ふぅ、ご馳走様でした」
俺が食べ終わったと同時にチャイムが鳴った。
昼休みの時間である。
どうやら各自終わる形式らしく、それぞれ昼食のための行動を開始していた。
そして俺はふと気になったことを向かいの席にいるトットットさんに尋ねてみる。
「で、何の話してたん?」
「修学旅行の話だよ!?」
「ほぇー」
ああ、そういえば俺高2だしそういう話もあるな。
修学旅行中もダンジョン行きたいが、転移の仕組み的に、徒歩で旅行先からの距離計算になる感覚だから――京都だっけ? そこからだと数日分の寿命が減りそうなのでやめておこう。ダンジョンに潜らない日、ダンジョンデトックスだっけ? そういう日にしよう。
そんなことを考えながら、俺は枕からあるものを取り出した。
うな重弁当二つ目である。
「いただきまーす」
「さっきシメでお茶漬けにしてたのに!?」
「何杯食うつもりなんだ……」
「ふふっ」
そんな心配しなくても、ちゃんと自制して三杯だ。午前、昼休み、午後で分けて食べるつもりである。