軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十四話  貿易再開

むすっとして不機嫌さを隠そうともしない王太子がソラの前で頬杖を突いている。

恋騒動と呼ばれ始めたパーティーから三日が経つ。

王城の一室に呼ばれたソラは王太子とその隣に座るジーストラ侯爵をにやにやと笑いながら眺めていた。

要件は手に取るようにわかる。おそらく、最初の言葉は――

「やってくれたね」

想像通りの第一声にソラの笑みが深まる。

「やってみました」

王太子がますます不機嫌になる。

「何が腹立つって僕の好意を無下にしたくせに八方丸く収めているところだよ。碌に文句も言えないじゃないか」

「文句を言われないように計画を組み立てましたから」

「もういいよ。ジーストラ侯爵、ソラ卿に言いたいことは?」

不機嫌なまま、王太子はジーストラ侯爵に話を振る。

ジーストラ侯爵は眼鏡の位置を直して背もたれに体を預けた。

「メーティエが一日中浮ついていることを除けば、おおむね順調だ。他家の連中からソラ伯爵に嵌められたことを笑われもしない。それどころか、相手が悪かったと同情される始末」

「恋騒動なんて呼ばれてますね。私の悪評も時には役に立つらしい」

うそぶくソラに、ジーストラ侯爵は処置なしとばかりに首を振った。

「文句はない。丸く収まったことは事実でもあるのだからな。むしろ、殿下が作る南部西部貴族派閥の内憂を事前に取り除けたことは喜ばしい」

「いつの世も、恋愛沙汰は組織崩壊の引き金になりますからね」

ソラが自己正当化ついでに口を挟むと、ジーストラ侯爵も否定しなかった。

しかし、とジーストラ侯爵が続ける。

「我がジーストラ侯爵家が殿下に提示した派閥への参加条件は満たされていないのだ」

「塩ですね?」

「やはり、調べはついていたか」

ソラが嗅ぎまわっている事は王太子を通じて聞いていたのだろう。ジーストラ侯爵は探るような視線をソラに向ける。

手の込んだ方法で縁談を破棄しているソラだが、貴族の視点で見る限り利益を得ていない。

縁談によって得られるはずだった王太子とジーストラ侯爵家の後ろ盾をふいにしているのだから。

念入りに準備を進めた挙句に未知の方法で恋文の差出人を突き止めたソラが、何を目的に動いているのかジーストラ侯爵や王太子にはつかめていなかった。

だが、ジーストラ侯爵は縁故を理由に塩を買いたたかれないようにソラが今回の芝居を打ったのではないかと考えている。

大外れ、とソラは心の中で舌を出した。

「塩貿易の再開でしょう? 適正価格での取引ならば構いませんよ」

「……適正価格とは?」

ソラが塩を高値で売りつけるつもりでいると勘違いしたままらしく、ジーストラ侯爵はソラの言葉を字句通りには受け取らなかった。

「商会にもよるので価格は断言できませんよ。心配せずとも、高く売りつけたりはしません。そもそも、メーティエ嬢が口を利けばブライアン男爵領からも塩を輸入できるでしょう?」

魔法使い派貴族であるブライアン男爵の領地には海に面した場所があり、規模が小さいながら製塩業も存在する。

ジーストラ侯爵が渋い顔をした。

「確かにブライアン男爵領からの塩輸入も考えている。だが、知っての通り我がジーストラ侯爵領は長年教会派に属してきた。敬虔な教会信者も多く、魔法によって製塩された塩を拒む者もいる。ソラ伯爵領の塩ならば魔法を使っていないだろう?」

「そういう事情でしたか。ジーストラ侯爵領以外の西部教会派貴族も同じ問題を抱えているのでしょう?」

ジーストラ侯爵はあまり手の内をさらしたくはないようだったが、調べればわかる事だからと肯定した。

ソラは予想以上に規模の大きい取引の気配を感じ取り、舌なめずりする。

だが、暴利をむさぼるつもりは微塵もなかった。

「塩は生活必需品、なければ困るものです。他家の領地であろうと、塩に高値をつけて王国の民を苦しめるつもりはありません」

「関税を重くするつもりはないというのかね?」

「無論です。塩はソラ伯爵領にとっても重要な輸出品目ですからね。一時期は輸入を拒まれもしましたが」

ちくりと岩塩貴族の事を持ち出して嫌味を挟む。

ジーストラ侯爵は聞き流して、胡散臭そうにソラを見た。取引相手に対してずいぶんな態度だが、ソラが本心しか言っていない事に気付いたのだろう。

「ソラ伯爵の要求は本当にそれだけなのか?」

「そうですね。では、ジーストラ侯爵に一つお願いをしましょうか」

ソラはわざとらしく悩むようなそぶりを見せてから、王太子に向き直る。

「私はこれ以上不必要な縁談を持ち込まれたくないのです。ジーストラ侯爵には殿下へ、事前に相手の気風を調べ、会話を組み立てる術を教えていただきたい」

初対面での話を持ち出すと、ジーストラ侯爵は一瞬の間をおいて苦笑した。

ソラにとって今回の縁談がどれほど迷惑であったのか、事前に気風を調べれば必ず縁談の回避に動く事も分かったはずだ、と遠回しにソラは言ったのだ。

いきなり話題に持ち出された王太子が眉をひそめる。

ジーストラ侯爵が腕を組み、王太子を見た。

「殿下、今回の縁談は確かに全ての者が利益を得る形に整えられておりました。ですが、殿下が考える利益を相手が同じように評価するとは限らないのです。相手が何を重んじているのかを探らねば、いかに緻密な計画であろうとも賛同は得られません」

「そうみたいだね。ソラ卿とのズレがよくわかったよ」

王太子はふて腐れたように言って、ソラを見た。

視線から王太子の考えが読み取れて、ソラは警戒の色を込めた視線をぶつける。

王太子はまだ、ソラが獣人と結婚しないよう、妨害を諦めたわけではないようだった。