軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十二話  南部貴族パーティー

夜、日も落ちた新月の晩にソラ主催のパーティーは開かれた。

二階建ての建物を貸し切り、二階から王都の夜景を眺めながらの社交パーティーだ。王都の夜景のみを楽しめるよう、バルコニー下の庭はもちろん一階部分にさえ光をほとんど灯さない。

まるで宙に浮いた舞台の上でのパーティーだ、とソラへ招待の礼を述べに来たベルツェ侯爵が評した。

「ソラ卿がパーティーを開催するなんて予想外だったなぁ」

王太子がグラスを片手に言う。これから何が起こるのかを欠片も知らされていないためだろう、実に嬉しそうだ。

「絆を強固にする機会は多い方がよいでしょうから」

暗に派閥の強化のためのパーティーだ、とソラは匂わせる。

実際、南部の貴族ばかりを集めたこのパーティーは王太子の手による南部西部貴族派閥の強化の一環にも映る。

このパーティーに出席している者はソラや王太子を始め、ソラと交友の深いベルツェ侯爵やトライネン伯爵親子、さらにはシドルバー伯爵までいる。

そして、このパーティーは教会派貴族ジーストラ侯爵までもが娘を伴って出席していた。

魔法使い派貴族の実力者であるベルツェ侯爵と、西部の教会派貴族の雄であるジーストラ侯爵が同じパーティーに出ているのだ。

派閥を超えて侯爵ほどの位を持つ貴族が集うパーティーなどそうはない。

必然的に注目度は高く、南部の貴族は残らず出席してどうにかコネを作ろうと動いていた。

パーティーとして考えれば大成功の部類だ。

王太子が会場を見回す。

「ソラ卿が獣人を連れてきていない事に安心したよ。僕は特に含むところはないけど、貴族の中には露骨に嫌がる者も少なからずいるからね」

王太子の言葉を聞いて、ソラは仮面の下で顔を顰める。

王太子は単なる牽制のつもりだったのだろうが、ジーストラ侯爵が招かれている時点で、縁談話はソラが譲っていると取るべきだ。

もっとも、王太子がこの程度の認識だからこそ、ソラは縁談話をぶち壊すことにためらいがないのだが。

ふと視線を感じて、ソラは顔を振り向ける。

ソラを見ていたブライアン男爵と目があった。

ブライアン男爵が目礼し、話していた令嬢二人に手を振り、にこやかな笑みを浮かべて歩いてくる。追いすがろうとした令嬢二人は、ブライアン男爵の行く先がソラだと気付いて悩ましそうな顔で遠巻きにブライアン男爵を見送った。

「ソラ伯爵の影響力はすごいですね。南部貴族が勢ぞろいするとは思いませんでした。ベルツェ侯爵はお忙しくて、こういったパーティーにもなかなか出席されないと聞いていますが……」

「ベルツェ侯爵とは懇意にしていましてね。今回も手を貸していただいたんですよ」

ソラは愛想よく言葉を返しながら、ブライアン男爵の様子を窺っていた。

居心地が悪くなる敵意がブライアン男爵の言動に見え隠れしている気がしたのだ。

ブライアン男爵はにこやかな笑みを浮かべたままついと視線を逸らしてソラの探るような目から逃れる。

「ジーストラ侯爵とはどういったお付き合いですか?」

「少々込み入った事情がありましてね」

縁談話を明かして自ら既成事実を作るつもりなど、ソラにはない。

王太子も家と家の話にこれ以上首を突っ込む事は出来ないのか、何か言いたそうにしながらも口は閉ざしていた。

ブライアン男爵が目を細める。

「魔法使い派のベルツェ侯爵のお世話になっているのに、教会派のジーストラ侯爵との間に込み入った事情を抱えているとは、ソラ伯爵はずいぶんとお顔が広いようですね」

二つの派閥に取り入るコウモリ野郎か、と詰るようなブライアン男爵の皮肉に、ソラはくすくすと笑い声を上げる。

「顔の持ち合わせがいくつもありますから、人より広くもなりますよ」

腰に下げている予備の仮面を指先で叩いておどけて見せると、ブライアン男爵は反応に困ったように王太子を見た。

ちょうどのその時、ソラの下にラゼットがやってくる。

「ソラ様、特定が完了しました」

ラゼットの耳打ちを聞いて、ソラは小さく頷きを返す。

「誰だ?」

「そちらの方です」

ラゼットがさりげない視線誘導でブライアン男爵を示す。

そばで会話を聞かれている可能性を踏まえて言葉を濁したらしい。

ブライアン男爵に睨まれていた理由が分かり、ソラは拍子抜けする。

道理で突っかかってくるわけだ。

「計画通りに進めろ」

「了解しました」

ラゼットがソラから離れると、王太子が顔を険しくしてソラを見つめていた。

ソラとラゼットの密談から、何か良からぬことを企てているのではないかと考えたのだろう。

「ソラ卿、何かあったのかい?」

「えぇ、家臣の一人の研究が実を結びました。どうせなら、芽吹くまで面倒を見ても良いのではないかと考えているところです」

「順序が逆じゃないかな」

王太子が訝しみながら、疑いの目を向けてくる。

ソラは肩をすくめた。

「実を結び、落ちては芽吹く、植物も研究も、果ては恋さえ。どう思いますか、ブライアン男爵?」

ソラは話をブライアン男爵へ振る。

ブライアン男爵が内心の動揺を隠そうと愛想笑いを浮かべるのを、ソラは冷徹な視線で観察していた。

ソラは視界の端でラゼットが動いているのを確認して、さも今思い出したように声を上げる。

「そうだ。ブライアン男爵に意見を聞こうと思っていたんです。私の家臣がまとめた植物誌がありましてね」

リュリュが子爵領時代にまとめた植物誌を話に持ち出して、ソラはブライアン男爵を外へ誘う。

「僕も一緒に行こうかな」

良からぬ企みが動き出す気配を感じたのか、王太子が同行を申し出る。

しかし、ソラはわざとらしく会場を見回した。

「私が開いたパーティーとはいえ、王太子が姿を消すのは招待客の心証がよくないでしょう?」

これから作る南部西部派閥を盾にされ、王太子が鼻白む。

ソラとチャフが派閥の主要メンバーであると先日のパーティーで既成事実を作ったのはほかならぬ王太子だ。

「ソラ卿はきっちり借りを取り立てるね」

「おかしなことをおっしゃいますね。貸しを作るのはこれからです」

会話に口を挟めず、かといって逃げるわけにもいかずに困り果てているブライアン男爵を、ソラは会場の外へ誘う。

「では、ブライアン男爵、共に行きましょう」

伯爵の位を持つソラの招待を断れるはずがない。

「……よろこんで」

ブライアン男爵の返事に気を良くした風を装って、ソラは頷いた。