軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十五話 謎という名の玩具

パキッと、乾いた音がした。

目眩ましを警戒して目を塞いでいた護衛兵達は、予想外の異音に眉を寄せる。

彼らは音の出所を探し、背後を振り返った。

「──え?」

大型船の広い甲板にぽっかりと穴が開いていた。

大の男が腕を広げたくらいの直径の、大きな穴だった。

ほんの一瞬前まではなかった大穴を両の眼でまじまじと見つめても、頭が認識しない。

何が起こったのか、全く分からなかった。

反応も出来ずに固まる彼らをあざ笑うように、再び甲板に大穴が開く。

真上から降ってきた巨人の足にでも踏み抜かれたのかと思うほど、甲板は抵抗も見せずにあっけなく穴を広げた。

辛うじて、甲板に穴が開く直前に光が差し込んだ事だけは理解できた。

そして、光の出所を辿った彼らは、もう一度ソラを見る。

「流石はベルツェ侯爵領が誇る新型船だな。二発食らっても沈まないか」

ソラは冷酷な色がにじんだ声で淡々と独り言を零す。

ソラが魔鏡剣の角度を変えると、三度、甲板に大穴が開いた。

正体不明の攻撃で、船が遠距離から攻撃されている。

護衛兵達が理解した瞬間、四つ目の穴が開く音がした。

「ふ、船を守れ!」

誰かが悲鳴のような叫び声で指示する。

「どうやってだよ!?」

即座に返された質問に、沈黙する。

攻撃方法に見当が付かない以上、防ぎようもない。

真っ白になった頭が船の傾きを感じ取る。

不可視の攻撃に晒された船がバランスを崩したのだ。

穴だらけになった甲板を見れば、内部に被害が無いとは到底思えなかった。

「──全員、甲板の上にバラバラに立ちなさい」

静かな声が命令する。

護衛兵達が声の主を見る。

そこには何かを探るような目をした双頭人形がいた。

「威力にむらがある。魔法にしてはおかしいわ」

「けれど、魔法でないとは思えないの。破砕音はしても、衝突音がしなかったわ」

うっすらと笑みを浮かべた双頭人形は、甲板の大穴を眺めていた。

確かに、飛来物による攻撃であれば衝突音がするはずだ。

「……魔法? 遠距離から作用させる魔法なんて……」

反論しようとした護衛兵に、双頭人形は笑みを深める。

「このまま船ごと沈んでみる?」

双頭人形が皮肉気味に問うと、護衛兵達も反論は出来なかった。

甲板の上で無事な箇所に護衛兵を立たせ、双頭人形はソラを振り返る。

「ねぇ、ソラ卿、その魔法の剣って」

双頭人形はソラが持つ魔鏡剣を指差し、我慢出来なくなったように笑う。

「──平らな場所でしか使えないでしょう?」

言葉を返さないソラを見て、図星だと判断した双頭人形は笑みを深める。

「丁寧に道を平らに均したり、平らな甲板ばかりで人を狙わなかったり、やる事が露骨なのよ」

「使用条件が分かれば、封じるなんて簡単だわ」

双頭人形が口元に手を当てて笑う。

頭上に掲げていた魔鏡剣を無言で下ろしたソラは、開いた片手で人差し指を立てる。

何の合図かと、双頭人形は首を傾げた。

「リュリュ、まずは一枚」

ソラが呟くと、リュリュが足元から木の板を持ち上げた。

“真っ平ら”な木の板である。

「ソラ伯爵領特産品、圧密木材だ。土産に持っていけ」

冗談めかしてソラが双頭人形に言葉を投げた瞬間、リュリュが圧密木材の板を宙に軽く放る。

ソラが魔鏡剣を持ち上げた直後、圧密木材の板は横から殴り飛ばされたように急加速し、大型船の甲板を派手な音を立てて穿った。

あまりの速度と威力を見て、護衛兵が青い顔で腰を抜かし、尻餅を着く。

あんな木の板に自身を曝すくらいなら、不可視の力で甲板に穴を開けられた方がマシだとさえ思えた。

ソラを見れば、隣に立つリュリュの抱える圧密木材の束が目に入る。

「手間を取らせるな」

ソラが指を二本立てる。

護衛兵達は慌てて曲刀を抜き放ち、自らの盾にした。

しかし、本来武器である曲刀が高速で飛来する圧密木材には敵うはずもない。

自らの身を守る貧相な盾の強度を理解しているが故に、彼らの足は震えていた。

湧き上がる恐怖を必死に堪える彼らの中にあって、銀の娘達は俯いていた。

胸を両手で押さえ双頭人形は肩を揺らす。

怪訝な顔をする護衛兵など視界に入らない様子で、双頭人形は目に涙すら浮かべ、ソラが持つ魔鏡剣に熱が籠もった視線を向ける。

「……見つけた。見つけたッ!」

笑声なのか、歓声なのか、はたまた嬌声なのか、双頭人形は口が裂けそうな程の口端を吊り上げ、笑い出す。

異質さを纏った双頭人形は、繰り返し「見つけた」と言葉を連ねた。

「そんなところにあったなんて!」

「こんなところで出会うなんて!」

不気味なモノを見る護衛兵達の視線など気にもならないように、双頭人形は魔鏡剣を指差す。

「――殺しの魔法使い、最大の謎」

「古に失われた魔法威力増幅術式ッ!」

銀の娘達が二人で紡いだ言葉の意味に思い至り、護衛兵達は思わず魔鏡剣に視線を向けた。

「魔法の威力にむらがある理由は、増幅値が固定ではないから、そうでしょう?」

双頭人形は爛々と輝く瞳で、玩具をねだるように広げた両手をソラに向ける。

「本当に、素晴らしいわ。楽しいわ!」

「ありがとう、ソラ卿!」

心から嬉しがっている双頭人形を、ソラは鼻で笑った。

そして、飛びつこうとした子供の前で玩具を叩き壊し、あまつさえ、より興味を引く玩具を見せびらかせる。

「殺しの魔法? そんな訳あるか」

ソラはゴミでも扱うように魔鏡剣を指先で摘み、小さく揺らす。

双頭人形の笑みが初めて強ばった。

ソラは焦らすように、なぶるようにゆっくりと言葉を続ける。

「殺しの魔法がこんなくだらない代物なはずないだろ。あれはもっと派手で、俺でも真似できないようなとんでもない遺物だよ」

尊敬するように、ソラは魔法使いにとって最大の謎について語り、肩を竦める。

「俺も心躍った口だ」

ソラは言葉を切り、極上の玩具を──

「お前達には教えないけどな」

銀の娘達から取り上げた。

双頭人形の笑みが固まる。

いま以上に楽しめる遊びが急速に遠退いていく。

愉快犯である双頭人形の胸の内を、絶望的なまでの飢えと渇きが支配する。

「……待って、待ってよ! 何で教えてくれないの? 独り占めなんてズルいわ!」

船の手すりに取り付き、可能な限りソラとの距離を詰め、銀の娘達は子供のように駄々をこねる。

ソラは再度、鼻で笑い、魔鏡剣を掲げた。

「教えない理由? お前達にはこれで十分だからだよ」

合図もなしに、リュリュとサニアが両側から圧密木材の板を放り上げた。

ソラは魔鏡剣の角度を合わせ、魔法を発動させる。

「──永遠に届かない玩具に憧れていろ」

急加速した圧密木材が大型船の甲板を弾き飛ばし、中板を貫き、船底を突き破る。

次々と叩き込まれる圧密木材の板が大型船を沈めたのは、数分後の事だった。