軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十四話 新造船

「ゼズ、あの船の横に並べ」

ソラは操舵室を振り返り、銀の娘達が乗る大型船を指差した。

操舵室にいたゼズが手を振って応え、船は左に舵を切る。

滑らかに河の左に寄った船は、その間にも前を行く大型船との距離を詰めていた。

これほどまでに大きな船を一人で動かせるからだろう、ゼズの機嫌良さそうな鼻歌が聞こえてくる。

「旧式大型船の二倍近い速度だね。新型大型船と比較すると二倍までいかないけど」

砂時計を片手に大まかに速度を測っていたリュリュが、結果を報告する。

「分かってはいたけど、実際に競走すると違いに驚くね」

前を行く銀の娘達の船を眺めながら、サニアが感慨深そうに呟いた。

ソラは仮面の下で笑みを浮かべた。

「作ったのはお前達だろ」

ソラが指摘すると、サニアとリュリュは顔を見合わせ、照れたように笑った。

サニアとリュリュが共同開発した新造船は、この世界に類を見ない推進方式を採用している。

船の左右に外板に保護された水車が付けられているのだ。

外輪船とよばれるこの船は、風任せの帆船とは異なり、水車の回転運動で水を掻いて進む。

左右の回転速度を変える事で小回りも利き、何よりも推進力は帆船と比べ物にならない。

ソラの前世でも洋の東西を問わず、模索された推進方式だ。

しかし、ソラがこの世界で外輪船を実用化するためには、大きな壁があった。

水車を回転させるエネルギー源をどのように確保するか、である。

前世であれば蒸気機関などが利用されていた。

だが、金属加工業が発展していないソラ伯爵領では、船を動かすほど高い蒸気圧に耐えられる蒸気釜が作成できない。

金属加工が盛んなトライネン伯爵領でも難しいだろう。

このエネルギー源の問題を担当したのがサニアである。

ソラの知識によって発展した数学を学んだサニアは、圧力魔法を改良し、高出力の魔法陣を作成した。

魔法によって生み出された高圧力がピストンを動かし、クランク機構を介して回転運動に変換される。

変換された回転運動は船の側面に付けられた水車を動かし、水面を掻き、推進力を得るのだ。

他領で複製しようとしても、圧力魔法を再現出来ずに頓挫する事だろう。

独自技術の塊であるこの外輪船は、ソラ伯爵領の軍事力を強烈に印象付ける。

河川の多いソラ伯爵領に攻め込めば、船での戦いは避けられない。

速力も輸送力も段違いである外輪船は強力な防衛戦力となるだろう。

王都から帰るソラを迎えに現れたこの外輪船を見たベルツェ侯爵が引きつった笑いを浮かべるほどに。

「でも、まだ改良の余地はあるんだよね」

リュリュが外輪を見つめて、形の良い顎に片手を当てる。

頭の中ではいくつもの改良案が実現の時を待っているのだろう。

サニアも魔法陣が格納されている機関室の方を見る。

「やる気があるのはいいが、休養も取れよ。それに、片付けないといけない問題は目の前にもある」

ついに追いついた大型船を見つめて、ソラは外輪船の端に赴く。

併走する大型船に銀髪を風にそよがせる二人の娘を見つけ、ソラは声をかけた。

「噂にあった通り、見事な銀髪だな」

外輪船を見つめて呆気に取られていた銀の娘達は、ふいに満面の笑みを浮かべた。

「素晴らしいわ!」

両手を打ち合わせて、銀の娘達は満足そうに笑う。

追いつめられたというのに、心から楽しむような明るい表情だった。

ソラは目を細め、銀の娘達を観察する。

ニコニコと朝日のように清々しく、しかし空っぽの笑顔をソラに向け、銀の娘達は口を開く。

「ソラ卿、こんな物を隠しているなんて、人が悪いわ」

「教えてくれればもっと、もっと面白く出来たのに!」

もっと、と強く言って、銀の娘達は笑う。

「その船を見れば、ホルガーやザシャも勝手をしなかったわ」

「──こういうタイプか」

ソラは小さく呟いた。

人形のような銀の娘達の言葉から、人間性に見当を付けたのだ。

安定した場を掻き回し、裏で糸を引きながら、予想外の出来事を楽しむ愉快犯。

銀の娘達にとって、予想外の出来事は自らが危険になる程、あるいは計画に破綻をきたす程に娯楽性を増していく。

ソラはため息を吐き、銀の娘達に告げる。

「もっと面白く? なるわけないだろ」

銀の娘達の言葉を切って捨て、ソラは続ける。

「ホルガーとザシャの安定志向を踏まえれば、お前達の計画は最初から破綻している」

ソラは指摘するが、銀の娘達は小首を傾げた。

本当に分からないのだろう。

ソラは面倒そうに腕を組んだ。

「ホルガーやザシャみたいな安定志向は、他国と内通なんて大それた事を選ばないんだよ。我らが国王陛下に話を持って行ったのも、ホルガーやザシャがこの一件を国内で完結させたかったからだ。その方が、立場は“安定”するからな」

ソラの説明に銀の娘達はやはり首を傾げた。

「ホルガーやザシャの安定志向の何が問題なの? 脅して命令を聞かせればいいじゃない」

「それでは信頼関係に亀裂が入る。組織として機能しないだろ」

「意味が分からないわ」

銀の娘達の返答を聞き、ソラは呆れてため息を吐く。

「信頼がなければ、仕事を任せられない。仕事を任せられないのなら、それは組織ではなく個人の集まりに過ぎない」

当たり前の事を教え、銀の娘達の計画が破綻している理由を、ソラは告げる。

「お前達は本当の意味で人を使ってないんだよ」

銀の娘達は人の感情を組織に組み込んでいない。

構成員が別々に動き、方向性の定まらない行動力でソラ伯爵領を掻き乱しただけだ。

銀の娘達は人形遊びのように部下へ役を割り振って、好きなように動かそうとする。

だが、感情を持つ人である部下達には役不足なのだ。

だから、部下達は反発し、自らの考えに従って行動する。

組織の長であるのなら、部下の考えを尊重して仕事を任せなければならない。

「やっぱり、意味が分からないわ」

銀の娘達が顔を見合わせて頷き、ソラをバカにしたように見る。

「ホルガーやザシャが裏切った原因は、脅し方が足りなかったからよ」

「……付ける薬はない、か」

ソラは理解させる事を諦め、腰の魔鏡剣を抜く。

そして、運命と名付けられた漆黒の糸に繋がれた人々を解放するように、魔鏡剣を掲げた。

朝日を反射し、魔鏡剣は美しく輝く。

「最後に一つ、忠告してやる」

魔鏡剣を見て、目を庇う銀の娘達の護衛を一瞥し、ソラは冷たく言い放つ。

「──他人を玩具にするな」