軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十九話 実力者達

掲げられた鉄剣が振り降ろされる。

曲刀とぶつかり、澄んだ金属音が鳴り響いた。

馬車を連れたイレーネオ達の速度は、騎兵の全力疾走と比べれば遅い。

それ故に、戦いは熾烈だった。

誰しもが余裕のある速度で鉄剣や曲刀を振るっている。

全員が精鋭であり、各々が卓越した技能を持っていた。

その中で、抜けた実力を持つ者が二人いた。

その一人であるイレーネオの上司が右手で曲刀を振るい、チャフ達の列に単騎で突っ込んだ。

列の向こうへと抜け出るや否や、素早く馬の首を前方に向け、チャフ達に併走する。

上司は両脚で鞍を挟み、体を安定させた。

「好き放題にかき回しやがって、その首を落とさんと気が済まねぇ」

上司はおもむろに空いた左手を腰に提げた予備の曲刀に伸ばす。

「先ずは列を切り崩してやるよ」

言うが早いか、予備の曲刀を抜き放ち、馬上で二刀流となった上司は再び馬首を巡らせる。

何度もチャフ達の列を割り、強引に軍列を乱すつもりなのだ。

上司は馬腹に蹴りを入れ、チャフ達の列に食い込んだ。

左右の曲刀を巧みに扱い、チャフ達騎兵隊の間隔をこじ開ける。

「フェリクス、頼む」

「はいよ、お任せ!」

チャフが振り返りもせずに指示する。

軽く請け負って、フェリクスが速度を落とした。

二度目の列割りを終えた直後の上司は、馬の向きを直している所をフェリクスに襲撃された。

上司の右を併走するフェリクスが鉄剣を横に薙ぐ。

上司は左手の曲刀で受け止めながら、右手の曲刀をフェリクスの肩めがけて突き出した。

冷静に切っ先を見据え、フェリクスは上体を後ろに傾け、曲刀を躱す。

上司の左の曲刀に、フェリクスに引かれた鉄剣の刃がこすれて耳障りな音を立てた。

突きを外した上司は舌打ちしたが、直後に視界の端に見つけた鉄の輝きに目を剥く。

刹那の間を挟み、フェリクスの鉄剣が振り上げられた。

上司の右腕を下から切断するような軌道だったが、紙一重で上司は右腕を空に掲げていた。

無防備に右脇を晒す事になった上司が、再び舌打ちする。

「ちっ、曲芸かよ!」

「馬上で二刀流やる奴に言われたくないな!」

フェリクスが言い返し、鉄剣を引き戻す。

フェリクスが上体を傾けたため馬の速度が落ちていた。

フェリクスは口端を吊り上げ、鉄剣を水平に構えた。

馬の背を脚で弱く締め付けて加速を命じ、後ろから斬りかかる。

背後からの攻撃に上司は顔を歪ませ、右の曲刀を盾にして受け止めようとする。

しかし、馬の加速が乗った一撃は重く、片手では受け止め切れなかった。

仕方なく、上司は鉄剣から逃れるように馬をチャフ達から離す。

馬が離れるにつれて曲刀の腹を鉄剣が滑り、最終的に上司の横腹すれすれを抜けていった。

鉄剣の行く先を確認した上司は、仕切り直しとばかりにフェリクスへと斬りかかった。

精鋭同士の戦場にも拘わらず、上司とフェリクスの戦いに参加する者はいなかった。

参加したとしても足手まといにならない者が、二人しかいなかったのだ。

その一人であるイレーネオは、もう一人であるチャフを見る。

チャフも同じ考えだったのだろう、視線が交差した。

イレーネオは馬車の御者台から戦いを見守るしかない。

重傷者を引き渡した事で二十五名いた護衛が、イレーネオを含めて十五名にまで減っていた。

集団の右側にいた七名と上司がチャフを含む六名と戦いを繰り広げている。

加われない事が余りにも悔しかった。

だが、イレーネオは副官としての立場と役割を理解している。

「河に到着次第、馬車を左に寄せ、即座に敵の掃討に移る。それまで警戒を怠るな!」

戦いから視線を引き剥がし、イレーネオは馬車の左を走る仲間達に指示を飛ばす。

チャフ達が囮となってイレーネオ達を馬車の右に集め、別働隊に左側から奇襲を掛けられては堪らない。

河にさえ出れば、左側は河のおかげで広く視界が確保できる。

そうなれば、全戦力を投入してチャフ達を撃退できるのだ。

チャフ達も河に着く前に勝負に出るはずだ、とイレーネオは読んでいた。

イレーネオはチャフを注意深く観察する。

青銅剣はいまだ鞘に収まっているようだった。

チャフは時折、投げナイフに手を伸ばす。

だが、上司の目配せを受けた仲間が、投げる前に攻撃を仕掛けて妨害していた。

チャフの視線は馬車や御者台のイレーネオに注がれており、狙いは明白だった。

イレーネオは馬車の中に声をかける。

「船に着いたら合図します。すぐに乗り換えてください」

「……だから負傷者を使って暗殺すればよかったのに」

「ホルガーとザシャもそうだけれど、言う事を聞かないから追い込まれるのよ」

「文句は後で聞きます。あなた方が生きていればね」

イレーネオは双頭人形の言葉を遮る。

双頭人形に付き合っていられるほどの余裕はなかった。

イレーネオは前方に目を凝らす。

河はもうすぐそこだ。

「左翼、前後から敵の制圧を行え!」

イレーネオが指示を飛ばす。

待ってましたとばかりに、左にいた仲間達がチャフ達の排除に動き出した。

これで勝てる、イレーネオは会心の笑みを浮かべ、チャフを見る。

だが、視線の先にいたチャフもまた、笑みを浮かべていた。

チャフが鞍から腰を浮かせた。

そして、高く、長く、口笛を吹く。

直後、チャフの護衛が一斉に速度を上げた。

上司と打ち合っていたフェリクスもまた、チャフの援護を受けて隙をつき、速度を上げる。

もとより、王国随一の騎兵隊を誇るだけあって、人馬一体となった無駄のない加速だ。

馬車の速度に合わせているイレーネオ達が追いつけるはずもない。

「……ここまで来て、撤退?」

誰かが呟く。

しかし、イレーネオと上司の考えは真逆だった。

「──馬鹿やろう。連中は船を直接狙うつもりだ!」

上司が声を張り上げる。

後を追われていたわけではなく、後を付けられていたのだ。

イレーネオ達の逃走手段が陸路か水路か、判断するために追い立てた。

陸路ならば、あのまま奇襲を掛け続ければいいが、水路となれば手が出せなくなる。

逃走経路を特定し、船との合流を阻止する。

それが、度重なる奇襲の目的。

「イレーネオ、馬車を乗り捨てて追ってこい。俺達は船を死守する!」

上司が間近にいた仲間五人に声を掛け、チャフ達を追いかける。

船はなんとしても守らなければならない。

これ以上陸路でチャフ達に奇襲を掛けられては本当に全滅してしまうだろう。

イレーネオは馬車を止め、腕の立つ仲間を二人選び、それぞれに双頭人形を相乗りさせるよう指示する。

イレーネオ自身は馬車に繋いでいた馬に跨った。

「ちょっと面白くなってきたわ」

「チャフ・トライネンがここまで考えるだなんて思わなかったものね」

愉快そうに、銀の娘達は言葉を交わす。

「けれど、船にも護衛がいるのだから、六人程度ではどうにもならないわ」

くすくすと銀の娘達は笑い合う。

イレーネオは眉を寄せた。

まだ、チャフ達に奥の手があるかもしれない。

そう警戒していた。

根拠はない。

イレーネオは深く息を吸い込み、腹の底に力を込める。

この先、何が起きても慌てるまいと決意した。

「──追います。舌を噛まないでくださいよ」