軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十三話 餓えた略奪者

ジーラを出発してすぐ、ホルガーと元賊の行軍は一つの問題に直面した。

食料問題である。

ジーラからの出発も急な事であったため、手持ちの食料は一日で尽きてしまいそうだった。

五十人からの大所帯であり、問題は深刻だ。

「旦那、早くどっかで食料を調達しないと……刃向かう奴が出ますぜ?」

部隊長の一人が小声でホルガーに進言する。

歩き続けて肉体的疲労が溜まる。加えて、追われる身でもあり、精神的に追い詰められる。

この上、満足に腹も満たせないのでは、不満も溜まるだろう。

しかし、ホルガーはジーラから距離を取る事を優先していた。

追っ手がかかっている以上、最初に距離を稼いでおこうと考えたのだ。

ホルガーは自分達の行軍速度からジーラとの距離を大まかに計り、ほっと息を吐く。

「近くの村から略奪する。お前らも奪うのは得意だろ?」

冗談めかして部隊長に訊ねると、ニヤニヤと笑みを返された。

「こう言っちゃなんですが、旦那は盗賊業に向いてそうですね」

ホルガーとしてはなんとも反応に困る言葉だったが、部隊長なりの褒め言葉だったらしい。

部隊長は周囲の部下達に声をかける。

「貴様ら、餌を分捕りに行くぞ。準備しとけ!」

「うーす」

武器を持った集団にしては規律を感じさせない軽い返事に、ホルガーは眉を寄せる。

元賊である事を考えれば、即席の縦割り組織で統率できているだけマシだと思い直した。

ホルガーは周囲を見回して、必要な食事の量を想像する。

「村一つだけじゃ襲っても賄い切れねぇだろうな……」

複数の村を襲う時間があるかを計算しながら、ホルガーはジーラがある方角を振り返る。

追っ手の姿はまだ見えない。

「旦那、この先に村があるそうです」

部隊長の言葉に頷きを返し、視線を前に戻す。

指示を待つ元賊達を見回して、ホルガーは口を開いた。

「夜を待つ時間はない。このまま乗り込む。食料と金以外にはかまうなよ」

少々不満そうな顔をする元賊達には構わず、ホルガーは村まで無言を貫いた。

村では自警団員らしき男達が周囲に睨みを利かせていた。

平時にはあり得ない警戒網だ。

元賊達も違和感に眉を寄せている。

「随分と手回しがいいじゃねぇか。ジーラのクソ爺め」

ホルガーは悪態吐きつつも、慎重に自警団員の人数を調べさせる。

調べでは、およそ二十名いるらしい。

「……やけに多いな」

村一つに配置するにしては多すぎる事を踏まえて考えると、村の男達も混ざっているのだろう。

「所詮は素人ですぜ。一気に制圧しちまいましょう」

部隊長に背中を押され、ホルガーは胸騒ぎを押さえ込んだ。

いずれにせよ、この村で食料を得なければならないのだ。

ホルガーは元賊達を集め、作戦を伝える。

「とにかく時間が惜しい。村の東から一息に押し寄せ、自警団を追い出して略奪し、南に抜けて距離を取る。ちんたらやってる奴はおいていくぞ」

ホルガーの作戦に異を唱える者はいなかった。

元賊らしい慣れた様子で各々の武器を抜き、村に向けて疾走の構えを取る。

ホルガーは部隊長達に目配せした後、声を張り上げた。

「──奪い取れッ!」

ホルガーの命令を合図に五十人の男達が一斉に地を蹴った。

不揃いな足音が幾重にも響き、村を目指して男達がひた走る。

略奪の意志を隠す気もない男達は気炎を上げながら村へ殺到する。

自警団員が慌てて振り返り、元賊の集団を見て声を上げた。

「──敵襲!」

自警団員は仲間へと注意を促すと──即座に背を向けて逃げ出した。

「……ハァ? 逃げやがった!?」

「気ぃ抜くな。駐屯する自警団総出でやり合う気かも知んねぇだろうが!」

たたらを踏む元賊達に部隊長が喝を入れ直す。

気構えを作りなおした元賊達は再び速度を上げ、村へと突入する。

民家に自警団員が潜んでいる可能性も視野に入れながら、元賊達はさして広くもない村中を走り回った。

武器を掲げ、人影を見つければ方向を転換して走り込む。

元賊達は血生臭さを感じさせる悪罵を次々と口にしていたが、手に持つ武器は一向に血を浴びなかった。

自警団員の姿を見つけても、出会い頭に逃げ出されてしまうのだ。

戦闘にならないのでは掲げた武器も虚しく空気を裂くばかりだった。

「……どうなってやがる」

ホルガーは自警団員が戦わずに放棄した村を見回し、呟いた。

一通り自警団は追い出した。使った時間はごく僅か、順調過ぎるが故に、言いようのない不安がホルガーに忍び寄る。

「旦那、この村はおかしいですぜ」

部隊長の一人がホルガーを見つけて声をかけた。

食料や金を物色していた元賊達も手ぶらで民家から出てきた。

中には腹立たしげに民家の壁に蹴りを入れている者もいる。

「住人が一人もいねぇ。食料や金もねぇ。かと言って最初から廃村だったようには見えやしねぇ」

部隊長の言葉通り、村は生活感があるだけで生活必需品は存在しなかった。

最初から逃走を選んだ自警団を思い出し、ホルガーは舌打ちする。

「あのガキ、やりやがったな」

首を傾げる元賊達にホルガーは告げる。

「俺達は村の食料を餌に位置を特定されたんだ。食料品の買い占めはこの布石だったんだろうな」

自警団が一切抵抗せずに逃げ出した理由にもホルガーは見当が付いた。

周辺に分散した戦力にホルガー達の位置を知らせるためだったのだ。

元賊達の大半は説明を受けてもよく分からないようだった。

目の前を通りがかった獲物を襲うばかりで、狙った獲物の位置を割り出す事とは無縁だったのだろう。

ホルガーは頭痛を堪えるようにこめかみを押さえる。

おそらく、この先の村に食糧の備蓄はないだろう。近隣の防衛設備がある町から必要な分だけ輸送されると考えるべきだ。

ホルガー達を兵糧責めで弱らせつつ、位置を特定し集結させた戦力で叩き潰す事がソラの作戦だと思えた。

「小狸が、うまく行くと思うなよ……」

「旦那?」

冷静な怒りを内包したホルガーの呟きに、部隊長が聞き返した。

「黙ってろ」

命令して、ホルガーは周辺の地理を思い浮かべる。

「……お前ら、食糧を奪いに行くぞ」

「今度は何処の村を襲うんで?」

「馬鹿いえ、襲うのは村じゃねぇよ」

ホルガーは立ち上がり、ズボンに付いた埃を払った。

「潜んでいる敵の部隊が食糧を持ってんだよ」

ホルガー達の位置が判明した際、すぐさま包囲するために潜伏場所から動けない部隊がいる事を、ホルガーは見抜いた。

状況を理解している数少ない部隊長が怪訝そうに口を開く。

「潜んでいる部隊って言われても、何処にいるか分かるんで?」

ホルガーは森を睨み、獰猛な笑みを浮かべた。

「俺達がどの村を襲撃しても駆けつけられる位置だよ」