軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三話  二頭同盟

ソラの元に知らせが舞い込んだのは、女衒との対談から三日後の夜だった。

私室で王太子に宛てた密書をしたためていたソラを、コルが訪ねてきたのだ。

「動きがあったのか?」

単刀直入に訊ねると、コルは小さな声で報告を始める。

「そのですね……。商会連合に初期から参加していた三つの大手商会の長が、相次いで失踪しました」

「……そうか」

密書に封蝋を施しながら、ソラは短く嘆息する。

各商会長の後任となった者達についてまとめた資料を手渡され、ソラはちらりと目を通す。

いずれも、ホルガーとザシャに都合がよい人選だ。

──露骨だな。

「どの商会も債権をいくつか手放しています」

「どうせ、ホルガーとザシャが買い上げたんだろ?」

ソラの予想をコルは肯定する。

関連債権を握る事で、商会連合内での発言力は増加する。

元々、創立メンバー並の発言力を有していたホルガーとザシャが、更に力を強めた。

商会連合が完全にホルガーとザシャの私物と化した事になる。

「二頭政治ならぬ、二頭同盟だな」

ホルガーが治める東のグラントイース、ザシャが治める北のグランスーノを盟主とする、ジーラを拠点に据えた経済都市同盟。

国王から圧力を掛けられたソラに対し、ホルガーとザシャは街官吏としての権力も行使できる。

彼等がいる事で、商会による連合から街という経済圏を統括する同盟へと発展した。

──連中の計画も最終段階か。

ここからは時間との勝負である。

「コル、蒸留酒は準備してあるのか?」

「王都の屋敷に運びましたけど……あんなに沢山、何に使うんでしょうか?」

火炎瓶を片手に街を走り回った過去を思い出したか、コルが不安そうに訊ねる。

心配しなくとも、王都で火炎瓶片手に走り回れなどと、命じるつもりはない。

「証明に使う。後片付け用の方が多いけどな」

手短に説明して、ソラは領内の簡単な地図をコルに渡す。

「宿料亭組合から寄せられた情報をまとめ、食料品の分布図を完成させろ」

「需要が多いライ麦からにした方が良いですか?」

買い占めを行う際の資料として使う、と察したコルが問う。

「そうしてくれ。値段も一覧にしてくれると助かる」

「すぐに取り掛かります」

ラゼットと違ってグダグダと文句を言わないコルに、ソラは安心して仕事を任せる。

王太子への密書を片手に、ソラは立ち上がった。

コルと目があって、ソラはふと思いついたように片手を頭の高さに上げた。

「コルって俺と身長が近いよな」

「え? まぁ、少し僕の方が高いくらいですけど」

コルも同じように頭の高さに片手を上げる。

せいぜい数センチの誤差だ。

二人とも男性にしては小柄な部類である。

「大きくなりましたねぇ……」

感慨深そうにコルが呟く。

「小さい頃は──あんまり変わってませんね……」

久しぶりに会った親戚染みた台詞を口にしかけ、ソラの性格が変わっていない事に気付いたらしい。

コルの反応には頓着せず、ソラは肩幅などを細かく比べる。

しばらくして、満足した様子のソラは鼻歌交じりに私室を後にする。

「……何か、悪巧みしてません?」

「俺がそんな人間だと思うのか?」

「はい、昔から」

間髪入れずに答えを返され、ソラは肩を竦める。

「そんな人間が悪巧みをやる前からバラすはずがないだろ」

尤もらしい言葉ではぐらかし、ソラは食堂に向かう。

明かりが点いた食堂からは、がやがやと騒ぐ火炎隊の声が聞こえていた。

そういえば、とコルが口を開く。

「リュリュさんが厨房に来て、蒸留酒を持っていったんですけど」

「あぁ、放っとけ。いつもの病気だ」

ソラが顔を出すと、火炎隊士は即座に立ち上がり、敬礼する。

「食事を続けていて構わない。ゴージュはどこだ?」

トマトとバジルのソースが掛けられた鮭のムニエルや白ワインが乗ったテーブルを見回し、ソラはゴージュの姿を探した。

「ソラ殿、ここです」

ゴージュが嬉しそうに手を振った。

厨房に戻るというコルから離れ、ソラはゴージュに近付く。

食堂にはバジルの香りが漂い、食欲を刺激してくる。

このソースならば、鳥むね肉を蒸し焼きにしてからかけても美味しそうだ。

今度リクエストしてみようと考えつつ、ソラはゴージュに密書を渡した。

「王太子に届けてくれ。配達員の人選はゴージュに任せる」

「では、儂が行きましょう」

ゴージュがすぐさま申し出るが、ソラは首を振る。

「目立ち過ぎだ。それに今、ゴージュが領から出るのは不味い。せっかく、トライネン伯爵が動いてくれたんだからな」

「言われてみればそうですな。儂が動いてはせっかくの緊張感が台無しですからな」

残念そうに眉を下げつつ、ゴージュは食卓を見回す。

火炎隊士は揃って目を逸らした。中には背中を向ける者までいる。

あからさまな態度に、ゴージュは苦笑した。

「そんなに嫌がらんでも良いだろ」

「ゴージュさんは良いっすよ。暴れ馬って言っても、非常識に足が速い愛馬がいるんすから」

思わずといった様子で文句を言った火炎隊士に、ゴージュは笑顔を浮かべる。

そして、持ち前の化け物顔が良く似合う台詞を口にした。

「何だ、聞いとったか。話が早いな」

しまった、と火炎隊士が口を押さえる。

周りの隊士は薄情にも椅子を離し、素知らぬ顔で食事を再開した。

「ちょっ、みんな無視しないでほしいんすけど!?」

「──コル、白ワインまだある?」

「酔っ払ってなかった事にする気っすねッ!?」

くだらないやり取りをしている間に、ゴージュは隊士に歩み寄り、肩を叩いた。

ビクリと肩を跳ねさせた隊士はゴージュを振り返り、手を合わせる。

「マジ勘弁してくださいよ、ゴージュさん! 王都っすよ? あんな所まで行ったら大一番に間に合わないかも知れないじゃないっすか!」

「安心せい。儂の馬を貸してやるからな」

「あんなじゃじゃ馬に乗れないっすよ!」

隊士は必死に拒む。

ソラは仕方ないなと微苦笑した。

「帰りはウッドドーラ商会の船に乗れるよう手を回してやる。間に合わなくなる心配はないぞ」

ソラの言葉一つで、食堂に静寂が舞い降りた。

先程まで拒んでいた火炎隊士は一瞬ポカンと口を開けた後、笑みを浮かべる。

「ソラ様のお役に立てるなら、王都くらいすぐにでも出立するっす」

「あ、ずるいぞ、お前! 自分も行けます。てか、自分が行きます!」

「酒飲んでた奴じゃ明日には命令忘れてんだろ。ここは、おれが」

「やかましいぞ、元馬鹿やろう共!」

次々と名乗り出る火炎隊士に、ゴージュが拳骨を落とした。

勝ち誇ったように密書を受け取る火炎隊士は、羨ましそうな同僚を眺め回し、

「──戦うだけが兵士の仕事じゃないんすよ」

「てめえ、どの口が言いやがる!」

「コル、酒持って来てくれ!」

「よし、飲ませろ。二日酔いにしちまえ!」

火炎隊が笑いながら酒盛りを始めた。

ほどほどにしておけ、と言いおいてソラは食堂を後にするのだった。