軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四話  魅了する銀色

食堂を後にしたソラは暗い廊下を歩く。

向かう先はリュリュが管理する科学実験室だ。

窓から覗く満月は薄い雲のせいで中途半端に輝いている。

──ウサギには見えないな。

つい地球の月と模様を比べてしまい、ソラは自嘲した。

新築の頃は木の香りが満ちていた廊下も、今は良い意味で落ち着いている。

木床を鳴らしながら歩き、ソラは目的の部屋にたどり着いた。

「リュリュ、作業ははかどってるか?」

扉を開けると、大量の箱と大きめの天秤を前に目を輝かせているリュリュがいた。

ソラが来訪した事にも気付かず、リュリュは箱から金属の粉が入った袋を取り出す。

天秤皿の片方に分銅を置き、もう片方に金属の粉を薬さじで移していく。

慎重な手つきで、目は鋭く天秤の傾きを見据えていた。

それだけなら、いたって真面目な科学者に見えるのだが、

「ふふふ……」

緩く弧を描いた唇から、抑えきれない笑い声が零れる。

──マッドに成長したなぁ。

扉の横の壁に背中を預け、ソラは頬を掻こうとして、仮面に阻まれた。

リュリュ相手なら問題ないと判断して、ソラは仮面を外す。

リュリュは未だに天秤の釣り合いを取っていた。

背中から覗いてみると、天秤が左右にゆらゆら揺れている。

分銅の重さと金属粉の体積を見て、ソラは金属粉の正体に当たりをつける。

天秤の振れ幅が小さくなり、ついに釣り合った。

傾きはゼロを指している。

「──よし!」

「それが最後の計量か?」

嬉しそうに拳を掲げたリュリュに、ソラは声をかける。

一瞬だけ動きを止めたリュリュが、肩越しに振り返った。

「……いつから?」

ソラと目が合うと、小首を傾げて訊いてくる。

ソラは手近にあった背もたれのない椅子を引っ張り出しつつ、悪戯心を出した。

「早く蒸留アルコールと反応させたいな、と呟いた辺りから」

「最初から!?」

「やっぱり呟いてたのか」

「……誘導尋問」

ソラの鎌掛けに見事引っかけられ、リュリュは肩を落とす。

分かりやすい奴だとソラが笑うと、ジト目を向けてきた。

「久しぶりに素顔を見た気がする」

まじまじとソラの顔を見つめた後、リュリュは唇を悪戯っぽく歪めた。

「女の子みたいだったのが、少しはマシになったかな。まだ女の子にみえるけど」

リュリュが誘導尋問の仕返しに憎まれ口を叩く。

ソラは最上級の愛想笑いで受け流した。

「リュリュはいつも綺麗だな」

「ありがとう」

ソラ同様、リュリュはほめ言葉をさらりと受け流した。

天秤に向き直ったリュリュは、金属粉が乗せられた皿を手に取る。

「例の銀は計量を終えたよ」

リュリュは天秤の皿から小箱へと金属粉を移しながら、ソラに報告する。

ソラは小分けされた金属粉に視線を向けた。

小分けしたといっても、一つ当たりの重量は四百グラム弱だ。

金属粉が詰められた小箱は相当な数に及んでいる。

「手間を取らせたな」

小箱の山を見回して、ソラは呟く。

リュリュが天秤を片付けて、何かを思い出したように微笑した。

「銀の延べ棒を作る、なんて言いながら、方程式解きだした時は何事かと思ったね」

「仕方ないだろ。体積比と重量比の兼ね合いを計算しないと、失敗するからな」

ソラは言葉を返しながら、式を思い出していた。

──原子量がなかなか思い出せなくて困ったが、なんとかなったな。

シドルバー伯爵領から送られてきた二種類の“銀”の原子量から、本物の銀インゴットの重量と体積に限りなく近い分量比を導き出したのだ。

──商人を騙くらかすんだ。本物そっくりにしないとな。

ソラは科学実験室を見回して、ふと気付く。

「本物の銀粉はどこだ?」

数日前に計量を終えたはずの銀粉がなくなっている事を指摘する。

リュリュは圧密木材の工場がある方角を指さした。

「銀粉はもうサニアに渡してある。作業も始めてる頃かな」

リュリュの指に釣られて、ソラも工場の方角を見る。

銀粉は一つの小箱に約六百グラムが納められていたはずだ。

一つ一つは大して重くはないが、小箱の数はかなりのものになる。

「火炎隊に手伝ってもらったのか?」

「そう。夕食が終わったら、残りの小箱も運んでもらうつもりだったんだけど……」

リュリュは扉を見て、食堂の方角へと視線を向ける。

「遅いね」

「あいつ等、酒盛りを始めたからな」

食堂の盛り上がりを思い出し、ソラは告げる。

リュリュが呆れ顔で頭を振った。

ソラは苦笑しつつ、口を開く。

「どうせ、運び込んでもまだ使わないだろう。明日にしておけ」

「ウチの実験室は物置じゃないんだよ」

リュリュが桜色の唇を尖らせて抗議するが、ソラは彼女の本音を見抜いている。

「早く現物で実験したいだけだろ」

言い当てられて、リュリュは視線を泳がせる。

「コルから聞いたぞ。もう蒸留酒の準備も済んでるらしいな?」

証拠も握っていると仄めかすと、リュリュが拗ねたように俯いた。

「ソラ様の話、凄く面白そうだったんだ。実験したくなるに決まってるでしょ。何年ウチと付き合ってるのさ」

「逆ギレすんなよ。仕方ないな」

ソラは近くにあった小箱を掴み、立ち上がった。

不思議そうに見上げるリュリュを促す。

「試作品が欲しい所だったからな」

ソラの言葉にリュリュが瞳を輝かせた。

困った奴だと思いながら、ソラはリュリュを連れて科学実験室を出る。

そして、サニアが作業をしているだろう圧密木材の工場へと向かった。