軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十四話 情報と憶測

二日掛けて人形と機械を組み上げたソラは、工場への搬入を火炎隊に任せて大樹館に戻る。

ソラはサニアやリュリュと手分けして、小さな木箱を持って執務室の入口をくぐった。

「……こんなところで何してるんだ?」

ソラは執務室にいたチャフに問う。

ふてくされたような仏頂面で、チャフが睨んできた。

工場には圧密木材を製造するための魔法陣があるため、出入りを禁じられた事が不満なのだろう。

ソラは苦笑しつつ、扉の外を指差す。

「お前がいるべきは第二執務室だろ」

「どうせ書類仕事だ。ここでもできる」

わざわざ書類を持ち込んでまで仕事をしつつ、ソラを待っていたらしい。

チャフは片肘を机に突いた。

「工場の内装を変えて魔法陣を隠したのだろう? オレが入っても構わないはずだ。それとも、あの不気味な人形を見せたくないのか?」

チャフの言葉に、サニアが頬を膨らませた。

「お化粧しておいたから、もう不気味なんかじゃないよ。すごく可愛くなってるんだから」

人形に化粧を施したサニアが胸を張って主張する。

ソラは化粧された人形の姿を思い浮かべた。

──中途半端に人間味が足されて、かえって不気味さが増した気がするんだよな。

勿論、口には出さない。

ソラは木箱を執務机の横に置く。

「人形を並べ終えたら、中を見せてやるよ」

元から魔法陣の大きさが分からないように、工場は設計してある。内装を変えた以上、中に入っても分かる事は何もない。

そうと聞かされても、チャフに残念がる様子はない。

純粋に、ハブられないかが心配だったのだろう。

機嫌を良くしたチャフに、護衛のフェリクスが苦笑している。

フェリクスの表情に気が付いたらしいチャフは、ばつが悪そうに咳払いした。

「……ところで、その木箱には何が入っているんだ?」

指摘されていじられる前に、木箱の話に変えてしまうつもりだろう。

ソラは木箱の蓋を開け、片手で持てる大きさの陶器の頭を取り出した。

また人形か、と少しうんざりした様子でチャフが呟く。

サニア程ではないが、今度はリュリュがむっとした顔でチャフを睨む。

「言っておくけど、これは工場に運び込んでいるようなまがい物とは違う。本物のからくり人形だよ」

リュリュはチャフの目の前に木箱を置く。

「おい、書類が──」

小さいため重量も余り無いとは言え、木箱に書類を押し潰されたチャフが抗議しようとする。

だが、リュリュは無視して木箱の蓋を開け、中身を見せ付けた。

「この部品を見てみなよ」

引く気がなさそうなリュリュの剣幕に押し切られ、チャフは木箱の中を見る。

「……何が面白いかさっぱりだが?」

本気で首を傾げるチャフ。

リュリュが柳眉を逆立てた。

「単純な構造なのに、わずかでも簡単な仕組みにするための創意工夫が凝らされてる。この凄さが、素晴らしさが分からない? それでも英知ある人間の端くれなの? 泥をこねてる猿の方がよっぽど創造的な顔してるよッ!」

遠回しに猿以下だと言われたチャフだが、リュリュの剣幕の前に言い返せるはずもない。

サニアが袖を引いて止めなければ、リュリュは延々とチャフにからくり人形の素晴らしさを語り続けただろう。

リュリュは不機嫌そうな顔のまま引き下がり、木箱をソラの執務机に移動させる。

「それで、工場に搬入した物とどう違うのか、説明してくれないか?」

チャフがリュリュを刺激しないように言葉を選びながら、問いかける。

ソラは答えを返さず、からくり人形の組み立てを始めた。

気を利かせたサニアがチャフに設計図を見せるが、理解できないらしい。

「出来上がるまで待って……」

実物を見せるしか手がないと分かり、サニアは設計図を仕舞う。

やり取りを聞いていたのだろう、ソラが一瞬チャフと目を合わせた。

「もうすぐ完成するから、待ってろ」

言葉通り、からくり人形はすぐに完成した。

しかし、ソラがネジを巻くより早く、執務室の扉が叩かれた。

チャフがソラを見た後、木箱に視線を移す。

追加の部品があるかを聞いているのだろう。

ソラは無言で首を振った。

「恐らく、来客の知らせだろう。サニア、開けてやれ」

サニアがドアを引き開けると、廊下にコルが立っていた。

「あの、イェラさんが到着しました」

コルに来客の名を告げられて、チャフは記憶を探った。

「確か、ジーラの町官吏……。ソラ卿が呼んだのか?」

チャフの言葉にソラは頷く。

──そういえば、チャフは叙爵祝いのパーティーを欠席しているから、面識がなかったな。

書類などで名前を目にした事はあっても、直接に顔を合わせた事はない、とソラは思い至った。

「リュリュ、からくり人形の動作確認を頼む」

ソラはリュリュにからくり人形を任せ、立ち上がった。

コルに紅茶を用意するよう指示して、チャフに声をかける。

「良い機会だ。今後も関わる事があるだろうし、顔合わせがてら、チャフも交渉に参加してくれ」

ソラに促され、チャフは立ち上がる。

書類はサニアが第二執務室へ移動させてくれると言う。

ソラはチャフと共に応接室へ向かう。

「ジーラの町官吏なんて呼んで、何の交渉をする気だ?」

「正確には、町官吏代理、だけどな」

チャフの認識に訂正を加え、ソラは続ける。

「まず、 銀髪の娘が様々な商会に出入りしていた。その後、ジーラに大手商会が集結している。これが無関係とは思えない」

ソラはチャフが情報を整理する時間を与え、次にアイクとロジーナが銀髪の娘という単語に見せた反応を教える。

「銀髪の娘との関係が状況を左右する程の重要性を秘めている、そんな反応だった」

ソラは廊下の先に応接室を見つけ、声を小さくする。

「銀髪の娘がジーラの商会連合をまとめた人物だと仮定すれば、動かせる資金は莫大な物になる。アイクにしろ、ロジーナにしろ、そんな人物との関係を完全否定するわけがない」

そして、とソラは叙爵祝いのパーティーで見たイェラの姿を思い出しながら、口を開く。

「ジーラの町官吏代理、イェラはこの通り──」

言葉を区切り、ソラは応接室の扉を開ける。

そこには、窓から射し込む光の中で一人の娘が頭を下げていた。

「……銀色の髪をした若い女なんだよ」

小さな声で、ソラがチャフに囁いた。