作品タイトル不明
第十三話 組み立て作業
大樹館に馬車がひっきりなしに出入りしていた。
ゼズとコルが積み荷を確かめ、運び込む場所を指示していく。
荷台から覗いている物は様々だったが、どれもかなりの数が積んであった。
馬車毎に仕訳された品々は木箱に納められて、チャフと護衛達が大樹館の裏庭へと運ぶ。
チャフ達に抱えられて裏庭にやって来た木箱は火炎隊に渡され、圧密木材の工場や火炎隊の訓練所に運ばれる。
圧密木材の工場にはソラとサニア、リュリュの三人が待っていた。
「まずは飾り分の組み上げからだ。失敗作の調整は俺が済ませるから、形だけでも完成させてくれ」
ソラの指示を受け、サニアとリュリュが急ピッチで部品を揃え、組み上げる。
丁度木箱を運んで来たゴージュが、床に転がった部品を踏み砕きそうになり、慌てて後ずさった。
「……陶器なんですな」
「そんな出来でもかなり値が張るんだ。壊すなよ」
「好んで壊そうとは考えんと思いますな。夢に出そうですぞ」
ゴージュは苦笑しつつ、木箱を置いた。
ゴージュが踏みそうになった部品を持ち上げたソラに、サニアが手を振る。
「ソラ様、その頭をこっちに持ってきて」
サニアの言葉通り、ソラが手に持っている物は頭だった。
とは言っても、陶器で作られた人形の部品である。
本来、眼が入っているはずの部分は空洞で、文字通り空虚な瞳でソラを見上げている。
「ついでに目玉も持ってくから、先に腕を組んでおけ」
ソラが近くの木箱に歩み寄り、蓋を開ける。
枠に収められた、十を越えるガラス製の目玉が見上げてきた。
あらかじめ心構えを作っておかないと、精神的なダメージを負う光景だ。
ゴージュが反応に困って目を逸らした。
「天地無用、と書いてあった理由はこれですかな?」
上下が反転していたなら、箱の中を目玉が縦横無尽に転がり回っていた事だろう。
想像するだに恐ろしい光景だ。
「どっちがマシか分からないけどな」
ソラは困ったように笑って、サニア達に視線を移す。
ともすれば、バラバラ死体の山に見える人形のパーツだが、サニアもリュリュも気味悪がる様子がない。
「図面を見た時は気持ち悪かったけど、実物だと可愛いね」
サニアがリュリュに笑いながら話している。
ソラとゴージュは顔を見合わせ、同時に肩を竦めた。
ソラもゴージュも、人形の部品を見て可愛いという気持ちは抱けない。
この手の耐性は女性の方が強いらしい。
ソラは周囲を見回して木箱の数をざっと数えた後、ゴージュに向き直る。
「そろそろ、工場の改装に移ってくれ」
「窓を閉ざして、全体を薄暗くする、でしたな」
「床の魔法陣もしっかり隠蔽しておけよ」
ソラに頷きを返して、ゴージュは工場へ歩いていった。
ソラは大きく息を吐いて、所狭しと並べられた木箱を見回す。
一先ず、全ての木箱を開けて回り、人形一体分の部品を集めた。
そこに、サニアとリュリュが目玉がはまった人形の頭部や塗装が施された木製の腕を持ち寄る。
「揃っているようだな」
ソラは歯車を数え、肩を回す。
「これならウチも作れる」
リュリュが傍らで、クランク機構を組み上げた。
それを左腕に連動させ、前後に動くように取り付ける。
サニアが見よう見まねで右腕を作ろうとするのを、ソラが止める。
「右腕は前後じゃなく、上下に動くように作るんだ」
分かった、とサニアは返事をして、右腕を設置する。
サニアが作業している間に、ソラはリュリュと協力しながら、人形の前にとある機械を組み始めた。
サニアが難しい顔で木の棒をはめ込み、念入りに右腕の動作確認をしている。
機械の外枠を作り上げたソラは、リュリュに声をかけた。
「ちょっと中に入ってみてくれ」
促されるまま、リュリュは機械の中に体を滑り込ませる。
リュリュは機械の中に寝そべるような形になると、ソラに言われるより先に確認作業に移った。
「ウチだと手が届くけど、ソラ様やサニアじゃ使えないね」
「当日は火炎隊が使う予定だから、大丈夫だろう。薄暗くても使えると思うか?」
リュリュは右手側のハンドルや左手の引き綱を見て、自信なさそうな声を出す。
「ハンドルより、レバーにした方が良いね。この体勢で回す動作はつらい」
「分かった。木箱を分解してレバー式の部品を揃えよう」
ソラが発した鶴の一声を聞き、リュリュは機械の中から出る。
図面を引いて、クロスポートの職人に発注しなければいけない。
すぐに取り掛かると言うリュリュにレバー式への改良を任せ、ソラは人形を組み立てるサニアに注意を向けた。
「あくまで見せかけだが、滑らかに動くようにしたい。一つ一つの動作確認を慎重に行っていこう」
ソラは設計図を片手に歯車を入れていく。
大きさも形状も様々な歯車達は、サニアを混乱させるには十分だった。
しかし、ソラは一目見てすぐに人形のどこへ組み込むかが分かるらしい。
一瞬も手を休める事なく、ソラは歯車を組み上げた。
忘れた部品がないかを丹念にチェックした後、ソラはぜんまいを回すためのネジを取り付ける。
──さて、ぜんまい一つで何分稼働するのやら。
ソラの力で限界まで回し、スイッチ代わりの止め棒を引き抜く。
カチカチと歯車が噛み合う小気味良い音と共に人形が動き出した。
規則正しく左手を前後させ、何かを引くように右手を上下させる。
「本当に生きてるみたいだね」
サニアが人形の周りを歩いて見る角度を変えながら、感動する。
しかし、すぐにぜんまいの動力が底を尽き、人形は静かになった。
ソラは大まかに稼働時間を計っていたが、あまりの短さに嘆息する。
「ぜんまいが足りると良いんだが……」
ソラは木箱を振り返って、渋い顔をした。
人形一つに対してぜんまい動力が幾つ必要になるか、ソラは単純計算する。
追加発注も視野に入れ、ソラは人形の設計図をサニアに渡した。
「明後日までに、稼働する物を最低でも十体は作るぞ」
──最悪、他は動作なしで済ますか。
妥協案を模索しつつ、ソラは次の人形を組み上げるべく、陶器の頭を持ち上げた。