軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第九話  対策会議

「結局、北の方も交渉失敗か」

アイク商会とロジーナ商会の和解交渉から数日が経つ。

ベルツェ侯爵領から植物性の布を輸入している北の商会同士の和解交渉も、ソラの健闘むなしく決裂した。

会議室にて、ソラから交渉結果を聞かされたチャフが天井を仰ぐ。

ソラは面白くなさそうに言葉を返す。

「アイク商会にしろ、北の連中にしろ、大手商会側が聞く耳を持たないからな」

「聞く耳を持たせるのがソラ卿の仕事だろう」

「……ちッ」

チャフに正論をぶつけられ、ソラが舌打ちした。

「ソラ様が言い負かされてる……」

サニアに驚きを込めて見つめられ、ソラは憮然として口を開く。

「交渉が失敗した以上、別の方法で安値競争を止めないといけなくなった」

さらっと話を変えたソラを追及せず、会議室の面々は頷いた。

全員が思考を切り換えた事を確認し、ソラは続ける。

「まず、今回の騒動の落とし所を決める。第一目標は失業者を可能な限り出さない事だ」

現在、子爵領には難民が押し寄せている。

失業者が増えれば、難民への職業斡旋が難しくなるだろう。

ソラが掲げた目標に対して、ゼズが手を挙げて発言する。

「商会を潰さない形で収束させたいのは分かるんだが、潰れない限りは止まらないんじゃないか?」

赤字を出してまで商圏拡大を図っているのだから、多少痛い思いをしたとしても引き下がるとは思えない。

チャフも同意して、口を挟む。

「可能な限り、というのならロジーナ商会を含む中小規模の商会に潰れてもらうしかないのだろうな」

「それは駄目だと思います……」

チャフが出した結論に、コルが恐る恐る異を唱えた。

不思議そうな顔で説明を求められ、コルは宿料亭組合からの情報をまとめた資料を取り出した。

「今回の騒動には布以外の業界も注目しています。もし、商圏拡大を仕掛けたアイク商会を含む各大手商会に利する方法を取ると、布以外の業界でも商圏拡大や不当廉売が起きかねません」

コルの想像が現実になれば、子爵領内で活動する中小規模の商会が軒並み潰れかねない。

子爵領の外から参入してくるケースも考えられ、復興したばかりで競争力のない子爵領の商会は格好の標的になるだろう。

チャフも想像が及んだのか、難しい顔で黙り込んだ。

「……となると、大手商会を潰すって話になるけど、本末転倒だよね?」

サニアが全員を見回して、同意を求める。

真っ先にゴージュが頷いた。

「仕掛けた側は大手商会ですからな。報いは受けるべきだと思いますぞ。肝心なのは、報いの大きさでしょうな」

商圏の拡大に乗り出して市場を混乱させた報いとして、店が潰れない程度の損を被らせる。

さじ加減が非常に難しい話だ。

リュリュがサニアに質問を投げる。

「アイク商会の資金繰りは?」

「大まかに算出してあるけど……固定費が膨らんでて、あまり余裕はないみたい」

「固定費が膨らんだ理由は、人件費?」

サニアが頷き、会議室内に複数のため息が落ちた。

人件費の増加は従業員が増えている証拠だ。

アイク商会は布の生産に人を雇っている。

潰れたなら、これらの従業員も路頭に迷うだろう。

しかも、布は赤字を出しながら安値で販売しているため、競争が長期化するほど資金を切り崩す必要があった。

アイク商会にとっては、布をわずかでも安く手に入れるための戦略である。

しかし、ソラ達には悪戯に被害を拡大させているようにしか見えない。

面倒な事しやがって、孤独にくたばれば良いものを……。

それがソラ達の本音だった。

チャフが不意に何かを思いついたように、口を開く。

「単純に布の輸入に関税をかける──駄目か。資金力勝負に拍車をかけるだけだな」

良い案だと思ったんだが、と呟いて、チャフは腕を組む。

次にサニアが手を挙げて発言許可を得た。

「布の最低価格を決めちゃえば?」

サニアの提案に、会議室のメンバーが感嘆の声を漏らす。

布の底値を決めてしまう事で、安値競争を出来なくしてしまおうという考えたのだ。

しかし、ソラだけは首を振って否定した。

「底値が決まっている場合、俺なら粗悪品を大量販売する」

「うわぁ……」

最低な考えにドン引きするサニア達。

リュリュだけが納得顔で頷いていた。

「悪貨は良貨を駆逐する。みんながソラ様みたいに粗悪品を底値でばらまく、薄利多売方式に切り換えたら手が付けられないね」

実際、アイク商会などは低価格での品質維持に失敗しており、自力で生産した布は質が悪い。

それでも売れているのだから、難民流入が続いて布需要が増加傾向にある今、底値を決めるのは悪手だろう。

「それなら、利益を上げない販売を意図的にする事を禁止……無理だね」

話している間に底値を決めるのと大差ない事に気付き、サニアは口を閉ざす。

その後も知恵を絞るが、良案は挙がらず、時間だけが無為に過ぎていく。

最終的に、リュリュが一つの案を出した。

「中小商会が潰れたら資金を注入する」

「ゾンビ化か……」

「ゾンビ?」

ソラが口にした単語の意味が分からず、リュリュが首を傾げる。

何でもない、ソラがはぐらかした。

「正直、俺も資金が余っているわけではない。大手商会側にどれくらいの余裕があるか、詳細に調べておく必要があるな」

それでも、中小商会にソラが味方すると公にすれば、大手商会は二の足を踏むだろう。

経営が苦しくとも、大型船を所持するレベルの資産を持つソラが相手になるのだから。

──だが、まだ弱い。

資金力を明確に意識させる一手が欲しい、とソラは思う。

──織機を改良するしかないか。

安い布を売り浴びせ、早期に決着をつけるのだ。

この時点ではまだ、優位に立てると誰もが考えていた。

この時点では、まだ──