軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四話  安くて良質な布

「さて、ゼズ、この山は何だ?」

川を下ってきた大型船に乗り込んだソラは、船倉に積まれた大量の布を指さし、責任者に質問を浴びせた。

「誰が布を買って来いなんて言った? 商売でも始める気かお前は」

「この量で商売は無理だと思うが」

「チャフは黙ってろ」

ソラに睨まれたゼズは困ったように視線を逸らす。

頬をポリポリと掻きながら、ばつが悪そうに理由を話しだした。

「行った町で安売りしてたんだ。赤ん坊には必要だろうと思って」

「……つまり、おしめか」

生まれるまでまだ時間があるはずだとか、なんで新品なんだとか、普通は古着をばらしてあてがうだろうとか、言いたい事は色々あった。

だが、それを置いても、白い布が山と積まれている光景に突っ込まざるを得なかった。

「お前、赤ん坊を滝か何かと勘違いしてるだろ」

まったく、と腰に手を当て、ソラは布を一枚手に取る。

手触りから察するに、それなりに良い品のようだった。

「……手持ちの金で足りたんだろうな?」

「あぁ、使い切っちまったが、安売りしてたからな」

ソラは不思議そうな顔で布の裏表を確認し、縦や横に引っ張って検分する。

──不良品でもないな。復興記念の出血サービスって所か?

内心で首を傾げつつ、ソラは頭を切り替える。

布よりも余程重要な事をゼズに頼んであった。

「ジーラには寄ってきたのか?」

ソラの質問に、ゼズは首肯する。

「ジーラの船付き場は、この船を基準に何隻係留できる?」

「二隻だな。ジーラの各商会が共同で所有する大型船と一緒に留めたから間違いない」

ゼズの証言にソラ達は耳を疑った。

ジーラの商会連合がベルツェ侯爵領に大型船を発注したとは聞いていたが、既に現場へ届いているとは知らなかったのだ。

ソラは舌打ちする。

「大型船がベルツェ侯爵領から来たなら、グランスーノを通るはず。ザシャの奴、こっちに情報を出し渋ったな」

子爵領北部の街官吏、ザシャの顔を思い浮かべて、ソラは苦い顔をした。

未だ不正の尻尾を掴ませない三人の官吏の一人だ。

チャフが少し考えた後、口を挟む。

「そのザシャという街官吏を呼び出して、注意したらどうだ?」

ソラは首を横に振る。

「呼び出すほどの事じゃない。ベルツェ侯爵領との間は船舶の通行税がなくなったからな。積み荷があったなら兎も角、本来なら船だけの場合に報告する必要はない」

文書で注意するくらいが適当だろう、とソラはため息を吐く。

ソラが文書による注意で止めざる得ない事を、ザシャも予想していたはずだからだ。

「過剰な注意は皆が失敗を恐れる原因になる。新人教育中の今、萎縮されたら困るんだ」

「失敗してでも仕事を身につけてほしいから、か」

「……本当に気持ち悪いくらい、話が分かるようになったな」

「どういう意味だ、それは!?」

褒めているのか貶しているのか分からないソラの言葉の真意を、チャフが問い質そうとする。

しかし、ソラは取り合わずに話を進めた。

「船着き場の改築は行われていたか?」

「ベルツェ侯爵領から技師を招いて本格的にやるみたいだ。増築も込みでな」

増築される具体的な規模はまだ不明との事だった。

とはいえ、船着き場に手を加える工事は必ず行われる。

──本格的に貿易に参入する気だな。

ソラは腕組みしたままにやりと笑う。

貿易が本格化すれば人手が必要になる。

難民の増加が激しい今、雇用が増えるのなら願ったり叶ったりだ。

多数の大手商会が手を組んでいる事もあり、資金も潤沢だろう。

また、船着き場が整えば食料輸送も拡大できる。

折を見て、難民を優先的に振り分けようと考えた。

──せいぜい利用させてもらおうか。

悪い顔をするソラを見て、ゼズとチャフが顔を見合わせ肩を竦めた。

見る者によっては寒気を覚える笑顔のままで、ソラは一足先に船倉を出る。

甲板の端で雑談をしていたサニアとリュリュが、ソラに気付いて手を振った。

ソラは手を振り返し、周りに誰もいない事を確かめてから話し掛ける。

「参考になったか?」

リュリュがにこりと笑って頷き、サニアは困り顔で首を振る。

二人が正反対の結果を迎えた事に、さもありなん、とソラは微笑した。

「サニアの担当分は試行錯誤するしかないな。予算は出すから、小さな模型から始めてくれ」

「うん、そうする」

サニアは甲板の手すりに腰掛け、欠伸をかみ殺した。

リュリュと分担しているとはいえ、ラゼットの分の仕事もこなしているため、あまり寝ていないのだろう。

リュリュを見てみれば、目の下にうっすらとクマが出来ていた。

休暇を取るよう度々言って聞かせているのだが、リュリュもサニアも仕事漬けである。

明日にでも無理矢理休ませる事を決めつつ、リュリュの報告を聞く。

リュリュは嬉しそうに語り出した。

沈没防止の隔壁などの構造的な話や、船乗り達の体験談から推測される問題点など、可能な限りを調べ尽くしたらしい。

「大体の設計図は組み立てたから、二人乗りくらいに縮めた物を造るよ。だから、こっちにも予算回して?」

両手を合わせて微笑みながら、リュリュは上目遣いで頼む。

必要な投資だと心得ているため、ソラも出し渋る気はない。

「用意してやるから、何を買うか目録を作れ」

やった、と小さくガッツポーズするリュリュに、ソラは苦笑する。

「あまりのんびりしてられないぞ。数年以内で建造に移れるように急いでくれ」

古今東西、力を持った商人に貴族が淘汰される例は枚挙に暇がない。

ジーラの商会連合が力を持ちすぎる前に、武力を保持する必要がある。

ソラはジーラの商会連合を利用するつもりだが、同時に警戒もしているのだった。