軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三話  復興宣言

クロスポートの船着き場に、一隻の大型船が到着した。

人々は、クラインセルト領では長らく目にする事のなかった巨大な帆に感嘆し、海波を割って突き進む速度に歓声を上げた。

この大型船はベルツェ侯爵領から贈られた三隻の内の一つである。

人々は大型船の到着を我が事のように喜んだ。

大小様々な島によって複雑な海流が生み出されるクラインセルト領の海。

そんな海の脅威を身近に感じて育ってきた人々にとって、横波を受けてもビクともしない大型船は頼もしく感じられる。

今まで、政治や財政的な問題で誰も手に入れられなかった大型船が、目の前にある。

巨大な船体が沈む事なく海にある光景は強烈に、鮮明に人々の記憶に焼き付いていく。

大人達は目を丸くし、子供達は頬を上気させ、大型船の甲板を見上げていた。

そこには、一人の可愛らしい少年と、熊の特徴を持つ少女、赤毛の混ざる金髪の美しい娘がいた。

甲板の端に歩み寄った少年達が手を振ると、人々からわっと歓声が沸き立ち、拍手が巻き起こる。

並み居る人々を見下ろし、少年は満足そうに頷き、口を開く。

「この船は俺、ソラ・クラインセルトの所有となる」

ソラが尊大な態度で宣言する。

人々は、領主が大型船を所有する事が何を意味するかを知っていた。

大型船は財力の証であり、武力の証であると。

子爵領成立から今日に至るまで、復興に全力を注いできた少年子爵が大型船を持つ。

資金を無駄にしなかった子爵が持つからには、大型船が必要な段階にいたったという事。

そう、それはつまり──

「この船は復興の証だ!」

少年が大仰に両腕を開き、船に注目を集める。

「そう、我々、クラインセルト子爵領は他領と対等な立場にまで回復した」

少年は芝居がかった口調で声を張り上げ、人々に言葉を染み渡らせる。

そして、人々が余韻に浸りきった頃合いを見計らい、手を大きく打ち鳴らして意識を集める。

「俺はもう子爵領の復興活動をしない」

少年の言葉を聞き、人々が捨てられた子犬のような顔を見合わせる。

しかし、少年は意地悪な笑みを浮かべると、人々の心配を吹き飛ばすほどの大声で宣言する。

「これから先は復興ではない。発展だッ!」

一瞬の静寂の後、意味を理解した人々は、地を揺らし、波が乱れるほどの大歓声を上げた。

同時刻、東の町にてチャフ・トライネンとフェリクス達が、北の町にてゼズとラゼット、コルの三人が、ベルツェ侯爵領から贈られた大型船を用いて同様の宣言を行った。

いずれの町においても、大型船からクラインセルト領では見られない種類の花々がばらまかれ、興を添える。

復興を祝う祭りが各所で開かれ、子爵領は熱気に包まれた。

人々は子爵がやって来る前と今を比べ、祝い酒を酌み交わしながら復興の実感を噛みしめるのだった。

宿の二階から町の騒ぎを見下ろして、銀髪の娘は笑っていた。

部屋の隅で腕の包帯を取り払う男が、銀髪の娘の笑みに嫌悪感を表す。

「気色の悪い顔しやがって」

悪口など何処吹く風とばかり、銀髪の娘は笑みを絶やさない。

膝の上に頭を載せる相方の額に手を置き、銀髪の娘は男を見た。

「腕はもう良いのかしら?」

「ちッ! もう二度とシドルバー伯爵領なんざ、行かねえからな」

腹立たしげに男は舌打ちする。

包帯を取り払った腕には斬り傷の痕があった。

既に傷は塞がり、動かしても痛みはないようだ。

傷痕を見つめて、男はイライラして壁を叩く。

イスに座っていた部下が眼鏡の位置を指先で直し、同意するように頷いた。

「確かに、もう懲りましたね。夜討ち朝駆け、奇襲に加え、周辺の村は厳重警戒を敷いて兵糧責め。逃げ切れたのは奇跡です」

眼鏡の男はため息混じりに零す。

「精鋭だけで半数は殉職しています。一度国に帰って再編すべきでしょう」

「それは駄目よ! せっかく遊びが始まったのに、もう帰るだなんて勿体無いわ!」

「うっせえぞ、イカレ頭の腐れ人形がッ!」

口を挟んだ銀髪の娘に男が罵声を飛ばす。

上司の態度を咎める事もせず、眼鏡の男は天井を見上げた。

「事の重大さが分かってんのか? 半数だ、半数だぞ!? 残りの調査対象は何処だ? 得体の知れない道具がバカスカ出てくるクラインセルト領と、この国で一番厳重な王都の魔窟だ! 手勢が足りねぇんだよッ!」

上司が張り上げた大声に、眼鏡の男はため息を吐く。

「外に聞こえます」

「聞いた奴は殺せ!」

「頭を冷やして下さい。我々が直接動くより、本国に使いを出す方が発覚する可能性も低い。増援が来るまでは大人しくしましょう」

眼鏡の男が提案すると、上司は歯ぎしりしながら銀髪の娘を見る。

相変わらず感情のこもらない笑みを浮かべた顔で、銀髪の娘は言葉を紡ぐ。

「表向きは大人しくしていればいいのね? とっても得意よ」

胡散臭い物を見るように、男は銀髪の娘を睨む。

しばらく後、男は視線を外す事で矛を収めた。

「このまま殺しの魔法が見つからないなんて話は御免被るぜ」

こぼした独り言に眼鏡の男が頷いた。

銀髪の娘は男達のやり取りを見つめながら、眠り続ける相方に囁き掛ける。

「あってもなくても、子爵領を貰いましょうね?」