軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三話  王都へ

「それで、オレ共々、王都に呼び出された、という訳か」

経緯を説明されたチャフは、少々の疑問を飲み込んで納得した。

ベルツェ侯爵がソラ達を王都に呼び出した理由は分からない。

しかし、話さないからにはソラも知らないのだろう。

ソラは馬車の窓枠へ置いた腕枕に顎を乗せて、暇そうにしている。

「チャフ、お前も馬車に乗ったらどうだ?」

春めいてきた日の光に眼を細めながら、ソラが誘う。

チャフは呆れたような視線を返した。

「こんな機会がなければ、馬に乗る訓練が出来ない。……クラインセルト子爵のせいでな」

「──おかげ、と言え。人聞きが悪いな。仕事も覚えられて、至れり尽くせりだろ」

ニヤニヤと意地悪に笑うソラ。

チャフは言い返せずに天を仰いだ。

ソラは町官吏を排除した後、ベルツェ侯爵領から派遣された町官吏をチャフの部下に位置付けた。

派遣された町官吏達の仕事ぶりは、可もなく不可もなく、といった所。

しかし、丁寧に仕事を教えてくれるため、ソラは重宝した。

報告を聞く限り、チャフは真面目ではあっても、優秀な生徒ではないようだった。

「俺より結果を出すんだろ? なら、今は学べ」

挑発的な口調を混ぜつつ、ソラは細めた目を光らせた。

良いように操られている気がして、チャフは唇を尖らせる。

学ぶ機会があるに越したことはないが、割り切れないらしい。

ソラはニヤニヤ笑いをそのままに、心の内で嘆息する。

──敵である俺に塩を送られるのは嫌って事か。

世の中には、どれほど気に食わなくても自分より優れた者が存在する。

そんな存在に対する意趣返しは、優れた部分を学び取って隣に並ぶことだ。

しかし、思春期真っ最中のチャフには、相手を認める事が出来ないらしかった。

──出会った頃はもう少し柔軟な奴だったんだが、頑固から頑迷にレベルアップしやがったな。

指摘して、矯正してやりたいが、ソラに言われても意固地になるだけだ。

想像が付いてしまうから、ソラは何も言わずにフェリクスを見る。

チャフの護衛であるフェリクスは、ソラの視線の意味に気付き、首を振った。

自分には荷が重い、という意思表示だろう。

チャフはしつこくフェリクスに試合を挑んでいる。

知において倒すべき目標がソラなら、武において倒すべき目標がフェリクスである。

ライバルという立ち位置が同じであるため、フェリクスが言っても、チャフが意固地になるのは間違いない。

ベルツェ侯爵に頼んでみようかと考えながら、ソラは王都を目指して北上した。

王都に着いたソラは早速、ベルツェ侯爵の屋敷を目指した。

途中、建設中のソラの屋敷を確認するため、ラゼットとゼズが馬車を離れた。

ソラの側付きメイドの役割をリュリュに押し付け、ラゼットは悠々と大通りの人混みに消えていった。

「私も降りるね。魔法の師匠様に挨拶しないといけないから」

用意していた言い訳を告げて、サニアが馬車を降りる。

獣人であるサニアには、貴族であるベルツェ侯爵の屋敷は敷居が高い。

二ヶ月前には獣人の黒爪が発生したため、なおさらだ。

気を使うサニアに苦笑しつつ、ソラは何も言わずに見送った。

火炎隊士の一人がソラに会釈して、サニアの護衛に付く。

馬車の中に残されたのは、ソラとリュリュ、コルの三人だ。

コルは居心地悪そうに、ゼズが抜けた御者台に座るゴージュを見る。

「……僕もどこかに行った方がいいですか?」

「無理に出かけなくとも構わないと思いますぞ。人員がバラけると、護衛が難しくなりますからな」

「そ、そうですよね……」

コルは小さく「逃げたい」と呟いた。

サニアとは別の意味で、コルには貴族の屋敷は敷居が高い。

小心者のコルの肩に、リュリュが優しく手を置く。

「……リュリュさん」

意外にも励ましてくれるのか。過去には肩を殴り飛ばされた事もあったが、優しい娘に成長して──

「麦角の報告はコルさんの仕事だから。今回、私はソラ様の側付きだし」

「僕がやるんですか!?」

梯子を外すだけでは飽きたらず、上に押し上げるようなリュリュの発言。

コルは思わず座席から立ち上がりかけ、馬車の天井に頭をぶつけた。

中の騒動は気にも留めず、ゴージュは馬に鞭をくれてやり、馬車を動かした。

王都の劇場で火炎隊の劇が行われている事もあって、住民がにこやかに手を振ってくる。

貴族の居住区画に入ると、通行人の姿がめっきり減った。

居住区画の奥にベルツェ侯爵の屋敷はある。

洗練された様式美、考え抜かれた庭景色、侯爵の地位に恥じない立派な屋敷だ。

屋敷の門に執事と数名のメイドがおり、ソラ一行を出迎えた。

一歩前に出た老齢の執事は、孫を見るような優しげな瞳でソラを見た。

「ソラ様、お元気そうで何よりで御座います。また一回り立派に、可愛らしく御成ですね」

「開口一番それか。敵わないな」

ソラは笑いながら返した。

決闘騒動後から叙爵式まで、度々世話になったこともあって、ソラは執事と顔見知りだ。

少々、癖のある執事ではあるが、ベルツェ侯爵の補佐をしているのだから、当然かもしれない。

「お部屋は用意して御座います。しかしながら、当主は王城にて、ソラ様、チャフ様にお会い致します」

「王城?」

ソラは首を傾げた。

──予想よりも大事に巻き込まれるかもしれないな。

気を引き締め、ソラはチャフに目配せする。

チャフは訝しげに眉を寄せた。

「クラインセルト子爵、言いたいことがあるなら早く言え。なんだ?」

「……気を引き締めろよ?」

──チャフに空気が読めるはずないか。

仕方なく、ソラは言葉で注意を促した。

執事に案内されるまま、ベルツェ侯爵の屋敷に入る。

旅装束で王城に赴く訳にはいかないからだ。

「ところで、呼び出された理由を知らないんだ。何か聞いてないか?」

リュリュに服を着せてもらいながら、ソラが執事に訊ねる。

執事はにこやかな笑みを絶やさず、首を振った。

「何一つ、聞かされておりません。ただ、一つだけ存じ上げております」

「なんだ?」

「シドルバー伯爵様も王城にいらっしゃいます」

「──げッ!?」

カエルがひき殺されたような声が聞こえてきて、ソラと執事は扉を見る。

そこには、青い顔をひきつらせたチャフが立っていた。

「……本当に、シドルバー伯爵が来ているのか?」

「はい、間違いは御座いません」

執事が確約すると、チャフは青い顔を俯けて額に手を当てた。

「なんて事だ……よりにもよって……」

ぶつぶつと呟くチャフに不吉な予感を覚え、ソラは執事を見る。

執事の笑みは消えていた。

「──ソラ様、何卒ご注意を」

執事は小さな声で告げた。