軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十話  発想の転換

「襲撃って、怪我人の数は!?」

すぐさま人の安否を気にするソラにラゼットは微笑んだ。

「大丈夫です。怪我人はでませんでした。大人の男が集団でくれば浮浪児達は何よりも先に逃げますから」

ラゼットの報告を聞き、ソラは安堵の息をつく。そして敵意を含んだ視線で窓の外に見える白い建物を睨みつける。

「教会の奴らか」

「まず間違いありません。浮浪児が貯めていた薪が残らず強奪されたようです」

張り込んでいる間に強奪された薪が怪しまれないように数回に分けて教会へ運び込まれるのラゼットは目撃した。その事実を持って黒幕が教会だと判断できる。

ソラもラゼットの推理に異存はない。

──しかし何故、襲撃したんだ。小枝に利用価値はないのに……。

窓際に頬杖をついて思考を巡らせる。ソラの細い眉が徐々に寄っていった。

「利用価値がないなら、利用しなければいいのか……?」

不意の発想にソラは当たりを予感する。

利用価値のない小枝を強奪したのは利用しないため。

いや、“利用させないため”だとしたら、教会は何を企んでいるのか。

ソラはしばらく教会の金飾りを眺めていた。傾きかけた太陽の光を浴びて輝かしい夕焼け色を周囲にばらまく杖をくわえた鳥の姿は美しい。

「……マズいな」

ようやく開いたソラの口から発せられた言葉はよくない未来を想像した物だった。

一緒になって考えている内に夢の世界に船をこぎ始め、転覆寸前だったラゼットの意識はソラの言葉で浮上した。

「何か分かったんですか?」

「あぁ、正直ハズレていて欲しいけどな」

額に手を当てて面を伏せたソラは苦々しい思いで言葉を繋ぐ。

「前回の宝くじ騒動で俺が儲けた方法は理解してるな?」

「先物取引、でしたっけ?」

元々は漁村の出であまり商売に詳しくないラゼットは心持ち不安そうに答えた。

ソラの険しかった顔がほんの少しゆるむ。

「そうだ。在庫を一度に確保して市場に流す量を減らし値をつり上げる。そして差額で儲けたんだ」

「改めて聞くとエグい手ですね」

素直な感想に「俺もそう思う」とソラは苦笑する。

しかし、すぐに一転して厳しい表情を作った。

「だが上には上がいるらしい。エグいというより非道な手を使う輩がいるようだ」

「それはやっぱり──」

「あぁ、ウッドドーラの商会長、ツェンドだ」

そこまで言うとソラは自ら木のコップに水を注ぎ、飲み干した。

考えをまとめる時間をおいた後、ゆっくりと話し出す。

「おそらく、ウッドドーラ商会は誰もが宝くじを買わないといけない状況を作るつもりだ」

ラゼットが首を傾げる。

宝くじはハズレを引けばゴミにしかならない。あくまでギャンブルなのだ。

ギャンブルが嫌いな者や生活が困窮していて余裕がない者は買わないし、買えないだろう。

その疑問をぶつけるとソラは頷いて同意を示した。

「確かにその通りだが、宝くじとしてではなく薪として買わせればどうだ?」

「それなら最初から薪か炭を買います。宝くじの方が割高ですから」

「どちらもなかったら?」

「……宝くじを買って、燃やします」

遠くない未来に考えが到ったラゼットも頭を抱えた。

ウッドドーラ商会のやり口は簡単だ。

材木を扱う大手商会のウッドドーラは街で最も薪の原料を持っていることになる。

本来、薪として市場に供給されるそれらが全て宝くじに加工されたらどうなるか。

ただでさえ在庫が少なかった材木はミナンが行った宝くじにより値上がりしている。

しかし、値上がり要因である宝くじが終わった事で値下がりするはずだった。

しかし、余った材木を売りに行ったラゼットはこう言っていた。

『買い取り価格が少し高すぎる気がしたんですよ』

つまり、その材木全般を買い支えた者がいる。それがウッドドーラ商会だ。

買い支えにより、市場の材木をほぼ独占したウッドドーラ商会は教会の後ろ盾の元で宝くじの開催を告知する。

市場の材木がほぼ全て宝くじの札に加工され、今年この街では薪が一切売りに出されない。

富裕層はもちろん、生活が厳しい貧困層も凍死を免れるために宝くじを薪として買い求める。

「エグいです。エグ過ぎます。人非人です……。」

ラゼットは頭を左右に振ってため息を吐いた。

ひとしきり、ため息でデュエットしたソラ達二人は気を取り直して向かい合う。

「かなり強気な価格設定で宝くじを売りに出すだろうな」

「買えない人は自ら薪を取りに行くんですか?」

「無理だな。浮浪児が拾い尽くした後だろうから。挙げ句、浮浪児が貯めてた薪すら強奪する念の入れようだ。商会の連中は薪が欲しければ宝くじを買えって言ってるのさ」

そして、こうも言っている。「買えないならば凍えて死ね」と。実際、凍死者はかなりの数に及ぶだろう。

「そうだ! すぐに近くの村々にこの事を伝えれば材木を搬入できますよ!」

両手を打ち合わせて会心の笑みを浮かべたラゼット。しかし、ソラの気分は晴れない。

「そんな下手は打てないな。やらないよりはマシ程度に思っておけ」

冬が近い今の時期、数少ない農地では刈り入れを行い、大多数の村では日の長い内にと魚を干したり燻製にしている。

木を切り出して金銭を得るのも大事だが、冬の間の食料確保が最優先だろう。

仮に材木の搬入が叶っても焼け石に水だ。誰だって高く買ってくれる所に売りたい。そして今、ウッドドーラ商会よりも高く買い取る商会はない。

ウッドドーラ商会は嬉々として材木を買い取り、それはそれは楽しそうに宝くじに加工するだろう。

絶対に売れる宝くじ。ウッドドーラ商会は夢のような商売を手に入れた。

「……打つ手なしですね」

ラゼットが困り顔で呟いた。

ソラは難しい顔で考え込んでいたが、意を決したように顔を上げた。

「ラゼット、ウッドドーラ商会が宝くじを作っている木材加工所を調べろ。それと明日の午後までに浮浪児を十人確保、年齢は十歳前後で栄養状態が悪く、危険でない者が条件だ」

「何か手があるんですか?」

「詳しく説明している暇はない。準備が要るんだ。急いでくれ」

ラゼットは強く返事して部屋を出ていった。

「……頼む、頑張ってくれ、ラゼット」

足早に遠ざかるラゼットの気配にソラは心からの声援を送った。