軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十一話 異世界っぽいモノ。

ラゼットの手引きでソラは夜の庭にて彼女が連れて来た浮浪児達と顔を合わせた。

こんな無茶が可能な館の警備に少なからず身の危険を感じるソラだったが、今回だけは目をつぶらざるを得ない。

どのみち、今日は警備を取り仕切る領主軍が色街で遊ぶ日なので、隙だらけなのだ。今日も平常通り誠に腐っている。

集まった浮浪児は十人でその内の七人は十歳前後だが、五歳ほどの子供が二人混ざっていた。出来るだけ歳を誤魔化す為なのか、全員がボロボロの布を頭からかぶっている。

浮浪児達を観察するソラ。その傍らに立ったラゼットの動きはぎこちない。それを目ざとく見咎めたソラはラゼットに視線を送った。

「……どうした?」

浮浪児達に聞こえないように小声で問う。

「その、すみません。あの浮浪児の中に獣人が一人混ざっているんです」

五歳ほどの浮浪児の片方がビクリと体を震わせる。その動揺は周囲の浮浪児にも伝播し、警戒を強めていく。

「獣人? それがどうかしたのか?」

「えっ?」

ソラが心底不思議そうに聞き返したことに震えていた幼い浮浪児が驚きの声を上げた。慌てて口に両手を当てて声を漏らすまいとするが既に遅い。

ソラは声に気づいて振り返った後だった。

「そんなに驚くようなことなのか?」

「ソラ様、獣人は貴族や富裕層に余りよく思われていないんです」

ソラの疑問に答えたのはラゼットだった。浮浪児達が一斉に敵意を込めたまなざしをラゼットへ向ける。

「なるほど、そんな事か」

さして気にした風もなく、ソラが言う。

「そんなみみっちい事はどうでもいい」

「み、みみっちい……。」

ラゼットはおろか、浮浪児達まで揃って呆気にとられたように呟く。

ソラとしては悪徳貴族の跡継ぎよりも、浮浪児の方が真っ当に思えた。

「しかし、そういう事情があるなら裏方に回ってもらうか」

二歳児故の低身長を物ともせずにソラは上から目線で浮浪児達を眺める。

年かさの者は年少の者の前に、男の子は女の子を内側にするように立ち並ぶ浮浪児達にソラは内心で感心していた。

「まずはよく来てくれた」

「……領主の跡継ぎ様が何のようだ?」

ソラの「みみっちい」発言に毒気を抜かれた感があったが、気を取り直した最年長の青年が問いかける。

「色々あるが、まず言っておく。このままではお前達に冬は越せない」

満月が雲に隠れ、明かりも僅かなぼやけた庭に反発するかのようにソラはきっぱりと言い切った。

年長者の数人は心当たりがあるのか唇を噛んだりしたが、年少組は理解が及ばないらしく、互いに顔を見合わせた。

「薪も無いのに冬を迎えればやせ細ったお前達はすぐに凍死するだろう」

「なんで薪の事を知ってるんだよ」

「耳が良い奴ならみんな知ってる。黒幕が教会って事まで知っている者は少ないだろうけどな」

ソラが告げた黒幕に浮浪児達がざわめく。予想していたらしい者、教会の無実を信じる者、二種類の反応だった。

「みんな、静かに」

青年が指示すると徐々に声は収まっていった。

完全に静まった後、青年はソラを探るような目で見ながら口を開いた。

「本当に教会が黒幕なのか?」

未だに信じきれない様子の青年にソラの目配せを受けたラゼットは“絶対に売れる宝くじ”やウッドドーラ商会と教会の協力関係を説明する。

浮浪児達の半数以上は理解できず、中には居眠りしている者もいたが、青年は少し考えた後でこの話を信じた。

「いやに物わかりが良いな」

「筋が通ってるからな。教会がくじ運を向上させる“幸運符”を売り出したのも理解できる」

「……幸運符?」

聞き慣れない単語にソラはラゼットを見る。

「今日の昼過ぎから売り出された木の札です。多く持ってるほど強い加護が得られるとかで、信者には買っている人も多いですよ」

「どいつもこいつも、金儲けに執心しやがって……。」

ソラが舌打ちする。

思い出してみれば教会と商会の密談でも教会側が『こちらにもうまみがある』と発言していた。この事を指していたのだろう。

「ちょっと待てよ。その幸運符ってのは木で出来てるって言ってたな?」

「はい、ウッドドーラ商会が卸した複雑な彫り物がされた木の札に教会が数日間祈りを込めるそうですよ」

「つまり、ますます木材需要が伸びるわけだ。街の外から材木を仕入れても値下がらないかもな」

ウッドドーラ商会も教会も、どうやら本気で木材を浪費するつもりらしい。

「まぁいい。むしろ好都合だ」

ソラが不敵に笑う。

何一つ好転する材料がない中でソラの自信に満ちた発言は異質だった。

ラゼットや浮浪児達がソラに注目する。

「ここにいる者でこの盤面を引っ掻き回す。作戦目標は街全体がこの冬を乗り切れるだけの燃料を確保する事。ついでに自己中な商会の利益を横から掠め取ってやる」

ソラは胸の前で腕を組み、浮浪児達の前に仁王立ちする。幼いはずのその体から場を圧する気迫が漂い、面食らった何人かの浮浪児が後退る。

そんな浮浪児達を流し見たソラは正面にいた年かさの五人を指差した。

「お前達は後ろに幼い仲間を庇うほど度胸があるようだから、敵の材木加工所を回ってオガクズを集めて来てもらう。場所はラゼットに聞け」

簡潔に指示して奥にいる年少組へ視線を移したソラは続ける。

「後ろの五人は俺の指示に従ってもらう」

もとより跡継ぎとは言え貴族であるソラに逆らえるはずもないが、常軌を逸した二歳児の立ち居振る舞いに浮浪児達は呑まれていた。

全員が戸惑いながらも従う姿勢を見せたことを感じ取ったソラは最後尾の一人に歩み寄る。

五歳ほどの浮浪児は布をかぶった頭を伏せて顔を隠していたが、ソラの低身長には通用しない。のぞき込むまでもなく近づいて見上げれば自然と目が合う身長差なのだ。

ソラが見たところ、顔形は普通の人と変わらない。

「獣人か、本には獣耳が生えていると書いてあったが見せてくれないか?」

ソラの頼みに獣人の子は困った風に視線を逸らした。

何時までも布を取らない獣人の子にソラは落ち着かなげにそわそわする。

「早く、早く」

急かすソラの声が浮かれているのには誰も気づかない。

困惑を深めた獣人の子は一歩ソラから距離を取った。間をおかずソラが二歩詰め寄る。

「さぁ、獣耳を、さぁ!」

獣人の子が二歩下がればすぐさまソラは距離を詰め、助けを求めて浮浪児仲間に視線を向ければ回り込んだソラのキラキラした瞳にぶつかる。

「獣耳! 尻尾は位置的にセクハラだから諦める。だから、せめて獣耳を、獣耳を!! おっ?」

暴走しかけたソラの襟をラゼットが掴み、子猫よろしく持ち上げた。浮浪児達により獣人の子は粛々と避難させられる。

「えっ、ちょっと待って……? 謝るから、お願いします。調子に乗りました、本当にすみません!」

「調子? そんなもの乗り捨ててください。さぁ、明日は忙しくなるんですから、子供は早く寝ないと大きくなれませんよ」

ラゼットはソラをぶら下げたまま館に向かう。ゆらゆらと揺れるソラは泣きそうな顔をしていた。

得意の嘘泣きではない。マタタビを取り上げられた猫もかくやといった絶望に染まった表情で透明な滴を流している。

──せっかく異世界っぽい物を見つけたのに、おあずけとかどんな罰ゲームだよ!

後ろ髪を引かれるように背後の獣人の子を振り返るソラ。彼と目があった獣人の子は顔を真っ赤にしていた。

「この件が片づいたら、あの子の耳を触っても良いですよ」

「ラゼット、それは本当か!? 嘘ついたらただじゃおかないぞ!」

ラゼットとソラのやり取りが聞こえた獣人の子はしかし何も言えずに二人を見送った。

結果次第では尻尾を触らせるとの約束がラゼットとソラの間で交わされたのを聞き取り、生まれて初めて人を遙かに超えた耳の良さを恨むのだった。