作品タイトル不明
277.
結局俺達は瑞鳳殿とやらに滞在する事が決まり、皇帝が 峻耀(ジュンヤオ) と話し終わると、 雪瑤(シュエヤオ) に声をかけた。
「 陳雪瑤(チェン・シュエヤオ) 、そなたも今宵は陳丞相と共に過ごしてはどうだ? 長旅で疲れておろう。なぁ、陳丞相」
「過分なご配慮ありがたき幸せにございます。ですが、父も忙しいでしょうから、私もこのまま東宮殿に下がらせていただきたく存じます」
「ははは、娘に振られてしまったな、陳丞相。そなたはもう少し家族と過ごす時間を作った方がよいぞ」
なるほど、隣にいる内の一人は 雪瑤(シュエヤオ) の父親か。
そういえば丞相をしているんだったな。
妙に緊張しているように見えるし、 雪瑤(シュエヤオ) はあまり父親が好きではないのかもしれない。
峻耀(ジュンヤオ) も父親に会えて嬉しいというより、緊張している気がする。
「ではしばらくの間休みをいただいても?」
「……それは困るな」
「という事だ。許せよ 雪瑤(シュエヤオ) 」
「私の事はお気になさらず。お父様が帝国のために働いている事は、私にとっても誉れですので」
雪瑤(シュエヤオ) は袖に隠した両手を合わせ、頭を下げた。
「できた娘よの。これからも東宮の事をよろしく頼むぞ」
「身命を賭しまして」
こうして重い空気の謁見が終わり、俺達は瑞鳳殿へと案内される事になった。
途中までは 峻耀(ジュンヤオ) 達も一緒だ。
「いいですか。あなた方が滞在する瑞鳳殿は、東宮殿の隣にあります。そして東宮殿は後宮からとても近いです。勝手に出歩いて万が一にでも後宮に入り込んだら命はないと思ってくださいね」
雪瑤(シュエヤオ) の視線はシモンに向いている。
「オレ!? 大丈夫だって! 団長が一緒なんだから大人しくしてるさ」
俺がいなかったら大人しくしていないつもりだったのか。
不安になるような事を言うんじゃない。
「この部屋は大きめなのでジュスタンとジェスで、左右の続き部屋は藍之介様とシモンで各自お好きな方の部屋を使ってください」
「わかった」
「…… 雪瑤(シュエヤオ) 、ほんの少しでいいから、皇帝陛下が自室に戻る時に立ち寄ってもらえませんか」
説明を終えた 雪瑤(シュエヤオ) に、藍之介が声をかけた。
珍しいな。
しかも皇帝を部屋に呼びつけるのはかなり失礼なんじゃないか?
「陛下をここへ!? ああ……でも、藍之介様がいらっしゃるから、立ち寄られる可能性はありますね。侍従長に伝えておきます」
「はい、お願いします。エルフの里の長から個人的に頼まれている事がありますので」
「!? わかりました。それはそうと、沐浴はどうしますか? 夜食は?」
夕食は都に入る前に軽く済ませてあるが、この後皇帝が来るのを待つのであれば小腹は減るだろう。
移動で疲れているから、風呂にゆっくり浸かれるのなら入りたいが、すっかり陽が沈んでいる今から準備するのは大変なはず。
「沐浴は清浄魔法で済ませるから必要ない。夜食はついでがあるなら頼みたいが」
「大抵毎晩陛下の夜食は作られるから、後で届けさせますね。お待たせしました、東宮。我々も休みましょう」
どうやら渡り廊下で繋がっている隣が東宮殿らしい。
雪瑤(シュエヤオ) に促された 峻耀(ジュンヤオ) は、名残惜しそうにジェスを見る。
「また一人の生活に戻るのか……。ジェスやジュスタンとはもう一緒に眠れないのだな」
「東宮、ここはもう城内ですから」
雪瑤(シュエヤオ) に言われ、 峻耀(ジュンヤオ) はしょんぼりと肩を落として東宮殿へと向かった。
城の外とは違って、城内では政敵の耳目が張り付いているだろうから、隙を見せられないのだろう。
実際今も廊下や柱の陰に、こちらの様子を窺っている者がいる気配を感じる。
「俺達もここで話す時は防音魔法を使った方がよさそうだな。藍之介、頼めるか?」
「もちろんです。『 防音(サウンドプルーフ) 』」
「よし。これで 峻耀(ジュンヤオ) の護衛は終わりだ。清浄魔法をかけたら、俺とシモンは騎士服に着替えるぞ」
「えっ、あとは寝るから夜着じゃねぇの?」
「馬鹿者。この後皇帝が来るかもしれないのに、夜着で出迎えるつもりか?」
「あ……っ、へへ」
さっき聞いたばかりの事を忘れていたのか、シモンは笑って誤魔化した。
「じゃあボクが清浄魔法かけるね! 『 清浄(クリーン) 』!」
張り切ったジェスが全員まとめて綺麗にしたせいか、さっきよりも部屋の中が綺麗になっている気がする。
歴史が長い分、質がいい物を長く使っているせいで、掃除していても蓄積された汚れでくすんだ色をしていたのだ。
「ありがとうジェス。ジェスは着替えるか? それとも寝る時までその服を着ておくか?」
「えっと……、寝るまでこの格好! だって 峻耀(ジュンヤオ) とお揃いだもん」
これまで誰かとお揃いという経験がなかったせいか、 峻耀(ジュンヤオ) もジェスも凄く嬉しそうだったからな。
俺とシモンが着替えていると、藍之介も和装に着替え始めた。
だが、なぜか残念そうに見える。
もしかして藍之介も俺達とお揃いのままがよかったのだろうか。
かといって勝手に騎士服を着せるわけにもいかないから仕方ない。
脱いだ護衛服を畳み、一応清浄魔法をかけ直した。
「あ、来たみたい」
くつろいでいたが、ジェスのひと言で藍之介が防音魔法を解除する。
そしてすぐに皇帝が訪れた事を告げる侍従の声が室内に届いた。