作品タイトル不明
278.
「ご足労いただき感謝します。ところでどうして劉将軍までいらっしゃるのですか?」
皇帝を出迎えた藍之介が、皇帝の背後で満面の笑みを浮かべている将軍を見やった。
「謁見した時に話せないような内容の話をするのだろう? 面白そうだからな!」
どうやらただの好奇心でついて来たらしい。
こんな自由が許されているのは、信頼の証だろう。
「陛下、皇族の秘密も全て知っている者のみ、共に入室してください」
皇族の秘密と聞いて、皇帝の片眉がピクリと上がった。
視線だけで指示を出したのか、将軍と部屋の前で声をかけた侍従だけが一緒に部屋に入って来た。
このやり取りの間に、シモンとジェスは隣の続き部屋へと移動する。
万が一にでも失言したら、シャレにならないからな。
「どうぞおかけください。そしてこちらはエルフの里の長より預かった手紙です。長の友と聞いていたので、以前話に聞いた龍に宛てた手紙と思いますが、今はいないようなので陛下にお渡しします」
藍之介が差し出した手紙を震える手で受け取った皇帝は、その場で手紙を包んである紙を開いた。
時代劇で見たような、横に長い紙がクルクルと解けながら落ちていく。
妙に長い紙だと思ったら、書いてある文字のひとつひとつが異様に大きい。
もしかして、龍が読みやすいように大きく書いたのだろうか。
どうやら萌は黄鱗帝国の文字も書けるらしい。
ひらがながひとつも使われていないから、エルフ文字ではないと思う。
文字が大きいからか、忙しそうに手紙を横にスライドさせる皇帝。
読み終わったかと思うと、顔を上げて俺を見た。
いったい何が書いてあったんだ。
「陛下、我々はその手紙の内容を知りません。そして私は黄鱗帝国の文字が読めません。何が書いてあったのかお聞きしてもよろしいでしょうか。おっと、その前に……藍之介」
「はい。『 防音(サウンドプルーフ) 』」
「これでここでの会話は部屋の外には聞こえません」
「エルフが龍力を持っているというのは本当なのだな。我々人族も昔は龍力を持つ者は珍しくなかったらしいが……」
「陛下」
「ああ、手紙の内容だったな」
皇帝の一人語りが始まりそうなところだったが、将軍が声をかけて止めてくれた。
「手紙の内容は黄龍の安否確認だった。そしてこの手紙を朕が読んでいるのなら、と前置きがあり、黄龍絡みで困った事があるのならヴァンディエール伯爵、そなたに話せと。黄龍とは少し違うらしいが、同じような古竜に伝手があるとか」
縋るような眼差しを向けられてしまった。
どうやら俺に相談したい事があるようだ。
「邪神討伐の際に囚われていた古竜を助けまして、一応繋がりはあります」
「…………この城にも龍がいる。この事は成人した直系の皇族、そして皇帝が心から信頼している数人にのみ伝えられる事実だ。五代前の皇帝にエルフの側室がいて、その者が黄龍の龍力を強制的に引き出し、黄鱗帝国を栄えさせられるように城の地下に封印したのだ。今の民は黄龍の存在はあくまで架空の話だと思っているがな」
目を伏せながら、皇帝は現状を語り始めた。
この辺りの話は夢で見た通りだ。
となると、皇帝が言いたい事は……。
「その黄龍の世話をしている女性から、黄龍が弱っていると聞いて焦っている……といったところでしょうか」
俺の言葉に皇帝は弾かれたように俺を見た。
「なぜその事を……!?」
俺達を信用して皇室の機密事項を話してくれたんだ、こちらも話すべきだろう。
「私は夢で女神の神託を受け取れるようでして、黄鱗帝国に入ってすぐにも夢を見ました。このまま黄龍が弱って死ぬような事になれば、黄鱗帝国は終わります」
「無礼な……!」
侍従が顔を真っ赤にしていきり立ったが、皇帝が手を振って制した。
実際は黄龍の呪いで大変な事になるのだが、そのまま伝えれば黄龍を殺そうとするかもしれない。
そうなった場合、更に最悪の結末になってもおかしくないからな。
黄龍を解放して、回復させるのがいいと思う。
「無礼な事を言っているのは承知しております。ですが、まずは陛下が黄龍を解放して助けたいと思っている事を、黄龍に伝えるべきかと。解放さえできれば回復させる手段は私に心当たりがありますので」
「解放か……。解放したくとも、その手段がわからぬのだ」
「陛下! 黄龍を解放してしまったらこの黄鱗帝国はどうなるのですか!? いつも民の事をお考えくださっている陛下が、誤った判断をなされてはなりません! これまで飢饉とは無縁だったのは黄龍の龍力のおかげなのですよ!?」
侍従が皇帝に詰め寄った。
これまで黄龍のおかげで繁栄してきたからこそ、その恩恵が失われるのが怖いのだろう。
「侍従殿、他の国は龍力に頼らず統治しております。それに五代前より前の歴代皇帝も同じだったのでは?」
「 張(チャン) よ、ヴァンディエール伯爵の言う通りだ。これ以上口を挟むでない」
「…………はい」
不満そうだな!
だが、黄鱗帝国がまるごと呪われるよりはマシだろう。
「陛下、黄龍を封印したのがエルフだというのなら、一度その封印を見せていただけませんか? その黄龍を封印したというエルフの情報もあればぜひ。どこから来たのかわかれば、その術式を調べる事もできるでしょう」
「張、蘭 昭儀(しょうぎ) の事が記された物を全て持って参れ」
「はい」
侍従が頭を下げて出て行く。
「い、今……、蘭と言いましたか?」
藍之介は絞り出すような声で皇帝に聞き返した。