作品タイトル不明
275.
休憩後から、劉将軍は上機嫌だった。
理由は一方的に約束した、俺との手合わせだろう。
手合わせに関しては俺も願ったりの事だから構わない。
問題は将軍が隊列を急かしてる事だ。
このままだと、到着したらすぐに手合わせとか言い出しそうだ。
俺としてはその前に皇帝に正式に入国許可をもらって、滞在先の確保もしなければならない。
幸い道中で両替もできた事だし、都であれば宿はいくらでもあるだろう。
祭りか何かにぶつからなければ。
「 烈陽(リエヤン) 、この時期に都で人が集まる催しはあるか?」
隣にいる 烈陽(リエヤン) に聞くと、何やら指折り数えてから口を開く。
「そうだな、現皇帝の即位十周年記念が一週間もすればあるから、そろそろ都に人が集まっていると思うぞ」
「だとしたら、城に入る前に宿を確保しておいた方がよさそうだな。いい宿は早々にいっぱいになるだろうから」
「何だ! ジュスタン達は宿が決まっていないのか! てっきりそのまま東宮殿で過ごすと思っておったが、そうでないならウチに来ればよい! 四人くらいどうとでもなるからな」
色々な意味でこのお誘いは魅力的だ。
宿を取る手間も省けるし、いつでも将軍と手合わせが可能なのも嬉しい。
「そうだな。奥方も構わないと言うのであれば、お言葉に甘えさせてもらおうか」
「心配するな、儂の妻は客人を招いたくらいで文句を言うような狭量な女ではない! 何せ儂の妻でいられるのだからな!」
どうやら将軍は自分が破天荒な自覚はあるようだ。
確かにこの色々と大雑把そうな将軍の妻なら、おおらかでないと務まらないだろう。
烈陽(リエヤン) が羨ましそうに見てきたが、お前は都に家があるんじゃないのか。
都の門に到着すると、先に並んでいた者達が道の脇に避けて一行を先に通す。
東宮様という声と、将軍を讃える声。そして 烈陽(リエヤン) に対する黄色い声援も混ざっていた。
あとは見慣れない俺達を不審がっているのか、ヒソヒソと話されるのは仕方のない事だろう。
峻耀(ジュンヤオ) 達が乗っている馬車は、小さな小屋のような形で、カーテンも付いているから外から中は見えない。
「やっと帰って来たか。しかし、これからまた気の抜けない日々が始まるかと思うと……はぁ」
門をくぐった 烈陽(リエヤン) は、ボソボソと愚痴をこぼしてため息を吐いた。
「やはり城内では色々と気苦労も多いだろうな。やはり皇帝に側室は多いのか?」
「歴代の皇帝に比べたら少ない方だとは思うが、もしかしたら俺達がいない間に増えてるかもしれないし……」
という事は複数の側室がいるという事なんだな。
他にも皇子がいるなら、 峻耀(ジュンヤオ) の命の危険もあるはず。
烈陽(リエヤン) が愚痴を言いたくなるのもわかる。
ラフィオス王国は多少の嫌味の応酬はあっても、そういう意味では平和だったからな。
門をくぐったのは昼過ぎだったというのに、城の門に到着したのは陽が傾く頃だった。
到着した時点でいくつかの班が隊列から離脱し、代わりに将軍の部下が加わる。
城の外と内で役割が違うようだ。
残っているのは 烈陽(リエヤン) と数人のいつも 峻耀(ジュンヤオ) の近くにいるメンバーになった。
「俺達はこのまま一緒でいいのか?」
「ああ、今頃皇帝陛下に伝令が向かっているから、問題がなければこのまま謁見する事になるはずだ」
「ジュスタンらの事はすでに伝えてあるから安心するといい! 儂も一緒にいるから陛下も安心してお主らに会うだろうからな!」
どうやら将軍は先触れの使者を送ってあったようだ。
それにしても、城内が広い!
東の空に星が瞬き始めた頃、ここまで来て疲れている者の心を折るような階段の前に来た。
その階段の上には立派なシンメトリーの建物があり、恐らくあれが皇帝が仕事をしている場所なのだろう。
階段下の広場で、護衛達が全員下馬した。
「東宮、太殿に到着しましたぞ」
将軍が 峻耀(ジュンヤオ) に声をかける。
どうやらあの大きな建物は太殿というらしい。
到着したというには、あまりにも長い階段があるのだが。
峻耀(ジュンヤオ) は馬車から降りると、階段を見上げて表情を引き締めた。
もしかして父親と会うのに緊張しているのだろうか。
まぁ、俺も父親と気さくに話をする仲でもないから、気持ちはわからなくもない。
後から降りてきた 雪瑤(シュエヤオ) も緊張しているように見えるが、やはり皇帝と会うからだろうか。
ジェスだけはいつも通り、にこやかにしている。
「 峻耀(ジュンヤオ) 、今からお父さんに会うんでしょ? よかったねぇ」
「よかった……? うむ、そうだな。せっかく父上にお会いできるのだから。ジェス達の事も紹介したい」
そう言って 峻耀(ジュンヤオ) はジェスと手を繋いだ。
「おや、今日は抱き上げていかなくてもよいのですか?」
将軍はニヤリと意地悪な笑みを浮かべた。
どうやら普段は抱き上げられて階段を移動しているようだ。
「自分の足で上がる! 行くぞジェス!」
「うん!」
先導するようにゆっくり上る将軍の後を 峻耀(ジュンヤオ) とジェスがついて行き、その後ろを 雪瑤(シュエヤオ) 、そして 烈陽(リエヤン) と共に俺達もその後に続く。
階段を上り切った時には、すでに太陽は遠くの山に隠れていた。